By ARK Invest
本レポートは、2024年12月23日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #444」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. 画期的な血液検査が予測分析と処方分析につながる可能性
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
現在、米国で年間5億件の検査に使用されている全血球計算(CBC)は、集団平均と比較した説明的なデータを提供しますが、精密医療に必要な個別の洞察は得られません。言い換えれば、CBCは、縦断的かつ個別化された表現型分析がもつ変革の可能性を見過ごした、価値の低い診断ツールです。それゆえ、Medicare(メディケア)やMedicaid(メディケイド)によるCBC検査費用の償還額は、1件あたりわずか約10米ドルに留まっています。
最近Nature誌に発表された画期的な研究によると、血液学的なセットポイント(通常数十年にわたり安定している患者固有の基準値)において、CBCの指標の方がはるかに予測力が高いことが明らかになりました[1]。こうした設定値には、ヘモグロビン値、赤血球分布幅(RDW)、白血球数(WBC)などが含まれますが、これらは生物学的指紋のようなもので、集団ベースの閾値よりも効果的に結果を予測します。ヘモグロビンの設定値の偏差は、あらゆる原因による死亡率の予測に優れており、また、一方、RDWは心房細動と相関し、WBCは2型糖尿病と相関しています。平均値から個別のプロファイルへのこの移行は、診断学におけるパラダイムシフトの先駆けです。
CBCの潜在能力を最大限に引き出すには、診断医が静的な単発検査から、早期の健康リスクに関連するパターンにフラグを立てることができる縦断的な表現型解析にシフトすべきであることが、当社のリサーチで示唆されています。この分析の鍵となるのは、10x Genomics社のscRNA-seqやStandard BioTools社のCyTOFソリューションのような、血液サンプルを細胞レベル、分子レベルで解析するシングルセル(単一細胞)ゲノミクス技術です。これらの方法は、設定値の逸脱の背後にある詳細な分子変化を明らかにすることであり、CBCを一変させる可能性があります。
しかし、最大の障害はコストです。シングルセル・ゲノミクスのコストが、現在のCBCの価格帯である1回の検査あたり約10米ドルに匹敵するには、10分の1に下げる必要があります。ユニット数の増加に伴う学習曲線は、価格水準の低下を牽引し続けるでしょう。過去15年間で、単一細胞ゲノム検査は100万倍に拡大し、コストは4万分の1に低下しました[2]。米国では、年間5億件のCBC検査が行なわれており、高度な単一細胞解析の市場規模の潜在性は膨大です。
日常的なCBCと単一細胞ゲノミクスおよびAI主導の分析を組み合わせることで、医療を予測医療、および処方医療へと移行させることができます。個人の基準からの逸脱が、タイムリーな介入、的を絞った治療、そしてより良い結果を生み出す医療システムは、薬剤費やその他の医療費を削減できるでしょう。
CBCが診断学だけでなく医療経済をも変革し、何百万人もの人々に価値の高い個別化医療をもたらすチャンスが到来しています。今こそ変化が起こるべきです。
2. オフグリッド太陽光発電はAIに適用可能か?
By Sam Korus | @skorusARK
Director of Research, Autonomous Technology & Robotics
先週、Paces、Scale Microgrids、Stripeの研究者らが、オフグリッドの太陽光発電によるAIデータセンターの経済性と実現可能性を探る新しい論文を発表しました。なぜオフグリッドなのでしょうか?現在、グリッド(事業者の提供する送配電網)への相互接続には5年かかります。著者らは、以下に示すようにメーターの背後で行なうソリューション(電力会社の送電網に頼らない独自の電力供給システム)であれば、2年で済む可能性があることを示唆しています。
出所: Baranko、他2024 年[3]。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。
重要なのは、この論文が大規模な太陽光発電の導入に伴う不動産の課題についても検討していることです。大規模な太陽光発電開発に適した私有地は存在しますが、ARKのリサーチでは、大規模な取引を取りまとめることが大きなハードルになることが示唆されています。エネルギー業界の情勢に関心のある方は、ぜひ論文全文をお読みください。
3. OpenAIの「12 Days of OpenAI」のフィナーレを飾った、高度な推論機能を持つモデル
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Associate
先週、OpenAIは「12 Days of OpenAI」の締めくくりとして、2つの新しい最先端の推論モデル、o3とo3-mini[4]をリリースしました。同社がこれまで提供してきた中で最も高性能なモデルであるこれらのモデルは、推論能力と現実世界のタスク実行能力の両方をテストするために設計された、非常に難易度の高いベンチマークのいくつかにおいて上位を独占しています。
エージェンティック・コーディング・ベンチマークであるSWE-benchにおいて、過去最大のパフォーマンス向上を達成したo3は、71.7%のスコアを記録し、これまでの記録保持者であったAmazonのQ Developer Agentを16.7ポイントも上回りました。これは驚異的です。
出所:ARK Investment Management LLC、 2024年時点のOpenAIのデータおよび2024年時点のSWE Benchのデータに基づく[5]。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
o3モデルはまた、研究数学だけでなく、博士号レベルの科学問題や、パズルに基づくユニークなベンチマークであるARC-AGIベンチマークにおいても、o1のスコアを上回りました。ARC-AGIでは、o3は87.5%のスコアを獲得し、o1のベストスコアである32%を大きく上回りました。
明らかに、推論の進歩によって、o3はアクションを連鎖させ、より複雑なタスクを確実に実行できるようになっています。例えば、OpenAIは、o3が独自のコードジェネレータとエグゼキュータを作成できることを実証しました。そして、最終的には、博士号レベルの科学ベンチマークで自身のパフォーマンスを評価するスクリプトを作成し、実行するために構築したツールを使用しました。一連の複雑なタスクを自律的に実行する前例のない機能は、AIエージェントがチャットボットの限られた機能をはるかに超えて、ユーザーのために実際の作業を行なう未来に向けた有意義な一歩を意味しています。まだ一般に広く利用できるわけではありませんが、OpenAIはo3とo3-miniの両方を公共安全研究者に公開し、さらなるテストを行なっています。
[1] Foy, B.H. et al. 2024. “Haematological setpoints are a stable and patient-specific deep phenotype.” Nature.
[2] このアーク分析は、2024年12月22日時点のソースの範囲に基づいている。
[3] Baranko, K. et al. 2024. “Fast, Scalable, Clean, and Cheap Enough: How Off-Grid Solar Microgrids Can Power the AI Race.” OffGridAI.
[4] OpenAI. 2024. “o3 Preview & Call for Safety Researchers.”
[5] 同上参照。 SWE-Bench. 2024. “Can Language Models Resolve Real-World GitHub Issues?”も参照。
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