Newsletter #376:AIを活用したユーザー生成コンテンツはクリエイターの交渉力を弱めるか?、他。

作成者: ARK Invest|2023/07/24

本レポートは、2023年724にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #376」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. AIを活用したユーザー生成コンテンツはクリエイターの交渉力を弱めるか?

By Andrew Kim | @andrewkimARK
Research Associate

 

米国の映画俳優組合と米国テレビ・ラジオ芸術家連盟は今月、ピケットライン(人垣で設けられた警戒陣)に参加した11,000人を超える映画やテレビの脚本家たちに加わって[1]、1960年以来初となる脚本家と俳優によるストライキを行ないました。1960年代、当時のクリエイターや制作陣は、テレビの台頭によって大手スタジオが得た増収分の分配を要求しました[2] が、今日では、彼らはスタジオがコスト削減のために生成AIを使用するのではないかと懸念[3]  しており、同時に、ストリーミング配信によって再放送された場合に支払われる報酬が削減されるため、より高い報酬を要求しています[4]。
 
私たちは、AIを介したユーザー生成コンテンツ(UGC)は、コンテンツ制作コストを劇的に削減し、クリエイターの交渉力を両サイドから制限する可能性があるとみています。Fable Studio(ファブル・スタジオ)のSHOW-1[5]  とShowrunner Agents (ショーランナー・エージェント) がその例す。SHOW-1は、大規模言語モデル(LLM)と画像拡散モデルを組み合わせたエピソード型コンテンツ生成プラットフォームであり、次の図ように、誰でも既存の知的財産(IP)を活用して派生ビデオコンテンツを作成することができるようになります。この例では、ユーザーは言語モデルとマルチエージェントシミュレーションを組み合わせて、キャラクター(または半自律型のAIエージェント)が相互に作用したり、環境と作用したりするサウスパークのエピソードを作成しています。

 

出典: Fabel Studio、2023年 (https://fablestudio.github.io/showrunner-agents)。特定の証券の売買や保有を推奨するものではありません。

エピソードを作成するために、SHOW-1は次の3つのステップを踏みます。(1)ユーザーの入力を、まず、タイトル、あらすじ、主要なイベントやシーンの説明を含む言語モデル・プロンプトに変換します。(2)次に、シミュレーションを約3時間実行します。(3)そして、以下に示すように、最大14のイベントをサンプリングしてシーンを構成し、プロットの進行を最適化します。特筆すべきは、ユーザー自身がエピソードに自分自身を注入[6]できることです。

 

出典: Fabel Studio、2023年 (https://fablestudio.github.io/showrunner-agents)。特定の証券の売買や保有を推奨するものではありません。

こうした挑発的な結果は、新しいジャンルのエンターテイメント、つまりビデオとビデオゲームの間だけでなく、創作と消費の間の境界線を曖昧にするインタラクティブビデオの到来を示唆していると考えられます。SHOW-1は、コンテンツ制作とIP(知的財産)のシフトを浮き彫りにしているのかもしれません。つまりそれは、プロのクリエイターを仲介せず、新たなコンテンツ制作のコストを崩壊させる可能性があることを示唆しています。

スマートフォンとYouTubeやTikTokのようなプラットフォームによって、動画コンテンツ制作の障壁は、なくならないまでも低くなりましたが、プロのクリエイターは、これまでは依然として映画やテレビ番組のようなプレミアム動画と、YouTubeのクリップやTikTokの動画のようなユーザー生成動画とのクオリティの差を自分達の武器にすることができていました。しかし、エンドユーザーがプレミアムビデオ映画やテレビ番組のAI派生物を作成・配信できるようになった今、その品質格差は急速に縮まってしまう可能性があるようです。

 

 

2. MetaMicrosoftSalesforceCerebrasが先週見せたAI分野でのエキサイティングな動き

By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet

 

先週、Meta社はオープンソースの大規模言語モデル(LLM)の次世代バージョンである「Llama2」(ラマ2)を発表しました。研究と商業利用の両方に無料で利用できるLlama2は、OpenAI社のGPT-4やGoogle社のPalm 2のようなクローズソースのモデルとは対照的です。Meta社は、OpenAI社の非公開化が進む開発[7]の路線を避けており、オープンソースコミュニティがLLMの開発を加速させ、民主化すると確信しているようです。とはいえ、7億人を超えるのアクティブユーザーを抱える企業は、Meta社の最大の競合他社からLlama2を守るために、Llama2のライセンス[8]を取得する必要があります。
 
Meta社はまた、Microsoft社およびQualcomm(クアルコム)社[9]と提携し、Llama2のバージョンをWindowsデバイスとQualcomm社製のスマートフォンに最適化しています。その結果、遅延とクラウド運用コストの両方を削減しながら、プライバシーを強化することができるはずです。
 
先週、Microsoft社は、約600社の同社の企業顧客が試験運用しているChat-GPTに似た製品である「Copilot」(コパイロット)の新しい価格表を発表して注目を集めました[10]。Copilotは、Microsoft社のOffice SuiteとWindowsを横断する、エンタープライズグレードのプライバシーを備えた遍在的なアシスタントになるべく設計されています。その料金は、1ユーザーあたり月額30米ドル[11]であり、Microsoftの既存のOfficeプランのほとんどで、ユーザー1人あたりの月額費用が12.50米ドルから57米ドルに大幅に上乗せされることになります。
 
Salesforce社もまた、営業およびカスタマーサービスワークフロー向けの2つのAIを搭載した製品の価格も発表しました[12]。各製品の価格は、1ユーザーあたり月額平均50米ドルですが、その価格は利用レベルによって異なります。
 
最後に、Nvidia社と競合するトレーニング・インフラを構築するAIチップのスタートアップであるCerebras(セレブラス)社は、アブダビから資金提供を受けているスーパーコンピュータの「Condor Galaxy」に電力を供給していると発表しました[13]。Cerebras社は、2024年末までにCondor Galaxyの計算能力を2エクサフロップスから36エクサフロップスにまで拡張し、世界最大級の分散コンピューティングネットワークの1つになることを目指しています。同社の計画は、2024年末までに100エクサフロップスのAIトレーニング用ハードウェアを導入するというTesla社のロードマップ[14]に続いて急速に進められています。エクサスケール・コンピューティングの競争が始まっているのです。

 

 

3. Teslaの決算説明会で明らかにされた、一部の投資家が見落としていたかもしれない内容

By Tasha Keeney | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies

 

この記事は、Sam Korusと Daniel Maguireと共同で執筆しました。

先週の第2四半期決算説明会で、Tesla社は、同社の価値創造における重要で潜在的、かつ長期的な推進力について詳しく説明しましたが、ウォール街はこれを見落としていた可能性があります [15]。

まず、Tesla社は、次世代ロボットタクシーが「ほぼ無限」の需要を生み出し、史上最高となる1時間当たりの生産台数を生み出す可能性が高いことを示唆しました。ARKのモデリングによると、自動運転配車サービスに対する世界的な需要は、今後10年間で11兆米ドル[16]規模の市場規模を生み出し、2027年にはロボットタクシーが同社の企業価値の3分の2[17]以上を占める可能性があることが示されています。
 
第二に、Tesla社は、大手自動車メーカーへ完全自動運転(FSD)ソフトウェアをライセンス供与することについての初期の話し合いを行なっていることについても明らかにしました。ARKのリサーチによると、従来の自動車メーカーで完全自動運転車を開発できるところはほとんどなく、自動運転による電気輸送が定着するにつれて、市場は急速に統合されていくということが示唆されています。次の図で示すように、Tesla社は、その車両が現在1日あたり200万マイルを超えるFSDデータを収集しているため、非常に重要なデータの優位性を持っていると考えられます[18]。

 

また最後に、Tesla社は、同社の車両が生成する膨大な量のデータを学習させるのに十分なGPU(グラフィック・プロセッシング・ユニット)をNVIDIA社が供給することはできないと繰り返し述べました[19]。結果として、当社のリサーチによると、Tesla社の自社製のD1チップで作られたDojoに対する同社の約10億米ドルの投資は必要なものであり、時間の経過とともに報われることが示唆されています。

 

[1] Whitten, S. 2023. “Actors union joins writers on strike, shutting down Hollywood.” CNBC. https://www.cnbc.com/2023/07/13/sag-actors-union-goes-on-strike-joining-hollywood-writers.html.
[2] Canfield, D. 2023. “Inside the 1960 SAG Strike, From Elizabeth Taylor’s Vacation to Ronald Reagan’s Star-Studded Meeting.” Vanity Fair. https://www.vanityfair.com/hollywood/2023/07/sag-strike-1960-elizabeth-taylor-ronald-reagan-explained.
[3] Galván, A. 2023. “Hollywood actors say strike is a battle for workers’ rights amid AI’s rise.” Axios. https://www.axios.com/2023/07/18/hollywood-strike-sag-aftra-wga.
[4] Robb, D. 2023. “Are Streaming Residuals Being Slashed? As WGA’s Own Data Shows, It’s Complicated.” Deadline. https://deadline.com/2023/04/hollywood-strike-streaming-residuals-wga-producers-1235325130/.
[5] Mass, P. et al. 2023. “To Infinity and Beyond: SHOW-1 and Showrunner Agents in Multi-Agent Simulations.”  Fabel Studio. https://fablestudio.github.io/showrunner-agents/.
[6] The Simulation. 2023. “Cartman’s Fatal Attraction.” Twitter. https://twitter.com/fablesimulation/status/1681352917218107392?s=20.
[7] Xiang, C. 2023. “OpenAI’s GPT-4 Is Closed Source and Shrouded in Secrecy.” Vice. https://www.vice.com/en/article/ak3w5a/openais-gpt-4-is-closed-source-and-shrouded-in-secrecy.
[8] Robinson, K. 2023. “Meta’s new A.I. is an open-source breakthrough with fine print to freeze out competitors.” Fortune. https://fortune.com/2023/07/18/meta-llama-2-ai-open-source-700-million-mau/.
[9] Qualcomm. 2023. “Qualcomm Works with Meta to Enable On-device AI Applications Using Llama 2.” https://www.qualcomm.com/news/releases/2023/07/qualcomm-works-with-meta-to-enable-on-device-ai-applications-usi.
[10] Warren, T. 2023. “Microsoft puts a steep price on Copilot, its AI-powered future of Office documents.” The Verge. https://www.theverge.com/2023/7/18/23798627/microsoft-365-copilot-price-commercial-enterprise.
[11] Microsoft. 2023. “Furthering our AI ambitions – Announcing Bing Chat Enterprise and Microsoft 365 Copilot pricing.” https://blogs.microsoft.com/blog/2023/07/18/furthering-our-ai-ambitions-announcing-bing-chat-enterprise-and-microsoft-365-copilot-pricing/.
[12] Salesforce. 2023. “Salesforce Announces General Availability And Pricing For GPT-Powered Features For Sales And Service, Secured Through Einstein GPT Trust Layer.” Field Technologies Online. https://www.fieldtechnologiesonline.com/doc/salesforce-announces-general-availability-and-pricing-for-gpt-powered-features-for-sales-and-service-secured-through-einstein-gpt-trust-layer-0001.
[13] Cerebras. 2023. “Introducing Condor Galaxy 1:a 4 ExaFLOP Supercomputer for Generative AI.” https://www.cerebras.net/blog/introducing-condor-galaxy-1-a-4-exaflop-supercomputer-for-generative-ai/.
[14] Soja, J. 2023. “Tesla Touts A Roadmap For AI Compute That May Help It Achieve Full Autonomy.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC. https://ark-invest.com/newsletters/issue-372/#2-tesla-touts-a-roadmap-for-ai-compute-that-may-help-it-achieve-full-autonomy.
[15] Schultz, C. 2023. “Tesla skids 10% after earnings disappoint; other EV stocks go in reverse.” Seeking Alpha. https://seekingalpha.com/news/3989395-tesla-skids-10-after-earnings-disappoint-and-drags-down-other-ev-stocks.
[16] ARK Investment Management LLC. 2023. “Big Ideas—Autonomous Ride-Hail.” https://ark-invest.com/big-ideas-2023/.
[17] International Monetary Fund Datamapper. 2023.
[18] Keeney, T. et al. 2023. ““ARK’s Expected Value For Tesla In 2027: $2,000 Per Share.” ARK Investment Management LLC. https://ark-invest.com/articles/valuation-models/arks-tesla-price-target-2027/ Tesla. 2023. “Q2 2023 Update.”
[19] Tesla. https://digitalassets.tesla.com/tesla-contents/image/upload/TSLA-Q2-2023-Update.pdf. Tesla. 2023b. “Tesla, Inc. (TSLA) Q2 2023 Earnings Call Transcript.” Seeking Alpha. https://seekingalpha.com/article/4618254-tesla-inc-tsla-q2-2023-earnings-call-transcript.

 

 

 

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