本レポートは、2025年6月16日にARK社のウェブサイトに公開された英語版「Newsletter #467」の日本語訳です。内容については英語原文が日本語訳に優先します。本資料は、情報提供のみを目的としたものです。
By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst
先週、Tesla社の無人運転「Model Y」がオースティンでテスト走行している様子が、初めて一般向けに公開され、オンライン上で話題となりました[1]。同時にイーロン・マスク氏は、同社のロボタクシーサービスについて、仮ではあるものの商業運用の開始を6月22日に予定していることを明らかにしました[2]。このロボタクシー・プラットフォームは、同社のビジネスモデルを、ハードウェアの一括販売から、ソフトウェアのような高い利益率を持つ継続的な収益モデルへと大きく転換させるものです。当社のリサーチでは、Tesla社のロボタクシー・プラットフォームは、2029年時点で同社の企業価値のおよそ90%を占める可能性があると見込まれています[3]。
また、同社はその垂直統合型の製造体制とカメラ映像のみを用いた自動運転アプローチにより、競合他社に対して大きなコストの優位性を確保できる可能性があります。これにより、より迅速かつ効率的なスケール展開が可能になると考えられます。当社のリサーチによると、他の自動車メーカーやLiDAR(ライダー)といった不要なハードウェアに依存することなく、スケール化を実現した場合、Teslaの1マイルあたりのコストは、Waymoと比べて約30~40%低くなる可能性があると見込まれます(下図参照)。
「アーリーローンチ(初期展開)」は、1人の遠隔オペレーターあたり10台の車両を想定し、稼働率は現在のライドヘイル(配車サービス)と同程度であると仮定しています。一方、「スケール段階(本格展開)」では、1人の遠隔オペレーターあたり100台の車両を前提とし、自律走行の稼働率が向上していることを想定しています。出所:ARK Investment Management LLC, 2025。本分析は、2024年12月31日時点での複数の外部データソースに基づいており、詳細はご要望に応じてご提供可能です。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買または保有を推奨する投資助言ではありません。過去の実績は将来の結果を示すものではなく、予測には本質的に限界があり、信頼性を保証するものではありません。
このコスト面での優位性は非常に魅力的です。特に、配車サービスやタクシーの料金を比較できるアプリ「Obi」が最近行なった調査によれば、サンフランシスコの消費者は、UberやLyftよりもWaymoに高い料金を支払ってもよいと考えていることが明らかになっています[4]。今後数週間以内にTesla社がサービスを開始し、Waymo社がさらに提供地域を拡大する中で、ARKでは、自動運転によるライドヘイリング市場がどの程度のスピードで拡大していくのかを注視していく予定です。
By Autonomous Tech. & Robotics Team | @ARKInvest
Daniel Maguire, ACA, Sam Korus, & Brett Winton
先週、ARKはMach33と共同で、オープンソースのSpaceX企業価値評価モデルを公開しました。ベースケースとして、2030年時点で企業価値がおよそ2.5兆米ドルに達するという予測を示しています。詳しくは、当社のブログ[5]をご覧いただき、GitHub[6]からモデルをダウンロードのうえ、前提条件をご確認いただけますと幸いです。ぜひご意見もお寄せください。
本予測はARK Invest(以下「ARK」)により随時修正される可能性があり、あくまで現時点の期待値の目安として提供されています。広範な市場および個別発行体に関する予測は、ARKが運用する投資商品やARKのポートフォリオの特性を示すものではなく、その意図もありません。予測は仮説的かつ非常に投機的なものであり、多くのリスクや制約を伴います。ARKは提示した予測に合理的な根拠があると考えていますが、本資料はあくまで説明を目的として提供しており、その正確性については何ら保証するものではありません。 予測を検討される際には、十分な注意を払っていただくようお願い申し上げます。これらの予測は本質的に主観的であり、ARKのポジティブな期待に偏っていることをご了承ください。また、予測上の良好な結果は、対象企業の相対的リスクの指標として捉えるべきであり、一般に高い予測値はより大きなリスクを示しています。予測が実際の結果と一致する保証はなく、予測を裏付けるものではありません。結果は予測を大幅に下回る場合もあります。予測方法の詳細については、当社ブログおよびGitHubのモデルをご参照ください。
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst
先週、OpenAI社は「o3-pro」をリリースし[7]、大規模言語モデル(LLM)の性能における新たな地平を切り拓くとともに、基盤モデルの品質が指数関数的に向上するというARKの長年の仮説を裏付けました。PhDレベルの科学的推論力を求められる厳格なベンチマークテスト「GPQA」において、o3-proは84%のスコアを記録し、o3の81%を上回りました。
絶対対数誤差(absolute log error)での比較では、Anthropic、Google、xAIといった最先端モデルに匹敵する水準に達しています(下図参照)。私たちは、OpenAIがo1からo3-proへと極めて短期間で進化を遂げたことから、大規模AIトレーニングにおけるスケールの力があらためて示されたと考えています。大規模なデータセット、高性能な最適化アルゴリズム、そして飛躍的に拡大する計算インフラが、能力向上の好循環を生み出しているのです。なお、xAIがテネシー州メンフィスに保有する大規模GPUクラスターが、Grok 3 Betaが4ヵ月前にo3-proと同等の性能を達成できた理由である可能性もあります。
出所:ARK Investment Management LLC、2025年。このARKの分析は、2025年6月10日時点の様々な外部データに基づいており、ご要望に応じて情報提供が可能です。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買または保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
同社はまた、従来のo3モデルの価格を80%引き下げ[8]、GPT-4.1と同等の水準にまで抑えました[9]。この価格改定により、高度な推論能力を持つエージェントを企業が本格的に業務プロセスへ組み込む動きが加速し、新たな実験の波が巻き起こる可能性があります。こうした動きに対して、競合各社も対応を迫られることになりそうです。従来、o3に近い価格帯で提供されていたClaude 4 Opus[10]は、今回の価格引き下げによって大きなプレッシャーを受けることとなり、Anthropic社は、利益率を下げて価格を合わせるか、それとも市場シェアを失うかという選択を迫られています。これは、史上最も深遠な技術革命の初期段階における、重要な経営判断となるでしょう[11]。
今回の価格下落の規模は驚異的です。性能が向上しているにもかかわらず、o3-proは、わずか6ヵ月前にリリースされたo1と比べて87%も安価に提供されています。年率換算では98%のコスト削減となり、ARKが『Big Ideas 2024』で示した92%の下落率を上回っています。この傾向が今後も続けば、数年以内に推論コストはほぼ無視できる水準にまで低下し、AIエージェントの爆発的な普及をもたらし、グローバルな知的労働のソフトウェア化が一気に進む可能性があります。実際、OpenAIやxAIなどのモデル開発企業が、より大規模なコンピューティングクラスターを投入する中で、リーダー企業と後発企業との間の差は一層拡大し、「AI競争」が激化していくと見られます。
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
シングルセルRNAシーケンシング(scRNA-seq)は、理論上の技術から実用段階へと進化し、現在では高感度・高スループット・低コストを競う激しい競争が繰り広げられています。最近のベンチマーク調査[12]によると、10x Genomicsは細胞の回収率と分解能の高さでリードしており、Fluent Biosciencesは1細胞あたり約0.005米ドルという最安値を提示し、他社の半分のコストで提供しています。Scale Biosciencesは多様な特徴を検出できる点が強みですが、シーケンシング効率に課題が見られます。一方でParse Biosciencesは、感度の面で10x Genomicsにやや劣るものの、固定細胞のT細胞受容体(TCR)解析において優れており、臨床用途や時間的制約のあるサンプルにおいて強みを発揮しています[13]。
特筆すべきは、シーケンシング単価がついに1細胞あたり0.01米ドルを下回り、経済的な壁を突破したことです。これにより、シングルセル解析は新たな生物学的発見の領域へと突入しました。低コスト化とデータ品質の向上によって、10億細胞規模での解析が可能となり、疾患のメカニズムや複雑な生物学的システムの解明が、かつてない解像度で進められるようになっています[14]。
たとえばParseは、Wellcome Sanger InstituteおよびHelmholtz Munichと提携し、3Dオルガノイドを活用して治療反応をマッピングする「がん可塑性アトラス」を構築、10億細胞以上を解析しています[15]。またImmunaiは、PICI(Parker Institute for Cancer Immunotherapy)のがん横断コホートから5,000万細胞のデータを生成し、数百万細胞規模のデータをもとに多層的免疫細胞アトラス「AMICA」基盤モデルの開発を進めています[16]。
シングルセルの大規模データは、いわば「生物学的インテリジェンス(biological intelligence)」を構築するために不可欠です。現時点における生物学の基盤モデルは、ChatGPT-2に相当する段階にとどまっており、生物データ特有のノイズや複雑性に影響を受けています。しかし、1細胞あたりわずか0.000075米ドルという驚異的な低コストで10億細胞を解析できる「STAMP(Single-Cell Transcriptomics Analysis and Multimodal Profiling)」のような技術が、スケーラビリティとコスト効率の最前線に立っています[17]。
将来的にGPT-4レベルの生物学モデルを実現するには、それを支えるデータセットも同等の規模が求められます。当社の調査によれば、10億細胞規模のアトラスはすでに実現可能な段階にあります。精度と汎用性を両立させるには「スケール」が鍵となります。そして、人体が持つ35〜40兆個の細胞に対応するには、兆単位の細胞データが次のフロンティアとなり、生物学をChatGPT-4レベルの理解へと導くことが期待されます。
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
今週、Caris Life Sciences(カリス・ライフサイエンシズ)社は新規株式公開(IPO)を通じて、ヘルスケア業界のイノベーターおよび投資家にとってのもう一つの重要な節目を迎えました[18]。同社は、昨年上場した競合のTempus(テンポス)AI社[19]とともに、従来の「陽性/陰性」によるバイナリ診断から、継続的かつ多次元的なゲノムデータと検査へと大きく進化する潮流を牽引しています。
従来の検査が「陽性」または「陰性」といった限定的な結果を提供するのに対し、CarisとTempusは、広範なゲノムプロファイリングを通じて、より豊富で詳細な分子レベルの知見を提供しています。Carisは、全エクソーム/全トランスクリプトーム(WES/WTS)配列を含む53万件を超えるデータベースを保有しており[20]、一方Tempusは、ペタバイト級のシーケンスおよび患者プロファイリングデータを多数保有しています[21]。これらの大規模データセットは、がんの分子メカニズムに関する深い洞察を提供し、個別化された治療判断を大きく向上させます。
重要なのは、こうした企業の市場機会がゼロサムではないという点です。がんや神経疾患、心血管疾患などをより早期に発見する能力が高まるにつれ、AIの専門性と大規模データを備えた複数のイノベーターによって、市場全体が拡大していくと考えられます。特に、継続的かつ縦断的な健康プロファイリングが普及することで、この傾向はさらに強まるでしょう。
これらの企業の価値提案は、深層ゲノムデータと、表現型との関連性を示す補完的なデータセットを組み合わせる点にあります。これにより、予測精度と予後評価能力が強化されるのです。このアプローチを大規模に展開することで、CarisとTempusは、従来の静的な診断から、動的かつ継続的にモニタリングされる個別化医療へと医療の姿を一変させ、前例のない臨床的・経済的価値を生み出す可能性を秘めています。
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
先週、イーロン・マスク氏のxAIは、PolymarketをXの公式予測市場パートナーに任命しました。Polymarketのインターフェース内で稼働しているGrokは、すでに各マーケットページで会話形式の要約機能(「Ask Grok」)を提供しています。さらにXは、投稿やGrokの回答にPolymarketの確率情報を追加する予定であり、これにより6億人の月間ユーザーに対して、世界で最も注目度の高い議論のリアルタイムオッズを届けることが可能になります[22]。
トレーダーは単に評判だけでなく資金をリスクにさらすため、市場価格に反映された確率は世論調査や専門家の予測を上回る実績があります。直近のアメリカ大統領選挙がその好例です。
別の例として、「イスラエルが7月前にイランに対して軍事行動を起こす確率」は、6月13日のイスラエル国防軍(IDF)による奇襲攻撃の2日前に急上昇しました(下図参照)。Polymarketは主流メディアの報道よりも早く、このリスクの高まりを警告していました[23]。これは、分散型市場における透明性と継続的な価格設定が、ノイズを除去し、政策決定者や投資家、一般市民にとって重要なシグナルを際立たせる効果を持つためだと考えられます。
出所:ARK Investment Management LLC(2025年)、Polymarketのデータに基づく(2025年6月13日時点)。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の有価証券の売買または保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
これまでの予測市場に必要だったインフラと比べて、スマートコントラクト型ブロックチェーンは、はるかに低コストでスケール可能になっています。Polygonのプルーフ・オブ・ステーク型ネットワークのおかげで、Polymarketでは1回の取引が数秒で決済され、ガス代は1セント未満に抑えられています。これにより、多数のトレーダーが仲介者を介さずに流動性を供給できるようになっています。2024年には、Polymarketは90億米ドルのベット取引高に対して、ネットワーク手数料がわずか10万2,000米ドルであり、規制を受ける従来型のベッティング取引所と比べて、コストが桁違いに低いことを示しています[24]。このことは、パブリックブロックチェーンのコスト競争力の高さを際立たせています。
また、AIエージェントの登場により、予測市場の範囲と実用性は大きく広がると予想されます。たとえば、Grokを活用したアシスタントは、リアルタイムのデータストリームを監視しながら、「Appleは第4四半期までに3nmのM3チップを出荷するか?」といったマイクロマーケットを数秒で立ち上げ、双方向の価格提示を自動で行なうことが可能です。これにより、これまで予測市場が「大規模イベント」に限定されてきた背景にある摩擦が一気に取り除かれます。
自律的なAIエージェントが、Polymarket上の数千の契約間で不整合を裁定するようになると、スプレッドは縮小し、取引量は増加し、「真実の価格」がより多様な分野、たとえば臨床試験の結果や気候指標で可視化されるようになるでしょう。その結果、xAIのツール群は、予測市場を単なる「面白い仕組み」から、常時稼働するオラクル層(真実の情報提供インフラ)へと変貌させる可能性を秘めています[25]。
スマートコントラクトとAIの融合は、グローバル経済において確率的なデータ層を形成する可能性があります。投資可能なインパクトとしては、以下のような点が挙げられます。
[1] Terrapin Terpene Col. 2025. “Holy Crap It’s a Robotaxi!!” X.
[2] Musk, E. 2025. “Tentatively, June 22.” X.[3] Keeney, T. et al. 2024. “ARK’s Expected Value For Tesla In 2029: $2,600 Per Share.” ARK Investment Management LLC.
[4] Obi. 2025. “The Road Ahead: Pricing Insights On Waymo, Uber and Lyft.”
[5] Maguire, D. et al. 2025. “ARK’s Expected Value For SpaceX In 2030: ~$2.5 Trillion Enterprise Value.” ARK Investment Management LLC.
[6] ARK Investment Management LLC. 2025. “ARK-Invest-Mach-33-SpaceX-Valuation-Model.” GitHub.
[7] OpenAI. “OpenAI o3-pro is rolling out now…” X.
[8] OpenAI Developer Community. 2025. “O3 is 80% cheaper and introducing o3-pro.”
[9] 同上
[10] Anthropic. 2025. “Pricing.”
[11] 同上
[12] Elz, A.E. et al. 2025. “Evaluating the practical aspects and performance of commercial single-cell RNA sequencing technologies.” bioRxiv.
[13] 同上
[14] 同上
[15] Staff Reporter. 2025. “Wellcome Sanger, Parse Biosciences Collaborate on Single-Cell Atlas of Cancer Treatment Response.” Genome Web.
[16] Han, A.P. “Immunai to Feed AI Models with Single-Cell Data Generated From Parker Institute Pan-Cancer Cohort.” Genome Web.
[17] Biocompare. 2025. “Method makes Large-Scale Single-Cell RNA analysis More Accessible and Affordable.”
[18] Caris Life Sciences. 2025. “Caris Life Sciences Announces Launch of Initial Public Offering.”
[19] Tempus AI. 2024. “Tempus Announces Pricing of Initial Public Offering.”
[20] UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION. 2025. “Form S-1, Caris Life Sciences, Inc., May 23, 2025.”
[21] UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION. 2025. “Form S-1, Tempus AI, Inc., May 20, 2025.”
[22] Bitget.com. 2025.
[23] Cryptopolitan. 2025.
[24] Coindesk. 2025. See also OneSafe Content Team. 2025. “Polymarket’s $9 Billion Surge in Decentralized Finance.” Gas fees are calculated from data from Token Terminal, accessed at [https://tokenterminal.com/explorer/markets/prediction-markets/metrics/gas-used].
[25] Based on data from AIInvest, accessed at [https://www.ainvest.com/].
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