By ARK Invest
本レポートは、2024年11月11日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #439」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. トランプ氏の当選が、ビットコインのようなデジタル資産に飛躍的な成長の時代をもたらす可能性
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet
先週、ドナルド・トランプ氏は、暗号資産推進派を公言する初の候補者として米国大統領に選出され、下院の266人の暗号資産推進派の候補者と上院の18人の暗号資産推進派の候補者に加わりました [1]。2025年1月になれば、議会の両院における暗号資産推進派の議員の数は、暗号資産反対派の議員の数を上回ることになるでしょう。
ビットコイン価格が記録的な高騰を見せるなか、新政権は米国におけるデジタル資産の規制をより明確にする構えのようです。その可能性としては、米国証券取引委員会(SEC)がより暗号資産に友好的になり、ゲンスラー委員長の「執行による規制」が終わり、Circle(サークル)やKraken(クラーケン)のような後発のデジタル資産企業に対する新規株式公開(IPO)の窓口が再び開かれ、待望のデジタル資産関連法案が可決されることなどが挙げられます。
すでに下院で承認されている「21世紀のための金融イノベーションとテクノロジー法(FIT21)」と「2023年ステーブルコイン決済明確化法」が上院で可決されることが、立法議題のトップになるかもしれません。両法はそれぞれ、SECと商品先物取引委員会(CFTC)の管轄権を明確化し、デジタル資産とステーブルコインの取引と保管に関する包括的な規制の枠組みを提供するものです。伝統的な金融機関がデジタル資産を保管することを妨げてきた「SEC職員会計公報121号(SAB-121)」の廃止も、立法上の優先事項になる可能性が高いと私たちはみています。
トランプ次期政権は、デジタル資産業界に大きな追い風をもたらし、米国におけるデジタル資産のイノベーションを再燃させる可能性が高いというのが当社の見解です。
ビットコインやイーサ(Ether)のような暗号通貨と呼ばれるデジタル資産は、比較的新しい投資であり、他の投資よりも変動が大きく、独自のリスクがあります。デジタル資産は、中央当局や銀行を介さずに運用され、いかなる政府の後ろ盾もありません。間接的であっても、デジタル資産は非常に高いボラティリティに見舞われる可能性があります。デジタル資産は法定通貨ではありません。連邦政府、州政府または外国政府は、デジタル資産の使用および交換を制限する可能性があります。デジタル資産取引所は、詐欺、技術的不具合、ハッカーまたはマルウェアにより、運営停止または永久的に閉鎖される可能性があります。
ARKは、デジタル資産への投資を検討している投資家に対し、投資前に金融専門家に相談することを強く推奨します。デジタル資産に関するすべての記述は、あくまでも当社が保有する信念および見解であり、当社がデジタル資産の購入、売却、保有を推奨するものではありません。過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
2. 次期政権が国防ビジネスを変革する可能性
By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies
米国の国防ビジネスは、破壊的な転換期に達しているようです。例えば、従来の防衛産業におけるプライム企業は、現代の戦争に不可欠な低コストで機敏なAI対応ドローンを提供できる体制にはありません。費用対効果が高く、技術主導のソリューションへ向かう動きが進む一方で、ウクライナや中東での戦争により、手頃な価格で適応性のある防衛兵器や戦略への切迫感がさらに高まり、加速しています。
効率的な支出を重視するトランプ政権は、この勢いをさらに加速させる可能性があります。イーロン・マスク氏のようなイノベーターから助言を受け、米国国防総省は新技術の開発、導入、採用を加速させることができるでしょう。SpaceX社が固定価格契約とアジャイル開発によって航空宇宙産業にパラダイムシフトをもたらしたように、国防契約も大きな変革を遂げる可能性があります。
その結果、かねてより革新的なテクノロジーに特化してきた企業が、防衛関連の大手企業にとっては大きな逆風となるかもしれません。Shield AI(シールドAI)、Anduril(アンドゥリル)、Kratos(クラトス)のような企業こそが、主要な受益者となっていく可能性があるのです。
3. 米大統領選の結果はM&Aの潜在的な復活を意味し、イノベーションとディスラプターにとって好影響をもたらす
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
米国大統領選挙の余波を受けて、資本市場は大きな変化に備えています。なかでも、最も影響力があるのはM&A(合併・買収)活動に対する連邦取引委員会(FTC)の規制が緩和されることであり、これはイノベーションのあらゆる分野に波及する可能性があります。
下図に示すように、近年、M&A活動は歴史的な低水準で低迷しています。米国株式市場の価値と比較すると、M&A件数は1992年以来見られなかった水準にまで低下しているのです。
出所: 2024年11月8日時点の世界取引所連合会および IMAA研究所のデータに基づく。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
しかし、過去4年間でFTCがM&Aを阻止する慣行が広まってきたことを考えれば、活動の減少は驚くべきことではありません。例えば2022年にFTCは、小規模のVRフィットネスゲーム開発会社を買収しようとしたとしてメタ社を訴えました[2]。
大手の既存企業とディスラプター(新興の創造的破壊企業)、どちらがM&Aの減少でより多くの利益を受けるでしょうか?その答えは、特にイノベーションの分野では、やや直感に反します。
大手企業が企業買収を行なうと、しばしばわずかな損害を被ります。多くの企業は、買収額が高すぎたり、統合に苦労したりするからです。しかし、たとえ競合他社が革新的な企業に対して過剰な金額で買収を行なったとしても、破壊的テクノロジーは変化を加速させ、競争力学を変化させる可能性があるため、大手の既存企業はより大きな脅威にさらされる可能性があるのです。
このシナリオは、古典的な「囚人のジレンマ」のようなものです。つまり大手企業が買収を一切進めなければ全体として利益を得ることができ、財務基盤が弱く、流通に問題を抱えるディスラプターの低迷や、破綻を招きます。しかし、大企業同士が共謀せず、つまり買収を控えることで合意しなければ、各社は自社の利益のためだけに行動することになり、多くの場合、すべての企業が不利益を被ることになります。要するに、FTCの厳格な政策は「密告禁止」ルールを強制し、事実上買収を抑制し、その過程でディスラプター(新興企業)よりも大手の既存企業を優遇しているのです。
M&A活動が再び活発化すれば、イノベーションの状況は大きく変わるかもしれません。M&Aの増加により、公開株式市場から一部の小規模企業が姿を消す可能性はありますが、同時に無形資産の戦略的価値に基いて、革新的な上場企業の価値の発見と構造的な評価下限の確立もされることになります。
さらに、M&Aの脅威があるだけで、革新的な企業は資金調達の柔軟性が高まります。これは、潜在的な投資家に対して、実行可能な出口戦略と大きなリターンの可能性を示し、投資を促してさらなるイノベーションを加速させることになります。
選挙結果を踏まえると、連邦取引委員会における政権交代の可能性が、M&A活動の復活を呼び起こすきっかけとなるかもしれません。M&Aは、大手既存企業と破壊的イノベーター双方にとって潜在的に大きな影響を及ぼし、競争の場を平等にし、結果としてよりダイナミックでイノベーション主導の市場が育成される可能性があるのです。
4. トランプ大統領はイノベーション、競争、予防のための市場主導型アプローチで医療を変革するか?
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
トランプ次期政権は、医療分野に大幅な変更を加える可能性があります。当社のリサーチでは、様々な前向きな動きがなされる可能性があることが示されています。一般的には、新政権は医療を競争とイノベーションの方向に向ける可能性があると考えられます。トランプ大統領は、医療保険改革法(ACA:オバマケア)を廃止する代わりに、保険の選択肢をより柔軟にし、短期医療保険制度を拡大し、価格の透明性を高めて競争を促し、保険料を引き下げることで、ACAを改善するかもしれません。さらに、改革によって州をまたいだ保険販売が促進され、消費者の選択肢が増え、コストが削減される可能性もあります。こうした変化は消費者の選択を優先させるだけでなく、保険会社がより費用対効果の高い個別化されたプランでイノベーションを起こす動機にもなるはずです。
また、新しい治療法の承認を加速させるためにFDAを近代化することも可能性のひとつです。規制上のハードルを減らすことで、FDAはより競争力のある医薬品業界を創り出し、遺伝子編集、精密医療、AI診断の承認を加速させることができます。こうした変更によって、命を救う治療へアクセスが迅速化されるため、政府の効率性を高めるというトランプ次期大統領の全体的な目標にも合致すると私たちは考えています。
新政権はまた、AI、ゲノム、その他のデジタルツールを活用し、受動的な「病気治療」から能動的な「予防医療」への移行を促進するヘルスケアイニシアチブを支援することもできます。早期発見と治療的アプローチを重視し、メディケアに薬価交渉を認めることで、病気を根本から治療する画期的な治療法に投資する資金を確保し、最終的には長期的なコストが削減される可能性があります。
最後に、例えばメディケアの薬価を国際的なベンチマークに連動させるなどの医薬品の価格設定改革は、医療へのアクセスを向上させる可能性があると考えられます。規制緩和、競争、予測医療を組み合わせることで、米国の医療は、慢性疾患の管理よりも健康と長寿を優先した、持続可能な患者中心のモデルに変貌する可能性があるでしょう。
[1] Stand with Crypto. 2024. “Crypto election updates.”
[2] U.S. Federal Trade Commission. 2022. “FTC Seeks to Block Virtual Reality Giant Meta’s Acquisition of Popular App Creator Within.”
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