本レポートは、2025年12月15日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #491」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst, Autonomous Technology & Robotics
先週、The Wall Street Journalは、SpaceXが従業員向けテンダー(従業員が保有する株式を対象とした買い取り取引)を、約8,000億米ドルの評価額で実施すると報じました[1]。これは、今年初めに行なわれた同様の取引での約4,000億米ドルの評価額の2倍にあたります[2]。また別途、Bloombergは、SpaceXが2026年に約1.5兆米ドルの評価額でIPO(新規株式公開)を計画しているとも報じました[3]。イーロン・マスク氏は、宇宙ベースのAIデータセンター構想に一段と注力しています。Starshipを前提としたこのビジョンにより、3年足らずで世界で最も低コストのAIビットストリームを提供できる可能性があり[4]、さらに4〜5年以内に、年間約100GW(現在の米国の原子力発電設備容量にほぼ匹敵する規模[5])の電力を宇宙に打ち上げることができると見込まれています [6]。この戦略のもとで、イーロン関連企業は相互に収束し、成長を加速させる可能性があります。すなわち、SpaceXのロケット、衛星、データセンターと、TeslaのAIチップが、xAIのデータセンターおよびチップ需要を支える構図です。IPOは宇宙ベースのデータセンター構想の資金調達を後押しし、データセンター自体がキャッシュフローを生み出すことで、SpaceXの火星計画の資金源にもなり得ます。
太陽同期軌道の衛星は太陽から継続的に電力を得ることができ、レーザーによって相互接続することで、24時間365日稼働するグローバル分散型の計算レイヤーを構築できます。AIハイパースケーラーが、5年に及ぶ送電網の接続待ち[7]や、メーター裏(behind-the-meter)の設備構築に数年を要するなど電力不足に直面する中で、宇宙はスケーラブルな計算資源の次なるフロンティアとして浮上しています。
重要な点として、ARKがMach33と共同で昨年6月に公開したオープンソースのSpaceXモデル[8]には、軌道上AIデータセンターによる上振れ効果はまだ織り込まれていません。今後のアップデートにぜひご注目ください。
By David Puell | @dpuellARK
Research Trading Analyst/Associate Portfolio Manager, Digital Assets
先週、xAIとエルサルバドル政府は、フロンティアAI(人工知能)を国家教育に組み込むという大胆な一歩を踏み出しました[9]。約5,000の公立学校において、Grokを個別最適化されたチューターとして導入することで、xAIは今後2年間で100万人以上の学生にリーチする見込みです[10]。これは、世界初の全国規模のAI活用型教育プログラムとなります。ブケレ大統領およびエルサルバドル教育・科学・技術相のカルラ・エディス・トリゲロス氏と緊密に連携し、Bitcoin分野で知られるステイシー・ハーバート氏がARKのブレインストームに参加し、このプログラムの内容と目的について説明しました。
学習ペース、嗜好、スキルセットといった生徒一人ひとりのニーズに合わせてAIチュータリングを最適化することで、エルサルバドルは国内の都市部と農村部の教育格差を縮小できる可能性があります。そうなれば、同国は新興国としていち早く先進国並みの教育成果を実現する国の一つとなり、AIによって学習を強化するためのモデルケースを他国に示すことになるかもしれません。[11]。
注目すべき点として、エルサルバドルはAIに対して積極的な姿勢を取っています。同国の立法議会は最近、AI開発を促進するための「人工知能および技術促進法」を可決しました[12]。これには、主権的AIインフラの構築に向けた産業連携も含まれています[13]。
私たちは、この教育実験を「2シグマ問題」の文脈で注視していきます。ベンジャミン・ブルーム氏は、習熟度学習を用いた1対1の個別指導を行なった場合、平均的な生徒でも、教室環境で教育を受けた他の生徒より2シグマ、すなわち98%高い成果を上げることを示しました。AIツールが適切に導入されれば、こうした成果向上を実現できるのでしょうか。
By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst, Multiomics
2023年末、規制当局はCRISPRを基盤とする初の遺伝子編集治療薬であるCasgevy(キャスジェヴィ)を承認しました[14]。臨床試験により、単回投与が安全であり、鎌状赤血球症の患者に対して機能的な治癒をもたらす可能性が示されたためです。Casgevyはex-vivo(体外)遺伝子編集に依存しており、体外で細胞を改変するため、適格性評価、幹細胞採取、製造、化学療法による前処置、投与、回復といった治療プロセス全体に1年程度を要します[15]。
現在、重要な前進として、遺伝子編集治療はex-vivo(体外)からin-vivo(体内)アプローチへと移行しつつあります。これは、脂質ナノ粒子(LNPs)(遺伝子編集コンポーネントを保護し、肝臓などの臓器へ直接届ける微小な脂質ベースのキャリア)の進歩によるものです。LNPを用いたCRISPRは静脈内への単回投与で実施でき、将来的には外来治療として提供できる可能性もあります。その結果、長期にわたるex-vivo治療プロセスに代わり、遺伝子編集治療を希少疾患から有病率の高い慢性疾患へと拡大できる可能性があります。
世界最大の死因である心血管疾患は、この転換の重要性をよく示しています[16]。コレステロールや中性脂肪といった脂質は動脈壁に蓄積し、心筋梗塞のリスクを高めます。スタチンは心筋梗塞リスクを約29%低下させることができますが[17]、副作用やその他の要因により、約半数の患者が1年以内に服用を中止してしまうため、治療の長期遵守率は低く、依然として多くの人が高リスクにさらされています[18]。
一方で、自然界にはより持続的な防御のモデルが存在します。ANGPTL3遺伝子の機能喪失変異を先天的に持つ人は、脂質レベルが低く、冠動脈疾患のリスクが約30〜40%低下しますが、明確な健康上の不利益は認められていません。in-vivo遺伝子編集は、こうした防御的なプロファイルを、標的を絞った一度きりの介入によって再現することを目指しています。
遺伝子編集が部分的であっても、意味のあるリスク低減につながる可能性があります。前臨床データでは、非ヒト霊長類において、LNPを用いたin-vivo CRISPRで約70%の編集効率が示されています[19]。対数加法モデルに基づくと、ANGPTL3を70%不活化することで、冠動脈疾患リスクを約52%低下させられる可能性があると、私たちの研究は示唆しています[20]。米国で動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を抱える約2,600万人のうち、約3分の2は既存治療を用いてもガイドラインで定められた脂質目標を達成できていません。これらの患者は、LDL-C(いわゆる「悪玉コレステロール」)などのリスク因子を恒久的に低下させる一度きりの治療の初期導入層となる可能性があります[21]。
心筋梗塞などの主要な心血管イベントの生涯リスクを低減する一度きりの遺伝子編集治療について、ARKのマルチオミクスリサーチチームはモンテカルロ・マイクロシミュレーションモデルを構築し、価値に基づく価格を試算しました。その結果、米国で動脈硬化と脂質コントロール不良を抱える約1,700万人に対する治療価格は、患者1人あたり16万5,000米ドルが妥当であると示唆されました。この価格設定では、約2.8兆米ドルの総アドレス可能市場(TAM)が見込まれます[22]。世界規模ではその2~3倍の機会が存在する可能性があります[23]。こうした十分な治療を受けていないASCVD患者の約8%を治療するだけでも、Pfizer(ファイザー)のブロックバスター薬Lipitor(リピトール)が約20年間で達成した累積売上に匹敵する収益を生み出す可能性があります[24]。
LNPを活用したin-vivo遺伝子編集が成熟するにつれ、遺伝子編集は希少疾患から一般的な疾患へと拡大していくと見込まれます。心血管疾患は、一度きりの遺伝子医薬品が、世界で最も一般的かつ高コストな疾患の治療をどのように再定義し得るかを示す一例にすぎません。
詳しくは、当社の完全版分析レポート『自然の知恵を活用する:心血管疾患に対する遺伝子編集療法』 [25]をご覧ください。
[1] Jin, B. et al. 2025. “SpaceX in Talks for $800 Billion Valuation Ahead of Potential 2026 IPO.” The Wall Street Journal.
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