By Sam Korus

テスラの事業利益および価値のカギを握るのは、小型セダン「モデル3」の粗利益率であると、ARKでは考えています。テスラの2019年第2四半期の自動車粗利益は17.2%(規制関連クレジットを含めない場合)でした1。多数の弱気派の間では、テスラは利益を生み出せておらず、また、相対的に高額な車両価格を維持しようとすれば必然的に需要はしぼむという苦境にあると考えられています。アナリストらは、足元で自動車粗利益率の20%突破に苦戦しているテスラに厳しい評価をしており、仮に252を超えるとしても、それは2020年代中盤以降と予測しています。

ARKでは、「ライトの法則」のモデルに基づき、モデル3の粗利益率は今後18ヶ月以内に2倍に上昇して30%を超える可能性があると、予測しています。ライトの法則は、太陽光発電からテレビ、そして半導体からオーブンに至るまで、60を超える技術分野のコスト低下の予測に成功してきました3。このブログでは、そのライトの法則に基づくARKの予測について詳しく紹介します。

100年超にわたる自動車生産コストの推移にライトの法則を適用してみると、それがフォードなどの企業にどれだけ有利に働いてきたかがわかります。ライトの法則を用いた予測を現在に当てはめ、テスラのモデル3の平均販売価格(APS)が49,000ドルにとどまると想定した場合、その粗利益率は2020年末までに30%を超えると予測されます。

1936年にセオドア・ライトが提唱したライトの法則は、累積生産量の増加に伴なうコストの低下を予測する信頼性の高い枠組みです。具体的には、累積生産量が倍増するたびに一定の割合でコストが低下するというものです。自動車産業は量産化が進み始めた1900年代初頭以降、85%の学習曲線(累積生産量が倍増するたびにコストが15%低下)を辿ってきました。下のチャートが示すように、1909年~1923年のT型フォードのコスト低下傾向は、ライトの法則にまさにぴったりと一致しています。

 

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85%の学習曲線を用いた場合、モデル3のコスト曲線もライトの法則に一致します(下チャート参照)4。累積生産台数が倍増するたびに、モデル3のコストは約15%低下しています5。この計算を理解する上で重要なポイントは「累積」という言葉で、これはテスラのモデル3の発売開始以来の生産台数を意味します。

 

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累積ベースでの倍増という考え方は直感的でなく、ライトの法則を示したチャートの誤解を招くことも多々あります。例えば、大半のチャートと異なり上のチャートでは、X軸の値が時間でなく、製品(この場合はモデル3)のそれまでの合計生産台数となっています。この予測手法に懐疑的な人々は、その線の傾斜をもとに推測し、最終的にはあらゆる製品のコストがゼロドルまで低下すると結論付けているようですが、それはまったくの見当違いです。累積生産台数の倍増は、達成するごとに次の区間の達成難度が指数関数的に増していくものであり、ガソリン自動車・ライトトラック市場に当てはめると需要を大幅に上回ることになり、さらには宇宙に存在する以上の物質を必要とすることになるでしょう。したがって、チャートの線はゼロドルではなく、一定の箇所で終点を迎えるのです。

T型フォードのケースではライトの法則が成立したにもかかわらず、移動組立ラインの導入こそがコスト低下の主因であり、したがって階段関数的なコスト低下は持続不可能であった、という間違った結論に達しているアナリストが多いように思います。実際には、ライトの法則は自動車産業の歴史全体を通じて成立してきました。1903年に2,000台弱のA型フォードを約23,000ドル(インフレ調整後)で販売して以来、ガソリン自動車業界の代表的存在であるフォードでは、販売台数の増加に伴なってコストが一貫して低下傾向を辿ってきました。ライトの法則によると、今ではA型フォードを1,500ドル程度で製造可能であると思われます。オリジナルのA型フォードは8馬力で、最高速度が時速28マイル(およそ時速45キロ)でした。フォードは現在では8馬力自動車を販売していませんが、タタ社のナノやマヒンドラ社の3輪自動車(いずれも8~37馬力で、A型フォードと同様の車体重量)のコストは2,100ドル程度です。今日の米国で23,000ドルの8馬力自動車を購入したいという需要がまだあるとしたら、フォードの粗利益率は90%強に迫ることになります6

 

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実際には、わたしたちが現在運転している車はA型フォードよりもはるかに性能が優れています。エアバッグ、パワーステアリング、ABS(アンチロック・ブレーキシステム)などの安全機能や、ラジオ、エアコンなどの快適装備を備え、時速30マイル(時速48キロメートル程度)よりも速く走行できます。

ライトの法則は、性能の改善という要素を取り入れた指標に基づいて評価されなければなりません。自動車産業では、その指標は1馬力あたりのコストです。そして、ライトの法則によると、A型フォードの製造コストは、1903年の1馬力あたり約3,000ドルから、同社の累積自動車生産台数が3億5000万台に達した2012年には1馬力あたり約167ドルまで低下していることになります(下チャート参照)7。フォードは、2012年にフュージョン、フォーカス、タウルス、フィエスタを1馬力あたり平均135ドル程度で製造しています。このように、ライトの法則による予測値は、フォードが3億5000万台の生産を経て達したコストと近い値となりました。

 

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成熟した技術分野は価格低下が止まっているようにみえますが、それは累積生産量のベースが大きく、生産を倍増させるのにかなり長期間を要するためです。下のチャートが示すように、世界の自動車メーカーがこれまでに生産した内燃機関(ICE)自動車は25億台にのぼりますが、電気自動車(EV)の累積生産台数はわずか340万台で、その1%分にも届きません8。ICE車両の生産台数が安定的に年間約9000万台で推移したとしても、累積生産台数の倍増には29年を要します。これに対して、EVの場合は1年ほどです。ライトの法則は両方の技術に同様に当てはまりますが、累積生産台数の倍増達成にかかる時間に差があることから、年間のコスト低下率にも差が出てきます。一般的なICE車両のコストは今後1年間で約0.5%の小幅な低下が見込まれる一方、EVの場合は約12%の低下が見込まれます。

 

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2019年第2四半期において、テスラのモデル3は販売開始以来の累積生産台数が275,000台をちょうど超えたところでした9。ライトの法則に従えば、累積生産台数があと60,000台増えると、モデル3の1台あたり生産コストは約23%低下すると考えられます。ARKの分析によると、2020年末までにそれが達成される見通しです。

コスト低下を実現できていることで、利益を再投資して研究開発を拡充したり、平均販売価格を引き下げて需要を喚起したりするなど、テスラは事業運営の柔軟性が大幅に高まっています。テスラはその両方を実施してきており、今後も継続していくとみられます。その結果、テスラが販売価格を引き下げても、モデル3の粗利益率は増加すると考えられます(下チャート参照)。

 

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このように、テスラは構造的に採算が取れないと結論付けている人々は、自動車製造業の歴史をすべて否定しているようにみえるのです。ARKでは、この先の道のりは視界良好であると考えています。

 

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  1. https://ir.tesla.com/static-files/1e70a30c-20a7-48b3-a1f6-696a7c517959
  2. モルガンスタンレー、エバーコア
  3. https://www.santafe.edu/research/results/working-papers/statistical-basis-for-predicting-technological-pro
  4. ここに含まれる記述の一部は、ARK社の現在の見解や想定に基づく将来の予想およびそのほかの予想ベースの記述である場合があり、実際の運用結果、パフォーマンス、または事象がそうした記述で表現または示唆されているものから大きく異なる原因となり得る既知および未知のリスクや不確実性を含む場合があります。
  5. テスラはモデル3の生産コストを明示的に発表していません。これらの数値はARKが決算報告書に基づいて算出したものであり、また、テスラは2017年第2四半期にモデル3を数百台しか生産していないため、これらの当初の生産台数は外れ値となっています。
  6. ここに含まれる記述の一部は、ARK社の現在の見解や想定に基づく将来の予想およびそのほかの予想ベースの記述である場合があり、実際の運用結果、パフォーマンス、または事象がそうした記述で表現または示唆されているものから大きく異なる原因となり得る既知および未知のリスクや不確実性を含む場合があります。
  7. ここに含まれる記述の一部は、ARK社の現在の見解や想定に基づく将来の予想およびそのほかの予想ベースの記述である場合があり、実際の運用結果、パフォーマンス、または事象がそうした記述で表現または示唆されているものから大きく異なる原因となり得る既知および未知のリスクや不確実性を含む場合があります。
  8. ARK Investment Management LLC2019年)
  9. テスラの四半期報告(https://ir.tesla.com/press-releases

 

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