動画配信サービスがNetflixから学べる事

作成者: Nicholas Grous|2020/06/25

動画配信サービスのビジネスを拡大するために、素晴らしいコンテンツは不要で
す。一瞬、そんなはずがないと思うかもしれませんが、ご自身の視聴習慣につい
て考えてみてください。エミー賞やオスカー賞にノミネートされた番組ばかり見てい
ますか?もしそうでなければ、それはあなただけではないのです。台本なしのリア
リティ番組は、ゴールデンタイムのテレビ視聴率の約70%を占めており、多くの視
聴者は、極めて退屈でつまらない、ありきたりなコンテンツでも問題ないことを示
唆しています1。私たちは、勝者は最高のコンテンツを持つだけでなく、最も多くの
コンテンツを持つことだろうと考えています。

優れたコンテンツには、積極的で熱心な視聴者が必要ですが、ほとんどのユー
ザーは、バックグラウンドノイズとして受動的にコンテンツを消費しています。言い
換えれば、動画配信サービスは、次の大ヒット作を生み出すだけでは成功しない
ということです。

Netflixは、能動的な視聴と受動的な視聴の違いを他のどのコンテンツ企業よりも
深く理解していると思います。DVDレンタルからオンデマンド動画配信への移行は
別として、Netflixが執った最大の野心的で重要な戦略は、オリジナル・コンテンツ
への取り組みだと言えます。2013年、Netflixはオリジナル・コンテンツの膨大なラ
イブラリの中から、オリジナル・シリーズの第一弾である「House of Cards」をリリー
スしました。当社の推計によると、現在、米国ではNetflixのタイトルの約25%をオ
リジナル・コンテンツが占めています。2019年だけでも、Netflixは1日平均で1本
以上のユニークなコンテンツを制作しています。累計371本の新しいテレビ番組
や映画を制作しており、これは2005年に米国のテレビ業界が公開したすべての
番組の数を上回っているのです。

では、Netflixの最新の番組や映画はすべてがヒット作なのでしょうか?いいえ、次
のグラフにあるように、Netflixが制作しているコンテンツは「平均的」とランク付け
されています。実際、IMDBによると、2013年以降、Netflixのオリジナル映画の平
均スコアは約20%低下し、10点満点で6.37~となっています。

 

 

品質を評価する点数が低下した理由の一つとして、上のグラフにもあるように、Netflixが映画からテレビ番組へとフォーカスを移しているからかもしれません。映画は新規の加入者獲得に貢献するのに対し、テレビ番組は既存客の囲い込みに貢献しています。過去10年間、Netflixはプラットフォーム上のテレビ番組の数を増やし、映画のタイトル数を減らし、その過程で利用可能なコンテンツの分換算での所用時間の総計を2倍に増やしてきました。その結果、Netflixで視聴可能な作品(時間)の36%をオリジナル番組が占める状態になりました。

 

 

動画配信されるコンテンツの量よりも重要なのは、視聴者とのマッチング能力です。繰り返しになりますが、視聴者を適切な番組に集中させるという点では、Netflixに勝るサービスは他に見当たりません。下のグラフにあるように、同社の上位20本のコンテンツのうち16本、つまり80%が、視聴率35%以上に到達しています。視点を変えれば、2019年にケーブルテレビで放送された評価の高い「テレビ放送」上位20作品のうち、15%、つまり3作品だけが米国の全世帯の25%以上に到達しています。そして、それはすべてフットボールの試合でした。その上位20本のうち2本だけ、つまり10%だけが台本付きのテレビ番組(ドラマ)で、残りは生中継のスポーツイベントか授賞式特番のどちらかでした。

 

 

Netflixのコンテンツ戦略の進化から何が学べるでしょうか?第一に、質の高いコンテンツは新規加入者を獲得することができますが、ユーザーを維持するためには、コンテンツの充実した在庫が不可欠であるように思われます。第二に、コンテンツの多様性はユーザーの利用率を高め、また、多様なジャンル、フォーマット、言語を取り揃えることで新しい視聴者を惹きつけます。結論として、「コンテンツの質」の高さは最終的に「コンテンツの量」に勝ることはないと考えます。ほとんどの視聴者はマーティン・スコセッシ監督の映画を3本続けて一気に見ることはありませんが、「タイガー・キング」は全シーズン分まとめて視聴するのです。コンテンツのライブラリを継続的に構築し、拡大しているNetflixは、既存のテレビ局を含む競合他社から一線を画しているように見えます。

1 私たちはゴールデンタイムのテレビを午後7時から10時の間に放送されるものと定義しています。