By ARK Invest

本レポートは、2023年87にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #378」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. 科学者たちは室温超伝導体を発見したのか?

By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist

 

超伝導体とは、電気システムのエネルギー損失の原因となる電気抵抗ゼロで電気を通す準魔法物質です。しかし、既存の超電導体は、動作するために-200℃前後の極寒の環境を必要とするため、商業的な成功を収めるには至っていません。

しかしながら室温超伝導材料は、コンピューター・チップから電気モーター、電力インフラに至るまで、事実上あらゆる電気機器の性能を劇的に向上させる可能性を秘めています。そして、相次ぐ新たな研究は、材料科学がまさにそのような画期的な進歩を遂げるブレークスルーの入り口に差し掛かっていることを示唆しています。

7月22日、韓国と米国の研究者チーム[1]は、微量の銅を混合した鉛とリンのセラミックを合成することで、「室温での超伝導」を達成したと報告しました[2]。一見この主張が異常なものに思えたのは、彼らが使った素材も製法もシンプルで目新しいものではなかったからです。つまり、Amazonで購入できる炉を使えば、誰でも24米ドル相当のリン、1.30米ドル相当の鉛、0.20米ドル相当の銅で、1キログラムの新素材を製造できてしまいます[3]

ここ数週間の間でも、他の科学者、アマチュア、起業家たちが、彼らの結果の一部を検証し、追加の試みが進行中です[4]。この記事を書いている時点において、ベッティングマーケットでは完全な再現の確率は40%程度とみなされていますが、その一方で、この新しいクラスの材料が、室温での超伝導の暗号を解読する可能性を持っていることを示唆する独立した証拠もあります[5]

興味深いことに、37年前、科学者たちは30ケルビン(-243℃)という記録的な温度で動作し、精製されると58ケルビン(-215℃)で動作するようになる新しい超伝導物質を発見しました。その1年後の1987年には、同様の物質が93ケルビン(-115℃)で超伝導を示し、翌年には別の物質が110ケルビン(-163℃)で超伝導を示しました。またそれから2年経たないうちに、その新しいクラスの材料のいわゆる「臨界温度」は3倍以上に上昇し、1994年には4倍になりました[6]

研究開発エンジンがフル回転している現在、新素材科学における最新のブレークスルーも、同様の軌跡をたどるかもしれません。

 

[1] Quantum Energy Research Centre, Inc., South Korea; CT Basic Research Lab, South Korea; Department of Physics, College of William & Mary, USA; and Hanyang University, South Korea.
[2] Lee, S. et al. 2023. “Superconductor Pb10−xCux(PO4)6O showing levitation at room temperature and atmospheric pressure and mechanism.” arXiv:2307.12037 https://arxiv.org/abs/2307.12037
[3] 2023年8月3日 時点の各成分の市場価格にて。 The “SH Scientific Laboratory Muffle Furnace” commercially available to the public for <$2,000 is an example of a technology that should be able to accommodate the temperature ranges suggested in the methodology section of Lee, S. et al. 2023, cited above.
[4] Sanada, E. 2023. “LK-99: The Live Online Race for a Room-Temperature Superconductor (Summary).” Eirifu. https://eirifu.wordpress.com/2023/07/30/lk-99-superconductor-summary/#sbtable
[5] Quantum Observer. 2023. “Will the LK-99 room temp, ambient pressure superconductivity pre-print replicate before 2025?” Manifold. https://manifold.markets/QuantumObserver/will-the-lk99-room-temp-ambient-pre
[6] Bussman-Holder, A. and Keller, H. 2019. “High-temperature superconductors: underlying physics and applications.” Zeitschrift für Naturforschung. Doi: 10.1515/znb-2019-0103. https://arxiv.org/pdf/1911.02303.pdf

 

 

2. 小型モジュール炉が米国の原子力産業を活性化させる可能性

By Daniel Maguire | @DMaguireARK
Research Associate

 

2022年、世界原子力産業現状報告書(The World Nuclear Industry Status Report)は、過去14年間で、米国の原子力発電の平準化エネルギーコスト(LCOE)[7] が約36%上昇したと指摘しました。これは、以下に示すように、それぞれ約90%、約72%コストが低下した太陽光発電と風力発電の進歩とは対照的です[8]。コスト軌道の違いを生み出しているのは、原子力産業の停滞であり、老朽化したプラントの運転コストはますます高くなっています。

 

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出典:図表は、Lazard Estimates(2021年)の一次データに基づき、『世界原子力産業現状報告』(2022年)280頁に掲載されたもの。情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。

国際エネルギー機関(IEA)は、2050年までにネットゼロ・エミッション(実質ゼロ排出)を達成するためには原子力が不可欠であるとし[9]、原子力のコスト競争力の重要性を強調しています[10]。そして、私たちは、小型モジュール炉 (SMR) の出現がその目標に大きく貢献する可能性があるとみています。

従来の原子力発電所よりも設置面積が小さいため、SMRは工場で組み立てられ、住宅地に近い場所に設置することができます[11]。また、そのサイズとモジュール性により、建設スケジュールが短縮され、ユニット量が増加するにつれてコストが急低下する可能性があります。

米国エネルギー省の先進原子炉開発プログラム(ARDP)は、コスト分担奨励金を通じて先進原子炉の開発を促進することを目的としており、これまでに約26億米ドルの資金を提供しています[12]。同省は、X-energy Xe-100[13]とTerraPowerナトリウム原子炉[14]をそれぞれ2027年と2028年の配備に向けて選定しました。一方、NuScale(ニュースケール)、Westinghouse(ウェスチングハウス)、サム・アルトマン氏のOklo(オクロ)などの企業もSMRに多額の投資を行なっています。当社では、従来の原子力エネルギーのコストが上昇していることが、SMRの必要性を浮き彫りにしているとみています。政府の支援、目標とする配備時期、さまざまな企業からの多額の投資があれば、SMRは米国の原子力産業を活性化させ、2050年までにネットゼロ・エミッションを達成する確率を高めることができるでしょう。

 

[7]平準化エネルギーコスト(LCOE)は、与えられたエネルギー源の生涯コストを測定し、この金額をエネルギー生産量で割ることによって計算される。
[8] Mycle Schneider Consulting Project, Paris. 2022. “The World Nuclear Industry Status Report. 2022.” https://www.worldnuclearreport.org/-World-Nuclear-Industry-Status-Report-2022-.html.
[9] International Energy Agency. 2023. “Net Zero by 2050.” IEA. https://www.iea.org/reports/net-zero-by-2050.
[10] 30年以上ぶりにゼロから建設された米国初の原子炉であるジョージア電力の「Vogtle(ボグル)」原子力発電所が、今週ジョージア州の送電網への供給を開始した。See McCormick, M. 2023. “First new US nuclear reactor in three decades may be among the last.” Financial Times. https://www.ft.com/content/5d8e0c6c-59c9-4b40-806f-604889dd5fb6.
[11] International Atomic Energy Agency. 2023. “What are Small Modular Reactors (SMRs)?” IAEA. https://www.iaea.org/newscenter/news/what-are-small-modular-reactors-smrs. See also X-energy 2023. “TRISO-X Fuel.” X-energy. https://x-energy.com/fuel/triso-x.
[12] Office of Clean Energy Demonstrations. 2023. “Advanced Reactor Demonstration Projects.” Department of Energy. https://www.energy.gov/oced/advanced-reactor-demonstration-projects.
[13] X-energy. 2023. “Xe-100: The Most Advanced Small Modular Reactor. X-energy.”https://x-energy.com/reactors/xe-100.
[14] TerraPower. 2023. “NATRIUM™ REACTOR AND INTEGRATED ENERGY STORAGE.” https://www.terrapower.com/our-work/natriumpower/.

 

 

3. Nvidia Accelerators 担保となり、CoreWeave23億米ドルの資金調達

By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet

 

先週、元暗号通貨マイニング企業でGPUに特化したクラウドサービスプロバイダーに転身したCoreWeave(コアウィーブ)社は、Magnetar Capital(マグネター・キャピタル)やBlackstoneなどが主導する債務融資で23億米ドルを確保しました。CoreWeave社はこの資金で、戦略的投資家の一つであるNvidia(エヌビディア)社が提供するAIアクセラレーターを中心としたインフラを拡張します。そして、興味深いことに、AIアクセラレーターは融資の担保となります。

今年初めに42,100万米ドルのシリーズBラウンドで同社の評価額は約20億米ドルに達しましたが、今回の増資は5倍以上であり、ChatGPTのバイラルな成功を受けて、AIを搭載した製品やサービスの需要が爆発的に増加することを見越したうえで、できる限り多くのAIコンピューティングを確保しようとする競争を際立たせるものです。Nvidia社がCoreWeaveに供給を割り当てたのは、Nvidia社と競合する自社製アクセラレーターの開発に取り組んでいるAmazon、Microsoft、Googleからクラウドサービスプロバイダーの状況を多様化させるためだとの見方もあります。

 

 

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