By ARK Invest
本レポートは、2022年7月25日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #326」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. Coinbaseのインサイダー取引事件により、SECがデジタル・トークンを証券として注視していることが明らかに
By Frank Downing | @downingARK
Analyst
先週、DOJ(米国司法省)とSEC(米国証券取引委員会)は、Coinbase社の従業員をインサイダー取引でそれぞれ刑事と民事で起訴しました。元Coinbase社の資産・投資商品部門マネージャーであったこの従業員は、同社が上場を予定している暗号資産だけでなく、そのタイミングについても弟と親友に情報漏洩したようです。SECの訴状に詳述されているように、Coinbaseに暗号資産が上場されたことで価格が上昇し、2021年6月から2022年4月の間に100万米ドル以上の利益が犯人にもたらされました。
注目すべきは、SECがHoweyテストに基づいて、「少なくとも」9つのトークンを暗号資産証券と見なしたことです。Howeyテストは、証券の一種である「投資契約」を次のように定義しています。
- 金銭の投資であること
- 一般的な事業への金銭の投資であること
- 他人の努力から得られる利益に対する合理的な期待を伴う、一般的な事業への金銭の投資であること
この場合、SECの調査結果のほとんどは、上記の3つ目の条件である資金調達と新規プロジェクトの支援を目的に明示的に発行されたトークンに関わるものでした。プロジェクト創設者の中には、Coinbaseのような二次取引所に上場することで、プロジェクトの成功時にトークンの価値が上がると主張する人もいました。
また、SECにとって重要なのは、プロジェクトがどの程度、中央の運営チームに依存しているかという点です。2018年、元SEC長官のウィリアム・ヒンマン氏は、イーサリアム・ブロックチェーンのネイティブ・トークンであるイーサー(ETH)を引き合いに出し、プロジェクトの運営において十分な分散化に達した時点で、本来証券として発行される資産が商品とみなされる可能性を示唆しました。しかし、SECはその立場を支持していません。これまでのところ、SECはデジタル資産を証券として分類するために強制措置を用いているケースがほとんどです。
この件に対し、Coinbaseは、プラットフォームに未登録の証券を掲載したという主張を否定し、SECが否定的なコメントなしに掲載方針を見直したことを指摘しました。また、デジタル資産のステータスを判断するためのルールをより明確にするよう求めました。
一方、CFTC(米商品先物取引委員会) 委員のキャロライン・ファム氏は、デジタル資産の分類について、より協力的でオープンな議論を呼びかけました。そして、ユーティリティ・トークンやDAO(Decentralized Autonomous Organizations/自律分散型組織)トークンを証券ではなく商品として分類し、CFTCの管轄下におくことを提案しました。
2. AmazonがプライマリーケアプロバイダーのOne Medicalを買収し、ヘルスケアに再挑戦
By Simon Barnett | @sbarnettARK
Analyst
先週、Amazon (AMZN) は、One Medical (ONEM) を買収する計画を発表しました。One Medical社は、米国で約73万人の民間保険加入者と約4万人のメディケア受給者に対面式およびバーチャルな医療サービスを提供するプライマリーケアプロバイダーです。この買収は、160万人の従業員の医療費抑制につながる可能性がありますが、Amazonが自社の組織を超えて医療を統合、拡大、破壊することができるのかについては、私たちは懐疑的に考えています。
AmazonはOne MedicalをWhole Foodsのような独立したブランドの実店舗型子会社として運営し、ヘルスケアサービスをプライム製品に組み込むか、One Medical、Whole Foods、薬局を統合して独自の対面型体験を作り出そうと考えているようです。いずれのシナリオでも、AmazonはOne Medicalと共に走り出す前に歩みを進めることになりそうです。同社は、まず自社の従業員(その多くは既存のOne Medicalの施設の近くにある配送センター)にサービスを拡大することで、「ビッグテック」が歴史的に浸透できなかったヘルスケアサービス市場に参入できる可能性があります。
これまでのところほとんど成功していませんが、Amazonは、4年以上前からヘルスケアに注力してきました。Berkshire HathawayとJ.P.Morganと提携して立ち上げたヘルスケアの新興企業であるHaven社は、わずか3年後の2021年に廃業し、我々の知る限り、他の進出企業(Amazon CareとAmazon Pharmacy)も国内での人気を得ることができませんでした。今回、Amazonはヘルスケアの専門知識を獲得しているため、One Medicalの輝かしい実績、強力な消費者ブランド、そして十分な報酬を得ている何千人もの臨床医を考えれば、今回はより多くの成功を収める可能性があります。
しかし、強力な相乗効果が期待できるにもかかわらず、文化の違いが成功の妨げとなる可能性があります。One Medical社は、他の多くのヘルスケアプロバイダーとは異なり、出来高制のフィーフォースサービスを排除し、管理を一元化し、医療従事者に安定した給与を保証しており、一見、臨床医と患者を喜ばせているように見えます。一方、Amazonは消費者を喜ばせることに成功しましたが、その代償として従業員の信頼と福利厚生を犠牲にしたようであり、これがOne Medicalの事業の拡大を制限するリスクとなりえるでしょう。
今回の取引は、革新的なプライマリーヘルスケアモデルの価値を浮き彫りにしていると考えられます。多くのアメリカ人はプライマリーケア提供者と強い関係を持っていないため、アクセスを増やす新しい選択肢が医療を変革し始める可能性があります。
3. 油井での余剰天然ガスは、ビットコインマイニングへ利用されることが最も生産的である可能性
By Sam Korus | @skorusARK
Associate Portfolio Manager
石油・ガス産業は、毎年2,650億立方メートル(265bcm)を超える天然ガスを排出しており、以下に示すように、ビットコインのマイニングが生産的に利用できる膨大な量のエネルギーを浪費していることがわかります。ビットコインの現在のハッシュレートをグローバルにサポートするために必要な天然ガス排出量は、わずか25bcm、つまり約10%にすぎません。
石油・ガス産業は、265bcmの排出量をすべて回収して簡単に電力に変換することは不可能でしょう。ARKは、下図のネイビーで示されているように、排出されるメタンのうち、ビットコインの採掘が最も容易で生産性の高い場所である油井で発生するものは、全体の半分に過ぎないと推定しています。
ARKのリサーチによると、油井に天然ガス発生装置を設置し、排出されてしまうはずのメタンを利用すれば、公共のビットコインマイニング企業が現在支払っているコストよりもはるかに低いコストで電力を生成できる可能性があることが示唆されています。マイニングハードウェアの供給制限に直面しなければ、ビットコインマイナーたちが排出されたメタンを利用することで、「ピュアプレイ」のビットコインマイニング企業を弱体化させ、採算の取れない領域に まで追い込む可能性があります。電力会社の規制当局が炭素削減のための料金プランを導入すれば、排出されたメタンでビットコインを採掘することはより魅力的になるでしょう。
排出されたメタンを利用する方法は他にもありますが、ARKはビットコインマイニングが理想的だと考えています。ビットコインマイニングはモジュール式のハードウェアで拡張性が高く、稼働中の油井に持ち運んだり移動させたりすることができます。このテーマについては、今後ARKの連載でさらなるリサーチの共有を行なう予定です。
4. OpenAI、オープンベータ版「DALL-E 2」の商用価格体系を公開
By William Summerlin | @summerlinARK
Analyst
独創的な映像で世界中を魅了したOpenAIの画像生成モデル「DALL-E 2」。今週、同社はこのツールをオープンベータ版として公開し、商用価格を発表しました。
ベータ版のユーザーは、毎月50生成分を無料で入手でき、さらに15米ドルで追加の115生成分を購入することができます。1回の処理で4枚の画像を生成するため、画像1枚あたりのコストは約0.03米ドルとなります。当社の試算では、画像生成のためのコンピューティングコスト(推論コスト)は画像1枚あたり約0.005米ドルであり、クラス最高のSaaS企業に匹敵する80%以上の粗利益を持つビジネスモデルであることが示唆されます。
注目すべきは、OpenAIが生成した画像の商業利用を制限していないことです。「本日より、ユーザーはDALL-Eで作成した画像を転載、販売、商品化する権利を含め、商品化に関する全使用権を得ることができます。」
最近のARKの調査に基づくと、DALL-E 2で生成された画像と同等の適度に複雑な画像を生成するには、人間の労働力に換算すると、平均時給約29米ドルで5.25時間、およそ150米ドルかかります。例えば、DALL-E 2を使えば、OpenAIの顧客は、グラフィックデザイナーが1枚の画像を制作するのに支払う価格で、5,000枚の画像を制作することができるのです。この新しい世界で成功するためには、グラフィックデザイナーは、DALL-E 2のようなパワフルな生成型AIツールを活用して競争し、顧客を満足させる必要があるでしょう。
ARK’s statements are not an endorsement of any company or a recommendation to buy, sell or hold any security. For a list of all purchases and sales made by ARK for client accounts during the past year that could be considered by the SEC as recommendations, click here. It should not be assumed that recommendations made in the future will be profitable or will equal the performance of the securities in this list. For full disclosures, click here.