本レポートは、2024年3月25日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #408」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
By Andrew Kim | @andrewkimARK
Analyst
Epic Games社がLego社やDisney社と新たな契約を結んだことは、既存の大手ゲームスタジオやパブリッシャーからパワーが移りつつあることを示唆しています。勝者となるのは、Fortnite CreativeやRobloxのようなUGC(ユーザー生成コンテンツ)プラットフォームで活動する個人のクリエイターやインディーズチームになるでしょう。
先週、サンフランシスコで開催された年次のゲーム開発者会議(GDC)において、Epic Games社はクリエイターたちが自分のゲーム内でレゴブランドのアセットを使用できるようになったと発表しました[i]。クリエイター・エコノミー2.0構想[ii]のおかげで、レゴブランドのゲームを制作したクリエイターは、Epic Games社から報酬を得ることができます。レゴの知的財産(IP)がクリエイターに開放されることで、Fortnite(フォートナイト)のエコシステム内で作成されるUGCの範囲は、現在ファーストパーティゲームのポートフォリオでサービスを提供していないゲーマーたちにも同社の魅力を広げるはずです。そして、興味深いことに、Epic社のレゴのIP戦略は、Disney社との膨大なエンターテインメント資産のライブラリに関しても同様の契約を結ぶようになることを指し示している可能性があります。
2月に、Disney社はディズニーブランドのゲームやその他の没入型体験を構築するための複数年契約に加えて、Epic Games社への15億米ドルの出資を発表しました[iii]。そして、この契約では、エンドゲーマーがアンリアル・エンジンを使用して「独自のストーリーとエクスペリエンスを作成する」権利も提供され、サードパーティの開発者が独自のFortniteゲームでディズニーのIPを使用できるようになることが示唆されました。
ARKは、ほとんどのIP保有者がエンドゲーマーに消費者向けコンテンツの制作をアウトソーシングする未来を思い描いています。新たなAIツールは、デジタルアセットやエクスペリエンスの作成を民間に開放する一方で、大規模なブランドガイドラインの遵守も可能にします。このような体験を集約することで、Epic Games社とRoblox社は、UGCによって生み出される増分価値の大半を獲得することができ、また同時に、消費者の娯楽の選択肢を増やす数十億米ドル規模のプラットフォーム・エコシステムをサポートすることができます。
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet
先週、Nvidia(エヌビディア)社は2019年以来初となる対面式のグラフィックス・プロセッシング・ユニット(GPU)テクノロジー会議(GTC)を開催しました。現在、時価総額で世界第3位の企業 [iv]である同社はバーチャル参加者を含め[v]、2018年に参加した8,400人[vi] の35倍にあたる約30万人をこのイベントに迎えました。
GTC期間中に、Nvidia社は新しいBlackwellプラットフォームを発表しました。このプラットフォームはGPT-4サイズのモデルで、AIトレーニングの性能を3倍、AI推論の性能を15倍向上させます[vii]。投資家との質疑応答セッション[viii]で、同社のジェンセン・フアン最高経営責任者(CEO)は、ChatGPTの立ち上げ後、Hopperに対する例外的な需要に驚いており、Blackwellの立ち上げにより、同社は最大の顧客であるMicrosoft社とMeta Platforms社からの旺盛な需要に応える準備が整ったと述べました。
同社はまた、NIMS(Nvidia Inference Microservices)も発表しました。NIMSは、すべてのNvidiaハードウェアに簡単に導入し、微調整できるパッケージ化されたAIモデルです。Nvidia AI Enterpriseの顧客は1GPUあたり4,500米ドルの料金でこのサービスを利用できるため、同社の経常ソフトウェア収益基盤を加速させるはずで、第4四半期には年間10億米ドルを超え、総売上高の2%近くを超えます。また、自律型ロボット開発のための基盤モデルである「GR00T」と拡張可能なシミュレーションプラットフォームである「Isaac Sim」も発表しました。
カンファレンスに参加した企業のうち、ServiceNow、LinkedIn、SentinalOneといったソフトウェア・ベンダーは、自社や顧客企業におけるジェネレーティブAIの導入について説明しました[ix]。多くのパネリストが、エンジニアにコーディング・アシスタントを持たせ、人事や財務のバックオフィス業務をチャットボットで補強していると語りました。また、ServiceNowの最高デジタル責任者であるクリス・ベディ氏は、社内の独自データを利用したGen AIソリューションによって、従業員が管理業務に費やす時間の30~35%を40%削減できたと述べました。
私たちは、より多くの企業が生成AIの力をどのように活用し、生産性を向上させるソリューションをNvidia社のハードウェアに導入するのか学ぶことを楽しみにしています。
Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
先週、Nvidia社のCEOであるジェンスン・ファン氏は、2022年に発表された前世代のHopperチップよりも2.5倍のFLOPの演算能力を提供する[xi]同社の新しいBlackwellチップ製品を発表しました[x]。この革新的なチップ設計は、2つのBlackwell「ダイ」を同じパッケージ内で縫い合わせるもので、Blackwellの性能向上の大部分を占めていますが、従来のモノリシック・ダイに比べて複雑さとコストが増加します。
Hopperベースのシステムと比較して、Blackwellデータセンターは、従来のデータセンターのおよそ4分の1のGPU数とエネルギーでGPT-4サイズの言語モデルを訓練することができます。Nvidia社は、Blackwellパッケージとその周辺システム間のデータ転送速度を最大化することに重点を置き、このチップを、最新の広帯域幅ネットワーク機器を組み込んだ垂直統合型のサーバーおよびデータセンター・ソリューション内に配置しています。このアプローチにより、ボトルネックを最小限に抑え、Blackwellの膨大なコンピューティングパワーを最大限に活用できるようになるはずです。
Blackwellは、AI推論ワークロードの最適化も強化しています[xii]。新しい4ビットの数値精度形式は推論タスクに活用でき、これだけでもHopperと比較して性能が5倍程度向上します[xiii]。チップの需要が急増し、AIチップの新興企業やMeta社内の推論設計のような垂直統合型ソリューションとの競争が激化する中、コスト効率の高い推論ソリューションの重要性はますます高まっています。
ARKのリサーチによると、AIコンピューティングへの需要はこのビジネスサイクルを通じて急増し、2023年の500億米ドルから2030年までには年率69%で2兆ドル規模へと拡大する見込みです。Nvidia社はこのような長期的な追い風から多大な恩恵を受けるはずですが、需要のスーパーサイクルにおいても、チップは技術スタックの他の部分よりもはるかに周期的であるため、競争環境は激化する可能性が高いと言えます。Blackwellは、今のところ同社をAI加速競争の最前線に維持するはずですが、AIチップ戦争が激化するにつれ、同社はその羨ましいような市場での地位と利幅を守るために、猛烈なペースで技術革新を進めなければならなくなるでしょう。
Daniel Maguire & Tasha Keeney | @ARKInvest
Autonomous Technology & Robotics Team
先週、イーロン・マスク氏は、Teslaが完全な自動運転を目指しているため、人工知能(AI)トレーニング用のコンピュータには、もはや制約されないと述べました[xiv]。昨年7月、Nvidia社が十分なGPUを供給できない可能性があると示唆し[xv]、Tesla社はDojoスーパーコンピュータに約10億ドルを投入しました。このスーパーコンピュータは、1日に走行する約260万FSDマイルからビデオクリップを取り込むよう最適化されています[xvi]。しかし、同社は直近の決算説明会でDojoの進捗を軽視し、今後もNvidia社に依存することを示唆したのです[xvii]。
Teslaの計算能力が向上したのは、Nvidia社からより多くのGPUを取得したためなのか、それともDojoの準備が整ったからなのか、私たちは疑問に思っています。いずれにせよ、Teslaは現在、昨年6月に掲げた積極的なトレーニング用コンピュータの目標を達成できそうです[xviii]。計算能力の向上により、ソフトウェアの更新が高速化され、完全自動運転への道が開けるはずです。同社によると、完全自動運転(FSD)v12.3では、2週間ごとに3つの重要なアップデートが提供されるそうです[xix]。すでにユーザーからは、より少ない介入で人間のような運転体験ができると報告されています[xx]。ARKは、今後数週間から数ヵ月間、完全自動運転に向けたFSDの進展を見守りたいと考えています。
[i] Webster, A. 2024. “Fortnite players can now build their own Lego games.” The Verge.
[ii] Epic Games. 2023. “Introducing Creator Economy 2.0."
[iii] The Walt Disney Company. 2024. “Disney and Epic Games to Create Expansive and Open Games and Entertainment Universe Connected to Fortnite."
[iv] Marketcap.com. “Companies ranked by Market Cap.” Data as of March 24, 2024.
[v] Nvidia. 2024. “See the Future at GTC 2024: NVIDIA’s Jensen Huang to Unveil Latest Breakthroughs in Accelerated Computing, Generative AI and Robotics."
[vi] Wikipedia. ND. “Nvidia GTC.”
[vii] Nvidia. 2024. “NVIDIA HGX AI Supercomputer: The world’s leading AI computing platform.”
[viii] Nvidia. 2024. “GTC Financial Analyst Q&A.”
[ix] Nvidia. 2024. “Driving Enterprise Transformation: CIO Insights on Harnessing Generative AI's Potential.”
[x] Nvidia. 2024. “Keynote by NVIDIA CEO Jensen Huang."
[xi] Smith, R. 2024. “NVIDIA Blackwell Architecture and B200/B100 Accelerators Announced: Going Bigger With Smaller Data.” AnandTech.
[xii] “AI inference” refers to the process of running an AI model to generate language or image output and contrasts; “AI training” involves feeding large datasets to a model to teach it how to generate that output.
[xiii] Smith, R. 2024. “NVIDIA Blackwell Architecture and B200/B100 Accelerators Announced: Going Bigger With Smaller Data.” AnandTech.
[xiv] Musk, E. 2024. “Yeah, 99% of people have no idea..” X.
[xv] Seeking Alpha Transcripts. 2023. “Tesla, Inc. (TSLA) Q2 2023 Earnings Call Transcript.”
[xvi] Ibid. “FSD daily miles” is an ARK estimate based on the FSD chart disclosed in Tesla’s Q4 earnings deck. See Tesla. 2024. “Q4 and FY 2023 Update.”
[xvii] Seeking Alpha Transcripts. 2024. “Tesla, Inc. (TSLA) Q4 2023 Earnings Call Transcript.”
[xviii] Downing, F. 2023. “Tesla forecasts ramping up to 100 exaflops….” X.
[xix] Musk, E. 2024. “Three significant improvements to SFD..” X.
[xx] See Dell, M. 2024. “Super impressive, Tesla FSD v12.3...” X; Maurer, R. 2024. “Tested FSD v12.3 in Chicago…” X.
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