Newsletter #502:プラサド氏のFDA退任は、医薬品開発にどのような影響を与えるのか、他。

作成者: ARK Invest|2026/03/16

本レポートは、2026316日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #502」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. プラサド氏のFDA退任は、医薬品開発にどのような影響を与えるのか

By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst, Multiomics

 

先週、米国食品医薬品局(FDA)の長官マーティ・マカリー氏は、ヴィナイ・プラサド氏が4月末をもって同局を離れると発表しました。プラサド氏は、生物製剤評価研究センター(CBER)の所長およびFDAのチーフ・メディカル・アンド・サイエンティフィック・オフィサーを務めていました[1]。今回の退任は、このおよそ1年の間で2度目となります。

プラサド氏の在任期間は短く、かつ物議を醸すものでした。20255月にFDAに加わった後、同年7月には、自身が「混乱の要因」とならないため辞任しています。当時FDAは、Sarepta Therapeutics(サレプタ・セラピューティクス)に対し、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子治療「Elevidys(エレビディス)」の一部患者向け出荷停止を要請しましたが、その後すぐに方針を転換しました[2]。この経緯を受け、プラサド氏は昨年8月にFDAへ復帰しています[3]

今回の退任は、希少疾患の臨床試験の規制において柔軟性や常識的なアプローチを重視するとしてきたFDAの方針と矛盾するように見える、一連の注目度の高い論争を受けたものです。[4]。例えば、uniQure(ユニキュア)は、ハンチントン病の遺伝子治療について、FDAが従来の指針を覆し、外部対照データを承認の根拠として認めず、代わりにシャム手術(偽手術)を対照とする試験を推奨したと報告しています。この手法は倫理的懸念を引き起こしました。承認済み治療が存在しない状況において、FDAの推奨は、対照群の患者に麻酔下で偽手術を受けさせる一方で、代替手段のない患者から有望な治療を差し控えることになるためです[5]。また別のケースでは、FDAREGENXBIO(リジェネックスバイオ)のハンター症候群向け遺伝子治療を却下し、その代替評価指標の妥当性に疑問を呈しました[6]。さらに、Capricor Therapeutics(カプリコア・セラピューティクス)、Replimune(リプリミューン)、Biohaven(バイオヘイブン)も、従来の指針と比べた際の方針転換や一貫性の欠如を指摘しています[7]。これらの判断は、疾患の根本原因との関連性が明確に確立されている治療と、検証が十分でないバイオマーカーに基づく、あるいは臨床的な有効性との結びつきが弱い治療との間で、FDAが線引きを行なっている可能性を示唆しています。

もっとも、こうした却下や異議申し立てがある一方で、FDAは具体的な制度改革を着実に進めています。最近の例としては、以下が挙げられます。

  1. 既知の生物学的原因を持つ超希少遺伝性疾患を対象とした個別化治療に対し、「もっともらしい作用機序」に基づく新たなエビデンス枠組みを導入したこと[8]
  2. 承認の標準要件を、従来の2つの主要臨床試験から1つへと変更し、補足的な検証データで補う方式へ移行したこと[9]
  3. 新たな国家優先審査プログラムを開始したこと[10]

当社の見解では、プラサド氏の離脱にもかかわらず、FDAは引き続き改革路線を進む可能性が高いと考えています。同局の政策は、医薬品開発における構造的な課題に対応するものであり、特に疾患の原因が明確な遺伝子医薬の分野で、イノベーションを加速させると期待されます。一方で、因果生物学との関連性が比較的弱い可能性のある希少疾患治療に対して、どこまで柔軟性を拡大するかについては、依然として不透明です。

 

2. TeslaxAIDigital Optimus開発に向け提携

By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, AI and Cloud

 

先週、イーロン・マスク氏は、Macrohard(マクロハード)を通じてナレッジワークの自動化を目指すxAIの構想について明らかにしました[11]。最近発表された投資とあわせて[12] Teslaは現在、xAIと提携し、Macrohardの開発を進めています。多くの最先端AIモデルが、NVIDIAの高性能データセンター向けチップ上で稼働し、ChatGPTのようなアプリを支えている一方で、MacrohardTeslaAI4チップ上で動作する、より小型で効率的なモデルを特徴としています。

コンピュート(計算資源)が制約される世界において、xAI2023年以降に製造されたTesla車に搭載された数百万個のAI4チップの活用を目指しています。ただし、ここでの現実的なトレードオフとして、TeslaAI4チップは、現在の最先端LLM(大規模言語モデル)と比べて、より小型で知能も限定的なモデルしか実行できません。この制約を補うために、クラウド上で稼働するより高性能なGrokモデルが、イーロン・マスク氏が「Digital Optimus」と呼ぶ、AI4上で動作するエッジモデルを補完・統制する構成となっています。

この新しいエッジとクラウドを組み合わせたハイブリッドアーキテクチャは、AI競争においてTeslaxAIに大きなコスト優位性をもたらす可能性があります。イーロン氏によれば、TeslaAI4チップのコストは約650米ドルで、NVIDIAB200チップの推定製造コストと比べておよそ10分の1です(ただし、両者の性能には大きな差があります)[13]。コスト面に加えて、エッジへの分散配置は、現在スケール拡大の制約となっている電力ボトルネックの打破にもつながる可能性があります。イーロン氏によると、Teslaはスーパーチャージャー拠点にAI4チップを配備することで、車両搭載分に加えてさらに7ギガワットの電力を活用できる可能性があります[14]

Teslaの車両群に内在するコンピュート能力を活用して大規模言語モデルを展開するというアイデアは、イーロン氏が2023年後半から言及しているものであり、従来のデータセンターを超えて演算能力を拡張する、xAIの創造的なアプローチの一例です[15]。さらに、同社のオーナーであるSpaceXによる宇宙ベースの演算も、もう一つの興味深い可能性です。このように複数の手段で演算能力の拡張を図る中、xAIが「Digital Optimus」を生産性の高いAIエージェントとして実現できるかどうかは、OpenAIAnthropic(アンソロピック)、Googleとの競争において、同社の成功を左右する重要な要素となります。

 

3. エアタクシーの運航が現実味を帯び始める

By Akaash TK | @akaash_ARK
Research Associate, Autonomous Technology & Robotics

 

先週、米国運輸省(DOT)および米国連邦航空局(FAA)は、電動垂直離着陸機(eVTOL)の統合パイロットプログラム(eIPP)において、26州にまたがる8つのプロジェクトを選定しました[16]。早ければ今夏にも開始されるこのプログラムにより、旅客エアタクシー、貨物物流、救急医療輸送などの飛行運航が可能になります。eIPPは、eVTOLメーカーに対し、FAAの型式証明を完全に取得する前に実運用を開始するための道筋を提供するものです。実際、この過程で収集される運航データは、eVTOLの認証プロセスを加速させる可能性があります。

米国以外では、中東で最近混乱が生じる前には、Joby Aviation(ジョビー・アビエーション)およびArcher Aviation(アーチャー・アビエーション)が年内に旅客輸送を開始する予定でした。過去1年の間に、両社はアラブ首長国連邦(UAE)で試験飛行を実施しており、Jobyは飛行試験プログラムの一環としてドバイで20回以上の試験飛行を完了しました。一方、Archerはアブダビの砂漠環境で試作機の飛行を行なうとともに、Etihad Aviation Training(エティハド・アビエーション・トレーニング)との提携のもとでパイロット訓練を進めています[17]

ARKのリサーチによると、eVTOLの運航が本格的に拡大した場合、その価格は現在のライドシェアサービスと同程度になる可能性があります。さらに、ゼロエミッションでより高速な移動手段を提供することが期待されます。eVTOLは、都市部の交通渋滞を回避する手段としても有望です。特に、低コストのロボタクシーが普及するにつれて交通混雑の悪化が見込まれる中、その価値は一層高まると考えられます。

 

 

 

 

 

 


[1] Gardner, J. 2026. “Vinay Prasad, controversial FDA leader, to again depart agency.” BioPharma Dive. News. 2026

[2] Fidler, B. 2025. “Vinay Prasad, controversial FDA official, abruptly departs agency.” BioPharma Dive. Sarepta Therapeutics. 2025. “FDA Informs Sarepta That It Recommends That Sarepta Remove Its Pause and Resume Shipments of ELEVIDYS for Ambulatory Individuals With Duchenne Muscular Dystrophy.”

[3] Fideler, B. 2025. “Vinay Prasad, in surprise reversal, to rejoin FDA after abrupt departure.” BioPharma Dive.

[4] King & Spalding. 2025. “Advancing Novel Treatments for Rare Diseases: FDA Unveils and Previews New Efforts to Assess Therapies for Very Small Patient Populations.” See also Pagliarulo, N. 2025. “FDA outlines new review pathway for drugs treating ultra-rare diseases.” BioPharma Dive.

[5] uniQure. 2026. “uniQure Provides Regulatory Update on AMT-130 for Huntington’s Disease.” See also Liu, A. 2026. “UniQure shares crash 40% as FDA rejects early approval path for Huntington's gene therapy.” Fierce Biotech. See also McKenzie, H. 2026. “UniQure's Path for Huntington's Gene Therapy Clouded by Ethical Questions as Potential Phase 3 Looms.” BioSpace. 2026.

[6] Incorvaia, D. 2026. “FDA details rationale for rejecting rare disease gene therapy from Regenxbio.” Fierce Biotech. 2026. See also REGENXBIO. 2026. “REGENXBIO Announces Regulatory Update on RGX-121 BLA for MPS II.”

[7] McKenzie, H. 2025. “FDA Reversals Send UniQure, Biohaven, Capricor, More Into a ‘Tailspin.’” BioSpace. 2025.

[8] Makary, P.V. and M.A. Makary. 2025. “FDA's New Plausible Mechanism Pathway.” N Engl J Med. See also U.S. Food and Drug Administration. 2026. “FDA Launches Framework for Accelerating Development of Individualized Therapies for Ultra-Rare Diseases.” See also Wihlborg, S. 2025. “The FDA's New 'Plausible Mechanism' Pathway Could Transform Therapies For Rare Diseases.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC. See also Wihlborg, S. 2025. “Despite Intellia's Setback, The FDA Is Evolving A Pathway To Personalized Gene Editing.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.

[9] Prasad, V. and M.A. Makary. 2026. “One Pivotal Trial, the New Default Option for FDA Approval—Ending the Two-Trial Dogma.” N Engl J Med. See also Wihlborg, S. 2025. “The FDA's Shift to One Pivotal Trial Could Help Reshape Drug Development Economics.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.

[10] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “FDA to Issue New Commissioner's National Priority Vouchers to Companies Supporting U.S. National Interests.”

[11] Musk, E. 2026. “Macrohard or Digital Optimus is a joint xAI-Tesla project…” X.

[12] Korosec, K. 2026. “Tesla to invest $2B in Elon Musk’s xAI.” TechCrunch.

[13] Somala, V. 2025. “NVIDIA’s B200 costs around $6,400 to produce, with memory accounting for half.” Epoch AI.

[14] Musk, E. 2026. “Oh and it works in all AI4-equipped cars…” X.

[15] Not a Tesla App. 2023. “Teslas May Run a Native Version of xAI's Grok.”

[16] U.S. Department of Transportation. 2026. “THE FUTURE OF AVIATION IS HERE: Trump’s Transportation Secretary Sean P. Duffy and FAA Unveil Eight Selections for Pilot Program Testing Next-Gen Aircraft in America’s Skies.”

[17] Archer. 2025. “Archer’s Midnight Showcases In-Country eVTOL Flight Test Campaign in UAE as Part of Its Commercial Launch Edition Program.”

 

 

 

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