本レポートは、2024年10月7日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #434」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
創薬における「死の谷」とは、薬が前臨床試験に合格しても臨床試験で失敗するまでの間の重要な段階を指します。「死の谷」の失敗確率は数十年にわたり92%を超えていますが、その主な理由は、予期せぬ毒性(動物モデルでは現れなかったが、人間の臨床試験で明らかになった問題)や、人間に対する有効性の欠如です。
2022年に可決されたFDA近代化法2.0は、こうした問題に対する大胆な解決策を提示しています。この法律では、従来の動物実験に加えて、あるいは動物実験の代わりに、試験管内、インシリコ(実際の生物体や細胞を使わずに、コンピュータ上でシミュレーションやデータ分析を行なう手法)、生物工学的モデルなどの試験方法の使用が許可されています。
オルガノイド、臓器チップ、組織工学モデル、デジタルツインなどの革新的なテクノロジーが、この革命の最前線にあります。オルガノイドは、人間の臓器の小型で、簡略化されたバージョンであり、動物モデルよりも人間の生態をよく表しています。臓器チップは、人間の臓器システムの機能を小型デバイス上で模倣したもので、研究者が制御されたリアルタイムの環境で薬物相互作用を観察することができます。組織工学モデルは、複雑な人間の組織環境を再現するもので、薬物の有効性や毒性に関するより深い洞察を提供します。最後に、デジタルツイン(臓器、または個体全体の仮想モデル)は、計算能力を活用して、薬物が特定の患者の生態とどのように相互作用するかをシミュレートするものです。
こうした技術が前臨床の動物実験に代わる実行可能な手段であることが証明されれば、創薬や患者のための安全な治療法に大きな変化をもたらす可能性があります。
By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Associate
AIデータセンターのブームにより、Google[1]、Amazon[2]、Meta[3]、Microsoftのようなハイテク大手は、クリーンなエネルギー源としての原子力の可能性を模索するようになりました。
Microsoft社は最近、民間核融合企業であるHelion(ヘリオン)社[5]との電力購入契約(PPA)に続き、核分裂を利用するスリーマイル島原子力発電所1号機[4]の復旧に向け、20年間の電力購入契約(PPA)を発表しました。
核エネルギーの基本的な形態は、下図のように核分裂と核融合の2つです。ARKのリサーチによると、AIデータセンターの主な核エネルギー源は核分裂である可能性が高いようです。
出所: ARK Investment Management, LLC. 2024年。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。
核融合は、約75年にわたる研究にもかかわらず、商業的に意味のある正味のエネルギーを生み出していません[6]。対照的に、核分裂は1950年代からアメリカの送電網に電力を供給してきました[7]。興味深いことに、核分裂はライトの法則に従った[8]学習曲線を描いていましたが、1970年代に規制の変更によって、以下のように軌道から外れました[9]。
注:「MW」はメガワットを示す。出所:ARK Investment Management LLC, 2024, Lovering、他。2016; IAEA 2023; EIA 2022; World Nuclear News 2022のデータに基づく[10]。日本のデータは、データソースであるLovering、他。2016で指定された終了年である2009年まで。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。
Commonwealth Fusion Systemsは、2027年には、商業的に意味のある正味のエネルギーで画期的な成果を出すことを目指しています[11]。しかし、核分裂の歴史を参考にすると、商業用の核融合プラントの開発には、そのマイルストーンに到達してからおよそ15年はかかるでしょう[12]。
核融合と核分裂に関連する技術経済的可能性に関するARKの研究にご期待ください。
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet
先週、AIチップの新興企業であるCerebras(セレブラス)は、IPOに先立ちSECにS-1登録届出書[13]を提出しました。「ウェハースケール」のコンピューティング・エンジンで知られる同社のチップは、以下のように、市場に出回っている他のAIチップよりも大幅に大きいです。
出所: Cerebras.情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
Cerebrasは、この大型チップを製造するために、 Taiwan Semiconductor Manufacturing Company (TSMC)と共同で特殊な製造プロセスを開発し、開発者が大規模な計算を実行できるようなソフトウェアスタックを構築するために積極的な投資を行なう必要がありました。しかし、この投資は実を結んでいるようです。Cerebras社の最新チップであるCS-3は、AIモデル学習用のリニア・スケーリング[14]、Nvidiaのチップよりも優れた電力効率[15]、超高速言語モデル推論など、独自の利点があります。
Artificial Analysisの独立したベンチマークによると、Cerebras社のチップは、Llama 3.1 70Bのような中規模モデルで1秒あたり568トークンを提供し、以下に示すように、Nvidia社のGPUを搭載したサービスよりも10倍以上、SambaNovaよりも37%上回る速度を示しています。
出所: ARK Investment Management LLC, 2024年。Artificial Analysisのデータに基づく。2024年10月6日現在。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。
推論速度は常に重要でしたが、特に人間のやりとりにおいては、待ち時間(レイテンシー)がユーザーエクスペリエンスに影響を与えるため、さらに重要視されてきました。OpenAIの大型言語モデル「o1」が回答する前に「立ち止まって考える」[16]ようになった今、その重要性はさらに高まっています。Cerebrasのチップは、競合のチップよりも高速な思考を可能にし、より堅牢な回答が得られる可能性が高くなります。
最後に、Cerebrasは1つのパッケージで、強力なトレーニングとクラス最高の推論速度を管理することができるため、これらの用途の1つだけを想定してチップを設計している競合他社に勝っています。その結果、AIコンピューティングの購入者がインフラの複雑性を最小限に抑え、チップの利用率を最大化しようとしている中で、同社は大きな競争優位性を享受できるはずです。
技術が確立した今、Cerebras社は製造規模を拡大し、市場投入戦略を練り上げ、追加資金を公的市場から調達する必要があります。商業化への旅は始まったばかりです。
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Associate
先週、1,500億米ドルの評価額で資金調達ラウンドを終えたOpenAIは、非公開で「開発者デー」を開催しました。同社は、ファインチューニングやカスタムの「蒸留」モデルのためのツールや、モデルとユーザーの会話を改善する新しいRealtime(リアルタイム)APIを発表しました。
RealtimeAPI[17]により、ユーザーはOpenAIのリアルな音声モデルと最小限の待ち時間で対話できるようになります。開発者はモデルを活用して、例えば、消費者、ベンダー、その他のユーザーとスムーズに会話し、カスタマーサービスへの問い合わせや物資の注文を容易にすることができます。
OpenAIの試算では、Realtime APIは、ユーザーがモデルに話しかける音声入力1分あたり0.06米ドル、モデルがユーザーに返答する音声出力1分あたり0.24米ドルのコストがかかります。音声の取り込みと応答にかかる時間が約50対50に分割されると仮定すると、OpenAIのRealtime APIのコストは1時間あたり約9米ドル、つまりアメリカのコールセンター従業員の平均時給[18]の半分になります。
OpenAIはまた、開発者がビジョンモデルをファインチューニング[19]し、GPT-4oのような大規模で高性能なモデルを活用して、より小規模で効率的なモデルをトレーニングすることができるようにするためのツールもリリースしました。このプロセスはモデル蒸留[20]と呼ばれます。大規模な言語モデルを実行するコストが急落し続ける中、ファインチューニングと蒸留を提供することでOpenAIは価格面で優位に立てるはずです。同社のプラットフォームでカスタマイズされたモデルを使用している顧客が、競合プラットフォームでそれを再作成して置き換える可能性は低いためです。
AIモデルがより安価で高性能になり、ますます汎用性が向上するにつれ、それをサポートするために基盤モデル企業が構築するツールやプラットフォームは、消費者や企業にとって真の価値を生み出すはずです。
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
中国の25歳の患者が、幹細胞移植[21] によりインスリン依存から解放された現在、糖尿病の治療法は単なる希望以上のものとなりました。特に1型糖尿病の場合、患者はインスリン依存の悪循環に陥っていました。
化学的に誘導された多能性幹細胞(iPS細胞)は、現状を打破し、再生医療に革命的な進歩をもたらす可能性があります。患者自身の細胞をインスリンを生成する膵島細胞に再プログラムし、それを腹筋に移植することで、科学者たちはインスリンの産生を実現し、インスリン注射の必要性をなくしたのです。
注目すべきは、この技術は、幹細胞から抽出した組織を用いて、肝臓病から神経変性疾患まで、さまざまな症状に対処することで、糖尿病以外にも応用できる症例が見つかる可能性があることです。また、身体の自己修復を助け、老化した臓器や細胞機能を回復させることで、老化のプロセスを遅らせることもできるかもしれません。
多能性幹細胞の利用を広範囲に拡大することには困難が伴うかもしれませんが、インスリン依存からの解放は、医学におけるより広範な革命が目前に迫っていることを示す最初の兆候となる可能性があります。
[1] Shapero, J. 2024. “Google CEO eyeing electricity from nuclear plants for its data centers.”
[15] Cerebras. 2024. “Cerebras CS-3 vs. Nvidia B200: 2024 AI Accelerators Compared.”
[16] Downing, F. 2024. “OpenAI's o1 Outperforms Other LLMs By "Stopping To Think.’” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.
[17] OpenAI. 2024. “Introducing the Realtime API.”
[18] ZipRecruiter. 2024. “Call Center Representative Salary.”
[19] OpenAI. 2024. “Introducing vision to the fine-tuning API.”
[20] OpenAI. 2024. “Model Distillation in the API.”
[21] Wu, J. et al. 2023. “Treating a type 2 diabetic patient with impaired pancreatic islet function by personalized endoderm stem cell-derived islet tissue.” Cell Discovery.
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