ESG(環境・社会・ガバナンス)ファンドの保有上位銘柄をテクノロジー銘柄が占めることは多くありますが、テクノロジーは本当に持続可能な未来を可能にするのでしょうか。過去数世紀において最も大きな変革もたらしたテクノロジーの2つは電気と内燃機関ですが、これら2つのテクノロジーは温室効果ガスの最大の排出源ともなっています。例えば、2017年に米国で排出された温室効果ガスのうち、輸送と発電によるものが約57%を占めました1。とは言え、当然テクノロジーはこの問題の解決においても重要な役割を果たします。実際、バッテリーは、1800年に発明されて以降、緩やかながらも着実に進化の道を辿ってきました。当社では、バッテリーは現在転換点を迎えており、輸送や発電による温室効果ガス排出の多くを相殺できる状態にあると考えています。
もし、消費者の行動を左右する動機が主に環境問題にあれば、電気自動車はすでに広く普及していたでしょう。電気自動車は100年以上前から存在しており、年間の二酸化炭素(CO2)排出量は1台当たり4,350ポンド(約1.97トン)と、平均的なガソリン車の排出量である11,400ポンド(約5.17トン)の半分未満です2。これまで消費者がバッテリー駆動の自動車にそれほど魅力を感じてこなかった理由は、コスト面にありました。しかし、バッテリーの価格は下落してきており、平均的な電気自動車の価格は今後2~3年内に平均的なガソリン車の価格を下回る水準まで下落すると見られます3。
ライトの法則によると、累積生産量が倍増する毎にコストは一定の割合で低下する傾向があります。内燃機関は成熟したテクノロジーであるため、自家用ガソリン車を運転するコストは75年超にわたって1マイル当たり約0.70ドル(インフレ調整後)で横ばいとなっています(下のチャート参照)。一方、自家用電気自動車を運転するコストはバッテリー価格の低下に伴って毎年低下しており、電気自動車の価格が2022年にガソリン車の価格を下回るだけでなく、その後も下落を続けるであろうことを示唆しています。実際、ARK社のリサーチによると、電気自動車は初期コストがより高いものの、維持コスト が低下しているだけでなく予想再販売価格が上昇してもいることから、マイル当たりコストのベースではすでに優位性があります(下のチャート参照)。電気自動車の店頭表示価格が同種のガソリン車の価格を下回った時点で、需要の転換点を迎えると見られます。
バッテリー・コストの低下は店頭表示価格にとって特に重要です。バッテリー・パックは電気自動車のコストにおける最大の構成要素であり、ARK社のリサーチによると約20~30%を占めます。バッテリー・パックの価格低下が加速していることによって、電気自動車の初期コストの低下も加速し始めています。平均的な電気自動車の価格(インフレ調整済み)は、この100年のあいだに2度にわたって半減しました。まず、1915年にDetroit Electric社製のもので約150,000ドルであった電気自動車の価格は1999年にGM社のEV1で78,000ドルとなり、そして今年にはTesla社のModel 3で39,000ドルとなっています(下のチャート参照)。価格が半減するのに、最初は84年かかりましたが、次は20年しかかかっていません。ARK社のリサーチでは、電気自動車の店頭表示価格は2022年までにガソリン車の価格と比較可能な水準へと低下し、世界の電気自動車販売台数は昨年の約150万台から2023年には2,600万台へと20倍近くに増加して、全自動車販売台数の30%を占めるようになると見ています。
普及率が高くなったとしても、電気自動車が世界の自動車業界のインストールド・ベース(既存販売車数)で大半を占めることは、おそらく15年以内にはないでしょう。とは言え、自動運転車は、主に電動のドライブトレイン(エンジンから駆動車輪への動力伝達系列)を装備すると見られ、自家用車を所有するよりもコストがより安く利便性もより高いことから、走行距離におけるシェアを伸ばすものと考えられます。自動運転車が今後2~3年のうちに実用化されれば、おそらく自動運転シェアカーは、その便利さから広まった配車サービスのように急速に増加し、10年も経たないうちに総走行距離の50%超を占めるようになるとARK社では見ています。路上を走る電気自動車の数が現在の水準から変わらないと仮定しても、自動運転シェアカーへのシフトによって電気自動車の走行距離におけるシェアは拡大し、輸送分野からの温室効果ガス排出量の減少が加速するとともに原油需要が頭打ちとなるでしょう。
バッテリーは、発電方法に変化をもたらすことによって、CO2排出量をさらに削減できる可能性があります。よくメディアに取り上げられるのは再生可能エネルギーですが、その陰でCO2排出量に影響を与える重要なトレンドが見逃されています。例えば、総発電量に占める割合としては再生可能エネルギーはさほど貢献しておらず、過去15年間においてはCO2排出量が少ないもう1つの電力供給源である原子力発電を幾分相殺したにすぎません(下のチャート参照)。
別のトレンドとしては、特に米国で顕著ですが、発電において石炭に代わり天然ガスが利用されるようになってきています(下のチャート参照)。天然ガスは、石炭よりは環境にやさしい電力源ですが、再生可能エネルギーほどCO2排出量が少ないわけではありません。とは言え、発電所規模のエネルギー貯蔵(大容量バッテリー)が実現すれば、天然ガス火力発電所の増加が抑えられ活用不十分かつ/または非効率な発電がなくなると考えられます。
下のチャートは、天然ガスのピーカープラント(尖頭負荷発電所、電力需要のピーク時のみ稼働)の発電コストとバッテリー・ベースのエネルギー貯蔵コストを比較したもので、2つのシナリオを示しています。茶色の円で囲った部分が現在の状況ですが、米国の平均的な天然ガス・ピーカープラントの稼働率は10%程度で、その結果、均等化発電コストは キロワット時当たり約0.14ドルとなっています4。赤線はARK社の予想で、発電所規模のエネルギー貯蔵コストが今後5年のあいだにキロワット時当たり400ドルから150ドルに低下することにより、発電コストは同0.09ドルへと約30%低下して、天然ガス・ピーカープラントの稼働率が25%以下の場合のコストよりも低くなると見ています5。
エネルギー貯蔵ソリューションは、ピーカープラントの増設に対してすでに競争力を持っています。米国の天然ガス発電所の平均稼働率は約55%ですが、下のチャートが示す通り、25%未満となっている場合も多くあります。世界で稼働率が25%未満の発電資源に着目したARK社のリサーチによると、電力源が天然ガス、石炭、水力のいずれであるかにかかわらず、5,000ギガワット時の貯蔵容量さえあれば、稼働率の低いすべての発電施設に取って代わることができます。稼働率の低いすべての発電施設をエネルギー貯蔵に置き換えれば、発電によるCO2排出量は年間で約1.3ギガトン(9.5%)の削減が見込まれます。ちなみに、Tesla社の発電向けエネルギー貯蔵目標は最大1,000ギガワット時 となっており、上述した世界全体での目標の20%に相当することになります。
世の中の保有車両が徐々に電気駆動のものになるにつれて、輸送と電気の両分野は収斂し始め、ともにCO2排出量を削減していくでしょう。この変化のペースは加速しつつあるようです。例えば、2019年前半においてTesla社のModel 3購入のために下取りされた車のうち60%超が非高級車両となっており6、車両所有者が総所有コストの低下を十分に理解した結果として高級車市場の規模が拡大している可能性を示しています。また、米国の電力大手PG&E社が天然ガス発電所への設備投資を行う代わりに世界最大のバッテリー配備を計画しているほか7、米複合企業GE社は 採算の悪い天然ガス発電所の閉鎖を20年前倒しするとしています8。バッテリーは排出された既存の温室効果ガスを取り除くわけではありませんが、輸送を変化させ、再生可能エネルギーとともに発送電の再編を促すことによって、排出量の増加の抑制に非常に大きな役割を果たす可能性があります。