Newsletter #276:生体内(In Vivo)遺伝子編集の進化した時代へようこそ、他。

作成者: ARK Invest|2021/06/28

本レポートは、2021年6月28日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletters_#276」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. 生体内(In Vivo)遺伝子編集の進化した時代へようこそ

今週末に開催された抹消神経学会で、Intellia Therapeutics(インテリア・セラピューティクス)社は、遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシス(hATTR)患者を対象としたCRISPR Cas9ベースのin vivo(生体内)遺伝子編集治療の最初のデータを発表し、歴史に名を残しました。この画期的な試験の結果は、New England Journal of Medicine誌に掲載されています。

hATTRは、アミロイドタンパクが蓄積し、治療を受けなければ多臓器不全を引き起こす可能性のある疾患です。一般的には、心臓や神経に主な影響を及ぼします。

これまで、hATTR患者の治療法は限られていました。Alnylam(アルナイラム)社のパティシランは、血清TTRを80%ノックダウンしますが、ノックダウン率が高くなるほど、臨床的な効果を高めることができます。

Intellia Therapeutic社の発表では、TTR遺伝子を編集することで1回限りの治療が可能となり、慢性的な治療が不要になることが強調されました。6人の小規模な用量漸増試験では、0.3mg/kgの第2コホートにおいて、3人の患者がTTRの平均減少率87%、最大減少率96%を達成し、パティシランや他の治療法を上回る効果を示しました。当社は、Intellia社が治療用量を増やすにつれて、TTR減少率が更に高まり、患者により良い結果をもたらすと考えています。

今回のデータは、生体内での遺伝子編集や1回限りの治療法が可能であることを示す歴史的な記録になると考えています。残った唯一の問題は、それが持続するかどうかです。

 

2. わずか10分でのゲノムアセンブリを可能にした新しいアルゴリズム

マサチューセッツ工科大学(MIT)とフランスのパスツール研究所(Institut Pasteur)は、最近、mdBGと呼ばれる強力な新しいゲノムアセンブリアルゴリズムを発表しました。ロングリードシークエンスデータに最適化されたゲノムアセンブリアルゴリズムは、遺伝的変異を分析する最も正確な方法の一つです。

しかし、その可能性にもかかわらず、ゲノムアセンブリは計算負荷の高いプロセスであるため、その利用は制限されていました。驚くべきことに、mdBGは、他の最新のアセンブラと比較しても、350倍少ないCPU時間と20分の1のピークメモリで、高品質なゲノムアセンブリを生成します。私たちの計算では、研究者は、CPUコアを8つしか搭載していないApple M1ラップトップコンピュータで、HiFiシーケンスデータを使用して、わずか10分でヒトゲノムをアセンブルすることが可能です。これに対して、高価なクラウドベースの計算機に頼る場合はM1ラップトップでは60時間以上かかります。

私たちは、ロングリード・データを用いたゲノムアセンブリによりアクセスしやすくなるだけでなく、mdBGも臨床に大きな影響を与える可能性があると見ています。ARKでは以前、希少疾患に関連する遺伝子を見分ける上でのロングリードシーケンシング(LRS)の威力について書きました。mdBGによって、LRSに基づく診断は、ショートリードシーケンシングに基づく診断よりも、より速く、包括的で、より信頼性の高いものになるでしょう。

 

3. Stripe社、独自のPOSハードウェアを発表

先週開催された年次イベント「Sessions」で、Stripe社は自社で設計した初のPOSハードウェアデバイスである「Stripe Reader M2」を発表しました。現在、世界のトップオンラインマーケットプレイスの75%の決済を強力にサポートしているStripe社は、2018年にBBPOSやVerifoneとのパートナーシップを活用した店舗内決済用の「Stripe Terminal」を発表していました。ターミナルには、開発者ツール(APIとSDK)、顧客のPOSデバイスのフリート管理ソリューション、そして今回はPOSデバイス自体が含まれています。「Stripe Terminal」のプロダクトリーダーであり、SquareのPOS事業の元ヘッドオブプロダクトであるケイト・ブレナン氏によると、過去1年の間、店舗内での商取引が停止したことにより、「Stripe Terminal」での取引は250%以上も急増したとのことです。

なぜStripe社が独自のハードウェアを発売し、またそれはSquare社のような他のPOSプロバイダーのハードウェアとどのように異なるのでしょうか。ブレナン氏はは、より洗練されたハードウェアデザインの需要について言及していますが、Reader M2の独自POSハードウェアは、決済製品やサービスを垂直化し、顧客がわずか数行のコードで統合できるようにするというStripe社の戦略にもうまく適合しています。

このような開発者優先のアプローチは、Square社のPOSやFISERVのCloverといった他のPOSプロバイダーと「Stripe Terminal」を隔てるものであると考えられます。BBPOSのサードパーティ製ハードウェアデバイスは、サードパーティの決済アプリケーションを統合することができますが、「Stripe Terminal」のもう一つのサードパーティ製ハードウェアデバイスであるVerifone V400をプログラムする必要があります。今のところ、TerminalはStripe社のオンライン企業の顧客を対象としており、オフラインでの支払いをカスタマイズして展開していますが、Square社やその他のPOS製品は、中小企業に焦点を当てたターンキーソフトウェアサービスを提供しています。Square社は、より多くのカスタマイズを行なうための開発者向けプラットフォームを提供していますが、現時点では、Stripe TerminalとSquareは、それぞれ異なるユースケースに対応しています。

 

4. エルサルバドル大統領、ビットコインの導入を加速する計画の詳細を発表

木曜日、ナジブ・ブケレ大統領は、ビットコインを法定通貨として採用するエルサルバドルの計画の詳細を発表しました。ブケレ大統領は演説の中で、エルサルバドルの公式ビットコインウォレットとして機能するモバイルアプリ「Chivo」を発表しました。ユーザーは、Chivoに米ドルとビットコイン(BTC)の両方の残高を保持し、いつでもシームレスに交換することができるようになります。

ビットコインの利用を促進し、市民にChivoのダウンロードを促すため、エルサルバドルは、アプリをダウンロードして財布を登録した成人市民に30米ドル相当のビットコインをエアドロップします。エルサルバドルの人口は約650万人で、そのうちの60%が成人であることから、この取り組みを開始するために最大で1億1700万米ドルを費やすことになるようです。携帯電話のキャリアは、携帯電話の所有者がインターネットにアクセスできるかどうかにかかわらず、Chivoへのアクセスを無料で提供します。

法案が承認されれば、「Chivo」は9月に正式にスタートします。この件に関するブケレ大統領の発言はこちらをご覧ください。

 

5. カルパシー氏、Teslaがレーダーなしで車を出荷する理由を説明

先日開催されたコンピュータビジョンとパターン認識に関する会議で、オートパイロットチームの人工知能(AI)担当シニアディレクターであるアンドレイ・カルパシー氏が、Teslaが認識システムからレーダーを取り除く決定をしたことについて話しました。同氏は、少し前にイーロンが「カメラベースのビジョンはレーダーよりも正確であり、レーダーはセンサーフュージョンシステムにおいて有用なデータよりもノイズをもたらす。」とツイートした内容を繰り返し述べました。カルパシー氏は、車両が橋の下に向かって移動し、その後、橋の下をくぐったときのビジョンのみとセンサー融合の性能を比較し、ビジョンのみのFSD(フルセルフドライビング)の優れた垂直解像度が、橋と車を停止させる静止物体との区別に役立ったと結論づけました。

なぜTesla社と異なり、他のほとんどの企業は安価なレーダーやLiDARのデータを自律走行ソリューションの領域に含めることを選択したのでしょうか?それは、Tesla社が130万台の車両を保有していることで、厳選された6,000個のクリップを使って車をトレーニングすることができるからだと考えられます。言い換えれば、Tesla社はその保有台数の多さのおかげで、オートパイロットからレーダーを取り除く能力を「獲得」したのかもしれません。これは、自立走行車の競合他社と比較して、大きな利点であると私たちは考えています。

 

6. Telsa社、自社製スーパーコンピュータの詳細を発表

Tesla社は最近、人工知能(AI)を訓練し、自動運転を可能にする自社製スーパーコンピュータの詳細を発表しました。Tesla社のスーパーコンピュータは、世界で5番目に大きいと推定されており、膨大な数のNvidia GPUと、合計1.8エクサフロップスの大容量の超高速ストレージを搭載し、何十億マイルもの実走行データを処理しています。Tesla社が、人間以上の運転能力を持つAIモデルの開発を目指していることは明らかです。

Tesla社のAI担当責任者によると、このスーパーコンピュータは、“これを次のレベルに引き上げる” 後継機の「Dojo」とともに、モデルのトレーニングに必要な時間とコストを削減し、AIの専門家がより迅速に実験して調整できるようにする可能性を持ちます。準備が整えば、モデルは各車両に搭載されるカスタム設計のチップに展開され、AI能力を垂直統合するというTesla社の戦略を実現するでしょう。

 

 

 

 

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