By ARK Invest
本レポートは、2024年6月17日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #419」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. 生成AIに照準を合わせた「Apple Intelligence」
By Nick Grous | @GrousARK
Associate Portfolio Manager
先週開催されたワールドワイド・デベロッパー・コミュニティ・カンファレンス(WWDC)において、Apple社は同社のデバイス全体に機械学習を組み込むことを目的としたApple Intelligenceフレームワークを発表しました。AIの統合に向けた戦略的な転換となるApple Intelligenceは、よりパーソナライズされた直感的なユーザーエクスペリエンスを提供できるはずです。
App IntentsはSiriにシームレスに統合され、Appleのエコシステム内の無数のアプリケーション間の相互作用を調整するオペレーティングシステムを作り出します。App Storeのアプリケーションを活用することで、Siriは音声をテキストコマンドで補強し、より一貫性のある相互接続されたユーザーエクスペリエンスを提供する態勢を整えており、ユーザーのデバイスとの関わり方を一変させる可能性があります。
単体の生成AIチャットアプリとは異なり、Apple社の統合されたアプローチは、その堅牢なハードウェアとソフトウェアのエコシステムを活用しているため、単体のアプリでは到底実現できないような統合されたAIエクスペリエンスをもたらします。とはいえ、同社のエコシステムに限定されると、Appleユーザーは、インターネット黎明期のAOLのように、壁に囲まれた庭の外側で出現する、より多様なAIイノベーションから孤立してしまう可能性があります。生成AIの開発者たちは、オープンなインターネット上でニッチなアプリケーションを使って急速にイノベーションを起こしており、Apple社の厳重に管理されたエコシステムでは採用が遅れてしまう可能性がある最先端の機能と性能をユーザーに提供しているからです。
そのリスクを軽減するため、Apple社はOpenAI社と提携し、ユーザーがChatGPTに直接クエリを実行することができるようにしました。短期的には、Apple社は自社の小規模モデルの性能が向上するまで、OpenAIやAnthropicのような最先端のモデルを幅広くホストすることになるでしょう。
消費者向けAIの未来に関するARKの早期の見解について詳しく知りたい場合は、当社の新しいリサーチ記事、「Generative AI: A New Consumer Operating System」をご一読ください。
2. Tesla社の歴史的な株主総会の前夜、ARKが2029年版Tesla評価モデルを発表
By Tasha Keeney, CFA, Sam Korus, & Daniel Maguire, ACA | @ARKInvest
Autonomous Technology & Robotics Team
先週水曜日、当社はARKの2029年オープンソース・テスラ評価モデルの更新版を発表し、その前提条件を詳述した記事を公開しました[1]。 最も重要な点は、下図で示すように、2029年にロボタクシー事業が同社の企業価値と収益の90%を生み出すと試算したことです。GitHub[2]で入手可能なこの私たちのオープンソースモデルには45の独立変数が組み込まれており、ユーザーはこれを変更して、さまざまな仮定の下でのTesla社の株価期待値を確認することができます。皆様からのフィードバックをお待ちしております。
出所: ARK Investment Management LLC、2024年 このARKの分析は、様々なデータソースに基づいており、リクエストに応じてご提供可能です。予測は本質的に限定的であり、投資判断の根拠として依拠することはできず、当社のバイアスと長期的なポジティブビューを反映したモデリングに基づいて構築されています。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。
先週木曜日、Tesla社は年次株主総会を開催し、株主はイーロン・マスク氏の2018年CEO業績賞[3]の2度目の承認を行ないました。今後3~4年の間に交通手段が人間中心から自動運転へと進化する中で、イーロンのリーダーシップは、同社にとって極めて重要であると私たちは考えています。2018年合意に基づき、イーロンは権利行使後5年間はオプションを行使することができず、モデル3の生産拡大よりも意義深いと私たちが考える変革期に、同社でのリーダーシップを確保することができます。
株主総会の中でイーロンは、同社の完全自動運転(FSD)ソフトウェアにより、静止物体との衝突がほぼすべて解消され、ソフトウェアのアップデートのたびにパフォーマンスが最大10倍まで向上していると述べました。最近、テスラは限定された数の顧客に対してFSDv12.4をリリースし、ハンドルの煩わしさを解消し、限定的にハンズフリー走行[4]を可能にました。私たちは、FSDの進捗状況をモニターしており、8月の同社のロボタクシーの発表を心待ちにしています[5]。
重要なのは、イーロンが、Tesla社のヒューマノイドロボットであるOptimus(オプティマス)が、長期的には約25兆米ドルの評価を受ける可能性があることを指摘したことです。これは、同社の自動運転タクシープラットフォームの価値が約5兆米ドルと見込まれることの5倍に相当します[6]。同社が2029年までにOptimusを販売しないという保守的な前提のもとで私たちはオープンソースモデルを更新していますが、当社のより長期的なリサーチでは、ヒューマノイドロボットは世界規模で24兆米ドルの収益機会をもたらす [7]ことが示唆されています。今後数ヵ月、そして数年にわたり、ヒューマノイドロボットに関する当社のリサーチをさらにご紹介できることを楽しみにしています。
3. ビットコインの価格は健全なオンチェーンファンダメンタルズを土台に安定化しつつある
By David Puell | @dpuellARK
Research Associate
5月23日、米国証券取引委員会(SEC)は、スポットイーサリアム(ETH)ETFの証券取引所規則変更提案(フォーム19b-4)を承認し、スポットETH ETFの登録承認(フォームS-1)への道を開きました。おそらく今夏に承認されるでしょう[8]。5月の前月比では、ETH/USDとETH/BTCの価格ペアがそれぞれ24.8%と12.1%上昇しました。注目すべきは、2022年10月以来、ETHがビットコインに対して最も良い月だったことです。
出所: ARK Investment Management LLC、2024年 チャートデータはGlassnode(グラスノード)2024年5月31日時点の情報。特定の用語の詳細については、本資料末尾の用語集をご参照ください。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券や暗号資産の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
5月中、ビットコインのファンダメンタルズは良好に保たれ、30日ベースの長期保有者供給量[9]は96,417ビットコインとなり、3月末の四半期中に流出した後、プラスに転じました。重要なことは、下図で示す通り、ビットコインの価格が3月四半期の流出時と5月の流入時に65,000米ドルを超えて安定したことです。
出所: ARK Investment Management LLC、2024年 チャートデータはGlassnode(グラスノード)2024年5月31日時点の情報。特定の用語の詳細については、本資料末尾の用語集をご参照ください。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券や暗号資産の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
最後に、ビットコインネットワークの年間実現損益比率は、下図で示す通り4.6で5月を終え、ピーク時に約6.4以上を記録した過去の強気相場と比較すると「中立」な水準となりました。ビットコインの健全性に関するオンチェーン情報については、ARKのThe Bitcoin Monthlyをご覧ください。
出所: ARK Investment Management LLC、2024年 チャートデータはGlassnode(グラスノード)2024年5月31日時点の情報。特定の用語の詳細については、本資料末尾の用語集をご参照ください。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券や暗号資産の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
4. 結局のところ、AIモデルには「Attention」とGPUが必要なのか?
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
2017年、「Attention is All You Need」と題された論文は、大規模言語モデルの復活の起爆剤となり、テクノロジー市場と金融市場の両方で興奮を呼び起こした[10]トランスフォーマー・アーキテクチャが紹介されました。多くの点で注目に値するAIトランスフォーマーは、各トークン(テキストの単語サイズに近い塊)を文章内の他のすべてのトークンに関連付けるために「Attention(アテンション)」と呼ばれる計算コストの高いメカニズムに依存しています。
Rui-Jie Zhu氏とその同僚ら[11]が発表した新しい論文では、この「Attention」に疑問が投げかけられ、小型デバイスで強力なモデルをホストできるようになる可能性のあるAIの性能が飛躍的に向上したことが指摘されています。これにより、グラフィック・プロセッシング・ユニット(GPU)が主流のAIハードウェア体制が揺らぐかもしれません。
「Attention」はどのように機能するのでしょうか。トークンが生成されるたびに、変換モデルは本文中の各トークンの間の関係を再計算しています。この文章の中のある単語を読んで、一時停止し、その単語が最初の段落の最初の文の「All」と「Need」の関係を変えたかどうかを評価することを想像してみてください。一見、認知的な無駄を生み出しているように見えますが、これまではこのプロセスが、利用可能な最良の言語的/計算的アプローチでした。
対照的に、Zhu氏らの研究は、このアーキテクチャを、新しいトークンとそれ以前のすべてのトークンとの関係を順番に計算するアーキテクチャに置き換える方法に焦点を当てています。モデルのパラメータを1、0、-1に丸めるという新しいアプローチと組み合わせると、パフォーマンスが劇的に向上します。
著者らは、このタイプのモデルは、Nvidiaアクセラレーター上で従来の変換モデルをトレーニングするのと同じくらい計算コストが安く、より大きなGPT-4クラスのモデルであれば、おそらくよりさらに安価であることを示しています。さらに重要なことに、新しいモデルはトレーニング後に、より高速に、かつ、より低コストで動作することを示しています。実際、以下の2つのグラフに示すように、モデルサイズに関係なく、このアーキテクチャは10分の1のメモリしか必要とせず、Nvidiaハードウェアで実行した場合でも、5倍高速に応答します。
出所: ARK Investment Management LLC、2024年(Zhuらのデータに基づく。)本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券や暗号資産の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
出所: ARK Investment Management LLC、2024年(Zhuらのデータに基づく。)本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券や暗号資産の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
著者らは、こうしたタイプの操作用にカスタム構築された演算ハードウェアが極めて効率的に動作することを実証しています。さらに、現在のGPUアーキテクチャは「Attention」の計算に必要な並列処理を中心に設計されているため、この画期的な進歩は既存のGPUプロバイダーを油断させる可能性があります。著者らは、「FPGA」と呼ばれる簡単にプログラム可能なチップを使用して、13億のパラメーターモデルが人間の脳と同じ限界エネギーを消費しながら、人間の読書速度でトークンを生成できることを示しています。完全なチップ設計と製造であれば、これよりはるかに優れたものができるはずです。
このブレークスルーはまだ初期段階ですが、AI研究者たちはこの新しいアーキテクチャを使ってモデルをトレーニングし、AIコストの低下が加速する可能性があります。やがて、かつてはデータセンターのパワーを必要としていたAIが、ラップトップで、その後スマートフォン、スマートウォッチ、スマートグラスでも動作できるようになるかもしれません。
[1] Keeney, T. et al. 2024. “ARK’s Expected Value For Tesla 9n 2029: $2,600 Per Share.” ARK Investment Management LLC.
[2] ARK Investment Management LLC. 2024. “ARK-Invest-Tesla-Valuation-Model.” GitHub.
[3] Tesla. 2024. “Tesla Shareholder Meeting Starts at 3:30pm CT.” X.
[4] Whole Mars Catalog. 2024. “Tesla FSD 12.4.1 drives from Santana Row to Stanford.” X.
[5] Musk, E. 2024. “Tesla Robotaxi unveil on 8/8.” X.
[6] On a Market Capitalization Basis.
[7] ARK Investment Management LLC. 2024. Big Ideas 2024: Disrupting the Norm, Defining the Future.”
[8] これらのS-1フォームが承認されれば、ETH ETFは取引を開始することが可能。6月13日、ゲーリー・ゲンスラーSEC委員長は、これらの承認が今夏にも行なわれる可能性を示唆した。 Beyoud, L. 2024. “Ether ETF Could Get Approved This Summer, SEC’s Gensler Says.” Bloomberg参照。
[9] LTH供給とは、155日以上動いていないビットコインを指す。
[10] Vaswani, A. et al. 2017. “Attention is All You Need.” arXiv.
[11] Zhu, R. et al. 2024. “Scalable MatMul-free Language Modeling.” arXiv.
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