本レポートは、2021年3月8日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletters_#261」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. SquareはなぜTIDALを買収したのか？
先週、多くの投資家は、Squareが2億9,700万米ドルでTIDALの過半数の株式を取得すると発表した理由について疑問に思いました。Jay-Zは2015年、「音楽はリスペクトされていない」という不満から、低迷していた音楽ストリーミングサービスを5,620万米ドルで買収しました。TIDALは、そのプラットフォームの中でアーティストに所有権を持たせることで、注目度の高いアーティストたちを勧誘し、彼らのファンである有料加入者層に独占コンテンツや高品質なストリーミングを売り込みました。 テクノロジーが音楽を無料で提供することで、音楽の価値が希薄化していると懸念していたのはJay-Zだけではありませんでした。2014年、テイラー・スウィフトはウォール・ストリート・ジャーナル紙の論説で、『音楽は芸術であり、芸術は重要かつ「価値のあるもの」です。』 と述べ、「価値のあるものは有料であるべき」と、音楽ストリーミングを批判しました。
残念ながら、TIDALは高い期待に応えられず、所属アーティストへの報酬と膨らんだユーザー数に焦点を当てた批判に直面しました。2019年には、Jay-Zでさえ、競合他社のSpotifyに自身のミュージックカタログを提供し、TIDAL社の価値提案を拒絶したように見えました。現在、ストリーミングサービス利用者は、2016年の300万人からたった100万人*に減少し、加えてSpotifyとApple Music利用者の1億5,500万人の中のほんの一部と6,000万人のプレミアム加入者にしかサービスを提供していないようです。
なぜSquareはTIDALを買収したのでしょうか？私たちの見解では、このパートナーシップは、大方の人が予想するよりも、Cash Appにとってより自然にフィットしていると見ています。ミュージシャンとのパートナーシップにより、Cash Appは都市文化に溶け込み、デジタルウォレットの成長を加速させてきました。Spotifyとのパートナーシップから学んだことを活かし、Cash AppではTIDALのアーティストがSquareのeコマースを利用して商品を販売できるようになり、双方のプラットフォームへのエンゲージメントと到達率を向上させることができます。おそらくもっと重要なことは、SquareとTIDALが一緒になれば、Squareが業者のキャッシュフローに基づいてビジネスローンを引き受けているように、アーティストにストリーミング収入に基づくキャッシュフローを担保にしたローンを提供し、レコードレーベルの中抜きを無くすことができるようになるということです。最終的
には、この提携はTIDALの本来の使命を再活性化させ、独占コンテンツを提供することでアーティストにファンとの関係を構築する機会を与えることになるでしょう。
音楽は希少で価値の高いものであるというテイラー・スウィフトの信念とも合致して、Squareの暗号通貨に関する深い専門知識は、TIDALのアーティストが次に述べる非代替性トークン（NFT）を販売することも可能にするかもしれません。
*TIDALの親会社は2019年のサブスクリプション収入を1億6,600万ドルと開示しています。月13ドルの平均受信料とすると、TIDALは2019年には約160万人の加入者がいました。
2. クリエイターエコノミーの新たな親友は、非代替性トークン
非代替性トークン（NFT）は、デジタルの独自性を体現する暗号資産です。ビットコインのような交換可能な単位とは異なり、NFTは固有の資産です。
2017年8月、NFTはERC-721標準のトークンでEthereumネットワーク上にデビューしました。この規格が最初に実装されたもののひとつは、デジタル収集ゲームのCryptoKittiesで、プレイヤーは仮想猫を購入、収集、繁殖、販売することができました。それ以来、NFTはデジタル不動産、ビデオゲームのアイテム、デジタルアート、音楽などへ広がり進化してきました。
最近の急速な成長にもかかわらず、ARKではNFTの利用はまだ初期の段階にあると考えています。現在、デジタルコンテンツを収益化するために、コンテンツ制作者はInstagram、YouTube、TikTok、Spotifyなどのソーシャルネットワークにコンテンツをアップロードすることができます。これらの集中型プラットフォームは、広告やサブスクリプションでコンテンツを収益化し、収益の一部をコンテンツ制作者に支払います。対照的に、デジタルクリエイターは仲介者を介さずにユニークなデジタルコンテンツを販売しながら、NFTで直接フォロワーを収益化することができます。例えば先週、EDM音楽プロデューサーの3LAUは、NFTを「特別盤のレコード、未発表の音楽、特別な経験」と引き換えることが出来るとし、33のユニークなトークンを1,160万米ドル以上で販売しました。
ARKは、NFTが、歴史上のどのプラットフォームよりも多くのコンテンツクリエイターの価値を引き出すことができると信じています。
3. 酵素DNA合成は合成生物学を書き換える可能性がある
合成生物学（SynBio）は、自然界には存在しない、新しい特性を持つ生物や生体分子を作り出す科学で、急速に成長している分野です。合成生物学（SynBio）の中心となるのは、4つの常用塩基（A、T、G、C）からDNAを組み立て、多くのヘルスケア用途となるオリゴヌクレオチドまたは「オリゴ」を作成する能力です。例えば、診断医は合成オリゴを使用して、新型コロナウィルスに対するPCR検査およびゲノム解析による検査の効果を測定し、検証しています。
1981年以来、化学者はホスホロアミダイトを用いてDNAを合成してきましたが、これは効率的な方法ではあるもののいくつかの欠点があります。例えば、300塩基対（bps）より長いオリゴは、エラーが発生しやすい傾向にあります。また、ホスホロアミダイトは有害な副産物を発生させます。しかし、ホスホロアミダイト法は安価で効率的であるため、数十年にわたり合成生物学（SynBio）の中心的な技術となってきました。
研究者たちは自然界を分析し、最近、もう一つの合成生物学（SynBio）のソリューション、酵素的DNA合成法を発見しました。具体的には、ヒトの未熟なB細胞やT細胞に末端デオキシヌクレオチジル転移酵素（TdT）と呼ばれる酵素を工学的に組み込むことで、副生成物のないホスホロアミダイト法よりもコスト効率が良く、正確にオリゴを作ることができると期待されています。多くの生物学者は、酵素法を用いることで、ホスホロアミダイト合成法よりもはるかに長い高品質のオリゴが得られる可能性があり、細胞治療や遺伝子治療の分野で増殖する研究に欠かせないものになるのではないかと推測しています。
今週、酵素DNA合成の最先端を行くDNA Script社は、ゲノム生物学と技術の進歩（Advances in Genome Biology and Technology: AGBT）会議で新しいデータを発表しました。共同創業者でCEOのThomas Ybert氏は、DNA Script社の酵素技術は、新型コロナウィルスの診断検査の測定において、最先端のホスホロアミダイト化学の性能と一致していることを提示しました。DNA Script は今年後半には、超高速で酵素的なオリゴ合成を可能にする世界初の卓上型 DNA プリンタである Syntax を発売する予定です。当初は60塩基ペアのオリゴに限定されますが、より長期的には、Syntax はサプライチェーンの問題を最小限に抑え、知的財産の安全性を保証し、DNA 合成開発のペースを加速させることができます。
私たちの見解では、酵素的DNA合成は概念実証の域を超えて進歩しています。そう遠くない将来、合成生物学（SynBio）のベンダーは、世界の飽くなきDNAの需要を満たすための、環境に優しい方法として、酵素合成を採用することになるでしょう。
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