By ARK Invest

本レポートは、202463ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #417」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

 

1. ロングリードシーケンスとシングルセルゲノミクスが 神経精神疾患の解明に重要な手掛かりをもたらしている

By Nemo Marjanovic, PhD | @ARKInvest
Research Analyst

 

ゲノミクスの進歩は、神経精神疾患や神経変性疾患に対する私たちの認識を大きく変えつつあります。PsychENCODEコンソーシアムの取り組みの一環として、Pacific Biosciences (パシフィック・バイオサイエンシズ/PACB)社や10x Genomics(テンエックス・ゲノミクス/TXG)社のような企業が先導する技術的発見は、自閉症スペクトラム障害(ASD)、統合失調症、双極性障害のような疾患の根底にある複雑な遺伝的・分子的メカニズムを解明する上で極めて重要であることが証明されつつあります。

PacBio社のロングリード・ディープシーケンス技術により、研究者たちは214,500を超える転写産物のアイソフォームを表面化させることができ[1]、その制御や、脳の発達だけでなく神経精神疾患の遺伝的リスクへの影響が明らかになりました。そして、その研究チームは、特定のアイソフォームの調節異常がこれらの疾患と相関している可能性を発見したのです。これは、新たな治療標的につながる可能性のある洞察です。

10x Genomics社の技術により、科学者は単一細胞レベルでの遺伝子発現と制御パターンをプロファイリングできるようになりました。単核RNA-seqATAC-seqを利用した研究では、様々な脳細胞タイプにおける遺伝子発現をマッピング[2]、統合失調症や自閉症などの疾患に関連する脆弱性や転写変化を明らかにしました。このような詳細なデータは、疾患関連遺伝子や変異体によって影響を受ける細胞タイプを特定するのに役立ち、精密医療への道を開くものです。

PsychENCODEの飛躍的な進歩は、神経疾患の遺伝的構造を明らかにし、標的を絞った診断法や治療薬の開発を後押ししています。これらの技術は、遺伝子変異を特定の細胞タイプに関連付け、その制御メカニズムを理解することで、神経精神疾患に対するより個別化された効果的な治療法の基礎を築きつつあります。

 

2. AIコンピューティングの急成長を受け、ムーアの法則は本当に死んだのか?

By Sam Korus | @skorusARK
Director of Research, Autonomous Technology & Robotics

 

ムーアの法則によれば、トランジスタ密度は1年半から2年ごとに着実に倍増するはずですが、ライトの法則によれば、成熟した技術であっても、コストの低下が再び加速すれば、規模を拡大し続けることができるはずです。

何年もの間、アナリストたちはムーアの法則は間違っている、もしくは死んでいると結論づけてきました。しかし、AIのおかげで、コンピューティングはスーパーサイクルに入ったようです。

過去10年間、バッテリー技術はこの概念の重要な先例となってきました。数十年にわたるコスト低下の後、リチウムイオン電池の価格は横ばい状態になりましたが、イーロン・マスク氏が予想に反して家電用電池を利用し、電気自動車(EV)を大規模に生産しました。長距離走行が可能な1台の電気自動車には、何千台ものスマートフォンよりも多くのバッテリー・ストレージを搭載されており、EVの普及が遅れても、バッテリー需要は累積的に倍増し、ライトの法則に関連するコスト低下が十分に促進される可能性があることを示唆しています[3]

半導体に関しては、トランジスタは進歩を追跡するための適切な指標ではないかもしれません。下図に示すように、ハードウェアとソフトウェアのコストが複合的に低下することで、ムーアの法則が示唆するよりも急速にコンピューティングのコスト全体が低下する可能性があります。

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SNL_06-03-Chart-02

*TFS-Daysは、モデルのトレーニングに必要な計算量の指標。ライトの法則とは、生産台数が累積で2倍になるごとに、コストは一定の割合で低下するというもの。出所:ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は、202419日時点の様々なデータソースに基づいており、リクエストに応じて提供が可能です。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。

 

3. 米連邦航空局(FAA)によるAmazonのドローン承認は、コスト効率の高い航空配達につながるか?

By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies

 

先週、Amazon社は 、連邦航空局(FAA)が同社のドローンの目視外飛行計画を承認したと発表しました[4] 。これは規制面での勝利であり、当社のリサーチによると、ドローン配送の規模を拡大した場合の価格が1米ドル未満[5]にまで引き下げられる可能性があります。 Amazomによると、FAAの承認により、テキサス州カレッジステーションでの事業拡大が可能になるということです。このニュースは、同社が4月にカリフォルニア州での事業を閉鎖する[6]という決定を下したことを受けてのものです。

ARKのリサーチでは 、ラストワンマイル(届け先への最後の配送区間)のドローンやロボットによる配送市場は、アメリカのショッピング体験を一変させ、2030年には配送収益が4,500億米ドルに達する可能性があると推定 [7]しています。

 

4. TelegramTON Networkとの新たな提携が暗号資産分野に大きな価値を生み出す可能性

By Lorenzo Valente | @ARKInvest
Research Associate

 

2018年のICO(イニシャル・コイン・オファリング)バブル[8]の終焉時に、Telegram社は「Telegram Open NetworkTON)」ブロックチェーン[9]立ち上げ、同社のネイティブ・トークン「TON」を販売して、17億米ドルを調達 [10]しました。しかし、201910月、米証券取引委員会(SEC)は この売却を違法とみなし[11] 、同社を訴えました。これを受け、Telegram社はブロックチェーン・プロジェクトとの関係を断ち切りました。それにもかかわらず、ユーザーに好評だったこのプロジェクトはThe Open Networkと呼ばれるコミュニティ主導の取り組みとして継続されました。

そして、20239月にTelegramTONが、初のセルフ・カストディ・ウォレットを共同で発表[12]したことで、TONへの幅広い関心が再浮上しました。その直後、Telegram社のCEOであるパーヴェル・ドゥーロフ氏は、TONTelegramのメッセージングアプリに統合することを約束[13] 、ユーザー、開発者、チームがTON上で構築するインセンティブとして約3,000TONトークンを提供しました。パーヴェル氏はまた、Telegramがそのネイティブブロックチェーンを通じてTONで支払われる広告収入の50%をコンテンツクリエイターと分配すると発表しました。

2024419日、Tether(テザー)社は TON上でUSDTをネイティブに発行することを発表[14] 、以下に示すように、Total Value LockedTVL)とユーザートランザクションの急増を生み出しました。

SNL_06-03-Chart-03

SNL_06-03-Chart-04

出所:202462日現在のToken Terminal。検索用語:"Active (daily) Users." https://tokenterminal.com/terminal/projects/the-open-network .202462日現在のDeFillama。検索語「Total Value Lockedhttps://defillama.com/chain/TON 。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券または暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。

 

モバイル・ファーストのアプローチ、大規模な暗号通貨ネイティブ・ユーザー・ベース、9億人を超えるユーザーへの直接配信により、Telegram社は暗号資産分野に大きな価値をもたらす可能性があります。TONはまだ生まれたばかりですが、Pantera Capital(パンテラ・キャピタル)やその他の投資家は、このDeFiエコシステムの提携に大きな可能性を見出しています。TONは、Telegram上の有意義なネットワーク効果と、そのシャード型ブロックチェーン設計によって提供されるスケーラビリティ(拡張性)から恩恵を受ける可能性があります。 

WeChatのような、金融化された暗号資産ネイティブのスーパーアプリが登場する準備が整っているのでしょうか?

 

 

 

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[1] Patowary, A. et al. 2024. “Developmental isoform diversity in the human neocortex informs neuropsychiatric risk mechanisms.” Science.
[2] Ruzicka, W.B. et al. 2024. “Single-cell multi-cohort dissection of the schizophrenia transcriptome.” Science. Wamsley, B. et al. 2024. “Molecular cascades and cell type–specific signatures in ASD revealed by single-cell genomics.” Science.
[3] Winton, B. 2019. “Moore’s Law Isn’t Dead: It’s Wrong. Long Live Wright’s Law.” ARK Investment Management LLC.
[4] Amazon. 2024. “Amazon drones can now fly farther and deliver to more customers following FAA approval.”
[5] ARK Investment Management LLC. 2024. Big Ideas 2024: Disrupting the Norm, Defining the Future.”
[6] Palmer, A. 2024. “Amazon ends drone program in California as it eyes Arizona launch.” CNBC.
[7] ARK Investment Management LLC. 2024. Big Ideas 2024: Disrupting the Norm, Defining the Future.”
[8] Morris, D.Z. 2023. “CoinDesk Turns 10: The ICO Era – What Went Right?” Consensus Magazine.
[9] En.cryptonomist.en. 2024. “TON: What is The Open Network's crypto?” Crypto News.
[10] Liptak, A. 2018. “Telegram has raised a total of $1.7 billion from its two pre-ICO sales.” The Verge.
[11] S. Securities and Exchange Commission. 2019. “U.S. SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION Against TELEGRAM GROUP INC. and TON ISSUER INC.” 19 Civ. 9439 (PKC).
[12] Liao, R. 2023. “Telegram adds self-custodial crypto wallet worldwide, excluding the US.” TechCrunch.
[13] Khlebnikova, Y. 2024. “Telegram's Pavel Durov Announces TON Blockchain Overhaul.” Techopedia.
[14] Khatri, Y. 2024. “Tether brings USDT and gold stablecoins to the TON blockchain.” The Block.

 

 

 

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