本レポートは、2025年1月6日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #445」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
By Sam Korus | @skorusARK
Director of Research, Autonomous Technology & Robotics
SpaceX社は2024年の進捗報告書の中で、Starlink(スターリンク)V3に関する驚くべきデータを公開しました[1]。例えば、各V3衛星は、1テラビット/秒(Tbps)のダウンリンク速度を実現します。これは、V2ミニの10倍です。言い換えれば、改良された衛星と大型のロケットを考えると、Starship V3の打ち上げによってネットワークに60Tbpsが追加されることになります。これはV2ミニの打ち上げの20倍以上です。
SpaceX社は、下図の通り、衛星帯域幅容量に関するライトの法則のコスト曲線を下降し続けており、明らかに、競合他社はSpaceX社のコスト低下に追いつくのが困難になっています。
ARKが2023年に発表したように[2]、ライトの法則に基づくと、衛星帯域幅のコストは、軌道上の1秒あたりのギガビットが累積的に倍増するたびに、約45%低下するはずです。2004年以降、衛星帯域幅のコストは、7,500分の1に低下し、ギガビット/秒(Gbps)あたり3億米ドルから4万米ドルになりました。Starshipのおかげで[3]、2028年までにコストはさらに40分の1の約1,000米ドル/Gbpsに低下する可能性があります。1Gbpsは約1,000米ドル/Gbpsの資本コストで200人の顧客にサービスを提供できるため、SpaceXはStarshipへの投資を顧客1人当たり5米ドルの1回限りの料金で回収できるのです[4]。
出所: ARK Investment Management LLC, 2023年。VanderMeulen他の2015年のデータに基づく[5]。本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、予測には本質的に限界があり、依拠することはできません。過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
2025年に入ると、実質GDP成長率は1900年以降の世界平均である3%をやや上回る水準で推移します。コンセンサス予想では、この成長率は10年後まで続き、その後減速するとされていますが、ARKのリサーチでは、マクロ経済の転換期はもっと早く、しかも大幅に上向きになると示唆されています。
国際通貨基金(IMF)によると、世界のGDPは2024年の127兆米ドルから2030年には150兆米ドルに増加します。一方、ARKは、実質成長率が7%以上に加速し、2030年のGDPが190兆米ドルを超えると予測しています(下のグラフの黄色いバーの紫色の延長線上) [6]。
出所: ARK Investment Management LLC、2025年。このARKの分析は、2024年12月31日時点の様々な外部データに基づいており、リクエストに応じて提供可能です。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。予測には本質的に限界があり、依拠することはできません。
上のグラフに示されているように、経済成長は時間の経過とともに段階的に変化してきました。さらに、段階的な変化の間隔が縮まってきており、この直近の変化は第2次産業革命によるものです。
ARKのリサーチによると、人工知能(AI)が新たな世界的成長の波を引き起こしており、その証拠は今後5年間の間に蓄積されるでしょう。従来の経済理論と一致して、AIは資本を労働に置き換えることで生産性を向上させる過程にあり、経済清算の急速な増加につながるはずです。私たちが考えるようにAIが労働力のほぼ完全な代替手段となれば、AIは再投資と成長の加速という自己強化サイクルを生み出す可能性があります。
このダイナミズムの一例を挙げるとすると、Tesla社のCybercab(サイバーキャブ)は、製造コストが同程度かそれ以上の従来の車両と比較して、8倍の距離の輸送サービスを提供できる可能性があります。個人所有の自動車と競争できるマイルあたりの価格で提供されるこのようなサービスは、同社にとって大きな利益をもたらすでしょう。市場のポテンシャルは計り知れないほど大きく、Tesla社はその利益を株主に配当する代わりに、さらなるCybercabの生産に再投資する可能性が高いでしょう。
言い換えれば、Cybercabの経済的生産性は、より多くのCybercabの生産に直接的に貢献し、ひいては経済的に非常に生産的になることが証明されるはずです。Tesla社は、従来の自動車生産と同額の資本で8倍の輸送サービスを提供するだけでなく、自動運転車により、機械的に車両を操作していた乗客の時間も解放されます。
ロボタクシーやヒューマノイドロボットは、物理的な生産量を劇的に向上させるとともに、家事に拘束されていた人間の時間を解放することができるかもしれません。さらに、エージェント型AIは、人間の可能性を妨げてしまう管理プロセスを自動化することができます。最後に、AIとマルチオミクスの融合によってもたらされるであろう生物学的洞察のおかげで、高齢化した労働力は活力を維持し、生産的に貢献することができるようになります。
簡単に言えば、加速度的に変化しているテクノロジーの融合により、今後5年間の経済成長が加速するはずです。シートベルトを締めておきましょう。
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet
最先端のAIモデルのトレーニングと運用にかかるコストが制御不能なまでに増大しているとの報告[7]がある一方で、新しいハードウェアの効率化とソフトウェアのアルゴリズム改善は、AIの進歩に追い風をもたらしているものの、あまり評価されていません。
ARKは、AIモデルのトレーニングコストが年率75%で低下しており、推論コストはさらに急速に年率90%で低下していることを指摘しています。当社のリサーチによると、コスト急落の約半分は、新しいハードウェアの進歩によるものです。例えば、Nvidia社はH100と比較して、H200ではチップあたりの高帯域幅メモリ量を約75%増加させ、ピーク推論性能を2倍に向上させました。コスト低下の残り半分はソフトウェア層で発生しており、AI開発者はより少ない計算リソースで同じパフォーマンスを実現しています。ソフトウェア層におけるイノベーションの例としては、GPTモデルの学習効率を2.8倍向上させるフラッシュ・アテンションや、推論を2~3倍高速化する投機的デコーディングなどがあります。このパラダイムについては、ARKのBig Ideas 2024で詳述しています[8]。
ハードウェアレベルとソフトウェアレベルの両方の改善を組み合わせることで、トレーニングコストは、6ヵ月ごとに半減しており、ムーアの法則で示唆されている2年よりもはるかに速いペースです。推論に適用すると、コストの低下は「推論時間計算」のスケーラビリティの驚異的な改善につながります。その結果、OpenAI社の最新のo3モデルは、これまで大規模言語モデル(LLM)では不可能だった問題を解決しつつあります。ARC-AGIベンチマーク(人間には簡単だがAIには非常に難しいタスクでAIモデルに挑戦するために作成された一連の問題)では、例えば、ほとんどの人間が数分で解決できる問題をo3が解くためには、数千米ドル相当のコンピューティング [9]を必要としますが、年率90%でコストが減少することを考えると、今日の法外なコストはわずか数セントにまで下がるはずです。
ハードウェアの進歩はその年に新しく購入されたインストールベースの一部にのみ適用されるのに対し、アルゴリズムの効率化は、フリート全体のソフトウェアのアップデートとして適用できることが、コスト削減の複合的な要因であるにもかかわらず、十分に認識されていません。理論上では、推論性能を2倍にするソフトウェアの最適化によって、2年前のGPUの収益創出の可能性が2倍になるかもしれないのです。
とはいえ、LLM分野における競争力学を考えると、その価値創造の多くは、価格のさらなる低下とパフォーマンスの向上という形でユーザーに還元される可能性が高いといえます。しかし、この分析では、「コア」モデルのパフォーマンスのみを考慮し ています。業界がAIエージェントへと移行するにつれて、複数のモデルやツールからシステムを複合化することで、コスト効率よく機能を拡張できるはずです。これは、AIで実現できることが頭打ちになるまでにはまだ長い道のりが残されていることを示唆しています。
[1] Starlink. 2024. “Internet from Space for Humans on Earth.”
[2] Big Ideas 2023. ARK Investment Management LLC.
[3] StarshipはSpaceX社の次世代ロケットと衛星である。
[4] つまり、ある時点で積極的にサービスを利用している人の20倍以上の人が料金を支払っていることになる。また、この計算には、衛星の寿命、衛星の利用率、地上のインフラ・コストは含まれていない。
[5] VanderMeulen, R. et al. 2015. "High-Capacity Satellite Communications - Cost-effective Bandwidth Technology." Space Symposium, Technical Track.
[6] 数字はすべて2024年の米ドル。
[7] Seetharaman, D. 2024. “The Next Great Leap in AI Is Behind Schedule and Crazy Expensive.” The Wall Street Journal.
[8] ARK Investment Management LLC. 2024. “Big Ideas 2024: Disrupting the Norm, Defining the Future.”特に人工知能のセクションのp.26を参照。このARKの分析は以下の様々なデータソースに基づいており、リクエストに応じて提供可能。Benaich, N. 2023 “State of AI Report.” Air Street Capital. Touvron, H. et al. 2023. “Llama 2: Open Foundation and Fine- Tuned Chat Models.” arXiv. Yang, C. et al. 2023. “Large Language Models as Optimizers.” arXiv. Leviathan, Y. et al. 2022 “Fast Inference from Transformers via Speculative Decoding.” arXiv. Dao, T. 2023. “FlashAttention-2: Faster Attention with Better Parallelism and Work Partitioning.” Center for Research on Foundation Models. Stanford University.予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
[9] Chollet, F. 2024. “OPENAI O3 BREAKTHROUGH HIGH SCORE ON ARC-AGI-PUB.” ARC PRIZE.
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