Newsletter #433:AIがソフトウェアのバリューチェーンを変革、他。

作成者: ARK Invest|2024/09/30

本レポートは、2024930ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #433」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. AIがソフトウェアのバリューチェーンを変革

By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist

 

トップクラスのクロードモデルを支えるAI開発企業であるAnthropic(アンソロピック)社は、新たな資金調達ラウンドで400億米ドルもの評価額を目指していると報じられています[1]。しかし、OpenAI社が1,500億米ドルの評価額で6070億米ドルの資金調達を継続的に進めている中、Anthropic社の投資家との話し合いはまだ初期段階にあります。これらの報道により、こうした高額な評価額の正当性について疑問の声が上がっています[2]

ARKは、AIがソフトウェア業界を変革する可能性にこそ、その正当性があると考えています。AIは知識労働者の生産性を向上させます[3]AIがもたらすと予想される生産性の劇的な向上に基づくと、企業は今後6年間でソフトウェアへの支出を年率47%増加させる可能性があり、今年の1.1兆米ドルから2030年には13兆米ドルにまで拡大させることができるのです[4]

計算は簡単です。中国以外の国の知識労働者の賃金は、2030年までに総額30兆米ドルに達する見込みです。ソフトウェアベンダーは通常、企業に提供する経済価値の2040%を獲得することを目指しており、AIソフトウェアは2030年に知識労働者の生産性を2.5倍から6.5倍に高めることができると予想されます。仮にAIがその経済価値の10%を獲得するとすれば、最終市場は7兆米ドルから19兆米ドル規模になる可能性があります[5]

ソフトウェア企業にとっては一見良いことのように思えますが、問題は、AIによって知識労働者が独自のソフトウェアを迅速かつ安価に作成できるようになる可能性があることです[6]。カスタマイズされたソリューションをより早く、よりコスト効率よく開発できるとしたら、企業は既製品の画一的なソフトウェアにお金を払うでしょうか。これは数兆米ドル規模の問題です。

歴史的に、パブリッククラウドのコンピューティング支出の約40%SaaSSoftware-as-a-Service)に集中しており、Palantir社のAIPのようなPaaSPlatform-as-a-Service)やAmazon Web ServicesAWS)のようなIaaSInfrastructure-as-a-Service)とは対照的です[7]SaaSプロバイダーは、PaaSプロバイダーやIaaSプロバイダーの顧客であることが多いため、SaaS1米ドル費やすと、PaaSIaaSのダウンストリームに0.25米ドル費やすことになりますが、SaaSプロバイダーが収益の大部分を獲得しています。

AIはテクノロジースタックを変革する可能性が高く、SaaSが社内のAIソリューションに取って代わるとすれば、Llama 3AnthropicOpenAIのようなオープンソースや商用のAIプラットフォームがそれらを支えることになるでしょう。

以下のシナリオは、企業向けAIソフトウェアの需要がバリューチェーンを通じてどのように波及するかを示しています。SaaSが現在の支出シェアをほぼ維持した場合、2030年までに6.5兆米ドルの収益と40兆米ドル規模の企業価値[8]を生み出し、2030年までに、この2つの指標で年間70%以上の成長を実現するかもしれません[9]

出所: ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は、2024927日時点の様々な外部データソースを用いています。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

出所: ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は、2024927日時点の様々な外部データソースを用いています。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

しかし、AIはバリューチェーンにおけるSaaSの役割を縮小させると私たちは見ています。SaaSは支出の大部分を維持する代わりに、基盤モデル上に構築された自社開発のソリューションだけでなく、PaaSIaaSにも取って変わられる可能性があるのです。ソフトウェアレイヤーがコモディティ化しつつあるという兆候のひとつとして、Social Capital社のチャマス・パリハピティヤ氏は、従来のSaaS10分の1の価格でソフトウェアを提供する企業に資金を提供すると提案しています[10]。一方、Klarna(クラーナ)社は、AIによって同社が独自のカスタムソリューションを開発できるようになることもあり、SalesforceWorkdayを放棄すると発表しました[11]。こうしたトレンドが持続することが証明されれば、将来のソフトウェアのあり方は現在とは大きく異なるものになるかもしれません。

以下のシナリオでは、ソフトウェアの総需要は上記のモデルと同じ軌跡をたどりますが、SaaSPaaSIaaSによって実現される社内ソフトウェア・ソリューションに取って代わられます。SaaSの売上は65,000億米ドルから1兆米ドル強になり、年間成長率は72%から32%となり、また、ハードウェア以外のAI投資の38%から9%に低下する可能性があります。

出所: ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は、2024927日時点の様々な外部データソースを用いています。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

SaaSへの支出の割合が低いほど、AI基盤モデルへの支出の割合が高くなり、基盤となるAIコンピューティング・ハードウェアへの支出の割合が大幅に増加します。バリューチェーンのSaaSレイヤーをスキップする支出は、粗利益獲得率の低下を招き、基盤となるコンピューティング・インフラストラクチャにより多くのリソースを割くことができます。さらに、AIが独自のデータを持つ企業に利益をもたらす可能性があることを考えると、オンプレミスのAIコンピューティング・ハードウェアへの直接投資が急増する可能性があります。

出所: ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は、2024927日時点の様々な外部データソースを用いています。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

出所: ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は、2024927日時点の様々な外部データソースを用いています。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

おそらく、本当の結果はこの2つのシナリオの中間にあるのでしょうが、もし企業がソフトウェアの多くを自社で作成するだろうという私たちの方向性が正しいとすれば、テクノロジーのバリューチェーンは大きく変容するはずです。コンピューティング・ハードウェア・メーカー、AI基盤モデル企業、PaaSIaaSは、そうでなかった場合よりもSaaSに比べて大きな価値を獲得することになるでしょう。

出所: ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は、2024927日時点の様々な外部データソースを用いています。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

そう考えると、現在のAI基盤モデル企業の一見高値に見えるバリュエーションは、後から考えれば良いバリュエーションであると証明されるかもしれません。Anthropic社とOpenAI社の評価額についての噂が正しいとしても、xAIの評価額と合わせると、現在の時価総額は2,200億米ドルに近づく一方、彼らが獲得を目指しているバリューチェーンの部分は、2030年までに 15兆~20兆米ドルにまで拡大する可能性があります。確かに高い評価額ではありますが、彼らが追い求める最終的な投資機会のほんの一部にすぎないのです。

 

2. Connect 2024で注目されるMetaAI戦略

By Nick Grous | @GrousARK
Associate Portfolio Manager

 

Meta社の「Connect 2024」では、AIMeta社の戦略的ビジョン[12]の要であると説明されました。マーク・ザッカーバーグ氏は、AIが現在のプラットフォームと同社の新しいハードウェア・デバイスにおいて、ユーザーエクスペリエンスをどのように向上させているかについて強調していました。多言語での自動コンテンツ作成から、スマートグラスに統合された、リアルタイムのパーソナルアシスタントまで、AIは現在、同社のあらゆるプラットフォームに浸透しています。

Meta社の消費者向けサービスの中核となるのは、同社のオープンソース基盤モデルであるLlama 3上に構築されたMeta AIです。月間で約5億人、週あたり約18,500万人のアクティブユーザーを抱えるMeta AIには、人々が日常的にテクノロジーと接する方法を変革する態勢が整っています。

同社はまた、画像、グラフ、テキストを処理できる多目的のマルチモーダルAIモデルであるLlama 3.2も発表しました。このリリースには、小型および中型のビジョン大規模言語モデル(LLM)(それぞれ11Bおよび90Bのパラメータ)と、エッジデバイスやモバイルデバイスで実行可能な軽量およびテキストのみのモデル(それぞれ1Bおよび3B)が含まれています。小型のモデルは、学習済みバージョンと指示チューニングバージョンの両方で利用できます。Llama 3.2は、アップデートされたRay-Ban Metaスマートグラスのリアルタイムのビデオ分析機能、翻訳機能、オブジェクト認識機能を強化し、また、ライブ言語翻訳や状況認識機能の提供が可能な、非常に高性能なインテリジェントウェアラブルへと変貌させます。

このカンファレンスのハイライトは、マーク・ザッカーバーグ氏が「タイムマシン」と表現したプロトタイプの「OrionARグラスでした。重さ100グラム未満のOrionは、ホログラフィックディスプレイ、ユーザーの視線と手の動きの追跡、音声起動、手首のデバイスで操作するニューラルインターフェースを備えています。Orionは、まだ広範な流通の準備が整っていないものの、日常のコンピューティングやインタラクションの構造にAIが深く統合された、拡張現実の未来に対する同社のビジョンを示しています。

専用のAIハードウェア、高度に独自性の高いデータソース、そして広範なユーザーベースを擁するMeta社は、AIの次の時代をリードする絶好の立場にあり、技術革新、膨大なデータ、そしてコンピューティングと拡張現実の未来を形作るための広範な流通を兼ね備えているといえます。

 

3. Ziplineがラストマイル配送を再定義

By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies

 

先週、Zipline(ジップライン)社は米国の消費者向けに、新しいドローン配送プラットフォーム「P2 Zip」のライブストリーミングを行ないました[13]。同社の革新的な設計には、大型のドローンから出現し、ロープで吊り下げられて静かに効率的に荷物を各家庭に配達するドロイドが含まれています。Ziplineは、現在同社が提携しているすべてのパートナーに対して、現在の配送経済水準を満たすか、それを上回ることができると述べています。

ARKは以前、ドローン配送プラットフォームが本格的に普及すれば、1米ドル未満で荷物を配送できるようになると試算していました [14]。しかし今日では、ドローン配送は、アプリベースのサービスにおける1配送あたり平均1516米ドルの手数料を下回るだけで済みます。信じられないことに、今日の法外な手数料は食事代の2倍にもなりかねません[15]

Zipine社はWalmartをはじめ、ファストカジュアル・レストランチェーンやヘルスケアプロバイダーと提携し、今年後半にダラスで配達を開始する予定です。P2 Zipsは全天候型で航続距離は10マイルであり、最大8ポンド(約1.5kg)の荷物を運ぶことができます。これは平均的な米国の世帯が1日分の食事をまかなうには十分な量です[16]ARKは、自動配達によって、買い物の習慣が再構築され、毎週の食料品の買い物が毎日の自動配達に変わる可能性があると考えています。

ARKは、食品と宅配便の市場規模(TAM)は2030年までに世界で12兆米ドルに達する可能性があると予測しています[17]100万件を超える配達実績を誇るZipline社は、市場をリードする立場にあるといえるでしょう[18]

 

 

 

 

 

 

 

[1] Gardizy, A. and K. Clark 2024. “Anthropic Has Floated $40 Billion Valuation in Funding Talks.” The Information.
[2] Hermann, J. 2024. “AI Investors Are Starting to Wonder: Is This Just a Bubble?” Intelligencer.
[3] 例えば、2023年に発表されたハーバード・ビジネススクールの研究では、1年以上前のAIモデルを使用した知識労働者の生産性が75%向上したことが示されている。それ以来、システムの能力は有意義に向上している。 Dell‘Acqua, F. et al. 2023. “Navigating the Jagged Technological Frontier: Field Experimental Evidence of the Effects of AI on Knowledge Worker Productivity and Quality.” Harvard Business School Working Paper Series参照。
[4] HG Insights. 2024. “IT Spending Report: Global B2B Market Forecast for 2024.”
[5] ARK Investment Management LLC. 2024. “Big Ideas: Disrupting the Norm, Defining the Future,” p. 33.
[6] 証拠はたくさんある。以下はその一例である。McKinsey Digital. 2023. “Unleashing developer productivity with generative AI.”参照。
[7] Goovaertz, D. 2024. “AI eats $4B hole in Gartner cloud PaaS forecast.” Fierce Network.
[8] 企業価値とは、買収者がそのセクターに対して支払うであろう総額のことである。平均的なSaaSの粗利益率が75%で、粗利益の半分をEBITDAに変換でき、市場がEV/EBITDAの約6倍を支払う意思がある場合、売上高6.5兆米ドルは企業価値40兆米ドルになる可能性がある。従来の用語では、企業価値(EV)は企業の総価値を測定する。その計算には、企業の時価総額だけでなく、短期および長期の負債、バランスシート上の現金または現金同等物も含まれる。企業の価値を評価する際、時価総額に代わるより包括的な選択肢として用いられることが多い。Investopedia. 2024.“Enterprise Value.“参照
[9] 売上総利益率を75%と仮定し、その半分を営業利益とした場合、EBITDA(金利・税金・減価償却費控除前利益)倍率は約16倍となる。Gartnerは、2024年のSaaSの売上高は約2,500億米ドルに達し、EV/売上高倍率の中央値は6倍強になると予測している。 Drazdou, F. 2024. “SaaS Valuation Multiples: 2015-2024.” Aventis Advisors. Gartner. 2024. “Gartner Predicts 75% of Enterprises Will Prioritize Backup of SaaS Applications as a Critical Requirement by 2028.”参照
[10] Palihapitiya, C. 2024. “I’m starting an incubator…” X.
[11] Morgan, T. 2024. “Klarna-Salesforce-Workday Partnership Called Off Amidst Major Gen-AI Overhaul.” SFBen.
[12] Meta. 2024. “Connect Keynote.” YouTube.
[13] Zipline. 2024. “Behind the Scenes with Zipline.” YouTube.
[14] ARK Investment Management LLC. 2024. “Big Ideas: Disrupting the Norm, Defining the Future.”

[15] 同上

[16] 11日あたり35ポンドの食料を消費すると仮定すると、アメリカでは1世帯あたり2.5人で、平均的な世帯では1日あたり約10ポンドを消費することになる。United States Census Bureau. 2023. “Historical Households Tables.”参照

[17] 数字は四捨五入。12兆米ドルが対応可能な機会であるが、2030年までの総収益/市場規模は普及率に左右される。

[18] Zipline. 2024. “Welcome to the best delivery experience not on earth.”

 

 

 

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