本レポートは、2021 年9月30日にARK社のHPに公開された、英語による「We Believe Zoom Is the Fabric Connecting Global Enterprise Communications and the Future of Work」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
本ブログ記事はブレット・ウィントンがウィリアム・サマーリン、アンドリュー・キムと共同執筆しました。
米議決権行使助言会社ISS(インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ)が、Zoomによる現在の株価水準でのFive9買収に反対する姿勢を示していますが、これに対し、次世代インターネット分野を担当するARKの4名体制のアナリストチームは、リサーチに基づいた別の視点を提示したいと思います。相対する考え、意見、建設的な批判は喜んでお受けいたします。このブログは、より包括的なリサーチペーパーの内容を凝縮したものです。そのなかで取り上げているオープンソース型バリュエーションモデルについては、今後数週間中に公開する予定です。
およそ18ヵ月前、新型コロナウイルスの流行はテクノロジー、労働、レジャー活動における関係を変えました。最も重要な変化の1つは仕事に関係するものでした。在宅勤務命令を受けて、労働者は重要な意思決定者も含め、リモートおよびハイブリッド型勤務の生産性を評価することを余儀なくされました。
米調査会社Gartnerによると、ナレッジワーカー(知識労働者)全体に占めるリモート勤務者の割合は今年の終わりまでに51%に迫り、2019年の27%から約2倍に増加する見通しです。[1] おそらく同じく重要な点として、労働者の過半数がこうした新しい働き方の世界秩序を好んでいる模様です(以下参照)。[2]
出所:ARK Investment Management LLC(2021年)
データ:Gartner Inc, McKinsey & Company
※右棒グラフの調査は2020年12月から2021年1月にかけて実施
こうした著しい変化にもかかわらず、ハイブリッドやリモート限定型の勤務形態向けのユニファイド・コミュニケーション(UC)は、まだ導入の初期段階にあるようです。[3] 勤務場所が分散したナレッジワーカーにサービスを提供するためには、企業はUCプラットフォームに投資して、双方向型のコミュニケーション・チャンネルがどこでも利用できるよう確保する必要があります。デジタルファーストの時代に、異なる部署や地域にいる個人やチーム間でのコミュニケーションをとるためにはUCプラットフォームの全社的な採用が不可欠です。
デジタルコミュニケーションの生産性を最大限に高めるために、多くの企業は、最高品質のビデオ会議やクラウド型の電話ソリューションを保証するベンダーを探すでしょう。ナレッジワーカーがオフィス限定の勤務形態よりもハイブリッド型やリモート型の勤務形態を好む傾向にあるため、人的資源の質と効率性を最大限に高めようとする企業は、最高クラスのUCツールを採用し、そうした流れが普及を後押しするとみられます。
コロナ禍において、Zoomは動詞として(「Zoomする」のように)使われるようになり、消費者や企業の間で幅広く普及しました。テクノロジー専門ニュースサービスのTechRepublicが3月に投稿したブログ記事によると、世界のビデオ会議市場に占めるZoomのシェアは約49%にのぼり、強力な競争相手であるGoogle Meetの22%、Microsoft Teamsの15%を上回っています。[4]
Zoomの成功の要因はその積極的な市場開拓戦略にあるとする見方もあるかもしれませんが、UCaaS(ユニファイド・コミュニケーション・サービス)を提供しているMicrosoftやGoogle、Ciscoは、より強力な販売チャンネルを有しているようにみえます。Microsoft Teams、Google Meet、Cisco Webexはより広範なサービスの一部を使用できる無料版を提供していることから、料金のディスカウントがZoomの成功の裏にあるようにも見受けられません。つまり、Zoomが首位の座にある状況は、下表に示した通り、その技術的優位性が関係しているようです。
上記は過去のものおよび予想であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
出所:ARK Investment Management LLC(2021年) データ:Gartner Peer Insights(2021年9月22日現在)
上記は過去のものおよび予想であり、将来の運用成果等を約束するものではありません。
出所:ARK Investment Management LLC(2021年) データ:Gartner Peer Insights(2021年9月22日現在)
Zoomは、クラス最高のオーディオビジュアル性能と信頼性の高いサービス保証により、会議のための最良のテクノロジーソリューションを提供していると考えられます。また、後述する通り、Office 365の一部であるMicrosoft Teamsのように、Zoomは多数の無償サービスをバンドルしているわけではありません。Zoomの成功は、その他の可変要因によるもののようです。
ARKは、経験上からも、オーディオビジュアル品質に最も優れ、煩わしさの少ないシンプルなインターフェース、強固なカスタマイズ設定を備えたZoomのユーザー体験は他のどのビデオ会議サービスよりも優れていると考えています。さらに、チャットや電話、大規模イベント/ウェビナー、デジタル会議室といったサービスへの投資を継続しているなど、品質やコミュニケーションを第一とするZoomの戦略が後押しして、Zoomのプラットフォームへとエンタープライズ・コミュニケーション市場が次第に統合されていくとみられます。
Gartner社によると、現在、世界のクラウドベースのUC関連支出額は年間450億米ドルに過ぎず、約10億人にのぼるナレッジワーカー全体に換算すると、ナレッジワーカー1人当たり月額4米ドル未満となります。[8] 従来の企業向け通信システムにおいてはハードウェアに多額の初期費用がかかるのに比べ、現在、UCのコストは取るに足らない額となっています。ハードウェアを自社内に設置するオンプレミス型の電話システムは、生産性に劣るにもかかわらず、ナレッジワーカー1人当たりの経常費用が平均で毎月40米ドルかかる上、ハードウェアの初期費用として従業員1人当たり1,000米ドルがかかります。[9] ビデオ通話、音声通話、チャットを組み合わせるクラウド型ソリューションの優位性を考慮すれば、UC関連の月間支出額は今後5年間において年平均40%を超えるペースで増加し、1人当たり月々25米ドル程度に達しても不思議ではないでしょう。
当社の見解では、企業はUCへの移行にかかる費用について、合計1.4兆米ドルにのぼるエンタープライズ・コミュニケーション関連予算からだけでなく、偶然にも同じく合計1.4兆米ドルにのぼる海外出張関連予算からも拠出していくとみられます。[10][11] ARKによる2026年時点の推計値に基づくと、中国本土以外のナレッジワーカーの数は11億人へと増加し、また、その1人当たりのUC関連の平均月間売上高は25米ドルへと増加するとみられ、アドレス可能なUC市場の規模は3,330億米ドルにまで拡大する可能性があります。[12]
Zoom社がクラウド型コンタクトセンター運営大手Five9の買収を決定したことからは、同社がより多くの顧客対応業務の合理化をめざしていることが窺えます。コールセンター・サービスは、UCプラットフォームへと組み込まれることで、カスタマーサービス機能と営業機能を統合し、顧客獲得に関するプランニングや分析を加速させるなど、より広範な企業戦略を補完するものになるとみられます。
ARKでは、Five9のようなCCaaS(Contact Center as a Service)ベンダーは、中期的には単独で成長していくことができる見込みは薄いとみています。件数が多いものの価値が低い問い合わせへの対応にはAIを用いるなど、企業は引き続き自動化を進めていき、CCaaSプレイヤーが貢献する分野はより労力や人間的要素が求められる顧客対応へと追いやられるでしょう。CCaaSの5倍の市場規模を持つZoomにより、Five9の市場開拓パイプラインは大幅に拡大する見通しです。[13] 一方、当社の試算によると、以下に示す様々な普及率の仮定の下で、Five9取得によるZoomの予想リターンの押し上げ効果は小幅なものとなるでしょう。
新しいサービスをバンドルで提供し、規模が拡大していくにつれ、技術面の優位性も伸びていくとみられることから、Zoomは価格決定力を維持して収益性を高めることができるはずです。Five9の取得を考慮せず、仮にZoomのシェアが現在のUC関連支出合計の8%から、2026年までにUC総市場規模の15%へと拡大した場合、その売上高と売上総利益はともに年率61%成長し、それぞれ500億米ドルと350億米ドルに達することになります。[14] 仮に収益性が最大化された場合、Zoomの営業利益率は35%程度、キャッシュコンバージョンは80%程度となり、約140億米ドルのフリーキャッシュフローをもたらす可能性があります。フリーキャッシュフローの利回りを5%とすると、現在約760億米ドルであるZoomの企業価値は、2026年には約4倍の2800億米ドルになると考えられます。[15]
出所:ARK Investment Management LLC(2021年), S&P Capital IQ
私たちは、Zoomはコミュニケーションの未来を形作っていく立場にあるとみています。現在は、ビデオ会議がイノベーションおよびエグゼキューション(実行)・サイクルの高速化を可能にしており、営業やビジネス開発スケジュールの加速につながっているなど、企業間の競争が変化してきています。Zoomはこうした移行を支えるコミュニケーションの骨組みの構築を進めており、ユニークで高い付加価値を生み出すポジションにいます。Five9はそれに加わることで十分に力を発揮することでしょう。
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