Newsletter #430:DeepMindの新AIシステム「AlphaProteo」が新薬の発見を加速させる、他。

作成者: ARK Invest|2024/09/09

本レポートは、202499ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #430」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. DeepMindの新AIシステム「AlphaProteo」が新薬の発見を加速させる

By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst

 

先週、Google社のDeepMindは、標的分子にしっかりと結合するタンパク質を設計し、医薬品や診断薬などの開発研究を加速させる最先端の AI システムであるAlphaProteo(アルファプロテオ)をリリースしました。タンパク質は相互作用して細胞プロセスを制御します。したがって、特定の標的に結合する新たなタンパク質を設計することは、疾患の新しい治療法を開発する上で非常に大きな役割を果たすかもしれません[1]

AlphaProteoAIを使い、新しいタンパク質結合体をワンステップで設計します。これにより、従来の時間のかかる複数ステップのタンパク質設計方法に革命がもたらされる可能性があります。がん、自己免疫疾患、ウイルス感染に関与する標的を含む7つのタンパク質でテストしたところ、AlphaProteoは、下の左図に示すように、著しく高い成功率を達成しました。また、結合親和性においても、下の右図に示すように、既存の手法より3-300倍優れた性能を発揮しました。結合親和性スコアが低いほど、相互作用が強く安定していることを示し、タンパク質がより効果的に標的に結合するようになります。これは、タンパク質がより低い濃度で標的に結合できるため有利であり、治療用途にとって非常に重要な、より効率的で効果的な結合剤となるのです。

出所: Zimbaldi, V、他。左側のグラフ:実験成功率の比較。異なるタンパク質に対するAlphaProteoと従来の方法の成功率を示す。(右側のグラフ:最高の親和性の比較- logスケール)。既存の方法と比較して、AlphaProteoが達成した優れた結合親和性を示す。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。

 

左側のグラフに示されているように、AlphaProteoは、がんや糖尿病に関連するタンパク質であるVEGF-Aの結合剤を設計することに成功しました。これは、AIとしては初めてのことです。既存の方法と比較すると、Alphaproteoはまた、BHRF188%対18%)やTrkA9%対0%)のようなタンパク質に対して、既存の最良の方法よりも大幅に高い成功率を示しました。

AlphaProteoが設計した結合剤はまた、優れた結合親和性も示しました。上の右図に示されている通り、IL-7RAでは、AlphaProteoは、従来のアプローチよりはるかに低い82ピコモルという親和性を持つの結合剤を生成しました。

しかしながら、AlphaProteoにも限界があります。例えば、従来の方法でさえ標的にするのが非常に難しいことで知られる自己免疫疾患に関与するタンパク質であるTNFαに対する結合剤は、まだうまく生成することができていません。

とはいえ、創薬にかかる時間、コスト、実験の労力を削減するAlphaProteoの機能は画期的であるといえます。

 

2. Teslaが完全自動運転のロードマップを発表

By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies

 

先週、Tesla AIは、現在から2025年第1四半期までの完全自動運転(FSD)ソフトウェア・アップデートのロードマップを発表しました[2]。注目すべきは、同社はFSD12.5.2における「必要不可欠な」介入の間隔が以前のバージョンよりも3倍伸びており、FSD13ではさらに6倍の改善が実現すると見積もっていることです。Tesla社はこうした改善の基準値を明らかにしていませんが、イーロン・マスク氏は6月に、介入の間隔が1年分の走行距離に近づいていることを示唆しました[3]。これは約12,000マイルに相当します。規制当局の承認が下り次第、同社は来年の第1四半期中に中国とヨーロッパでもFSDをリリースする予定であり、米国とカナダ以外で初めてFSDを国際展開することになります。

これらのアップデートは、1010日のロボタクシーイベントにおいて、同社がソフトウェアの大幅な改良を発表する可能性があることを示唆しています。また、ロボタクシーアプリ、ロボタクシープラットフォームの展開、Cybercab(サイバーキャブ)のハードウェアに関する追加の詳細も発表されることが期待されます。

ARKでは、Tesla社やWaymo(ウェイモ)社がUber(ウーバー)社と競争して、米国の都市で同レベルのサービスを提供するために必要な車両はわずか1万台であり、1台あたりが25,000米ドルとして、25,000万米ドルの設備投資が必要になると試算しています[4]。もちろん、ライドヘイル(配車サービス)プラットフォームの立ち上げには、追加の人件費やその他の運営コストがかかります。私たちは、10月に開催される発表会で、Tesla社の計画について更に詳しく知ることを楽しみにしています。皆さまもご期待ください。

 

3. Base(レイヤー2ネットワーク)でAI間における初の暗号資産決済が実現

By Lorenzo Valente | @LorenzoARK
Research Associate

 

先週、CoinbaseCEO兼創設者であるブライアン・アームストロング氏は、Base(レイヤー2ネットワーク)上で、2つのAIエージェント間における暗号資産を利用した初の取引が行なわれたことを発表しました[5]。これは暗号コミュニティにとって大きな進歩です。この取引では、1つのAIエージェントが暗号トークンを使用して別のエージェントからAIトークンを購入し、そのトークンが機械学習モデルのデータ文字列として機能しました。

長年AI主導型経済を提唱してきたアームストロング氏のCoinbaseは、マルチパーティコンピューティング(MPC)ウォレットのインフラ開発に多額の投資を行なっており、大規模言語モデル(LLM)を暗号資産ウォレットに統合するために必要な人材を獲得するための助成金を提供しています。この最初の取引は、ブロックチェーン技術が、大規模なAI間の経済を可能にするためのユニークな立場にある破壊的なプラットフォームであることを私たちに改めて思い起こさせる画期的な出来事です。

暗号資産のインフラは、大規模なAIエージェント主導の商取引を可能にするために不可欠な3つの基本要素を提供します。

  • 資本へのアクセス:KYCKnow Your Customer:顧客確認)要件により、従来の銀行口座や決済ゲートウェイはAIエージェントにとって実行不可能なものとなりました。暗号資産の「パーミッションレス(許可不要の)」ネットワークのおかげで、AIエージェントは自由に資本にアクセスできます。
  • デジタル資産の所有:暗号資産ウォレットのおかげで、AIエージェントは独自のデジタル資産(トークン、NFT、利回り生成商品など)AI間経済にとって重要な独自の資産を保有・管理できます。 
  • 検証可能性と決定論:ブロックチェーンの検証可能性により、AIエージェントは決定論的な環境で動作できます。ブロックチェーン上の取引やローンの清算はバイナリ、かつ透明ですが、取引や清算が発生したかどうかを判断することは、AIエージェントがタスクを確実かつ効率的に実行するために必要不可欠です。

自律的なAI間の経済活動はまだ初期段階にあり、暗号資産は新しいエコシステムをサポートするためのユニークな立場にあります。取引コストが大幅に低下するにつれ、今後数年のうちに、ほとんどの取引がAIによって開始され、完了されるようになる可能性があるでしょう。

 

4. Replit Agentはソフトウェア開発へのアクセスの 民主化に向けてさらなる一歩を踏み出す

By Jozef Soja | @JozefARK
Research Associate

 

先週、Replit(リプリット)社は、自然言語の入力からウェブ・アプリケーションのプロトタイプを作成できる、AI を搭載したコーディング・ツールであるReplit Agent(リプリット エージェント)を発表しました。前世代のAIコーディング・ツールは、コードの行を完成させたり、既存のプロジェクトにコピーできる提案を提供したりすることで開発者を支援していましたが、Replit Agentは、パッケージのインストールや包括的なアプリケーションとバックエンド・データベースの作成などのタスクを処理することで、より高い自律性を実現します。そして、Replit Agentは、新興企業向けのランディングページ[6]Wordleのような人気ゲームのクローン[7]Perplexityでの広告コストを見積もる広告費計算機[8]などのアプリを作成することが、すでに新しいユーザーによって実証されています。

性能の高いエージェントが増えることで、Replit社やOpenAI社のようなAI新興企業は、企業に提供する価値をさらに引き出せるようになると思われます。Replit Agentをリリースした直後、Replit社のCEOは近い将来に価格を引き上げる可能性がある[9]ことを示唆しました。また、OpenAI 社の次世代モデルでは、企業ユーザーの月額利用料が2,000米ドル[10]になる可能性があるという噂も早い段階から出ています。

コーディング・エージェントがもたらす価値を見極めることは、初期の段階では難しいですが、ARKのリサーチによると、コーディング・エージェントによってソフトウェア開発が民主化され、知識労働者、開発者、企業がワークフロー全体で飛躍的に多くのカスタム・ソフトウェアを作成、展開できるようになることが示唆されています。

 

 

 

 

 

 

 

[1] Zimbaldi, V. et al. 2024. “De novo design of high-affinity protein binders with AlphaProteo.” Google DeepMind.

[2] Tesla AI. 2024. “Due to Popular Demand, Tesla AI team release Roadmap.” X.

[3] Musk, E. 2024. “FSD 12.4.1 releases today to Tesla employees.” X. See also iSeeCars. 2024. “Electric Cars Are Driven the Least While Costing the Most.”

[4] Based on data from NYC Taxi & Limousine Commission “Overview: Historical Trip Records, Monthly Trip Count by Industry.”  Beckford, A. 2024. “Elon Musk Says Tesla Aims to Introduce a $25,000 model in 2025.” USA Today. U.S Department of Transportation, Federal Highway Administration.” 2024. “State and Urbanized Area Statistics.”

[5] Armstrong, B. 2024. 2024. “Ais are now paying other Ais with Crypto.” X.

[6] Mathur, A. 2024. “Replit Agent (launched today).” X.

[7] Bowling, M. 2024. “In 2:43 second the new @Replit code agent…” X.

[8] Menezes, B. 2024. “I built a @perplexity_ai ad spend calculator in 5 min.” X.

[9] Masad, A. 2024. “will probably raise pricing at some point…” X.

[10] Palazollo, S. and Woo, E. 2024. “OpenAI Considers Higher Priced Subscriptions to its Chatbot AI; Preview of The Information’s AI Summit.” The Information.

 

 

 

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