By ARK Invest
本レポートは、2024年11月25日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #441」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. トランプ氏勝利で勢いづくビットコイン法案
By David Puell | @dpuellARK
Research Associate
今年の8月、ARK Disruptはシンシア・ルミス上院議員の主導[1]によるビットコイン法案[2] (別名「2024年国家的な投資最適化によるイノベーション、テクノロジー、競争力の強化法案」)の導入を取り上げました。この法案により、「戦略的ビットコイン準備金(SBR)」が確立[3]され、また、SBRをサポートするために、米国財務省は米国全土に分散型ネットワークを構築して、安全な保管施設でビットコインを保護することになります。
ドナルド・トランプ氏の大統領選勝利とビットコイン価格の史上最高値への急騰により、ビットコイン法案への関心が高まっています[4] 。トランプ次期大統領は、アメリカの経済と技術の優位性を確保するために必要な大胆な行動に重点を置いており、その中にはビットコインを国家備蓄に加えることも含まれているのです。
ビットコイン法案には、5年間で最大100万ビットコインを取得し、年間購入量を20万ビットコインに制限する計画が含まれています。現在の価格約10万米ドルでは、このプログラムは約1,000億米ドルの費用がかかります。財務省はビットコインを最低20年間保有し、その後売却して連邦債務の返済に充てる計画です。
ビットコイン購入の資金を調達するため、同法は連邦準備制度理事会(FRB)の余剰資金を再配分し、FRBの金券の評価額を1オンスあたりの簿価42.2米ドルから現在の約2,500米ドルの市場価格[5]まで60倍に調整することを提案しています。また、ルミス上院議員は、SBRの資金調達と米国の準備金の多様化のために、米国が金準備金の一部を売却することを検討するよう提案しています。
準備金の多様化を支援するための他の立法措置も具体化しつつあり、米国のSBRが承認される確率が高まっています。例えば、ペンシルベニア州は、州レベルのSBRを創設する「ビットコイン権利法案」を可決し[6]、他の州が追随すべき大胆な模範を示しました。2024年11月22日現在、Polymarket[7]は連邦SBRが立法プロセスを通過する可能性を33%としています。
2. PerplexityがAIショッピング・アシスタント「Buy With Pro」をリリース
By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate
ブラックフライデーとサイバーマンデーを契機としたショッピングシーズンが到来しました。そして、消費者を支援するために、Perplexity(パープレキシティ:AIを組み込んだ対話型検索エンジン)は新しいショッピング・アシスタント「Buy with Pro」をリリースしました[8]。このアシストでは、以下の例に示すように、Pro加入者にカスタマイズされたおすすめ商品、ビジュアル検索に対応した写真、価格、販売者情報、レビューなどの詳細情報を提供します。これにより、どのウェブサイトからでもワンクリックでチェックアウトができ、請求書や配送に関する詳細が安全に保管され、すべての注文の送料が無料になるため、ショッピングがはるかに簡単になるはずです。
出所: Perplexity.ai 2024. Perplexity.aiとの会話のスクリーンショット。本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
Perplexityは最近、企業と消費者双方のエコシステムを強化するために、小売業者が製品データと情報の可視性と適時性を高めることができる無料のマーチャント・プログラムなど、いくつかの取り組みを開始しました。また、Perplexity は、以下に示すように、有益な製品カードを通じて、製品の偏りのない事実に基づいた概要を提示し、長所と短所とともに主要な機能を強調しています。これにより、消費者の意思決定を左右することなく、透明性と信頼性が向上します。
出所: Perplexity.ai 2024 perplexity.aiの商品カードのスクリーンショット。商品レビューの概要、長所と短所、「Buy with pro(proで購入)」ボタンによるワンクリック決済が表示されている。情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
また、直感的な商品カードには、AIによる偏りのないおすすめ商品が表示されます。客観性を追求する一方で、Perplexityは「スポンサー付きの質問」[9]も検討しています。これにより、商品に関する情報の流れを増やし、サービスの収益化を図りながら消費者による発見を促し、検索エンジン最適化(SEO)なしで販売業者の認知度を高めるものです。とはいえ、AIショッピング・アシスタントは、スポンサー付きのコンテンツを氾濫させることなく、消費者の信頼を得なければならないでしょう。
Perplexityは、AIショッピングアシスタントエクスペリエンスに検索機能を統合することで、Googleのビジネスモデルに挑戦する可能性があります。Perplexityのユーザーは、リンクの多い検索から商品やサービスを探す代わりに、 AIショッピング・アシスタントと会話を行ない、簡潔でパーソナライズされた回答を受け取ることなります。これは、AIによる生産性向上の重要な例です。
3. 自律型サイエンス:AIエージェントと自動運転ラボが創薬を再定義
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
自律型サイエンスは、AIエージェントと高度なロボット工学の統合によって可能になる、研究における変革的な飛躍を意味しています。その代表例がVirtual Lab(VL:バーチャル・ラボ)です。スタンフォード大学のジェームズ・ゾウ氏のチームによって開発されたVLは、AIエージェントを使用して人間の共同作業を再現しています。このシステムでは、主任研究員エージェントが計算生物学者と免疫学者を指揮して、複雑な課題に取り組みます[10]。SARS-CoV-2のナノボディ結合体の迅速な設計を通じて実証されたこのアプローチは、AlphaFold-Multimer(AlphaFold2の拡張版)、ESM、Rosettaなどのツールを統合したものです。VLは92個の候補を生成し、そのうちの2つは変異体との結合が改善されており、AI が発見を加速させる可能性を強調しています。
自律型サイエンスのもう一つの例として、独自のLOWE LLMシステム[11]を搭載したRecursion Biosciences(リカージョンバイオサイエンス)社の自動運転ラボが挙げられます。このシステムは、クローズドループの枠組みで仮説の生成、実験の実行、データ解析を自動化し、リアルタイムの結果に基づいて動的に実験を改良します。
自律型サイエンスは、予測モデリングと意思決定のためのAIエージェント[12]と、正確でスケーラブルな実験を実行するためのロボットによる自動化という2つの柱に依存しています。ロボットプラットフォームは、ハイスループット・スクリーニングと継続的な学習を可能にし、イノベーションのための統合エコシステムを構築します。
このパラダイムは、分野を超えて生産性に革命を起こそうとしています。計算能力と実験の自動化を結びつけることで、自律型サイエンスは前例のない発見の可能性を解き放ち、私たちが自然界をどのように理解し、どのように相互作用するかを再構築するはずです。
4. 分散型科学(DeSci):ブロックチェーンが共同研究による科学的ブレークスルーを後押しする
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
分散型科学(Decentralized Science:DeSci)は、自律型サイエンスの効率性とブロックチェーン技術の変革の可能性を組み合わせ、共同研究、資金調達、所有権の新たな機会を生み出します。自動運転ラボのようなシステムにブロックチェーンを統合することで、科学はより透明で、公平で、アクセスがしやすくなるはずです。
その代表的な例として、バイオテクノロジーと製薬分野にDeSciの原則を適用したパイオニア企業であるMolecule(モレキュール)社があげられます。同社は知的財産の非代替トークン(IP-NFT)を使用して、研究の資金調達と所有権を分散化しています[13]。同社のコミュニティには25,000人のメンバーがおり、35のプロジェクトに約800万米ドルの資金を提供しています[14]。そのエコシステムでは、分散型自律組織(DAO)が知的財産の需要と供給の両方の役割を果たし、グローバルなコラボレーションを可能にしています。Molecule社は、長寿研究に資金を提供するコミュニティ主導のイニシアチブであるVitaDAO(ヴィータダオ)の創設を促進しました。2021年、VitaDAOは最初のIP-NFTを発行し、寿命延長のための薬剤の再利用に関する30万米ドルのプロジェクトに資金を提供しました。そして、これは、研究権と知的財産の初のオンチェーン調整となりました。2023年1月、VitaDAOはPfizer Ventures(ファイザーベンチャーズ)やその他の機関から410万米ドルの投資を受けました[16]。
DeSciはまた、コラボレーションの再定義も行なっています。LabDAOなどのプラットフォームは、ウェットラボとドライラボ双方への分散型アクセスを提供し、独立した科学者が世界中で実験を行なうことを可能にしています[17]。貢献者はDAOの所有権を得ることで、インセンティブを調整し、イノベーションを民主化します。このモデルは、技術移転オフィスのような従来の障壁を回避し、学術的発見を実世界のアプリケーションに変換することを加速します。
その影響は計り知れません。オープンなマーケットプレイスとプログラム可能なIPシステムは、持続可能で循環型の研究経済を育む可能性があります。ロイヤリティはDAOの資金に還流し、将来のプロジェクトに資金を供給し、永続的なイノベーション・サイクルを生み出します。DeSciの分散型インフラストラクチャーにより、資金力のある機関に関連するものだけでなく、どのようなプロジェクトでも研究のブレークスルーにアクセスし、それを活用できることを保証しているのです。
DeSciは、ブロックチェーンと自律型サイエンスを融合させることで、グローバルな協力体制とコミュニティ主導の健康科学への道を切り開き、研究と発見の未来を一変させる可能性があります。
5. 分散型の創薬が治療薬のApp Storeを生み出す
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
医療技術革新の要である創薬は、財政的に持続不可能になりつつあります。現在、医薬品1つあたりのコストは10億〜25億米ドルであり[18]、創薬パイプラインに投入される2万から3万の化合物のうち、FDAの承認を得られるのはわずか1つであり、99%の失敗率となっています[19]。また、臨床試験に到達した医薬品でさえ、市場に出るのはわずか15%程度に過ぎません[20]。このような非効率性を克服するために、私たちは分散型創薬を提案します。これは自律型サイエンスと分散型サイエンスを融合させた革新的なものであり、未来のヘルスケアに向けた協調的で効率的、かつグローバルにアクセス可能フレームワークを実現するものです。
研究者や組織がオープンな創薬パイプラインに貢献するApp Storeのようなエコシステムで、分散型創薬のビジョンが生まれつつあります。AIエージェントとロボティクスを活用した自律型ラボは、実験コストとタイムラインを劇的に削減します。ブロックチェーン・ベースのプラットフォームは、透明性のある資金調達、データ共有、IP所有権を提供します。Moleculeのようなプラットフォームは、知的財産NFT(IP-NFT)とDAOを利用して、研究者、資金提供者、患者を共有のイノベーション・エコシステムで結びつけます。
計算ツールや基盤AIモデルのオープンソース化は、分散型創薬の実現可能性を加速させています。NVIDIA(エヌビディア)社によるAlphafoldやBioNEmoのようなオープンソースモデルは、アクセス可能なイノベーションへの機運の高まりを裏付けています[21]。このようなツールの民主化により、参加への障壁が低くなり、分散型創薬を可能にしています。
このモデルは製薬業界に革命を起こすはずです。Recursion(リカージョン)のような企業は、実験プラットフォームを提供するクラウドベースの研究開発(R&D)ラボとして運営することができます。Moleculeのようなプラットフォームは、デジタル・インフラと金銭的インセンティブを通じて分散型共同研究を可能にする一方、臨床研究機関(CRO)は従来の枠組みで臨床試験に専念します。
自動運転ラボ、オープンな財団モデル、分散型ガバナンスを組み合わせることで、このシステムはトランスレーショナルリサーチのギャップに対処するでしょう。世界規模での参加とインセンティブの共有により、長らく放置されてきた疾患や資金不足の治療領域に注目が集まる可能性があります。分散型創薬は、医療を協力的で公平な生態系に変え、このパラダイムを夢ではなく現実にすることができるのです。
6. 細胞のためのウィキペディア:ヒト細胞アトラスは生命の構成要素をマッピングしている
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
英国の科学雑誌「Nature(ネイチャー)」はこのほど、ヒト細胞アトラス(HCA)の創刊号に40本の論文を掲載し、1990年にヒトゲノム・プロジェクトが始まって以来、最も画期的な生物学的プロジェクトであることを強調しました[22]。HCAの目標は、ヒトの体内のすべての細胞タイプをマッピングし、健康や病気において細胞がどのように機能するかについての基礎的な理解を提供することです。
シングルセル(単一細胞)シーケンスを活用したHCAは、10x Genomicsが先導役となり6,200万個の細胞をカタログ化しました。HCAのビジョンは数百万をはるかに超えており、人体に存在する 30兆個以上の細胞のうち、数十億個、最終的には数兆個にまで拡大することを目指しています[23]。
当社のリサーチによると、シングルセルゲノミクスはライトの法則に従い、規模が大きくなるにつれてコストは予測通りに減少します。9月に私たちは、実験1件あたりの価格が0.05米ドルから0.01米ドルに下がると、シングルセルシーケンスの需要が急増し、数兆個に達すると予測しました(下のグラフを参照)。驚くべきことに、私たちがこの予測を立ててからわずか数ヵ月後、10x Genomicsはこの閾値を上回る価格体系を発表しました。これは、兆単位の細胞実験の始まりを告げていると私たちは見ています。
この画期的な進歩は医学にとって何を意味するのでしょうか?何兆もの細胞をマッピングすることで、「バーチャル細胞」を作成する能力が解き放たれます[24]。それは、創薬、診断、個別化治療を一変させる生物学の予測的かつ基礎的なモデルです[25]。HCAはヒト生物学の地図であるだけでなく、ヘルスケアを再構築するための革新的なフレームワークでもあります。テクノロジーが進歩し、コストが下がるにつれて、兆単位の細胞プロファイリングの時代は、人間の健康を理解し改善する上で何が可能かを再定義することになるでしょう。
出所: ARK Investment Management LLC、2024年。このARKの分析は、2024年11月22日時点の様々な外部データに基づいており、ご要望に応じて提供することができます。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。
[1] Puell, D. 2024. “Senator Lummis Has Proposed Legislation That Would Add Bitcoin To US Treasury Reserves.” ARK Disrupt Newsletter.
[2] 118th Congress, 2nd Session. 2024. “To establish a Strategic Bitcoin Reserve and other programs to ensure the transparent management of Bitcoin holdings of the Federal Government, to offset costs utilizing certain resources of the Federal Reserve System, and for other purposes.” [[https://www.lummis.senate.gov/wp-content/uploads/BITCOIN-Act-FINAL.pdf]]
[3] Crossman, C. 2024. “The BITCOIN Act of 2024: A brief overview of the recently proposed bill by Senator Cynthia Lummis to accumulate Bitcoin in a strategic US Reserve.” Bitcoin Magazine.
[4] Gomez, E. 2024. “Senator Lummis files 'Bitcoin Act of 2024' bill proposing a US strategic BTC reserve.” Nexo.
[5] Bitcoinist. 2024. “Senator Lummis Pushes For Bitcoin Strategic Reserve: Proposes Gold Sale As Funding Source.” Insights.
[6] Evans, T. 2024. “Pennsylvania Passes Bitcoin Rights Bill, Proposes Strategic Reserve.” Forbes.
[7] Polymarket. 2024. “Will Trump create a national Bitcoin reserve in first 100 days?”
[8] Perplexity. 2024. “Shop like a Pro: Perplexity’s new AI-powered shopping assistant.”
[9] Wiggers, K. 2024. “Perplexity brings ads to its platform.” TechCrunch.
[10] Swanson, K. et al. 2024. “The Virtual Lab: AI Agents Design New SARS-CoV-2 Nanobodies with Experimental Validation.” bioRxiv.
[11] Recursion. 2024. “LOWE: An LLM-Orchestrated Workflow Engine unleashing the full power of Recursion’s data and tools.”
[12] Gao, S. et al. 2024. “Empowering biomedical discovery with AI agents.” 50 Cell Press.
[13] Molecule. 2024. “Empowering Science, Impacting Humanity.”
[14] Ibid.
[15] Molecule. 2021. “Molecule Partners With VitaDAO and Nevermined Creating First Ever Biopharma IP-to-NFT Transfer for Longevity Research.”
[16] VitaDAO. 2023. “VitaDAO Closes $4.1m Fundraising Round With Pfizer And Shine Capital.”
[17] Lab.Bio. 2024. 2024. “Research, Reimagined.”
[18] DiMasi, J.A. et al. 2016. “Innovation in the pharmaceutical industry: New estimates of R&D costs.” Journal of Health Economics.
[19] Yamaguchi, S. et al. 2021. “Approval success rates of drug candidates based on target, action, modality, application, and their combinations.” Clinical and Translational Science.
[20] Ibid.
[21] McKay, C. 2024. “Google DeepMind Makes AlphaFold 3 Open Source for Academia.” Maginative. See also St. John, P. et al. 2024. “BIONEMO FRAMEWORK: A MODULAR, HIGH-PERFORMANCE LIBRARY FOR AI MODEL DEVELOPMENT IN DRUG DISCOVERY.” arXiv.
[22] Nature. 2024. “The Human Cell Atlas: towards a first draft atlas.”
[23] Nature Editorial Board. 2024. “Editorial—A ‘Wikipedia for cells’: researchers get an updated look at the Human Cell Atlas, and it’s remarkable.”
[24] Bunnes, C. et al. 2024. “How to Build the Virtual Cell with Artificial Intelligence: Priorities and Opportunities.” arXiv.
[25] Rood, J.E.et al. 2024. “The Human Cell Atlas from a cell census to a unified foundation model.” Nature.
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