本レポートは、2023年12月11日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #395」の日語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
By Ali Urman | @aurmanARK
Analyst
先週の金曜日、米国食品医薬品局(FDA)は、米国初の遺伝子編集療法[i] を承認しました。CRISPR Therapeutics(クリスパー・セラピューティクス)社とVertex Pharmaceuticals(ヴァーテックス・ファーマシューティカルズ)社によって開発および製造された「Casgevy(キャスジェビー)」は、重症の鎌状赤血球症(SCD)患者を治療する治療法です。
鎌状赤血球症(SCD)は、鎌状の赤血球が血管内を移動し、体内に酸素を供給するのを阻害する稀な疾患ですが、この病気は現在、米国で約10万人[ii]、世界中で約2,000万人[iii]の人々に影響を及ぼしています。そして、 「Casgevy」療法は、BC11A遺伝子を標的としますが、このBC11A遺伝子は、出生後、成人ヘモグロビンが失活しない限り、赤血球が胎児ヘモグロビンを生成するのを阻止するものです。
「Casgevy」療法の承認は、疾病の根本原因を治療する治療法として大きなマイルストーンであると言えます。そして私たちは、2024年3月30日に開催される次回の処方薬使用者手数料法( PDUFA: Prescription Drug User Fee Act)会議[v] を心待ちにしています[iv] 。この会議においてFDAは、別の希少血液疾患であるβ(ベータ)サラセミア(TDT)に対して「Casgevy」療法を承認すべきか否かについて議論する予定になっているからです。
By Frank Downing | @DowningARK
Director of Research, Next Generation Internet
先週、Google社は最新の基礎モデル群であるGemini[vi] を発表しました。Geminiは、画像、音声、ビデオ、テキストを含むマルチモーダルであるように一から構築されており、様々なメディアにわたる優れた固有の推論と生成能力を持つため、大規模マルチタスク言語理解(MMLU)ベンチマークで熟練した人間よりも高いスコアを出した最初のAIモデルであると言われています。
しかし、「これがミソだ!」という見出しを捉えようとして、Google社はGemini Ultra(ジェミニ・ウルトラ)とGPT-4を比較する際に、様々なプロンプトのテクニックを使用しました。同社が開発した 「Chain-of-Thought@32 (Uncertainty-Routed)」 と呼ばれる特別な手法でプロンプトを出した場合のみ、Gemini UltraはGPT-4と熟練した人間の両方を上回りました。また、OpenAI社の論文に記載されている標準的な「5ショット」MMLUベンチマーク手法に基づくと、GPT-4はGemini Ultraを上回りました。そして、Google社のテクニカルレポート[vii]では、以下に示すように、この重要な違いが明らかになりました。
出典:Google 2023[viii] ※情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券や暗号資産の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
当社の見解では、Google社はリンゴとオレンジを比較してGemini Ultraが優れたモデルであると宣言したようなものです。さらに、Geminiの視覚と推論能力を紹介するビデオ[ix]は、大幅に編集されていました[x] 。完全なプロンプトは含まれておらず、モデルとビデオエディターの結果への貢献の区別もされていませんでした。
おそらくGoogle社のマーケティングチームによるものでしょうが、こうした失態は、同社の強力なAIチームであるDeepMind(ディープマインド)の信頼性を損なう危険性があります。DeepMindのエンジニアたちは、長年にわたってAIにおける多くの重要な技術的進歩や「アッ」と驚くような瞬間に貢献してきており、この種の欺瞞で自分たちの記録を汚したくないとみられます。おそらくGoogle社は、AGI(汎用人工知能)に向かう記念すべき競争において、OpneAI社からの競争圧力を受け、マーケティングにあまりにも多くの権限を譲渡しすぎたのでしょう。
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Associate
先週、AMD社はMI300Xアクセラレータを正式に発表しました[xi] 。同社によると、このアクセラレータはLlama 2-70Bの推論において、Nvidia(エヌビディア)社のH100を1.4倍上回る性能を発揮するそうです。これは、NVIDIA社の次世代H200のH100比1.9倍の改善には及ばないものの、AMD社はMI300Xの価格をH100とH200の両方よりも大幅に低く設定する可能性があります。仮にAMDがMI300Xの価格を18~19,000米ドル[xii]とし、H100とH200が25~40,000米ドル[xiii]の範囲で販売されるとすれば、MI300Xは、以下に示すように、H100とH200の両方よりも設備投資1米ドル当たりのパフォーマンスが向上するだけでなく、AMDの利益率にも貢献する可能性があります。
出所: ARK Investment Management LLC、2023年12月8日時点のNvidiaのデータに基づく。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券または暗号資産の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
AMD社はまた、Meta社やOpenAI社などがサポートするオープンソースのソフトウェア・エコシステムにおける性能向上もアピールしました。AMD社のROCmソフトウェアが勢いを増している一方で、Nvidia社のソフトウェアの参入障壁は依然として手ごわいと言えます。Nvidia社の直近の決算説明会で強調された[xiv] 、TensorRT-LLM SDK(ソフトウェア開発キット)は、Nvidiaハードウェア上でLLM推論性能を2倍向上させることを約束しています。先のグラフの右側に示されているように、ソフトウェアはAI推論ハードウェアの設備投資1米ドルあたりのパフォーマンスを大幅に向上させることができます。LLMを中心に構築されたアプリケーションが効率的なコンピューティングの需要を促進するため、ソフトウェアは今後もGPUプロバイダーにとって重要な戦場であり続けるでしょう。
By Andrew Kim | @andrewkimARK
Research Associate
2週間前、Institute for Intelligent Computing(インテリジェント コンピューティング研究所)とAlibaba Group(アリババ・グループ)は、Animate Anyone(アニメイト・エニワン)と呼ばれる画像から動画への変換モデルを発表しました[xv] 。このモデルは、入力された参照画像とポーズシーケンスを動画に変換します。これまでの画像から動画への研究とは異なり、Animate Anyoneは、生成された各動画フレーム内で元の参照画像から詳細をキャプチャするReferenceNetと呼ばれる特徴抽出ネットワークを導入しています。
5,000文字のビデオクリップ、340のダンスTikTokビデオ、および500のファッションビデオでトレーニングされ、複数のフレームにわたって画像の詳細を保持するAnimate Anyoneは、いくつかのジャンルにまたがる詳細で一貫性のある継続的な短編ビデオの作成において、既存の画像からビデオへの生成方法よりも優れているようです。私たちの見解では、ユーザー生成コンテンツの供給が急増し続ける中、アルゴリズムによるエンターテイメントのキュレーションは、ユーザーを独自のコンテンツの小宇宙へとさらに狭く隔離し、視聴者はますます細分化されることになります。興味深いことに、The Verge(ザ・ヴァージ:Vox Mediaが運営するアメリカ合衆国の技術系ニュースサイト及びメディアネットワーク)は、その編集者がTikTokの2023年のトップ10動画を見たことがなかったと報じました[xvi] 。
その結果、オンラインであれ対面であれ、共有されるエンターテイメントの価値は、時間の経過とともにさらに高まる可能性があります。おそらく消費者は落胆することになるでしょうが、ライブ・スポーツ、ライブ・ミュージック、ソーシャル・ゲームは、より高額になったチケットと広告から利益を受け取り続けることができるでしょう。
[i] U.S. Food & Drug Administration. 2023. “FDA Approves First Gene Therapies to Treat Patients with Sickle Cell Disease.
[ii] Centers for Disease Control and Addiction. 2023. “Data & Statistics on Sickle Cell Disease.”
[iii] National Heart, Lung, and Blood Institute. 2023. “What Is Sickle Cell Disease?” [iv] Urman, A. 2023. “The FDA AdComm Looks Promising For Exa-Cel.” ARK Disrupt. ARK Investment Management LLC.
[v] CRISPR Therapeutics. 2023. “CRISPR Therapeutics Announces Completion of FDA Advisory Committee Meeting for Exagamglogene Autotemcel (exa-cel) for Severe Sickle Cell Disease.”
[vi] Google Deep Mind. 2023. “Welcome to the Gemini Era.”
[vii] Google. 2023. “Gemini: A Family of Highly Capable Multimodal Models.”
[viii] Ibid.
[ix] Google. 2023. ”Hands-on with Gemini: Interacting with multimodal AI.” YouTube.
[x] Jones, A. 2023. “Fun fact: that viral-ish Gemini demo video is basically entirely fake.” X.
[xi] AMD. 2023. “Advancing AI.”
[xii] Patel, D. and Kostovic, A. 2023. “AMD AI Software Solved — MI300X Pricing, Performance, PyTorch 20.0, Flash Attention, OpenAI Triton.” Semianalysis. [xiii] Schreiner, M. 2023. “Nvidia's H100 GPU sells like hot cakes with high profit margins.” The Decoder.
[xiv] SA Transcripts. 2024. “NVDIA Corporation (NVDA) Q3 2024 Earnings Call Transcript.” Seeking Alpha.
[xv] Hu, L. et al. 2023. “Animate Anyone: Consistent and Controllable Image-to-Video Synthesis for Character Animation.”
[xvi] Sato, M. 2023. “TikTok’s biggest hits are videos you’ve probably never seen.” The Verge.
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