本レポートは、2024年4月29日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #412」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. 強力なパンチ力を持つMicrosoftの新しいPhi-3小型言語モデル
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Associate
先週、Microsoft社は小型言語モデル（SLM）ファミリーの第3世代となるPhi-3（ファイ３） [1] をリリースしました。精選された教材と合成データを組み合わせてトレーニングされたPhi-3のモデルは、MMLU（大規模マルチタスク言語理解）のような一般知識ベンチマークにおいて、Meta社のLlama 3 8BやAlphabet社のGemma 7Bのなどの同様のサイズのモデルと比較しても、新たな基準を打ち立てています。Phi-3の最小の38億パラメータモデルであるPhi-3 Miniは、2022年と2023年のはるかに大きなフラッグシップモデルのMMLUスコアとほぼ一致し、Llama 2 70Bの68.9%[2] および、GPT-3.5の70.0%[3]と比較しても68.8%を記録しました。
言語モデルが広範かつ急速に改良される中、SLMのサイズはますます独特で重要な要件に対応しています。例えば、Phi-3の亜種は38億から140億のパラメータしかありませんが、GPT-4やLlama 3 400Bのような大型言語モデルは、それぞれ1兆7,000億[4] と4,000億[5]を超えるパラメータを持っています。つまり、Phi-Mini(ファイミニ)と比較すると、それぞれ400倍、100倍以上大きいことになります。サイズが小さくなれば、SLMの推論や微調整をより安価に、また消費者向けノートパソコンやスマートフォン[6]など、より幅広いデバイスで行なうことができるようになります。SLMの性能が向上すれば、低コストで携帯可能なSLMは、日常のスマート電子機器上でAIをローカルに実行するのに役立つはずです。
とはいえ、小型モデルには、より複雑なタスクに重要な計画機能や推論機能が欠けています。その結果、大型モデルと小型モデルの両方を活用するハイブリッド展開が、これからの熾烈な競争に勝つはずです。
2. ロボタクシーがTesla社の決算説明会の主役に
By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies
先週の決算説明会で、Tesla社は自社の自動運転技術について、これまで以上に自信を持っているように聞こえました[7]。同社のオートパイロット部門の責任者であるアショク・エルスワミー氏は、Teslaの完全自動運転（FSD）ソフトウェアの最新バージョン（手動調整モデルから、ビデオデータから学習するより堅牢なニューラルネットワークへの移行が含まれる）により、同社はモデルのアーキテクチャ、サイズ、データ、およびコンピューティングなどの拡張における進捗状況を、より高い精度で予測できるようになると説明しました。
経営陣はまた、同社が車両群を更新してサービスとしての分散型推論を提供することにも自信を持っているようでした。サービスとしての分散型推論を個人所有の車両に統合すると、Wi-Fi接続が不安定であったり、所有者が活動休止している間のスケジュールの設定がボトルネックになるなどの課題が生じる可能性がありますが、ロボタクシー車両はそのいくつかの課題に対応できる可能性があります。安定したインターネットアクセスを備えた充電のための専用インフラと、車両の運転時間が組織的に整理されることにより、推論サービスをサポートする組織構造が実現される可能性があるのです。
ARKの分析によると、ロボタクシーの収益は、現在の非常に低いレベルから、今後5～10年で8～10兆米ドルにまで拡大する可能性があります。オープンソースのテスラモデルでは、ロボタクシーが同社の将来の企業価値の3分の2以上に貢献すると推定しています[8]。
ここで潜在的な変革について考えてみましょう。モデル3は通常、交通費の一括前払いとして4万米ドル程度で販売されていますが、Tesla社のライドヘイル（自動運転配車）サービスにモデル3を組み込めば、年間10万米ドルの経常収益を生み出す可能性があります。仮に各ロボタクシーが乗客を年間10万マイル以上輸送するとして、車両稼働率がスケールアップすれば、1マイルあたりの車両運用コストは下がるはずです。その結果、Tesla社の料金は、1マイルあたりわずか1米ドルとUber社の料金より大幅に安くなり、ライドヘイル（自動運転配車）サービスの市場を大幅に拡大することができます。Waymo（ウェイモ）社はこれまで自動運転配車への道をリードしてきましたが、データの優位性と垂直統合により、Tesla社がこの勝者独占市場でより迅速に規模を拡大できるとみられます。より詳しい分析については、ARKが更新したテスラ評価モデルにご期待ください。
3. ビットコイン半減後、マイナーに貴重なライフラインを与えたRunes
Lorenzo Valente | @ARKInvest
Research Associate
ビットコイン・ブロックチェーンを通常の取引以外にも活用しようとする実験が数多く行なわれています。一部の愛好家は、Ordinals（オーディナルズ、つまりBRC-20）やBitcoin Layer2を使ってビットコイン・ブロックチェーンの使い勝手を向上させたいと考えています。先週のビットコインの半減期と並行して開始されたRunes（ルーン）は、ビットコイン上で代替可能なトークンを作成する効率的な方法を可能にしています。Ordinalsの創設者であるケーシー・ロダーモア氏によって開発されたRunesは、半減期後の熱狂を引き起こし、人々は法外な手数料を支払って新しい代替トークンをミント（鋳造）し、購入しました。そして数日間、Runesはビットコインのブロックチェーン上の取引の大半を占めていました。
出所： Dune2024 [9] 本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券や暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
Runesイニシアチブはビットコインマイナーにとって予期せぬ恵みであり、1億3,500万米ドルのマイナー手数料[10]を生み出し、半減期後の最初の1週間で従来のブロック補助金が50％削減されたことを相殺する以上の利益をもたらしました。短期的には盛り上がりを見せましたが、Runesの主な使用例であるミームコインの活動がこの勢いを持続させることはないでしょう。とはいえ、マイナーにとっては、新たな収益源が待っているという希望と安心感を与えてくれています。
[1] Beatty, S. 2024.“Tiny but mighty: The Phi-3 small language models with big potential.” Microsoft.
[2] Touvron, H. et al. 2023. “Llama 2: Open Foundation and Fine-Tuned Chat Models.” arXiv.
[3] OpenAI et al. 2024. “GPT-4 Technical Report.” arXiv.
[4] Patel, D. and Wong, G. “GPT-4 Architecture, Infrastructure, Training Dataset, Costs, Vision, MoE.” Semianalysis.
[5] Meta. 2024. “Introducing Meta Llama 3: The most capable openly available LLM to date.”
[6] Abdin, M. et al. 2024. “Phi-3 Technical Report: A Highly Capable Language Model Locally on Your Phone.” arXiv.
[7] Seeking Alpha Transcripts. 2024. “Tesla, Inc. 2024 Q1 – Results – Earnings Call Presentation.”
[8] Keeney, T. 2023. “ARK’s Expected Value For Tesla In 2027: $2,000 Per Share.” ARK Investment Management LLC.
[9] Dune. 2024. “Runes Ecosystem [Work In Progress...]”
[10] Chawla, V. 2024. “Runes generate over $135 million in fees in first week on Bitcoin network.” The Block.
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