By ARK Invest

本レポートは、20221114ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #342」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. 暗号通貨取引所FTXが連邦破産法第11条の適用を申請

By Yassine Elmandjra | @yassineARK
Analyst

この記事は、ARKFrank Downingと共同で執筆しました。

 

2週間前、Terra/ Lunaエコシステムの崩壊とそれに続くCelsiusThree Arrows Capitalの破産によって、自己勘定取引会社Alamedaと暗号通貨取引所FTXが注目すべき生き残りとなっていました。多くの投資家は、サム・バンクマン・フリード(SBF)の会社が、彼の言葉を借りれば「デジタル資産のエコシステムを守る」ために、暗号通貨の貸し手であるVoyager(ボイジャー)やBlockFi(ブロックファイ)といった問題を抱えたプレーヤーを様々な策で救済する努力をしたことから、彼らを暗号通貨業界の救世主と見なしました。 

しかし、わずか9日間で、SBFの暗号通貨帝国は崩壊してしまいました。112日、Coindeskは漏洩した貸借対照表の情報を公開し、Alameda(アラメダ)が約80億米ドルの負債に対して、約50億米ドルのFTXのネイティブ取引所トークンFTTを含む非流動資産に大きく投資していることを明らかにしました。不思議なことに、AlamedaFTTへのエクスポージャーは、その流通量よりも大きかったのです。FTXAlamedaは、一般に知られている以上に密接に結びついていることがすぐに明らかになりました。

このニュースやその他の非公開のニュースを受けて、FTXの競合相手であるBinance(バイナンス)は、前年に撤退したFTXへのベンチャー投資による多額の資金源であるFTTを清算すると発表しました。こうして、銀行への取り付けが始まったのです。SBFが先週月曜日、FTXには出金のための十分な資産があると断言したにもかかわらず、火曜日の朝に取引所が出金を停止するまで、顧客が数十億米ドルを引き出しSBFは沈黙を守りました。

その頃、舞台裏ではFTXは流動性の危機に瀕しており、SBFは何とかして会社を救おうと躍起になっていましたが、ほとんど買い手を見つけられませんでした。競合のBinanceは取引を検討しましたが、見送りまし。そして、金曜日までにすべての選択肢が使い果たされた、SBFFTXAlamedaの国際部門と米国部門の破産を発表したのです。

どうやら、これらの倒産につながる出来事は、数ヵ月前に始まっていたようです。一部の報道によればSBFTerra/Lunaの破綻に伴うレバレッジ解消の過程で、FTXの顧客預金やその他の資産40億米ドルをAlamedaに移し、マージンコールに対応したとのことで、非倫理的かつ違法である可能性が高いとされています。

FTXの破綻は暗号資産業界の大部分に衝撃を与え、その余波が広がり始めています。BlockFi出金を停止し、Voyager新しい入札者を探し、またGenesisFTXに閉じ込められた約17,500万米ドルを公表しました。この問題の全容が明らかになるまでには、数ヵ月を要すると思われます。

私たちは、FTXの破産は暗号資産の歴史において最も有害な出来事の1つであり、2014年のMt.Goxハッキングよりも悪い可能性があると見ています。業界の尊敬を集めるリーダー1人が引き起こしたこの破綻は、暗号資産の評判に劇的な影響を及ぼしました。これは、機関投資家による暗号資産の採用を何年も遅らせる可能性があり、おそらく規制当局に強権的な措置を取る許可を与えることになります。CoinbaseCEOであるブライアン・アームストロング氏は、エリザベス・ウォーレン氏のより積極的な執行を求める声に応えて次のように述べています。「FTXSECによって規制されていないオフショア取引所でした。問題は、SECが米国での規制を明確にすることが出来なかったため、多くの米国の投資家(および取引活動の95%)が海外に流出したことです。」

すべての影響は不明ですが、FTXAlamedaの破産は、ユーザーと投資家に500ドルもの損害を与える可能性があります。さらに、FTXAlamedaの両社は、BlockFiSolanaSkybridge CapitalYuga LabsVoyager、その他ここにリストアップした多数の企業やプロトコルに対して様々なエクスポージャーを有しています。

今、私たちはいくつかの重要な質問に対する答えを必要としています。FTXAlamedaに対するエクスポージャーはどの程度あったのか、現在倒産している企業と取引を行った事業体のうち、暗号資産をFTXに預け、財務を管理させる義務があったのは何社か、そして、もし裁判所が顧客預金を誤って管理した企業に流動性優遇措置を与えた場合、彼らは回収条項に直面するのでしょうか。

しかし、この不確実性と暗澹たる気持ちの中、いくつかの明るい兆しを見出すことができます。最も重要なのは、ビットコインやイーサリアムのようなパブリックブロックチェーンネットワークが、この危機の間も手を抜かず、円滑に運営されていることです。その透明性、開放性、可聴性が、運営に不可欠な要素となっています。

第二に、暗号市場は何度も何度も、透明性を欠く中央集権的な事業体を罰しており、エコシステムをより分散化し透明性を高める方向に押し進めていることです。Binanceを含む取引所は、「Proof of Reserves」(資産と負債が11で一致していることを暗号学的に検証した証明)の採用に合意し、より多くの市場参加者が、資産を自己保管することの価値を理解するようになりました

貨幣、金融、インターネットにまたがるパブリックブロックチェーンの長期的な有望性に対するARKの信念は揺らいでいません。暗号資産市場は短期的には売り圧力と流動性不足に陥る可能性がありますが、この危機は悪徳業者を粛清し、長期的にはより透明性と分散化で暗号エコシステムの健全性を高めると信じています。

14年前、ビットコインのブロックチェーンのGenesis(創世記)のブロックには、こんな言葉が書かれていました。

「首相、銀行への2度目の救済に乗り出す」

求められたのは、信頼できるサード パーティや中央集権的なトップダウン制御から離れて、よりオープンで透明性の高い分散型ソフトウェアに移行することでした。

この時代に、私たちがここにいる理由を忘れないようにしましょう。 

 

2. イーロンのTwitter Blue事件 

By Nick Grous | @GrousARK
Associate Portfolio Manager

この記事は、ARKMax Friedrichと共同で執筆しました。

 

イーロン・マスク氏が約2週間前にTwitterの指揮をとって以来、彼はこのプラットフォームの将来についての計画を予告してきました。これまでのマイルストーンをいくつか挙げると、以下の通り、大量解雇経営幹部の流出、広告主の離反、記録的なTwitterエンゲージメントと成長Twitter Blueの軟調な展開、そしてTwitter Blue巻き返しです。シリコンバレーの格言「move fast and break things」も、このような状況においては、控えめな表現となってしまいます。

Twitterは、段階的に世界的なスーパーアプリに変貌していくものと思われます。第一段階は、人員削減とTwitter Blueを介した直接収益化サブスクリプション収入により、Twitterを強固な財務基盤にすることです。第二段階では、Twitterは長期的にエンゲージメントを高めるクリエイターファーストの機能を構築すると思われます。第三段階は、決済機能を取り入れるようです。PayPalの前身を設立したマスク氏は、デジタル決済の歴史があり、中国のWeChat Payからヒントを得て、デジタルウォレットのような機能を追加する可能性が高いです。

WeChatのような成功は、Twitterを持続可能な未来に導くかもしれません。メッセージングアプリとしてスタートしたWeChatは、現在10人以上のユーザーを抱えるまでに成長しました。2013年には決済サービス「WeChat Pay」を発表し、その後、マネーマーケット・ファンドやライドヘイリング(自動運転配車サービス)プラットフォーム、フードデリバリー・プラットフォーム、その他のeコマースサービスとの統合など、金融・商業製品を次々と発表しています。WeChat Payの成功は、巧みな製品とマーケティング戦略の結果でした。2014年まで、WeChat Payは、当時3億人いたWeChatのユーザーの10%に当たる3,000万人のユーザーを獲得したに過ぎませんでしたが、旧正月の伝統である「*紅包(ホンバオ)」をデジタル化し、ユーザー同士がWeChatPayで即座に送れるようにしたことで一気に軌道に乗せました。このキャンペーンにより、わずか2週間でユーザー数は3倍の1人に達し、WeChat Payは中国のデジタルウォレットのリーダーの1つとなったのです。 

Twitter社の「紅包」戦略はどうなるのでしょうか。イーロン・マスク氏は、Twitterのユーザーにどのようにインセンティブを与え、決済プロダクトに関与させ、決済プラットフォームにしていくのでしょうか。

*中国には、春節の前に、目上の人から目下の人へ、大人から子どもへ、もしくは自分の両親や祖父母などに、中国人にとって縁起の良い色である赤色の紙や封筒でお金を包んでお年玉やご祝儀を渡す慣習があり、このときに渡すお金のことを「紅包(ホンバオ)」と呼ぶ(日興アセット調べ)

 

3. 悪玉コレステロールは米国でも歴史に残るのか

By Ali Urman | @aurmanARK
Analyst

 

昨年のJPモルガン・ヘルスケアカンファレンスで、遺伝子編集企業のVerve Therapeutics(ヴァーブ・セラピューティクス/VERV)が、ヒト以外の霊長類の冠動脈性心疾患(CHD)に関する興味深い前臨床データを発表しました。米国では、CHD36秒に1人の割合で死亡する主要な原因となっています。

Verve社は、ヒト以外の霊長類におけるPCSK9遺伝子を不活性化する生体内ベースエディターであるVERVE-1011回の治療が効果的で、耐久性があり、忍容性が高いことを示すデータを発表しました。VERVE-101は、6ヵ月の間、血中のPCSK9タンパク質平均値を89%減少させ、既知のオフターゲット効果をもたらしませんでした。

今月、Verve社は、米国心臓学会のサイエンティフィック・セッションにおいて、最新データを発表しVERVE-101の単回注入が、非ヒト霊長類の血液中のPCSK9475日間、すなわち15ヵ月以上にわたって最大83%減少させたことを示しました。

同社の科学者たちは、PCSK9遺伝子を不活性化することで、健康な非ヒト霊長類の低密度リポタンパク質(LDL)、すなわち悪玉コレステロールのレベルを下げ、心臓発作の可能性を下げることを発見しました。

潜在的には、遺伝子編集によってPCSK9遺伝子を永久に不活性化することができるようになります。具体的には、遺伝子編集の一種である静脈内塩基編集は、1つのDNA塩基の「スペル」の文字をアデニン(A)からグアニン(G)に変更することでPCSK9遺伝子を不活性化します。Verve社は、この変更を行なうために、Beam Therapeutics(ビーム・セラピューティクス/BEAM)社の技術を活用しました。

先週、米国食品医薬品局(FDA)は、Verve Therapeutics社のリード候補であるVERVE-101を臨床保留としました。同社は10月にデータを開示しており、FDA30日以内に詳細な情報を記載したレターを提出し、その返答を行なう予定です。

Verve社はニュージーランドと英国で患者の募集を続けているため、FDAは米国での一時的な後退であると私たちは考えています。これまでの心強い前臨床データは、塩基編集が心血管系疾患における1回限りの治癒的治療法になれる可能性を示唆しています。

 

4. ニューラルネットの学習において、スウォームラーニングが連合学習に取って代わる可能性 

By Pierce Jamieson | @PierceARK
Research Associate

 

臨床診断から自動運転車まで、さまざまなアプリケーションで大きな可能性を秘めたニューラルネットワークは、データを大量に必要とします。例えば、患者の医療データからモデルを学習させる場合、データのプライバシーなどの問題が浮上しますが、「連合学習(フェデレーテッドラーニング)」と呼ばれるプロセスによって克服することができます。連合学習では、各病院のシステムは、中央のアクターが配布するモデルを、他のアクター(エッジデータプロバイダー)がさまざまな場所で収集したデータを使って学習させます。各病院はモデルの学習を終えると、その結果を中央のアクターに返し、中央のアクターはそれを集計して完成したモデルを導き出します。連合学習では、中央のアクターがすべての病院とエッジデータプロバイダーに参加するようにインセンティブを与えることが必要となります。

Natureは最近、参加者がモデルの結果を共有し、中央集権的な調整なしに自動的に組み合わせることができるように、イーサリアムネットワーク上のスマートコントラクトを使用した「スウォームラーニング」という新しいパラダイムを発表しました。私たちは、スウォームラーニングは、同等以上の品質の結果でインセンティブ問題を解決するため、モデルにおける連合学習を大きく改善するものであるとみています。

 

 

 

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