本レポートは、2025年3月17日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #455」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
Apple社は、最も広く宣伝されている「Apple Intelligence」機能の一部のリリースを、2026年以降まで延期しました[1]。この延期は、Apple製品に慣れ親しんだオブザーバーたちにとっては驚きかもしれませんが[2]、破壊的なテクノロジーは、Appleを含む既存企業にとって取り入れるのが難しいものです[3]。AIの革新的な特徴は、同社の厳格に最適化されたエコシステムとは一致しないかもしれません。
1年の遅れは大したことではないように思えるかもしれませんが、AI時代において、このような時間のずれは劇的であり、致命的なものになりかねません。わずか2年前の2023年3月にはまだ、OpenAI社のGPT-4は存在せず、現在、年間数十億米ドルの収益を上げている[4] ChatGPTのサブスクリプションサービスも開始されていませんでした。歴史的にみると、従来のテクノロジーは、学習曲線とコスト低下によって、パフォーマンスが2年ごとに倍増しました。つまり、1年遅れをとった企業も半世代分遅れただけでした。しかし、AI時代では、そのパフォーマンスは4~5ヵ月ごとに倍増しており[5]、1年の遅れは、例えるならばApple社のスマートフォンの最初の発売が2007年ではなく2012年にずれ込んでしまったのと同じことになります。そして、このプロジェクトはさらにもう1年かけて取り組む必要があるにもかかわらず、Apple社は修正後の新しいスケジュールでさえも、既に広く宣伝されているパーソナライズされたAI機能を確実に提供できる保証はありません[6]。昨年、ユーザーたちはiPhoneで収集された生のコンテキストを取り込んで質問に答え、インテリジェントなアクションを実行する、真にスマートなSiriを約束する同社のプロモーションビデオ[7]に、好意的な反応を示しました。しかし、まだこのような機能が、ライブフォーラムで実演されたことはありません。AIによるプロトタイプの作成は簡単であり、Apple社が提示したようなコンセプトビデオの作成はさらに簡単です。しかし、一貫して機能する製品を提供するのは難しいことです。実際、同社が展開しているインテリジェンス機能のいくつかは既にリコールされています[8]。
またAI により、ユーザーが非常に高性能な AI エージェントを管理できる、新しいクラスのオペレーティングシステムを作成される可能性があります[9]。ユーザーがエージェントを管理するための新しいオペレーティングシステムを求めるようになると、AIエージェントはアプリや従来のウェブインターフェースに対する消費者のニーズを減らし、Appleのアプリストアフランチャイズ全体を窮地に追い込んでしまうかもしれません。また、iPhone が携帯電話会社を単なるパイプのプロバイダーに追いやってしまったのと同じように[10]、AIはスマートフォン・メーカーを単なるハードウェアのプロバイダーにしてしまうかもしれません。社内会議のリークにより、同社が「AI危機」 [11]に陥っていると示唆されているのも不思議なことではないのです。
過去数年間のApple社の株価の推移は、このような不穏な動きを裏付けています。EV対EBITDA(利子・税金・減価償却・償却前利益に対する企業価値)で測定すると[12]、次の2つのチャートに示されているように[14]、Apple社の株価は、過去3年間で収益の伸びが鈍化し、ゼロにまで減速しているにもかかわらず[13]、このように過去最高値を更新したことはめったにないケースです。
出所: ARK Investment Management LLC. 2025年3月13日時点のyChartsのデータに基づく。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
戦略上の不確実性、執行のつまずき、ゼロに近い成長は通常、株式の評価を低下させるものですが、同社にとって今回は違うのでしょうか。Apple社のデバイス群は、歴史上最も収益性の高いグローバル流通チャネルのひとつを支えています。今問われているのは、同社がそのチャネルを活用してAIの約束を果たすことができるかどうかです。立証責任はAppleにあります。
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
先週、バイオプラットフォームのイノベーション企業であるFlagship Pioneering(フラッグシップ・パイオニアリング)社は、物理世界に自律科学を導入することを目指す自律科学企業Lila Sciences(リラ・サイエンス)の設立を発表しました[15]。AI、ロボティクス、自動化された研究室を組み合わせて誕生した同社は、科学的発見を再定義する[16]自律型科学プラットフォームを開発しました。その中核となるのがAIサイエンスファクトリー(AISF)です。これは、自律的に仮説を生成し、実験を設計および実行し、結果を継続的に改良して、生命科学、材料、エネルギーの分野に渡って、前例のない規模とスピードで科学の進歩を促進する自己学習システムです。
Lilaの特徴は、「自己強化型データ・フライホイール」です。静的なデータセットに依存する代わりに、そのAIは独自の科学データを継続的に生成し、実験のたびにその優位性を高めていきます。生命科学、エネルギー、材料にまたがる数兆米ドル規模の市場に対応する同社は、物理的イノベーションのNVIDIA(エヌビディア)になる可能性があると私たちは考えています。
General Catalyst(ジェネラル・カタリスト)、March Capital(マーチ・キャピタル)、Altitude Life Science Ventures(アルティテュード・ライフサイエンス・ベンチャーズ)、Blue Horizon Advisors(ブルー・ホライズン・アドバイザーズ)、ミシガン州退職年金制度、アブダビ投資庁 (ADIA) の完全子会社であるModi Ventures(モディ・ベンチャーズ)、ARK Venture Fund(アーク・ベンチャー・ファンド)といったトップクラスの投資家に支えられたLilaは、数十年の進歩を数年に短縮し、研究開発(R&D)の生産性を飛躍的に向上させる準備が整っているようです。この自律科学の黎明期において、同社は先頭に立って指揮を執る構えを見せています。
By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies
アナリストたちが目先の電気自動車(EV)販売の行方を議論する中、Tesla社のロボタクシーへの野望はもはや無視できないものとなっています。当社のリサーチによると、ロボタクシー・プラットフォームは2029年に同社の企業価値の90%を占めることになります。重要なのは、Teslaは主にフリート販売モデルで事業を展開していますが、「Tesla車」を所有する個人の参加も歓迎するという点です[17]。
同社は6月に、オースティンで初のロボタクシーサービスを開始する予定です[18]。これは業界にとって「百聞は一見に如かず」となる極めて重要な瞬間となるかもしれません。ARKのリサーチによると、Tesla社はWaymoや他の競合他社に比べて、データとコストの両面で優位に立っています。Tesla社は多様な現実世界の運転状況から、1日あたり約1,000万マイル(約1,609万キロ)の完全自動運転(FSD)データにアクセスできますが[19]、Waymoがアクセスできるのは、より限定されたジオフェンス環境からの1日あたり約10万マイル(約16万キロ)のデータです[20]。さらに、以下に示すように、LiDARやその他の不要なハードウェアに邪魔されない垂直統合型製造のおかげで、Tesla社の1マイルあたりのコストはWaymoのそれよりも30~40%低くなる可能性があります。
「早期立ち上げ」では、リモートオペレーター1人当たり10台の車両を想定しており、利用率は現在のライドヘイル(自動運転配車サービス)とほぼ同等。「規模拡大時」は、リモートオペレーター1人当たり100台の車両を想定し、自律運行利用率を向上させる。出所:ARK Investment Management LLC、2025年。このARKの分析は、2024年12月31日時点の様々な外部データソースを基にしたものであり、リクエストに応じて提供することが可能です。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。予測には本質的に限界があり、依拠することはできません。
Tesla社は、データとコスト面で優位に立っており、競合他社よりもはるかに迅速かつ効率的に規模を拡大できるはずです。ロボタクシーの展開が成功すれば、投資家が同社を評価する基準が変わり、粗利率の低いEV販売から、よりSaaS(Software-as-a-Service)的な経済性を持つ自動運転に移る可能性があります。6月にオースティンで開始される同社の自動運転タクシー・ネットワークは、誇大広告ではなく、実質的なものであることを証明する瞬間になるかもしれません。
[1] Nellis, S. 2025. “Apple says some AI improvements to Siri delayed to 2026.” Reuters.
[2] Gruber, J. 2025. “Something Is Rotten in the State of Cupertino.” Daring Fireball.
[3] Winton, B. 2024. “Is AI Truly Disruptive?” ARK Investment Management LLC.
[4] Efrati, A. and S. Palazzolo. 2025. “OpenAI Revenue Surged From $200-a-Month ChatGPT Subscriptions.” The Information.
[5] ARK Investment Management LLC. 2024. “Big Ideas 2024.”
[6] Bloombergによると、Apple社のSiri責任者は、「現段階でのリリースの期待に応える」ことに疑問を呈したという。 Gurman, M. 2025. “Apple’s Siri Chief Calls AI Delays Ugly and Embarrassing, Promises Fixes.” Bloomberg参照。
[7] Gruber, J. 2024. “WWDC 2024: Apple Intelligence.” Daring Fireball.
[8] Mickle, T. 2025. “Apple Plans to Disable A.I. Features Summarizing News Notifications.” The New York Times.
[9] Winton, B. 2025. “AI Agents Are Operating Systems.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC. 参照。
[10] Macleod, E. 2008. “U.S. Carriers Become Dumb Pipes.” Mobile Industry Review.
[11] Gurman, M. 2025. “Apple’s Siri Chief Calls AI Delays Ugly and Embarrassing, Promises Fixes.” Bloomberg.
[12] EV/EBITDA 倍率は、企業の企業価値を利子、税金、減価償却、償却前利益(EBITDA) で割って算出され、その結果の比率が企業価値の判断に使用される。成長率の高い業界では企業倍率が高くなり、成長率の低い業界では企業倍率が低くなることが予想される。
[13] 2025年3月13日現在、Appleは2008年7月のアプリストアの立ち上げに遡り、EBITDAに対するEVで測定すると、89%の期間において割安であった。
[14] 直近の2四半期は、アプリストア開設以来、3年間の年間売上高成長率が1桁台に落ち込んだ唯一の四半期である。
[15] Flagship Pioneering. 2025. “Flagship Pioneering Unveils Lila Sciences to Build Superintelligence in Science.”
[16] Lohr, S. 2025. “The Quest for A.I. ‘Scientific Superintelligence.’” The New York Times.
[17] Stafford, e. 2025. “Tesla's Paid Robotaxi Service Slated to Start in Austin in June.” Car and Driver.
[18] 同上
[19] 2024年12月31日時点のテスラのデータに基づくARKの推定値。Tesla. 2024. “Q4 and FY 2024 Update.” 参照
[20] 2025年2月27日時点のWaymoのデータに基づくARKの推定値。Waymo 2025. “200,000+ weekly Waymo rides and counting!...” X参照
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