By ARK Invest
本レポートは、2022年9月12日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #333」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. JavaScript注入により、Apple iOSのアプリ内ブラウザで、ソーシャルプラットフォームのユーザー行動追跡が可能に
By Andrew Kim | @andrewkimARK
Research Associate
先月、ソフトウェア開発者のFelix Krause氏が、Facebook、Instagram、およびTikTokのApple iOSアプリのアプリ内ブラウザ内にJavaScriptコマンドが存在することを暴露したようです。各アプリ開発者のJavaScriptファイルは、ユーザーがリンクや広告をクリックするとコードを注入し、ユーザーのデフォルトブラウザではなく、アプリ内ブラウザを介して第三者のWebサイトに強制的にアクセスさせるものです。Krause氏が指摘するように、アプリ開発者がもし何かを企んでいるならば、アプリ内ブラウザを使用して、同意なしに第三者のウェブサイトでのユーザー行動を監視することができます。App Storeの審査ポリシーは、アプリ内ブラウザが第三者のWebサイトを通じてユーザーの活動を追跡することを禁止していませんが、これらの特定のJavaScriptコマンドをアプリ内ブラウザに注入することは、Apple社の最近のブランドキャンペーンや、2021年4月にリリースされたiOS14.5 のApp Tracking Transparency (ATT) フレームワークに代表されるようなユーザーのプライバシーに重点を置くことと矛盾しているように思われます。
繰り返しになりますが、もしKrause氏の主張が正しければ、Meta社とTikTok社は、検索フィールドやテキストボックスなどのユーザーインターフェース(UI)要素を持つ第三者のウェブサイトでのやり取りを含め、アプリ内ブラウザで発生するすべてのユーザー活動を監視することができます。Metaは特定のアプリ内ブラウザに依存することをユーザーに強制しませんが、TikTokはアドレスバーを完全に隠し、ユーザーが選択したブラウザでリンクを再度開くことを許可しません。Krause氏によると、このJavaScriptコードにより、TikTok社は第三者のアプリ内ブラウザにおけるユーザーの支払いやその他の個人情報を含むすべてのキーボード入力を監視することが可能になります。
Meta社とTikTok社は、アプリ内ブラウザを使用して、ATT後の設定における広告効果の測定に役立てていますが、Apple社は、アプリ開発者によるWKWebViewの使用を制限することで、潜在的な悪意ある活動やプライバシーリスクに対応することができます。
(WKWebViewは、Apple社が推奨する SFSafariViewControllerよりもカスタマイズ可能で柔軟なアプリケーションプログラミングインターフェース(API)。)Apple社がアプリ内ブラウザの使用を完全に禁止することはないでしょうが、WKWebViewベースのブラウザを制限し、第三者のウェブサイトへのトラフィック量を制限する可能性はあります。そうなれば、結果として、ソーシャルプラットフォームが広告の効果を測定する能力が向上するかもしれません。
2. 酵母が抗がん剤の生産を可能にする可能性
By Simon Barnett | @sbarnettARK
Director of Research, Life Sciences
合成生物学では、細菌のような小さな生物を遺伝子操作して、それらに医療や製造、農業を改善する能力を与えています。CRISPR遺伝子編集や次世代シーケンシング(NGS)のようなハイスループットで低コストのプラットフォーム技術の融合のおかげで、合成生物学者はこれまで以上に迅速かつ費用対効果の高い方法で生物デザインの設計、構築、検証を行ない、イノベーションを爆発的に起こしています。
Novo Nordisk(ノボ ノルディスク)社のグローバル研究グループの1つがスポンサーとなり、科学者のチームは最近、ビール酵母の株に最大級の生合成経路(生物の内部で起こる一連の生化学反応)をインストールしましたが、この改良型の酵母菌株で、新型コロナウイルスによるサプライチェーンのボトルネックの犠牲となったマダガスカルツルニチニチソウと呼ばれる希少な植物由来の、希望者の多い抗癌剤「ビンブラスチン」を生成しました。 Novo Nordisk社は、合成生物学を駆使して、切望されていた抗癌剤における問題を解決したのです。
この成果は、合成生物学が生み出す可能性のある膨大な人的・経済的価値の一端を垣間見ることができるものと考えています。さらに、こうした研究の多くは、「ビンブラスチン」と密接に関連する3,000種類以上の天然物に対して一般化することができます。その中には、世界保健機関(WHO)が必須医薬品として認めている化学療法剤である「ビノレルビン」も含まれています。人工知能(AI)、ゲノム解析、およびゲノム編集の進歩に伴い、合成生物学が費用対効果の高い方法で、かつ大規模に医薬品を生産するために飛躍的に進歩することが期待されます。
3. Apple、年次イベント「Far Out」で新製品を発表
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet
先週、Apple社はiPhoneの新機種とアップグレードされた周辺機器の年次ラインナップを発表しました。iPhone13と同じ799米ドルの価格で、新しいiPhone14は、A15 Bionicチップへアップグレードされ、バッテリー寿命と写真撮影が向上しているのが特徴です。より大きな画面のオプションであるiPhone14 Plusの価格設定は899米ドルでした。999米ドルの価格帯を維持したProシリーズも、より明るく常時点灯するディスプレイや、よりプロフェッショナルな写真・ビデオ機能を備えた改良カメラ、そしてハードウェアとソフトウェアを緊密に統合して適応型の持続的な通知を表示する「ダイナミックアイランド」など、注目すべきアップグレードを備えています。
また、過酷なアスリートに向けた耐久性に優れた新しいWatch Ultra は、より長いバッテリー寿命、より正確なデュアル周波数 GPS、専用のアクティビティボタン、より優れた防水性、および緊急サイレンを誇っています。価格は799米ドルで、この新しいプレミアムウォッチは、Garmin(ガーミン)社のハイエンドスポーツウォッチシリーズと競合することになります。
私たちは、Apple社がのWatch Ultrasをたくさん販売する可能性が高いと考えていますが、おそらくGarmin社の忠実な顧客ベースから多くを奪うことはできないでしょう。しかし、重要なのは、同等のガーミン社製ウォッチのバッテリー寿命が3日未満であるのに対して、15日以上であるところです。また、パワーメーターやケイデンスセンサーなど複数のセンサーとペアリングすることで、データをたくさん必要とする持久系アスリートのために、より多くの接続オプションが用意されていることも重要な点です。
Apple社はイベント全体を通じて、iPhoneとWatchに搭載された新しい自動車事故検知機能、Watchでの生理周期追跡機能の強化、携帯電話ネットワークが届かない場合にGlobalstar衛星ネットワーク経由で接続する緊急SOS iPhone機能など、健康と安全のための機能を強調しました。ただし、iPhoneの使用は見通しのよい場所でなければならず、ユーザーは衛星を追跡する必要があります。重要な点として、SOS機能が使えるのは新しいiPhoneだけであることが挙げられます。これは、T-Mobile社とSpaceX社が提供予定の機能が既存のデバイスだけで動作するのと対照的です。
プロセッサ、ディスプレイ、カメラ、およびバッテリーの漸進的な改良に依存したフォームファクタが成熟するにつれて、Apple社がiPhoneの衝撃的なアップデートを提供する能力は衰えつつあるように見えます。しかし、「ダイナミックアイランド」や衝突検知などの新機能は、同社が得意とするソフトウェアとハードウェアの統合に依存しています。そしておそらく最近の噂を裏付けるように、Apple社はそのスキルセットを来年には複合現実型ヘッドセットのような新しいフォームファクタに、あるいは今後5年のうちに自動運転車に取り入れることでしょう。
4. NuroとUber Eatsの提携ロボットによる夕食の出前がスタート
By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis and Institutional Strategies
先週、Nuro社はUber Eats社と10年間のパートナーシップを結び、Nuroの自動運転ロボットによる食品の配達を開始しました。ロボットのお腹によるものか人間の手による配達かは知らずして、サービスの利用者はロボットではなく人間の配達員のためのチップの払い戻しを受けることになります。その他の配達料は従来通りです。
ARKは、ロボットによるフードデリバリーの規模が大きくなれば、1回あたりのコストが0.40米ドル程度になると試算しています。現在、Uber Eatsの手数料は、1回の注文につき10米ドルから20米ドルとなっています。Nuro社との提携で、Uber社は配達コストを下げるのか、利益率を上げるのか、もしくはまだ配送プロセスに関与している人間の賃金を上げるのか、それともその3つすべてを行なうのか、気になるところです。
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