Newsletter #506:テクノロジー大手企業、AIとバイオの融合を加速、他。

作成者: ARK Invest|2026/04/20

本レポートは、2026420日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #506」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. テクノロジー大手企業、AIとバイオの融合を加速

By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst, Multiomics

 

世界有数のテクノロジー企業が、買収、プラットフォームの立ち上げ、提携、取締役人事などを通じてライフサイエンス分野への進出を本格化させています。これらの動きは、AIとバイオロジーの融合が一段と深まっていることを示しています。私たちは、AIが他のどの分野よりも、バイオロジー、医療、ヘルスケアに対して最も大きな影響を与える可能性があると考えています。

生物学は極めて複雑です。人体には約35兆個の細胞が存在し[1] 、それぞれに約32億塩基対のゲノムが含まれています[2]。そのうちの一部はタンパク質をコードしており、タンパク質は膨大な可能構造の中から特定の三次元構造へと折りたたまれます。一方、ゲノムの約98%を占める「ダークマター」は遺伝子発現の制御に重要な役割を果たしています。解釈は困難ですが、多くの疾患を理解するうえで不可欠な要素です[3]。さらに、創薬候補となり得る分子の組み合わせは1060乗以上と推定されており、人間主導の実験手法で網羅的に探索することは現実的ではありません[4]。こうした例は、生物学の複雑性の一端に過ぎません。

一方で、マルチオミクス解析の進展により、人間だけでは十分に解釈しきれない規模の生物データが生成されています。この膨大な複雑性と急速に増加するデータに加え、従来の創薬プロセスには10年以上を要し、臨床試験の成功率は約10%にとどまるという現実もあります。このような環境において、AIは極めて大きな影響力を持つ可能性があります[5]

テクノロジー大手は、それぞれ異なる戦略でライフサイエンス分野に参入しています。先週、Amazon Web ServicesAWS)は、AIを活用したアプリケーション「Amazon Bio Discovery」を発表しました。このプラットフォームでは、40以上のAI生物学モデルに加え、実験設計を支援するエージェント型アシスタントを利用できます[6]。さらに、Twist Bioscience(ツイスト・バイオサイエンス)などの統合ラボパートナーと連携し、AIが設計した候補をウェットラボで合成・検証し、その結果をモデル改善にフィードバックする仕組みを構築しています[7]。たとえば、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター)とのプロジェクトでは、約30万種類の新規抗体候補を設計し、10万種類まで絞り込んで実験に回すことで、従来最大1年かかっていたプロセスを数週間に短縮しました[8]

同じく先週、OpenAIは、Novo Nordisk(ノボ・ノルディスク)との戦略的提携を発表し、創薬、製造、サプライチェーン、企業オペレーション全体にAIを導入する方針を示しました[9]。また、同社は生物学、創薬、トランスレーショナル医療を支援する推論モデル「GPT-Rosalind」を発表し、Amgen(アムジェン)やModerna(モデルナ)などの顧客向けに研究プレビューとして提供を開始しています[10]

一方、Anthropic(アンソロピック)は、Novartis(ノバルティス)のCEOであるヴァス・ナラシムハン氏を取締役に迎えました。製薬業界出身者として初めての就任であり、ライフサイエンスがAIによるヘルスケア革新の重要領域であるとの同社の認識を反映しています[11]。また今月初めには、Genentech(ジェネンテック)出身者が創業した計算生物学スタートアップ「Coefficient Bio(コエフィシェント・バイオ)」を約4億米ドルで買収したと報じられています[12]。さらに、昨年10月には「Claude for Life Sciences」を発表し[13]10x Genomics(テンエックス・ジェノミクス)などのパートナーが提供するシングルセル解析や空間解析ツールを、コードではなく自然言語で利用できる環境を整えています[14]

インフラ面では、Nvidia(エヌビディア)とEli Lilly(イーライ・リリー)が、次世代の生物学・化学向け基盤モデルの開発を目的としたAI共同研究ラボを設立しました。今後5年間で最大10億米ドルを投じ、人材、インフラ、演算能力を強化する計画です[15]。このラボはNvidiaBioNeMoプラットフォーム上で稼働し、1,000基以上のBlackwell Ultra GPUを搭載したLillyAIスーパーコンピューター「LillyPod」を基盤としています。同社によれば、これは製薬企業が保有・運用する中で最も強力なAIスーパーコンピューターです[16]。これにより、数百万件の実験データを用いてAIモデルを学習し、有望な治療法の特定と最適化が可能になります[17]

このように、各社は異なるアプローチを取りながらも、ライフサイエンス分野を戦略的に重要な領域として位置付けています。AWSはサードパーティ製モデルとラボをつなぐクラウド基盤を構築し、OpenAIは製薬企業との全社的な導入契約と専用モデルの提供を進めています。Anthropicは人材とツール統合によるエコシステム構築を進め、Nvidiaは生物学分野のAIを支える演算インフラを提供しています。

私たちは、こうした投資のスピードと規模から、生物学の複雑性を解き明かすために必要なプラットフォーム、計算能力、専用モデルが急速に整いつつあると考えています。製薬・バイオ企業との連携を通じて、これらの企業はAIとバイオの融合がもたらす、極めて大きな価値創出機会に向けたポジションを確立しつつあります。

 

2. 起業は「雇用の安定」を支える鍵となるのか

By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Analyst, Fintech

 

何十年もの間、大卒者にとっては企業に就職することが「安全」であり、起業は「リスクが高い」と考えられてきました。しかし、AIの能力が加速度的に進化する中で、ホワイトカラー職の将来は不透明さを増しています。その結果、いわゆる9時から5時までの企業勤務でキャリアを積み上げることが、もはや安定した選択肢とは言えなくなりつつあります。一方で、AIツールの進化により、ゼロからビジネスを立ち上げることはかつてないほど容易になっています。

例えば2018年以降、Shopify(ショッピファイ)で初めて売上を上げた出店者(マーチャント)数は、以下に示す通り約7倍に増加しました。Shopifyのようなプラットフォームは、新規ビジネス参入の障壁を引き下げています。まず、オフラインからオンラインへの移行を促進し、次に決済、物流、ソフトウェアを一体化した小売向けオペレーティングシステムとして提供しています。現在では、AIがコスト低下をさらに加速させ、参入障壁を一段と引き下げています。

出所:Shopify 2026 [18] 本資料は情報提供のみを目的としており、投資助言や特定の有価証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

現在、創業者にはテクノロジーというパートナーが存在します。ビジネスの運営は、在庫管理、顧客獲得、キャッシュフロー管理など多岐にわたり、極めて複雑です。多くの起業家は最初の挑戦で苦戦します。Shopifyのプラットフォームには、出店者の店舗データに関する深い知識を持ち、インサイトの提示や実行まで担うAIアシスタント「Sidekick(サイドキック)」が組み込まれています。

最先端のAIモデルによって強化されたSidekickは、企業のオペレーティングシステムに経営レベルの知見を組み込み、AIを活用した共同創業者のような役割を果たします。

その成果は顕著です。Shopify上で2回目のビジネスを立ち上げた出店者は、初回と比較して店舗当たりの売上が平均で2倍以上となっています(次の図参照)。初回の挑戦で顧客獲得やオペレーションの基本を学ぶ一方で、SidekickのようなAIアシスタントは、その学習曲線を大幅に短縮します。

出所:Shopify 2026 [19]。本資料は情報提供のみを目的としており、投資助言や特定の有価証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

起業の障壁は急速に低下しているように見えます。実際、これまで「リスクが高い」とされてきた道が、むしろ創業者自身がコントロールできる「雇用」という形での安定をもたらす可能性が出てきています。

本テーマに関するさらなる考察については、Xに掲載している以下の記事もご参照ください。

起業の限界費用はゼロに向かっている

次世代の起業家を支えるのは誰か

 

3. AIエージェント時代、「人間である証明」が不可欠に

By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist

 

多くのビジネス慣行やマーケティング戦略は、AIエージェントによる影響を受けやすい状況にあります。2025年後半に「Clawdbot(クロードボット)/現在のOpenClaw(オープンクロー)」が登場したことを契機の一つとして[20]、自律型AIエージェントがインターネット上に急速に広がっています。Cloudflare(クラウドフレア)のCEOであるマシュー・プリンス氏は、2027年までにボットによるトラフィックが人間のトラフィックを上回ると予測しています[21]。これは、以下に示す通り、2026年にはAIモデルが人間以上のコンテンツを取り込むようになるという当社の見解とも一致しています。これらのエージェントはユーザーに代わって、ソフトウェアの開発、商品やサービスの購入、メール対応、さらにはデータベースの作成(場合によっては意図せず破壊)まで担います[22]。こうした動きは、既存の多くのビジネスモデルを揺るがす可能性があります。

出所:ARK Investment Management LLC2026年)、Perez2026年)のデータに基づく[23] 本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券の売買を推奨するものではありません。予測には不確実性が伴い、将来の結果を保証するものではありません。

 

例えば、無料トライアルを考えてみましょう。企業は顧客獲得に多額の投資を行ない、ユーザーが登録後に有料会員へ転換することを前提としています。しかしAIエージェントの存在により、1人のユーザーが数百、場合によっては数千ものアカウントを作成し、無料トライアルを不正に利用し続けることが可能になります。このため、無料トライアルを持続可能な仕組みにするには、「1人の人間につき1回のみ利用可能」であることを担保する必要があります。サム・アルトマン氏の企業であるWorld(ワールド)は、この課題に対応するプロトコル「World ID」を開発しました。これは、プライバシーを保護しながら、個人が唯一無二の人間であることを証明できる分散型プロトコルです[24]

先週開催されたLift Off(リフトオフ)イベントにおいて、WorldAIエージェントがもたらす多くの課題に対する解決策として「World ID 4.0」を発表しました[25]。同社はまた、ZoomOkta(オクタ)、Vercel(ヴァーセル)、Amazon Web ServicesTinder(ティンダー)、ShopifyCoinbaseDocuSign(ドキュサイン)などとの提携・統合を発表し、「人間であることの証明」がビジネスプロセスにおいて不可欠な要素になり得ることを示しました[26]

例えば、マッチングアプリでは、相手が実在する人間であるとユーザーが信頼できることが重要です。ECプラットフォームでは、ボットによる大量の偽レビューから商品評価を守る必要があります。また、認証プラットフォームでは、なりすましや消失のリスクがない形で個人の識別・認証・再認証を行なう仕組みが求められます。

2023年に、発展途上国におけるデジタルID普及を目的としたサービスとして登場したWorld IDは、当初は必ずしも順調なスタートとは言えませんでした[27]。現時点での認証ユーザー数は約1,800万人にとどまっています[28]。しかし、AIエージェントの急増により、企業がデジタル空間を守るために「人間であることの証明」を戦略的に必要とし始めた今、このプロトコルは本格的な普及のタイミングを迎えつつあると考えられます。

 

 

 

 

 

 

 

[1] Bianconi, E. 2013. “An estimation of the number of cells in the human body.” Annals of Human Biology. See also: Hatton, I. A. 2023. “The human cell count and size distribution.” PNAS.

[2] National Human Genome Research Institute. 2025. “Human Genome Project FAQ.”

[3] Crowley, R. 2024. “Genetics by the Numbers.” National Institute of General Medical Sciences. See also: Schipper, M. 2022. “Demystifying non-coding GWAS variants: an overview of computational tools and methods.” Human Molecular Genetics.

[4] Reymond J.L. 2015. “The Chemical Space Project.” Accounts of Chemical Research.

[5] Gao, S.D. et al. 2022. “Why 90% of clinical drug development fails and how to improve it?” Acta Pharmaceutica Sinica B.

[6] AWS. 2026. “Introducing Amazon Bio Discovery.”

[7] 同上

[8] 同上

[9] Novo Nordisk. 2026. “Novo Nordisk and OpenAI partner to transform how medicines are discovered and delivered.”

[10] OpenAI. 2026. “Introducing GPT‑Rosalind for life sciences research.”

[11] Anthropic. 2026. “Anthropic’s Long-Term Benefit Trust appoints Vas Narasimhan to Board of Directors.”

[12] Davis, D-M. 2026. “Anthropic buys biotech startup Coefficient Bio in $400M deal: Reports.” TechCrunch.

[13] Anthropic. 2025. “Claude for Life Sciences.”

[14] 10x Genomics. 2025. “10x Genomics and Anthropic Partner to Make Single Cell and Spatial Analysis More Accessible Through Claude for Life Sciences.”

[15] Eli Lilly. 2026. “NVIDIA and Lilly Announce Co-Innovation AI Lab to Reinvent Drug Discovery In the Age of AI.”

[16] Eli Lilly. 2025. “Lilly partners with NVIDIA to build the industry's most powerful AI supercomputer, supercharging medicine discovery and delivery for patients.”

[17] 同上

[18] Shopify. 2026. “The most future-proof job: Entrepreneurship.”

[19] 同上

[20] CNBC. 2026. “From Clawdbot to Moltbot to OpenClaw: Meet the AI agent generating buzz and fear globally.”

[21] Perez, S. 2026. “Online bot traffic will exceed human traffic by 2027, Cloudflare CEO says.” TechCrunch.

[22] Edser, A. 2025. “‘I destroyed months of your work in seconds’ says AI coding tool after deleting a dev’s entire database during a code freeze.” PC Gamer.

[23] Perez, S. 2026. “Online bot traffic will exceed human traffic by 2027, Cloudflare CEO says.” TechCrunch.

[24] World. 2026. “At Last, Trust In the Age of AI.”

[25] CoinDesk. 2026. “Sam Altman’s World Project Launches Major Upgrade to Fight Deepfakes and Bots.”

[26] Burt, C. 2026. “World targets central IDV, AI agent management role with selfie biometrics.” Biometric Update. See also Sabin, S. 2026. “Sam Altman’s World partners with Zoom, Tinder to prove who’s human online.” Axios.

[27] Wikipedia. 2026. “World (blockchain). Worldcoin protocol launched July 24, 2023.”

[28] Wang, R. 2026. “World Network Teases Protocol Upgrade at April 17 Lift Off Event April 2026. Reports 18 million verified users.” Blockchain News.

 

 

 

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