By ARK Invest
本レポートは、2023年3月13日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #357」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. Silvergate Capital、Silicon Valley Bank、Signature Bankの破綻は、FRBに向けた強烈なメッセージ
By Maximilian Friedrich | @mfriedrichARK
Co-Lead, ARK Venture & Analyst
銀行と金融市場にとって歴史的な週となった先週水曜日、Silvergate Capitialは、連邦預金保険公社(FDIC)の管理下に入り、資産を清算して業務を停止すると発表しました。Silvergateは、政府発行の(フィアット/法定)通貨を暗号通貨取引所に移管しようとする機関投資家を対象としていました。法定通貨の預金を預かり、Silvergate Exchange Network(SEN)を経由して送金させることで、Silvergateは暗号資産関連の預金を2年間で6倍以上に成長させ、2020年初頭に20億米ドル未満だったものを、2022年には約130億米ドルにまで拡大させました。ところが、昨年11月のFTXの破綻後、顧客は預金を引き出し始めました。Silvergateは当初、バランスシートの資産を清算し、サンフランシスコ連邦住宅貸付銀行から融資を受けることでこれに対応していましたが、3月上旬、監査手続きや規制当局からの問い合わせを理由に10-Kの提出を延期し、その1週間後にはFDICの管財人となってしまいました。同社が消滅する前に、Coinbaseを含むいくつかの暗号資産業者は、SilvergateからSignature Bankのような他の暗号通貨に対応した銀行に銀行業務を移しました。
金曜日、銀行の経営破綻を受け、FDICはシリコンバレー銀行(SVB)の経営権を取得しました。スタートアップやベンチャーキャピタルのコミュニティと世界的に深く関わっているSVBは、米国でベンチャー企業の大半を引き受けてきただけでなく、スタートアップ企業やその従業員に商業ローンや個人ローンを提供し、多くのベンチャーキャピタルファンドの銀行パートナーとしての役割を果たしてきました。しかし、SVBの株価は、木曜日に60%下落しました。それは、同社が水曜日に、売却可能な有価証券ポートフォリオの清算によって生じた18億米ドルの損失をカバーするため、22億5,000万米ドルの株式を調達する意向であると発表した後のことでした。著名なベンチャーファンド数社が、突然の増資とポートフォリオの清算を受けて、投資先企業に資金を引き揚げるよう促したのです。そして、金曜日の朝、米国証券取引委員会(SEC)はSVBの取引を停止し、正午までにFDICが管理することになりました。
Silvergateと同様、SVBもベンチャー企業の資金調達ブームを追い風に、預金残高を2020年の600億米ドルから2022年の1,900億米ドルへと積極的に拡大しました。SVBは、低金利の継続と預金の伸びに賭けて、棚ぼたで得たその大半を長期モーゲージバック証券と地方債のポートフォリオ1,200億米ドルに投資しましたが、平均利回りは2%未満でした。これらの投資の大半は「満期保有目的」と呼ばれるカテゴリーに分類され、売却しない限り時価評価による損失が発生しないようになっていました。しかし、金利が上昇し、ベンチャー企業の資金が枯渇するにつれ、預金流出が加速し、SVBの満期保有証券が時価評価される可能性が高まり、150億米ドルの含み損を計上し、銀行を破綻させる可能性がありました。
FDICは、SVBと、同じく規制当局によって閉鎖されたSignature Bankの両方について、保険付き、保険なしを問わず、預金への完全なアクセスを保証するための断固たる措置を講じましたが、消費者や企業は、マネーセンターバンクとも呼ばれる規制の厳しいSIB(システム上重要な銀行)以外の銀行に関わることをためらうかもしれません。また、地方銀行は、預金の伸びを取り戻すのに苦労するかもしれません。そして、地方銀行は大規模な銀行に比べて商業用不動産ローンのリスクにさらされているため、商業用不動産分野において最近相次いだ戦略的債務不履行が、さらに傷口を広げる可能性があります。
これらの金融セクターの出来事が米国連邦準備制度理事会(FRB)における会話をどのように変えるかについての考察は、3月10日にリリースした【ARK Invest】CEO/CIO キャシー・ウッドのマーケットとストラテジー2023年3月(日本語吹替版)をご視聴ください。FRBがこの展開する危機における自らの役割を理解し始めていると良いのですが。遅行指標に注目し、1年足らずの間に前例のない19倍の金利引き上げを行なったのはFRBなのですから。そして、債券市場は約9ヵ月前から、問題が生じていることをFRBに警告していました。米国債の10年物利回りと2年物利回りの差で測ると、イールドカーブは昨年7月に反転しました。先週、イールドカーブの反転幅は100ベーシスポイント(約1%)に達しましたが、これは1981年のボルカー率いるFRB以来見られなかった極端な数値です。しかし、金利水準を調整すると、反転は第二次世界大戦後の経験上、前例がないことです。4%の長期国債利回りに100ベーシスポイント(または1%)を乗せることは、1981年の15%に100ベーシスポイント(1%)を乗せるよりもはるかに深刻な金融情勢を示唆しています。FRBは金利低下で対応せざるを得ないというのが私たちの見方です。
2. Twist社のアルパカB細胞抗体発見ワークフローが抗体治療薬に新たな扉を開く
By Simon Barnett | @sbarnettARK
Director of Research, Life Sciences
モノクローナル抗体(mAb)は、ハーセプチン、ヒュミラ、キイトルーダ、オプジーボなどの医薬品に代表される強力な治療薬で、年間約2,000億米ドルの売上があります。[1] 近年では、抗体薬物複合体(ADC)や二重特異性抗体などの新しい治療法が開発され、抗体医薬の領域が広がっています。
2019年、FDAは希な血液凝固障害の治療薬として、初のVHH抗体医薬品(Cablivi)を承認しました。アルパカが産生するVHH抗体は、人間のものと比べて小さく、軽快な分子です。最近、Twist(TWST)社のバイオ医薬品部門は、強力な VHH ベースの医薬品の発見と開発の障壁を下げるハイスループットのVHH抗体発見サービスを作成し、開始しました。
研究者は、疾患のターゲットとなる抗原を選択すると、そのターゲットに対して有効な抗体医薬品を発見するために、いくつかの方法を用いることができます。そして、マウス、ウサギ、アルパカなどの動物に免疫を与え、血液サンプルから治療薬となりうる抗体を採取することができます。また、ファージディスプレイと呼ばれる方法で、抗原に結合させたウイルスをさまざまな抗体の組み合わせに接触させることもできます。さらに最近では、 Berkeley Lights (BLI) Beacon(バークレー・ライツ(BLI)ビーコン)のようなハイスループット技術プラットフォームを用いた単一B細胞分離法も活用されています。すでにヒトやマウスのB細胞に対応しているTwist社の新しいワークフローにより、BeaconはアルパカのB細胞にも対応することができるようになります。
同社が最近発表したプレプリント(査読前論文)では、創薬ターゲットとして知られる前立腺特異的膜抗原(PSMA)で免疫したアルパカのB細胞をBeaconシステムで分離、解析、およびクローン化する方法を紹介しています。研究チームはまず、得られたVHH抗体候補をテストし、いくつかの抗体が標的抗原に強く結合することを実証しました。次に、Twist社の機械学習アルゴリズムを活用してアルパカ由来の抗体を「ヒト化」し、不要な免疫反応の可能性を減らすように再調整しました。同社は、このワークフローを、他のin vitro、in silico、およびその他のin vivo抗体発見技術と共にサービスとして提供する予定です。
[1] Lu, R. et al. 2020."疾患治療のための治療用抗体の開発"Journal Of Biomedical Science, vol.27. https://jbiomedsci.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12929-019-0592-z
3. 完全自動運転は旧型Teslaの運転より5倍安全
By Tasha Keeney | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies
Tesla社は、インベスター・デイにおいて、完全自動運転(FSD)システムの事故率を初めて公表しました。これは、320万マイルにつき1件の事故であり、全米平均の50万マイルにつき1件と比較すると、6倍以上安全なものです。しかし、最近のアップデートであるv11.3まで、FSDベータ版ソフトウェアスタックは、路面、つまり市街地にのみ適用されていました。路面道路は高速道路よりも事故率が高く、走行距離の30%程度でありながら事故の75%を占めているためです。さらに、全米平均には、現在すべての米国の新車に標準装備されている緊急ブレーキ(AEB)のようなアクティブセーフティ機能を搭載していない古い車も含まれています。
FSDの安全性の向上を評価するには、手動で運転するTeslaとの対等な比較を行ないます。同社の安全報告書に記載されている「非オートパイロット」の事故率と比較して、路面特有の事故率に調整すると、以下に示すように、FSD搭載車は手動運転のTesla車よりも約5倍安全であり、米国の平均的な車よりも18倍安全であるようです。[1]
出典:ARK Investment Management LLC, 2023; https://www.tesla.com/VehicleSafetyReport; https://tesla-cdn.thron.com/static/AA7YQM_Investor_Day_2023_Keynote_W9DARX.pdf?xseo=&response-content-disposition=inline%3Bfilename%3D%22Investor-Day-2023-Keynote.pdf%22; https://cdan.nhtsa.gov/tsftables/tsfar.htm; https://www.bts.gov/content/roadway-vehicle-miles-traveled-vmt-and-vmt-lane-mile-functional-class情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものとみなされるべきではありません。
[1]グラフの「手動運転Tesla」と表示されている非自動運転事故率と全米平均は、いずれも一般道路での走行距離に対する事故率の比率を使用して一般道路のみの事故率に調整されており、ARKは自動運転による走行距離を調整しています(Teslaの走行距離の10%程度と推定される)。なお、これは世界的な統計であり、米国の平均はもっと高いと思われます。2023年3月1日時点のFSDデータです。考慮すべき5つの重要な注意点: (1) ドライバーは最も運転しにくい場面でFSDを解除する可能性があり、それが事故あたりの走行距離を押し上げる可能性がある。 (2) 異常気象ではFSDは機能しない。 (3) 事故や総走行距離では乗用車が大半を占めるが、全米統計は乗用車に限定されていない。 (4) 我々の比較には死亡事故、死亡しない事故をすべて含む。 (5) 全国平均にはTeslaを含むすべての新車で標準搭載されている自動緊急ブレーキなどのアクティブセーフティを装備しない車両を含む。
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