By ARK Invest

本レポートは、20241216ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #443」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. GoogleのGemini 2.0 FlashとProject Marinerがブラウザのアクティビティを加速させる可能性

By Jozef Soja | @JozefARK
Research Associate

 

先週、Google社はGemini 2.0 Flashをリリースしました[1]。これは、Gemini 2.0 ファミリーの最初のモデルです。Anthropic(アンソロピック)社のClaude 3.5 Sonnet[2]Claude 3 Opus より改良されたのと同様に、Gemini 2.0 Flashは、Gemini 1.5 Proよりも小型で高速ですが、ほとんどのベンチマークでパフォーマンスが向上しています。特に自律型コーディングベンチマークのSWE-bench Verified [3]では、51.8%[4]というスコアを記録しました。これは、Claude 3.5 Sonnet49%よりわずかに高く、Amazon Q55%[5]にはわずかに及ばないスコアです。

Google社は、その優れたベンチマーク性能を活用して、Gemini 2.0を中心に新製品やアップデートされた製品を開発しています。Project Mariner(プロジェクト・マリナー)[6]は、ブラウザを認識して対話するAIエージェントで、キーボードとカーソルを使ってアクションを連鎖させ、ショッピングのような複雑なタスクを完了させます。

Project Marinerは、例えば、ウェブを自律的に[7]閲覧して、ユーザーが提供したスプレッドシートに記載されている企業の連絡先情報を収集したり、最も有名なポスト印象派の画家[8] Marinerはゴッホを選びました)の作品におけるユニークな色の組み合わせを特定してから、Etsyのショッピングカートに画材を追加したりできます。Project Marinerはまだ開発の初期段階ではありますが、すでに、AIエージェントがいかに労働者の生産性を加速させ、潜在的に何兆米ドル規模のオンライン消費を促進できることを[9]実証しているのです。

 

2. 量子コンピューティングが実世界での応用に近づき、ブロックチェーン技術への懸念が高まる

By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet

 

先週、Google社は量子コンピューティングにおいて大きな前進を遂げた量子チップWillow(ウィロー)の詳細を発表しました[10]。これまでの量子システムは、計算の精度を低下させるエラー率に悩まされてきました。一般的に、量子ビット単位で測定されるシステムの規模が大きくなればなるほど、また計算時間が長くなればなるほど、エラーの問題も大きくなります。設計と製造の進歩により、Willowは現在、重要なエラー訂正のしきい値を超えた量子コンピュータを誇示できるようになりました。システムがより大きな量子ビット数に拡張されるにつれて、エラー率も改善されています。

エラー訂正のしきい値を超えることは、量子コンピューティングにとって重要なマイルストーンのひとつです。なぜなら、チップあたりの量子ビット数が時間の経過とともに増加するにつれて、エラー率が改善される可能性が高いためです。とはいえ、「真の」フォールトトレランスを実現するためには、Googleの量子チームはエラー率を10-3から10-6へと数桁改善させなければなりません。これは、過去5年間に量子ビットの数を53から105に増やしただけのチップにとっては、困難な挑戦です。同社のテストでは、従来のコンピュータが70億年(1025)かかる作業をWillow5分で完了させることができることが示されていますが、以下に示すように、商業的に適切なアプリケーションは、現在の量子コンピュータでは手の届かないところにあります。

SNL-12-16-Chart-01

注:上のグラフはGoogle社が作成したもので、ARKのリサーチ結果ではありません。出所:Google 20241213日現在[11]。本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券や暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。

 

それでも、Googleの進歩は暗号資産分野での議論を再燃させています。というのも、量子コンピュータは最終的に、取引承認とProof-of-Workマイニングの両方で使用されている暗号化スキームを破ることが出来るからです。現在、耐量子暗号は存在し、イーサリアムのようなネットワークは、コードベースを量子セキュアにアップグレードすることに取り組んで[12]いますが、ビットコインの関係者はジレンマに直面しています。ビットコインの硬直化という理念[13]を維持しながら、ネットワークのコア機能に対する重大なリスクに対処する方法、特に、ビットコインの創始者であるサトシ・ナカモトのウォレットに依然として保管されているオリジナルのBTC供給量の4.6% [14]に関連した悪影響についてです。幸いなことに、ジェイムソン・ロップ氏[15]のような長年のビットコイン開発者たちは、手遅れになる前に解決策が見つかる可能性が高いことを示唆しています。

 

3. AIが医薬品開発の経済性を変える可能性

By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist

 

AI 主導の医薬品設計における大きな進展となりますが、このほど、Relation Therapeutics(リレーション・セラピューティクス)社は線維性疾患と変形性関節症の次世代治療薬の開発に向けて、製薬大手GlaxoSmithKline(グラクソ・スミスクライン)社と画期的なパートナーシップを締結しました。この契約は、シード段階のバイオテクノロジー企業としてはおそらく過去最大の規模であり、ターゲットごとに数億米ドルのマイルストーンペイメントを生み出す可能性があります。

Relation社独自の「Lab-in-the-Loop」アプローチは、患者由来のマルチモーダルデータ、高度な摂動実験、グラフ・ニューラル・ネットワークや生成モデルなどの最先端の機械学習を統合し、より効果的な標的治療の発見を加速します。ベンチャー部門におけるシードラウンドを通じてNVIDIA(エヌビディア)社と提携したRelation社は、高性能コンピューティングと生物学を組み合わせて、医薬品開発のタイムラインを変革します。 

Relation社は、医薬品開発の経済性を一変させる可能性のあるAI主導のドラッグデザイン戦略を積極的に推進している数少ない企業のひとつです。今日の創薬プロセスは、時間とコストがかかることで有名です。資本コストやプログラムの失敗を含めると、商業開発には通常、以下に示すように、医薬品1種類につきおよそ14年間で24億米ドルの資本が必要です。

SNL-12-16-Chart-02

注:割引率10%。第1相試験で70%以上減少した失敗率が、第2相試験で50%、第3相試験で25%減少すると仮定。前臨床試験の効率はAbsci社が実証したものと同程度と仮定。ライセンシングの期間が18ヵ月から12ヵ月に短縮されると仮定。出所:ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は20241213日時点の様々な情報源に基づく。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

AIの進歩は、その可能性を積極的に活用している企業の状況を変えようとしています。ARKのリサーチによると、AIが設計した医薬品がヒト臨床試験の毒性学的段階を無事に通過した場合のコストは、15億米ドル程度になる可能性があり、これは従来の方法に関連するコストよりも40%低い金額です。AIを使ってより優れた分子を前もって設計することで、企業は分子をより早くヒト臨床試験に持ち込むことができ、失敗の可能性も低く抑えられます。AIが設計した医薬品で毒性試験を実施した結果、失敗したのはわずか12.5%で、従来の医薬品開発と比較して4分の1に減少しています[16] Recursion Pharmaceuticals(リカーシオン・ファーマシューティカルズ)社は、すでにこの段階まで創薬標的を進めている先駆者です。

下の右のバーに示されているように、当社のリサーチでは、AI主導の医薬品設計の効率が今後も向上していくことが示唆されています。前臨床プロセスの進歩は加速し、ヒト臨床試験までの期間が半分に短縮され、プロセス全体で少なくとも45年は短縮される可能性があります。さらに、ヒト臨床試験に移行した際の成功率も向上する可能性があります。Absci(アブサイ)社やRecursion(リカージョン)社のような上場企業、およびRelation社のような非上場企業が公表している目標や期待は、そのような進歩の速度や規模と一致しています。全体として、医薬品を商品化するためのコストは現状に比べて75%低下し、AIファーストの企業はおよそ6億米ドルで医薬品を市場に投入できるようになる可能性があるのです。

私たちのリサーチが正しいことが実証されれば、こうした戦略の研究開発費用に対するリターンは、現在の悲惨な平均約4%から大幅に増加する可能性があります。24億米ドルの開発費を正当化するためには、医薬品はピーク時の年間売上高で6億米ドルをクリアしなければなりません。同様の収益機会があれば、現在臨床試験中のAI設計医薬品は、研究開発投資収益率を現在の業界平均の3倍にすることができ、前臨床試験中の医薬品は収益を最大8倍に向上させることができるでしょう。

SNL-12-16-Chart-03

出所:ARK Investment Management LLC2024年。このARKの分析は20241213日時点の様々な情報源に基づく。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。また、本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

しかしながら、説得力のあるこれらの推定値は、AI設計の医薬品が特許期間中に早期に商品化され、ジェネリック医薬品やバイオシミラー医薬品がその潜在力を損なう前に、より長いキャッシュフローの余裕期間を可能にするという、当社が実現可能と考える優れた収益創出を捉えていません。このような利点がより明らかになるにつれて、AIの潜在能力を積極的に活用する企業に利益をもたらすパートナーシップが生まれるはずです。最も重要なことは、患者がより多様な疾患や障害を対象とした、より精度の高い医薬品を利用できるようになることです。

 

 

 

 PDFをダウンロードする

 

 

 

[1] Google. 2024. “Introducing Gemini 2.0: our new AI model for the agentic era.”

[2] Anthropic. 2024. “Claude 3.5 Sonnet.”

[3] SWE-bench verifiedは、GitHubのコードリポジトリにおける現実の問題をAIエージェントが解決できるかどうかをテストすることで、そのコーディング能力を評価する難易度の高いベンチマークであるSWE-benchの、人間による検証済みのサブセットです。 OpenAI. 2024. “Introducing SWE-bench Verified.”参照

[4] Google. 2024. “The next chapter of the Gemini era for developers.”

[5] SWE-Bench. 2024. “Can Language Models Resolve Real-World GitHub Issues?”

[6] Google. 2024. “Project Mariner.”

[7] Google. 2024. “Project Mariner | Solving complex tasks with an AI agent in the Chrome browser.” YouTube.

[8] Google. 2024. “Project Mariner demo | Taking action in your Chrome browser with an AI agent.” YouTube.

[9] Grous, N. and Kim, A. 2024. “AI: A New Consumer Operating System.” ARK Investment Management LLC.

[10] Google. 2024. “Meet Willow, our state-of-the-art quantum chip.”

[11] 同上

[12] Ethereum. 2024. “Future-proofing Ethereum.”

[13] Kohler, C. 2024. “What Is Bitcoin Ossification?” TBM: The Bitcoin Manual.

[14] River Learn. 2024. “Who Owns the Most Bitcoin in 2024?”

[15] Lopp, J. 2024. “Should we be worried about the threat of quantum…” X.

[16] このアーク分析は、Rodriguez, A. 他(2023年)のAppendix 1で特定された薬物のデータを反映しています。 “Unlocking the Potential of AI in Drug Discovery.” BCG.

 


  

ARK’s statements are not an endorsement of any company or a recommendation to buy, sell or hold any security. For a list of all purchases and sales made by ARK for client accounts during the past year that could be considered by the SEC as recommendations, click here. It should not be assumed that recommendations made in the future will be profitable or will equal the performance of the securities in this list. For full disclosures, click here.

ARK Invest

About the author

ARK Invest Read more articles by ARK Invest