By ARK Invest

本レポートは、2024114ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #438」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. AIアシスタント検索がGoogleの優位性を覆す可能性

By Frank Downing & Nick Grous | @ARKInvest
Next Generation Internet Director of Research & Associate Portfolio Manager

 

先週、Meta社が自社のAI 機能を活用するために自社検索エンジンを構築しているという噂が飛び交う[2]中、OpenAI社は ChatGPT の検索機能をアップグレード[1]しました。Perplexityと同様に、OpenAIMetaAI駆動のアシスタントを提供しており、これらを合わせると、検索におけるGoogleの優位性に大きな脅威となる可能性があります。従来の検索では、ユーザーは関連性順にランク付けされたハイパーリンクのリストをくまなく調べる必要がありましたが、新しいAIを搭載したアシスタントは、様々な情報源から合成した一貫性のある会話形式のナレーションで応答します。

従来の検索からAIファーストのワークフローへの移行により、時間を節約し、結果の質を向上させることで、ユーザーエクスペリエンスが大幅にアップグレードされる可能性があります。その過程で、従来の検索広告の在庫が減少すれば、Googleのリンクベースの広告モデルは破壊されてしまうかもしれません。新しいモデルでは、AIファーストのワークフローにより、ユーザーとAIアシスタント間のやり取りに広告をシームレスかつ快適に統合できるためです。

重要なのは、AIファーストの情報発見への進化により、検索が「製品」から広く利用可能な「機能」へと変化し、Googleの優位性が損なわれていく可能性があるということです。PerplexityOpenAIMeta、そしてGoogle自身のGeminiでさえも現在提供しているAIアシスタントにユーザーが引き寄せられるとすれば、検索はユーザーが利用する「製品」からAIアシスタントがユーザーの質問やリクエストに答えるために利用する「機能」へと変化するかもしれません。この新しいパラダイムでは、AIアシスタントをホストする企業が、どの検索エンジンを使うか、いつ、どのように使うかを選択することになります。おそらく、これらの企業は垂直統合し、独自の検索エンジンを作り、GoogleBingからシェアを奪うでしょう。

 

2. Waymoが高い評価額で資金調達、LiDARについては一貫性のないメッセージを発信

By Tasha Keeney, CFA | @TashaARK
Director of Investment Analysis & Institutional Strategies

 

先週、Waymo(ウェイモ)社は56億米ドルを調達し、その評価額を450億米ドルに引き上げました。これは、ARKの推定によると、年間収益の約580倍に相当します[3]。ちなみに、2024114日現在、Tesla社は予想収益の約7倍で取引されており、OpenAIは予想収益の約13倍で評価されています[4]

先週、Waymo社は「EMMA」(End-to-End Multimodal Model for Autonomous Driving:自動運転のためのンド・ツー・エンドのマルチモーダルモデル)に関する論文も発表しました。興味深いことに、EMMAはカメラからのデータのみを使用しており、レーダーやLiDARは使用していません。どうやら、LiDARとレーダーから得られるデータの量が少ないため、LiDAR3Dセンシング・エンコーダーには限界があり、この研究の目的からすると、カメラ・エンコーダーよりも汎用性が低く、洗練されていないようです。

カメラベースの認識システムを搭載したエンド・ツー・エンドのモデルは、Tesla社の自動運転モデルへのアプローチを模倣しているようにみえます。とはいえ、Waymo社の論文によれば、EMMALiDARなしでは、実際に展開する際には困難に直面するでしょう。同社のCEOも最近のポッドキャストで、運転支援は可能になるものの、カメラベースのシステムはWaymo社の性能基準を満たさないと述べています[5]。つまり、論文ではLiDARを放棄することが示唆されていましたが、同社は当面LiDARにこだわるようです。

私たちの見解では、たとえLiDARが現在1台あたり約5,000米ドル以下であったとしてもコストと複雑さが増し、Waymoの自動運転車の拡張性を制限する可能性があります[6]。一方、Tesla社はセンサー込みでCybercabの価格を3万米ドル以下にすることを目標としています[7]Waymo社は、LiDARを搭載することで安全性が増し、その価値があると信じているようです。

 

3. 病気の治療法がバイオテクノロジー・ビジネスモデルの改善につながる可能性

By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist

 

バイオテクノロジー企業は、CRISPR遺伝子編集に代表される新しい分子ツールを使って、何百万人もの人々が苦しんでいる希少疾患の治療に役立てようとしています。患者にとって有望であることは明らかですが、多くのアナリストや投資家は、希少疾患の治療という投資のメリットを疑っているようです。次の図で示すように市場規模は大きいにもかかわらず、多くの人がそのビジネス経済性に疑問を抱いています。

SNL Charts 11-04 1

*平均的な治療費および総費用は、遺伝的メカニズムと、患者数を推定するのに十分な有病率を有する最も重篤な希少疾患のサブセットに基づいています。希少疾患の総費用負担を過小評価しています。**寿命1年当たり10万米ドルを想定。出所:2024111日時点のOrphanetのデータに基づく。ARK Investment Management LLC2024年。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

CRISPR Therapeutics(クリスパー セラピューティクス)社が開発したCasgevy(キャスジェビー)は鎌状赤血球症の治療薬であり、おそらく今週発表される第3四半期に初めて意味のある収益を上げるでしょう。アナリストたちは、Casgevyや他のこのような治療法の商業化の軌道をどのようにモデル化すればよいのか確信が持てないようです。その結果、投資家たちは、治療薬は人類にとって良いものではあるが、ビジネスにとっては良いものではないと懸念しているようにみえます。月ごとの投薬と年金のような収益は、一度きりの治療薬よりも優れているように思えるのでしょう。また、希少疾患については、関心がないようです。おそらく、それが大ヒットの医薬品につながる可能性は低いと考えているのでしょう。

ARKのリサーチによると、こうした結論は、次の表に示すように、病気の治癒がもたらす大きなビジネスチャンスを過小評価しています。平均的な希少疾患について計算すると、治療薬は、基礎疾患の症状を和らげるために定期的に投与される競合する精密医薬品の2倍以上の価値があるはずです。しかし、ほとんどの希少疾患には、精密治療薬が存在しません。したがって、ほとんどの希少疾患では、治療薬は現在提供されている処方薬の20倍以上の価値があると証明されるべきなのです。

SNL Charts 11-04 2

出所:ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は、2024111日時点の様々なデータソースに基づいています。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

治療法は、以下の3つの理由から、より優れたビジネスモデルを生み出す可能性があります:

  • 治療に対する報酬は、生涯にわたる医薬品、医療費、ならびに人間の健康にかかるコストを回避することに基づいています。
  • 治療薬は、医薬品の商業的ライフサイクルにおけるキャッシュフローを前倒しするため、企業は研究開発に再投資したり、株主に還元したりするための資本を迅速に入手することができます。
  • 治療薬は、初回投与時に各患者の生涯価値を把握し、特許切れや類似医薬品に関連する競争激化を回避します。

 

次のグラフは、平均的な希少疾病を治療した場合の生涯収益曲線を、従来の投薬による精密治療と比較したものです。

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出所:ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は、2024111日時点の様々なデータソースに基づいており、リクエストに応じて入手可能です。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

このモデルで示唆されているように、ライフサイクルの初期において、治療薬は、投与される患者の増加ごとに生涯価値を獲得することにより、精密治療よりも15倍の収益を生み出します。対照的に、従来の治療法は、治療を受けている患者の累積数に基づいて、より浅くとも滑らかな軌道で収益を生み出します。治療薬は、対応する市場をなくすことを目的としているため、後期段階の収益は、従来の治療薬よりも早く減少します。とはいえ、治療薬の現在価値は、定期的な投与レジメンのそれよりも高くなるはずです。このモデルでは、治療薬のキャッシュフローは精密治療の2倍以上、つまり21億米ドルに対して9億米ドルの価値があります[8]

より発生率が高く、より重篤な希少疾患では、その価値がかなり高まる可能性があります。その顕著な例が遺伝性血管性浮腫(HAE)です。この遺伝性疾患は、米国で7,000人の患者が罹患し、質調整寿命が約20%短縮し、それを管理するための投薬にかかる費用は年間50万米ドルに上ります[9]2週間前、Intellia(インテリア)社は遺伝子編集によるHAEの将来的治療法のフェーズ2の結果を発表しました。この結果では、1回限りの点滴注入で11人の患者の73%が治癒し、おそらく永続的に治癒することが示唆されましたが、発表後、同社の株価は約20%下落しました[10]

ARKは、HAE患者の70%を治療するには、1回あたり250万米ドルの薬価がかかると推定しています[11]。米国の患者数だけを基準にすると、この治療薬の市場規模は170億米ドルであり、世界市場はその2倍になるでしょう。5年をかけて世界市場の半分に浸透するHAEの治療法の現在価値は、100億米ドルに達する可能性があります[12]。株式時価総額が15億米ドル未満で、パイプラインに他の重要な資産があることから、Intellia社の現在の評価額は、アナリストや投資家がこの分析を信じていないことを示唆しています。

確かに、Intellia社のフェーズ3の結果は、フェーズ1やフェーズ2のデータほど期待できるものではないかもしれませんし、従来の投与プロファイルによる精密治療もHAE市場を狙っています。しかし、同社が最初の治療に反応しなかった患者に再投与することで、全体的な治癒率が向上し、市場規模が拡大する可能性もあります。また、優れた治療効果が期待できることから、従来の治療法よりも早く患者層に浸透する可能性もあります。

市場は病気を治すことの将来的価値を誤解しているようですが、ARKのリサーチは、治療薬が極めて価値の高い資産になる可能性を示唆しています。同等の条件で測定すると、従来の投与法による精密治療よりも2.3倍の価値があるようです。これらの治療薬のうち、最初に市場に投入されるCagevyは、今週の第3四半期決算報告で収益が明らかになるはずです。長期的に見れば、治療薬に関連する財務上の成果は、それが人間の健康に与える多大な影響と同じくらい無視しがたいものになると、私たちは考えています。

 

 

 

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[1] OpenAI. 2024. “Introducing ChatGPT search.”

[2] Reuters. 2024. “Meta builds AI search engine to cut Google, Bing reliance, the Information reports.”

[3] Waymoによると、同社は週に15万件以上の有料乗車をこなしている。試算の前提は以下の通り:1回の乗車距離は約5マイル、価格は1マイルあたり2米ドルで、現在のUberとほぼ同額。 Roof, K. et al. 2024. “Alphabet’s Waymo Valued Above $45 Billion After Funding.” Bloomberg. Waymo. 2024. “Waymo One is now providing over 150,000 paid trips.” X.参照

[4] Based on data from CapIQ data for Total Enterprise Value / Total Revenue Next 12 Months retrieved 11/4/24; and Downing, F.. 2024. “OpenAI Investment Thesis.” ARK Investment Management LLC. The OpenAI multiple is based on the latest valuation round and calculated as of 10/15/24.

[5] See No Priors. 2024. “Ep. 87 | With Co-CEO of Waymo Dmitri Dolgov.” YouTube.

[6] Corrall, C. 2024. “Tesla’s Cybercab robotaxi is here — and it could cost less than $30K.” TechCrunch.

[7] 同上

[8] このモデルでは、同じ患者普及率、10%の割引率、治療と精密治療の価格設定を、ICERThe Institute for Clinical and Economic Review:臨床経済評価研究所)が用いた方法と同じと仮定し、質調整生存年あたり10万米ドルとしている。

[9] Chaguturu, S. “Number of HAE treatments increasing.” CVS Caremark.

[10] Cohn, DM. et al. 2024. “CRISPR-Based Therapy for Hereditary Angioedema.” N Engl J Med.

[11] 既存の予防的治療の適正価格はおよそ25万米ドルである。1年当たり10万米ドルでは、患者は年間2万ドルのQOLを失うことになる。割引率5%で、患者の23年間の27万米ドルの現在価値は340万米ドルである。症状が(軽減されたとはいえ)残っている30%の患者については250万米ドルに調整される。

[12] 5年目までの患者普及率50%、税率20%、マージン60%、割引率10%を想定。

 


 

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