本レポートは、2025年2月10日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #450」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
By Cathie Wood | @CathieDWood
CEO and CIO
ARKが最近リリースした『Big Ideas 2025』をまだご覧になっていない方は、こちらをご覧ください。私たちの生活や投資環境を一変させるようなテクノロジーについて、さらに詳しく知ることができます。『Big Ideas 2025』を世に送り出してくれた当社のリサーチ、マーケティング、コンプライアンス・チームに引き続き感謝の意を表したいと思います。
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet
先週、OpenAI社は、インターネット上の情報をもとに、複数のステップからなる調査タスクを実行するように設計されたAIエージェントであるDeep Researchの提供を開始しました。通常であれば人間が何時間もかけて調査する作業を数分で完了させるこのエージェントは、月額200米ドルでProユーザーに提供されます。
同社は、 o3モデルを搭載し、Deep Researchをウェブブラウジングとデータ分析用に最適化しました。ユーザーが ChatGPT にクエリを実行すると、エージェントは数百ものオンラインソースから自律的に情報を検索、分析、統合し、アウトプットを文書化します。その出力内容には引用、アップロードされたファイル、データの視覚化、埋め込み画像などが含まれ、5~30 分間のリサーチプロセスの進捗状況を追跡するサイドバーもあります。当社の考察では、OpenAI社の新しいエージェントは、12月に発売されたGoogle社のDeep Research製品よりも深い調査内容と分析を提供しています。
最近、OpenAI社のDeep ResearchはHumanity‘s Last Exam(人類最後の試験)の問題の26.6%に正確に回答し、現実世界のAI推論のためのGAIAベンチマークで史上最高のスコアを記録しました[1]。「Humanity’s Last Exam」は、 多くの分野にわたる可能な限り最も難しい学術的な問題が含まれている新しいベンチマークです。この試験が1月にリリースされた時点で、最も優れた成績を収めたモデルはOpenAIのo1とDeepSeekのR-1でしたが、それぞれが獲得していたスコアは約9%でした[2]。仮に後続のモデルの反復学習が、SWE-BenchとARC-AGIという特に難易度の高い2つのAIモデルのベンチマークテストを解いた[3]過去のモデルの成功率を踏襲するものであれば、Humanity‘s Last Examは今後12ヵ月以内にほぼ満点に達し、事実上、専門家レベルの技術的知識と推論能力を上回る可能性があります。
もちろん、OpenAI社のDeep Researchエージェントは完璧ではありません。幻覚を起こしたり、反応に時間がかかったり、結果のフォーマットを間違えたり、信頼できるソースを区別する際にミスを犯すこともあります。アップデートは、独自のデータソースが追加され、同社のOperatorと統合されて自動実行が可能になると思われます。これは、Deep Researchを使用して知識作業のペースを加速することを目指す企業にとって、より大きな価値を引き出すことができる重要な機能です。
By Lorenzo Valente | @LorenzoARK
Director of Research, Digital Assets
今週発表されたARKの「Big Ideas 2025」に示されているように、ステーブルコインはデジタル資産分野で最も変革的で急成長しているセクターの一つです。例えば、2022年と2023年のデジタル資産の深刻な弱気相場にもかかわらず、ステーブルコインは着実に成長し、ほとんどの主要指標で最高値を更新しました。
2024年には、次の図で示すように、ステーブルコインの取引額は、世界的に決済大手のVisaとMastercardの取引額を上回りました。今日現在、総供給量、取引回数、保有者数、ステーブルコイン数などの指標は過去最高となっています。
注:ステーブルコインのデータは暦年、クレジットカードのデータは会計年度。出所:ARK Investment Management LLC、2025年。このARKの分析は、2024年12月31日時点のWall Street Zen、CoinGecko、Visa OnChain Analyticsを含む様々な外部データソースに基づいており、ご要望に応じて提供することが可能です。情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券または暗号通貨の購入、売却、保有の推奨と見なされるべきではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
2大ステーブルコイン発行会社であるTether(テザー:USDT)とCircle(サークル:USDC)は、その急成長と収益性で多くの金融機関を驚かせてきました。例えば2024年には、従業員200人足らずのTether社が純利益130億米ドルを達成しました。これはMastercard社の従業員約35,000人が生み出す収入とほぼ同じレベルであり、歴史上最も効率的で収益性の高いビジネスの1つとなっています[4]。
現在、ステーブルコインの供給量は約2,200億米ドルで、米国のM2の約1%に相当します。当社の調査によると、供給量は2030年までに1.4兆米ドルに達する可能性があり、もしそうなれば世界で14番目に大きい通貨ベースに相当します[5]。
歴史的には、ビットコインとイーサリアムがデジタル資産分野への新規参入者にとって主な入口でした。しかし最近では、ステーブルコインがその役割を奪っています。ステーブルコインはすべてのブロックチェーンでビットコインやイーサリアムを上回る取引量を決済しており、オンチェーン活動の基盤としてその優位性が高まっていることを如実に示しています[6]。
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
10年前、ARK Investは、当社のリサーチと投資の中心となるイノベーション・プラットフォームがまだ黎明期にあった頃にスタートしました。モデルSはデビューしていたものの、路上を走る車の中で最も高価な車のひとつであり、自動運転のロボタクシーはTesla社の製品ロードマップにはまったく載っていませんでした。ヒューマノイド(人型)ロボットは頻繁に転倒し、ロケットが着陸することはありませんでした。言語は人工知能には立ち入り禁止とみなされ、GPUはPCゲーム用チップに過ぎませんでした。ビットコインの「時価総額」は60億米ドルで、Coinbaseのアクティブ顧客は100万人未満でした。CRISPr遺伝子編集に特化した企業は一般市場には登場したばかりで、ヒトゲノムの全塩基配列を解読するコストは1,000米ドルまで下がっていたものの、その臨床的な有用性はまだ疑問視されていました。
資本市場とマクロ経済環境も、以下のように大きく異なっていました。2014年、世界の名目GDP [7]は70兆米ドルを突破し、世界の株式時価総額50兆米ドルを上回りましたが、そのうち破壊的イノベーションはわずか6兆米ドル程度でした。
注:「CAGR」:年平均成長率。*破壊的イノベーションの時価総額には暗号通貨と暗号資産を含む。**Microsoft, Nvidia, Meta, Apple, Amazon, Alphabet 出所:ARK Investment Management LLC、2025年。このARKの分析は、2024年12月31日時点の様々な外部データソースを利用しており、リクエストに応じて提供することが可能です。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。予測には本質的に限界があり、依拠することはできません。
それから10年後、状況は変わりました。経済規模は130兆米ドル近くまで拡大しましたが、資本市場の成長はより速いペースで加速し、GDPとほぼ同じ規模になりました。イノベーション資産はさらに速いペースで価値が上がり、27兆米ドルに達し、世界の株式時価総額の20%以上を占めています[8]。
今や電気自動車は世界で最も売れている車であり、自動運転のロボタクシーは複数の都市で商業化されています。SpaceX社のロケットはほぼ常に着陸し、人間の動きを模倣するヒューマノイドロボットは最初の顧客を見つけました。言語は、多くの分野で専門家の知識を凌駕しつつある人工知能システムの主要なインターフェースとなり、AIはGPUとコンピューティングに対するかつてない需要を生み出しています。暗号資産の時価総額は今や3兆米ドルを超え、Coinbaseの顧客数は米国の銀行3行を除くすべての銀行を上回っています。そして、CRISPr社のCas-9遺伝子編集治療による鎌状赤血球症の治療法が実用化され、腫瘍専門医はシーケンサーを用いたがん検出検査を年間数十万件処方しています。
今週発表されたARKの『Big Ideas 2025』に詳述されているように、目覚ましいイノベーションの10年を経て、次の5年がより意義深いものになるだろうと私たちは考えています。ロボタクシーが乗客輸送の主流となり、年間数兆米ドル規模の産業が生まれる可能性があります。ヒューマノイドロボットは、家庭で初歩的な家事をこなしながら、工場での生産速度を大幅に加速させるでしょう。人工知能は年間収益が10兆米ドルに近づき、時価総額は数十兆米ドル規模に達する可能性があります。金融市場を混乱させるにはまだ早いとはいえ、暗号通貨やスマートコントラクトプロトコルもまた、10兆米ドル規模の価値に達する可能性があります。健康面では、他の病気が治癒し、さらに多くの治療法が開発中である一方、病気の診断と治療法の開発ははるかに効率的かつ収益性が高くなるでしょう。
こうしたブレークスルーに関する当社のリサーチが正しければ、イノベーター企業の企業価値は驚異的なスピードで上昇する一方で、取り残された企業の企業価値は縮小する可能性があります。当社の予測によると、破壊的イノベーションは2030年には世界の株式時価総額の3分の2以上を占めるようになります。生産性主導でマクロ経済成長が加速するにもかかわらず、テクノロジーがコストを引き下げ、既存のビジネスモデルを破壊するため、イノベーションを起こさない企業の価値は縮小する可能性があるのです。
また、イノベーションの強気相場は多くの企業に拡大すると予想されます。過去5年間で、一握りの企業、いわゆる「マグ6」が、株式市場のイノベーショ ン時価総額の3分の1から3分の2に増加しました。今後5年間は、全体としてはMag 6が好調を維持するはずですが、当社の予測では、破壊的な競合企業がより速く成長し、Mag 6がイノベーション市場の時価総額に占める割合は、以下のように新型コロナウイルスの流行以前の水準に戻ることが示唆されています。
出所:ARK Investment Management LLC、2025年。このARKの分析は、2025年12月31日時点の様々な外部データに基づいており、ご要望に応じて提供することが可能です。本資料は、情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、予測には本質的に限界があり、依拠することはできません。過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
確かに、これらの大手有名テクノロジー企業が急成長を続ける可能性はありますが、私たちの予測では、より機敏で積極的、そして破壊的な企業がより急速に価値を蓄積し、歴史的なテクノロジービジネスサイクルを生み出すことが示唆されています。
[1] GAIAベンチマークは、推論、マルチモーダリティ、ツールの使用など、人間が簡単に処理できるが、多くの高度なAIにとっては苦戦を強いられるスキルを必要とする、簡単で日常的な質問でAIアシスタントに挑戦するベンチマークである。ここに記したGAIAベンチマークのスコアは、同ベンチマークのウェブサイト(https://ai.meta.com/research/publications/gaia-a-benchmark-for-general-ai-assistants/)で入手可能。
[2] ここに記したSWE-BenchとARC-AGIのベンチマークスコアは、それぞれのベンチマークのウェブサイト(https://www.swebench.com/)(https://arcprize.org/arc)で入手可能。
[3] SWE-bench verifiedはSWE-benchの人間によって検証されたサブセットで、GitHubのコードリポジトリにある実世界の問題を解決できるかどうかをテストすることで、AIエージェントのコーディング能力を評価するための難易度の高いベンチマーク。OpenAI2024を参照。ARC-AGIは、AIシステムが少数の例から抽象的なルールを学習し、新しいグリッドベースのタスクを正確に解くことに挑戦する一般知能のベンチマーク。これらのタスクは通常、人間にとっては非常に簡単ですが、AIシステムにとっては難しいものである。
[4] Hoffman, P. 2024のデータに基づく。 “The world’s most successful companies by profit per employee.” Best Brokers, 2024年12月31日時点のデータ。2025年1月31日、Tetherは2024年下半期の新しいデータを発表し、通年で130億米ドルを稼いだことを明らかにした。新しいデータが発表される前に作成されたARKのBig Ideas 2025では、テザーが2024年上半期に50億米ドルを稼いだことを示した。読者はBig Ideas 2025を読む際に、この違いに注意する必要がある。Sandor, K. 2025を参照。"Tether Reports $13B Profit for 2024, With Rising Bitcoin, Gold Prices Contributing".CoinDesk.
[5] 2024年12月31日時点のrwa.xyz(”Stablecoins”)のデータに基づく。M2は米国のマネーストックの指標であり、M1(銀行以外の一般市民が保有する通貨および硬貨、小切手性預金、トラベラーズチェック)に、貯蓄預金(マネーマーケット預金口座を含む)、10万米ドル未満の小口定期預金、リテール・マネーマーケット投資信託の株式を加えたものである。
[6] 2024年12月31日現在のArtemis Terminalのデータに基づく。
[7] 国内総生産(GDP)は、国内で生産されるすべての財とサービスの最終的な市場価値を測定する。経済活動の指標として最も頻繁に用いられる。支出アプローチによるGDPは、輸出から輸入を差し引いた最終支出総額(購入者価格)を測定する。「名目GDP」はインフレ調整されていない。「実質GDP」はインフレ調整済み。
[8] 本稿では、暗号資産時価総額を世界株式時価総額の一部とみなしている。
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