本レポートは、2025年1月13日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #446」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
By Lorenzo Valente | @LorenzoARK
Research Associate
先日行なわれたCES 2025[1]の基調講演で、ジェンセン・フアン氏はAIエージェントを数兆米ドル規模のビジネスチャンスとして取り上げました。これは、進化し始めている「エージェント経済(エージェンティック・エコノミー)への肯定的な評価であると私たちは考えます。現在Eliza(イライザ)やVirtualsのようなAIエージェントの展開が主導的な役割を担い、Ethereum(イーサリアム)やSolana(ソラナ)上でのAIエージェントの導入と管理のための基盤を構築しています。
VirtualsとElizaは、AIエージェントのトークン化を可能にするだけでなく、トークンを活用した共同所有権を促進し、アクセスとガバナンスを民主化します。APIとSDK[2]により、両フレームワークはAIエージェントをWeb 2アプリケーションにシームレスに統合し、X、Discord、Telegramといったプラットフォーム間のダイナミックなやりとりを活発化すると同時に、ウォレットの所有権と多様なサービスの提供を可能にします。
多くのチームが、様々な面でエージェント経済を成長させています。Prime IntellectとNous Researchは、スケーラブルなAI開発の限界を押し広げ、分散型の事前トレーニングと推論を可能にする取り組みを主導しています。一方、他のプロジェクトでは、証明可能で検証可能な自律性を保証する信頼された実行環境(Trusted Execution Environments:TEE)を通じて、検証可能な自律エージェントを開発しています。さらに、Virtualsフレームワークの開発チームは、テキスト、画像、動画、音声など、さまざまな種類のデータを処理し、相互作用することができる高度なマルチモーダル機能を備えたエージェントの展開を実験しています。
現在、AIエージェントは、回復機能やオーバーライド機能を含む共有アクセスと制御メカニズムによって管理することが可能です。現在のAIエージェントは、長期的な目標を持ってリソースや複雑なタスクを管理することはできませんが、ブロックチェーンテクノロジーは、AIエージェントがその方向に進化するための肥沃な土壌を提供しています。ブロックチェーンは、AIエージェントに資本と計算リソースへのアクセスを与え、資産の所有と管理を可能にするだけでなく、分散型資本市場と対話し、従来のシステムでは不可能なレベルにまで自律的に動作することを可能にします。また、AIエージェントは、ブロックチェーン上で独自の秘密鍵を保管することができるため、エージェント経済において中心的存在となり得る独立性が与えられているのです。
今日現在のAIエージェントは、認知能力、操作能力、対話能力が発達した自律的な存在というよりは、まだ単なるチャットボットの拡張版のようなものです。しかし、AIエージェントはかつてないペースで進化しています。強力な経済的インセンティブが与えられれば、成長するブロックチェーン経済に対して有意義な貢献ができるようになるでしょう。
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
英国バイオバンクのプロテオーム研究[3]では最近、Ultima Genomics(ウルティマ・ジェノミクス)社のUG100HTシーケンサーを主要なプラットフォームとして選択しました。これは、Illumina(イルミナ)社へのプレッシャーを強める大きな節目の出来事です。1ゲノムあたり100米ドル(1米ドル/Gb)のUltima社のシーケンス技術は、革新的な回転ディスクフローセル設計を活用して試薬の消費を最適化し、かつてないコスト効率を実現します。このプラットフォームは、何十億ものゲノムをシーケンスし、マルチオミクス分野を根本的に再構築する可能性のある1~10米ドルのゲノムの実現可能性についての議論を巻き起こしました。
集団規模の研究を可能にし、精密医療やマルチオミクス研究への応用を加速する1~10米ドルのゲノムは、学術研究、創薬、公衆衛生を一変させる可能性があります。またIllumina社にとって、超低コストのシーケンスの実現可能性が高まることは、特に研究に特化した市場における競争上の課題をもたらします。
しかしながら、こうしたプレッシャーがあるにもかかわらず、Illumina社は同社の消耗品売上の約55%を占めるがん診断、NIPT[4]、感染症の各分野における臨床市場で確固たる地位を維持しています。1ゲノムあたり100米ドルというUltima社の価格設定は、研究部門に波紋を呼ぶ可能性がありますが、(事実、英国におけるプロテオームの共同研究は、シーケンサーをめぐる競争環境の変化を裏付けるものとなっています[5]。) Illumina社がXシリーズプラットフォームへの移行と臨床成長に重点的に取り組むことで、見通しは安定するはずです。
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
General Expression Transformer (GET)は、遺伝子発現を形成する相互作用を解読する画期的な基礎モデルとなる可能性があります[6]。200種類以上の細胞種から得られたクロマチンアクセシビリティデータでトレーニングされたGETは、クロマチン状態が転写にどのように影響するかを制御する「構文」を学習し、未知の細胞種における遺伝子発現を予測し、疾患に関連するタンパク質相互作用を明らかにします。Alphabet(アルファベット)社のAlphaFoldのようなツールによる構造的洞察を統合することで、GETは生物学における重要な進歩を表し、遺伝子制御、個別化医療、診断、医薬品開発における新たな可能性を切り開く可能性があります。
実際、GETのような基礎モデルは、複雑なデータシステムの一般的な理解を構築することで、研究に革命をもたらす可能性があります。膨大なデータセットで訓練されたGETは、疾患予測や治療設計のような特定のアプリケーションのために微調整することができます。そして、文脈を超えて一般化するその能力は、精密医療の革新、病気の迅速な診断、より効率的な治療薬の発見を促進する可能性があるのです。
GETのアプローチは、DNAからRNAを経てタンパク質へと遺伝情報が流れる様子を説明し、フィードバックループによってダイナミックな制御を確保する、分子生物学のセントラルドグマに類似しています。また、基礎モデルのトレーニングはDNAと一致し、一般的な知識をエンコード化する普遍的な情報基盤を提供しています。またファイン・チューニングは、特定の適応が特定のタスクのために基礎モデルの一部を選択的に活性化させるエピジェネティックな制御と類似しています。中間出力はRNAに似ており、基礎知識をタスク固有の予測に変換する柔軟な中間体として機能します。最後に、生物学的プロセスを実行する機能分子であるタンパク質は、疾患マーカーや治療標的の特定など、ファイン・チューニングされたモデルから得られる実用的な洞察を反映します。
セントラルドグマは生物学的進化の制約の中で機能し、恒常性を維持するためにフィードバックループが自然に出現しますが、基礎モデルは迅速かつ的を絞った最適化のために設計された人間工学的システムです。タンパク質のような生物学的アウトプットは細胞プロセスに限定されますが、基礎モデルは予測や分類のような抽象的でスケーラブルなアウトプットを生成します。生物学の固定された遺伝子設計図とは異なり、基礎モデルは人間の介入によって継続的に拡張し、進化することが可能であり、常に改善することが出来ます。これにより、生物学と基礎モデルはどちらも一般化と適応に役立つ一方で、柔軟性と革新性においては根本的に異なることが明らかです。
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet
中国に拠点を置くAIラボのDeepSeek(ディープシーク)社は、AIに特化したクオンツ・ヘッジファンドHigh Flyerの子会社であり、Meta社の最大のLlama 405bに匹敵する最先端のモデルであるDeepSeek v3[7]を発表しました。規模は同程度であるにもかかわらず、DeepSeek v3は約10分の1の計算量でトレーニングされ、より優れたパフォーマンスと劇的な効率の向上も実現しています。アンドレイ・カルパシー氏はこの成果を「簡単そうに見せている」と評し[8]、AI研究分野における中国の影響力の高まりを強調しました。
ARKでは、ハードウェアの飛躍的な進歩とソフトウェアの最適化が相まって、AIのトレーニングコストが年間75%、推論コストが年間90%とそれぞれと低下することを確認しています[9]。DeepSeek社の驚くべき結果は、コンピューティング機能に制約がある場合でも、革新的なアルゴリズムアプローチによって、一般的なコストの数分の一で最先端のパフォーマンスを達成できることを示唆しています。
DeepSeek v3は、次世代AI研究の早期の可能性と、新規参入企業がコンピューティング効率の限界を押し広げるスピードの両方を示しているようです。中国が急速に進化した理由の1つとして考えられるのは、限られたコンピューティング機能で臨機応変に対応する必要があるため、他国ではまだ十分に検討されていないアルゴリズムの効率化が促進されたことです。もう1つの可能性は、中国政府がデータソーシングなどの領域を支援することで、国内のAIラボの市場投入までの時間を短縮していることです。いずれにせよ、DeepSeek v3は、AIにおける継続的なコスト削減がもたらす変革のインパクトを浮き彫りにし、チップの制約にもかかわらず、AIの覇権をめぐる世界的な競争が急速に進展していることを強調しています。
[1] NVIDIA. 2025. “NVIDIA CEO Jensen Huang Keynote at CES 2025.” YouTube.
[2] Application Programming Interface (API). Software Development Kit (SDK).
[3] UK Biobank. 2025. “Launch of world’s most significant protein study set to usher in new understanding for medicine.”
[4] 非侵襲的出生前検査 (NIPT)
[5] Ultima Genomics. 2025. “Ultima Genomics Announces UG 100™ Sequencing Platform Selected for UK Biobank's Groundbreaking Human Proteome Study.”
[6] Fu, X. et al. 2025. “A foundation model of transcription across human cell types.” Nature.
[7] DeepSeek. 2024. “Introducing DeepSeek-V3!” X.
[8] Karpathy, A. 2024. “DeepSeek (Chinese AI co) making it look easy today...” X.
[9] ARK Investment Management LLC. 2024. “Big Ideas 2024: Disrupting the norm, Defining the future—Artificial Intelligence,” pp. 19-33.
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