By ARK Invest
本レポートは、2022年2月28日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletters_#306」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. イノベーション領域では、非公開市場のバリュエーションが急上昇し、公開市場のバリュエーションは崩壊している。どちらの市場が正しいのか?
この1年間、純粋なイノベーション分野の公開株が暴落する一方で、後期の非公開市場のバリュエーションは高騰しています。2018年から2022年2月までの377件の後期の資金調達ラウンドに関するARKの分析によると、1つの資金調達ラウンドから次のラウンドまでの倍率の中央値は、新型コロナウイルス危機の深みから約3倍になり、過去最高となりました。以下に示すように、イノベーション分野の公開市場株式が2021年初頭に崩れ始めて以来、約20%増加しています。2月現在では、1つの資金調達ラウンドから次の資金調達ラウンドまでにかかる平均300日間に、後期段階の未公開企業の倍率の中央値は約290%まで急上昇した一方、ナスダックは14%下落し、ナスダックのような幅広いベースの指数へのエクスポージャーをほとんど持たない純粋なイノベーション戦略は急落しているのです。
この分析は、後期のバリュエーションの下落に関する最近の報告に疑問を投げかけるものであり、公開株式市場でイノベーション戦略を行なう私たちを困惑させるものです。CrunchBaseは、すべての後期の未公開企業評価にアクセスできるわけではなく、資金調達ラウンドの価格決定から数週間後に公表しているため、データに偏りがあったり、多少古かったりする可能性があります。とはいえ、公開市場と非公開市場は対立しているように見えます。私たちは、真実はこの2つの間のどこかにあると考えています。
公開市場と非公開市場の評価額の大きなギャップに関するさらなる調査や、非公開市場におけるステップアップ倍率に関するより詳細な分析については、こちらのTwitterスレッドをご覧ください。
2. プログラム可能なDNA「回路」が、よりスマートなモバイルバイオセンサーを実現する
先週、ノースウェスタン大学の研究グループが、さまざまな低分子を検出できるバイオセンシング法に関する研究を発表しました。DNAシーケンサーのようなバイオセンサーは、機械的要素と生物学的要素の両方を組み合わせて、化学物質の存在を検出します。多くのバイオセンサーはかさばり、壊れやすいため、集中型の施設での利用に限定されています。Oxford NanoporeのモバイルシーケンサーやSHERLOCKのようなCRISPRベースの診断技術は、新型コロナウイルスを含む多くの核酸ベースの病原体の配列を現場で解析し、検出することができます。
この最新のバイオセンサーは、著者らの既存の検出プラットフォームである「ROSALIND」をベースにしており、その手法には、低分子の入力と、試験管を光らせる自由浮動型の遺伝子「スイッチ」が含まれています。このバイオセンサーは、ROSALINDの入力層と出力層の間に、合成DNA分子でできた有機回路を配置することで、より強化されました。このDNAを注意深く調整することで、研究者は「AND」や「OR」といった、コンピュータサイエンスで用いられるような論理演算を構築したのです。これらの単純な論理演算が連動して、高度な処理層を作り上げます。この層は、例えば、2つの汚染物質があるときだけ発光し、3つ目の汚染物質は発光しないようにプログラムすることができます。
この新しい手法は、モバイル型であることから、環境モニタリング、法医学、品質管理、病原体検出、合成生物学などの分野で重要な応用が期待されます。
3. カナダは「緊急事態法」を発動し、抗議デモ「フリーダム・コンボイ」参加者の金融口座を凍結
先週、カナダのジャスティン・トルドー首相は、「一時的な性質の緊急かつ重大な事態」に対して、連邦政府が特別な措置を取ることを認める法律、緊急事態法を発動しました。この臨時措置は、コロナウイルス規制の撤廃を求めるカナダのトラック運転手と農家らの大規模なグループである「フリーダム・コンボイ」による数週間に及ぶ抗議の末に取られたものです。
同法に基づき、政府は銀行、クレジットカード会社、資産運用会社、クラウドファンディング・プラットフォーム、集中型暗号通貨サービスプロバイダーなど、カナダ国内のあらゆる金融機関に、抗議行動に直接的または間接的に関与した個人の口座と資産を凍結するよう命じました。
クリスティア・フリーランド副首相が確認したように、「抗議行動に関与した個人と団体の名前は、カナダ王立騎馬警察によって共有されています。口座は凍結されており、さらに多くの口座が凍結される予定です。」
私たちの見解では、カナダ政府の行動は金融システムを武器化し、国内の不安を解消するための闘いにおいて危険な前例を作り、政治的に中立でグローバル、かつ検閲不可能で透明な通貨システムとしてのビットコインの将来性をより目立たせています。今日、金融システムは、利用者の適格性を決定し、取引の流れを制御するために中央集権的な当局に依存しています。資本の流れを制御することで、悪意のある活動から金融システムを保護することができますが、悪意のある活動とは何でしょうか。もし政府が一つの口座を凍結し検閲することができるなら、すべての口座を凍結し検閲して、口座保有者がグローバルかつ自由に取引するのを止めることができるのでしょうか。
ビットコインは、中央集権的な仲介者の代わりに、コンピュータの分散ネットワークに依存し、そのルールを執行しています。このアーキテクチャは従来のシステムの外で機能し、予測不可能なルール変更や、最悪の場合、個人資産の差し押さえを行なう可能性のある中央集権的な仲介者から個人を保護することができます。
カナダの行動は、各国政府と暗号通貨の間に迫り来る戦いの可能性を広く浮き彫りにしています。ビットコインは普及するのに十分に確立され、分散化されているかもしれませんが、国家は、公共のブロックチェーン・インフラの広範な使用を禁止する可能性があり、国民の資産を押収、制限、またはその他の方法で凍結する能力を維持する法律を可決して法的構造を作ろうとする可能性があります。
4. 自動運転車の普及に人間はどう参加するのか?
自律輸送に参入する自動車メーカーは、さまざまな展開戦略を開示しています。Aurora社CEOのクリス・ウルムソン氏は、決算説明会で、同社は自動運転トラックからドライバーを排除する計画であり、追跡車や人間が運転する車をモニターとして使用することはないと説明しました。一方、競合のTuSimple社は、昨年末にドライバーなしの自動運転トラックの初走行を完遂しましたが、前方の道路を調査し、後方からトラックを監視するために人間が運転する車両を配備していました。Tesla社は、競合のWaymo社やTuSimple社が発表したステップを省略し、いざというときに自動運転車を助けるための遠隔地の人間のオペレーターネットワークを利用する予定はないそうです。
では、完全な自律性を目指すうえで、最も成功する道は何でしょうか。自動運転車の発売時に人間をループに残すことを選択した自動車メーカーは、より優れた、よりミスの少ない自動運転に向けた改善軌道の漸近線には到達するかもしれません。しかし、別の見方をすると、人間よりもはるかに優れた運転性能に向けた改善はやがて鈍化し、ロボットタクシーサービスを徹底的に拡大するために必要な精度の9s(99.999..%)には到底到達しないかもしれないのです。一方、人間がループに入ることを避ける企業は、そのような事態を避けるためにシステムを最適化することができます。Waymo社は、運行開始から1年以上経った今でも、商用の自動運転タクシーサービスをフェニックスの狭い地域を超えて拡大できていません。人間をループに残す中間的なソリューションを避ける企業は、完全な自律性を目指してシステムを最適化する可能性が高くなります。その結果、Aurora社やTesla社が自動運転サービスの立ち上げと規模拡大でより成功し、人間の手助けに依存している競合他社よりも早く価格を引き下げることができる可能性があるのです。
ターゲットとする市場によって、その成果は異なる可能性があります。例えば、トラック輸送における極端な人手不足を考えると、人の手を借りた自動運転トラックサービスは、商品の配送を必要とする顧客に対して競争力のある価値を提案しながら、人が運転するトラックと同様の価格設定を行なうことができます。対照的に、ライドヘイリング(一般人が自家用車を用いて他人を送迎する配車サービス)の消費者は、同じような価格のUberやLyftの車両よりも低速の、人を介した自動運転配車サービスを選ぶことはないでしょう。
(今週火曜日の午後5時に、New Street Research社のピエール・フェラーグ氏とTwitterのスペースで、自動運転配車サービスにおけるTesla社の将来について議論しますので、ご参加ください。注:終了したイベントです。)
5. iPhoneが決済(POS)端末になる「Tap to Pay」の可能性
Apple社は先日、iPhoneのNFC(近距離無線通信)チップを利用した非接触型決済を可能にする新機能「Tap to Pay」を発表しました。Apple社は、「決済およびコマース業界における主要な決済プラットフォームやアプリ開発者と緊密に連携する」ことを計画しており、その第一弾として、Stripe社がShopifyのPOS(Point-of-Sale)サービスにTap to Payを拡張する予定であることが明らかになりました。
Apple社はデビットカードやクレジットカードを保存し、非接触型決済を可能にするデジタルウォレットである「Apple Pay」を発表し、2014年に決済市場に参入しました。同社は、顧客のカードを発行する銀行から取引ごとに0.15%の取り分を取っています。最近のWall Street Journalの記事によると、銀行はアップルのカットに対して懸念を強めており、手数料を引き下げたいと考えているようです。これを踏まえ、Apple社は「Tap to Pay」を利用して、下図のようにSquare社やToast社などの決済サービス事業者に課金し、加盟店側を収益化することも考えられます。そして、決済サービスプロバイダーは、この機能を利用する加盟店に手数料を転嫁することができるのです。
「Tap to Pay」は、Square、Shopify、Toast、Lightspeedなどの決済プロバイダーからハードウェア機器を購入する必要性から加盟店を解放し、加盟店に対する価値提案を削減することができるでしょうか。おそらく、そうはならないと思います。まず、短期的・中期的には、ほとんどの加盟店が非接触型カードだけでなく、非接触型でないカードや現金も受け入れたいと考えているはずです。第二に、決済事業者が加盟店に対して提供する主な価値はソフトウェアであり、ハードウェアはそのほとんどが赤字事業です。加盟店が自社のアップルデバイスで非接触型決済を利用できるようにすれば、革新的な決済プラットフォームの収益性が高まり、ソフトウェアプロバイダーとしての地位が強化される可能性があります。加盟店のソフトウェアと決済のニーズは、下表に示すように、その規模によって異なる可能性があります。
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