By ARK Invest
本レポートは、2024年9月23日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #432」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. KlarnaのOpenAI搭載ショッピングアシスタントが 消費者体験を再定義する可能性
By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate
私たちは、AIが統合されたウォレットがeコマースを変革する可能性[1]があると考えています。Klarna(クラーナ)社がOpenAIを搭載したショッピングアシスタント[2]を立ち上げたことは、未来を垣間見させてくれます。同社は、その気の利いたチャット・インターフェースを通じて、複数のマーケットプレイスにある600万以上の商品へのアクセスを提供しています。ユーザーは特定の商品やブランドを検索し、商品、価格、配送オプションを詳しく調べ、自分の好みに合ったアイテムを見つけることができ、またその過程でKlarnaのAIアシスタントにサービスをパーソナライズする方法を教えることができます。
例えば、KlarnaのAIアシスタントは、以下に示すように、消費者が様々なマーケットプレイスから予算に見合ったスピーカーを選択するようガイドする[3]ことができます。ブランドの評判と予算の制約のはざまでのトレードオフを迅速に提示し、耐久性やバッテリー寿命など、消費者にとっては重要であり、また、時間の経過と情報量の増加につれて個々の消費者にとっても重要になってくる機能にも焦点を当てています。
出所:ARK Investment Management LLC、2024年、KlarnaアプリのチャットボットとARKアナリストの会話に基づく。本資料は、情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
ARKのリサーチによると、AIを活用した「購買エージェント」は、検索や発見の域を超え、個々の消費者に代わって自動的に取引を実行し、消費者が現在費やしている時間のほんの一部の時間で、さまざまなプラットフォーム間で商品を比較し、購入を完了するようです。その結果、買い物客は時間を節約するために1つか2つのマーケットプレイスに依存する必要がなくなり、従来の消費者向けマーケットプレイスが破壊され、消費者サービス産業が再構築される可能性があります。
消費者が市場にとらわれないアプローチを採用し、情報を集約して購入を促進するためにAIにさらに依存するようになれば、電子商取引体験を合理化して、パーソナライズするデジタル・ウォレット・プロバイダーが、消費者体験とバリュー・チェーンを再定義する可能性があります。多くの「勝者がほとんどを手にする」AIの機会と同様、その混乱は甚大なものになるかもしれません。
2. ステーブルコインの人気が急上昇中
By Lorenzo Valente | @LorenzoARK
Research Associate
先週、民間のフィンテック企業であるRevolut(レボリュート)社は、2025年の第1四半期に独自のステーブルコインを発行する計画を発表しました。これは、Ripple(リップル)、Paypal(ペイパル)、BitGo(ビットゴー)などの企業が最近発表した計画に続くものです。4,500万人以上の顧客と180億ポンドの顧客預金[4]を擁するRevolut社は、欧州で比較的透明性の高い規制の枠組みであるMICA(Markets in Crypto Assets:暗号資産市場)に準拠したコンプライアンス第一のアプローチを採用します。
Revolut社などの企業は、競争が激化する市場でニッチな市場を開拓することを望んでいます。流通しているステーブルコインは200種類ですが、Tether(テザー)とCircle(サークル)の2社で市場シェアの90%以上[5]を占めています。
ステーブルコインは最も急速に成長しているデジタル資産の一つであり、いくつかの指標に基づくと、VisaやMastercardのような決済大手に匹敵し始めています。取引や投機をはるかに超えたユースケースが広がる新興市場での採用により、ステーブルコインは暗号資産市場のサイクルの変動から隔離されています。暗号資産のスポット取引量は2021年をピークに半減していますが、次の図で示すように、ステーブルコインの送信アドレスの数は4倍に増加しています。
注:左側の y 軸は取引所取引量を示す。右側の Y 軸は、Stablecoin の月間送信先アドレス。出所:Castle Island VenturesとBrevan Howard Digital 2024 [6]。注、原文通り:取引所取引量とは、CoinMarketCapのスポット暗号資産に対するノイズ除去された取引所取引量の総計を指す。ステーブルコイン・アクティブ・アドレスとは、Artemis 3 経由で、ある月にステーブルコイン取引を送信したオンチェーン・アドレスの数を指す。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券や暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
ナイジェリア、インドネシア、インド、アルゼンチン、ブラジルなど、法定通貨が弱い国々では、通貨の切り下げに伴う購買力や富の崩壊から逃れる方法だけでなく、低コストの国際決済サービスや米ドル建ての利回りにアクセスするために、ステーブルコインの需要が急増しています。
ステーブルコイン・セクターは金融勢力として急成長しており、発行残高は1,730億米ドル、月間アクティブ・アドレス数は2,200万件、調整後の年間取引高は6兆米ドル[7]を擁し、今年はVisaの取引高の約半分[8]になると予測されています。
金融業界はこの動きを真剣に受け止めています。従来のサービスを仲介しなくなるリスクを冒してでも、フィンテック、銀行、決済処理業者、カストディアンはこのチャンスを生かそうとしています。最大のステーブルコイン発行会社であるTether社は、上半期の報告書で、従業員100人未満で52億米ドルの利益[9]を計上し、ステーブルコインの収益性と規模を強調しています。2年以上ぶりの米国金利引き下げにもかかわらず、Tetherの担保(通常、現先取引と短期米国債に投資)から得られる利回りは、特に、大規模なユーザーベースと多額の米ドル建て預金を持つRevolut社のような潜在的なネオバンクやフィンテックにとって、依然として非常に有利です。
現在、ステーブルコインは米国の通貨供給量(M2)[10]のわずか0.82%を占めるに過ぎませんが、その潜在力は世界規模であり、莫大です。私たちは、監査可能性、即時決済、低い送金コスト、プログラマビリティの組み合わせにより、ステーブルコインが数兆米ドル規模の市場に躍り出る可能性があると考えています。金融システムのデジタル化が進むにつれて、ステーブルコインは世界の金融インフラの重要な部分を変革し、さまざまな分野で広く採用され利用される道を開く可能性があるでしょう。
3. OpenAI、数兆米ドルの企業価値を目標に数十億米ドルの資金調達を目指す
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
OpenAIは、ベンチャー投資家から65億米ドルの資金を調達しようとしていると報じられています[11]。成功すれば、この取引は、以下に示すように、ベンチャーキャピタル(VC)による資金調達額としては史上トップ10に入ることになります。同社は、最先端のAIモデルをさらに改良することを目指しているのです。
出所:ARK Investment Management LLC、2024年。このARKの分析は、Pitchbookを含む様々な外部データソースを利用しています。本資料は、情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券や暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
その資金調達ラウンドはトップクラスですが、OpenAIの1,500億米ドルという潜在的な評価額[12]はさらに注目に値します。というのも、ベンチャー資金を調達した民間企業としては史上3番目に評価額の高い企業、また、米国企業としては史上最高の価値を持つことになるからです(次の図を参照)。これを上回るのは、TikTokの所有者であるBytedance(バイトダンス)社と、Alipay(アリペイ)を運営するAnt Group(アント・グループ)の2社だけで、いずれも中国企業です[13]。
出所:ARK Investment Management LLC、2024年。このARKの分析は、様々な外部データソースを利用しており、リクエストに応じて提供可能です。本資料は、情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券または暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
株価が急騰しすぎているように思われますが、これは正当化できると私たちは考えています。OpenAIは、自社のAIシステムをすべてのAIソフトウェアのオペレーティングシステムとして位置づけています。ARKのリサーチによると、このような「基盤モデル」は驚くべき価値を生み出す可能性があるのです。AIがもたらす生産性は、世界経済に革命をもたらし、世界中の経済成長を加速させるはずです。2030年までに、OpenAIのような商用基盤モデル・プロバイダーが、13兆米ドルのAIエンタープライズ・ソフトウェアの運用を支援することで、3.5兆米ドルの収益を上げるとARKは予測しています。他のコンピューティング・インフラストラクチャ・プロバイダー[14]の一般的な営業利益率が約30%であり、EV/EBITDA倍率[15]が19程度[16]であることを考えると、基盤モデル企業が獲得できる企業価値は合計で20兆米ドルに達する可能性があります。
現在OpenAIは多くの基準でリードしていますが、Anthropic(アンソロピック)社とxAI社も同様のビジネスモデルを追求しており、Meta社のオープンソースアプローチは、直交する破壊的脅威となる可能性があります。OpenAI社は、候補企業の中で最も商業的な牽引力を持っているようです[17]。6月の報告によると、同社の年間売上高は前年比で約3倍の34億米ドルに増加しました[18]。成長が突然鈍化しない限り、OpenAI社の1,500億米ドルという株価は、同社の将来的な株価売上高倍率がNvidiaとMicrosoftの中間に落ち着くことを示唆しています。確かに高いとはいえますが、法外ではありません。
*OpenAIの売上高は年率換算の売上高であり、売上高成長率に変更がないことを前提としています。上場企業については、将来の収益予想はVisible Alphaアナリストのコンセンサスを反映しています。出所:ARK Investment Management LLC、2024年。このARKの分析は、様々な外部データソースを利用しています。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。本資料は、情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券または暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
OpenAIの資金調達は、Anthropic社やxAI社の資金調達と並んで、VCの資金調達環境が軟調な中で注目に値します。今回のOpenAIのラウンドを含めると、四半期累計で米国で投資されたVC資金の半分以上、世界全体では40%以上がAIへの投資機会に流入しています(次の図を参照)。今年に入ってからAIに流入したVC資金は累計で900億米ドルに達し、前年比50%増となった一方、AI以外へのVC投資額は15%減少し、2016年以降で最低水準となっています。
出所: ARK Investment Management LLC、2024年。このARKの分析は、Pitchbookを含む2024年9月20日時点の様々な外部データに基づく。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券や暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
出所: ARK Investment Management LLC、2024年。このARKの分析は、Pitchbookを含む2024年9月20日時点の様々な外部データに基づく。予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券や暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
懐疑論者は1990年代後半を念頭に置き、AIに対するベンチャー資金ブームはバブルの兆候だと結論づけるでしょう。しかし、潜在的なチャンスの大きさを考えれば、私たちはその資金は正当化されると考えています。人工知能の台頭は、歴史上最も経済的に重大な技術的転換 [19] になる可能性があります。もし私たちの考えが正しければ、記録的な額の資本がその転換を加速させようとしているはずです。
[1] Prasanna, V. 2024. “AI-Integrated Smart Wallets Could Create A New Wave Of E-Commerce.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management, LLC.
[2] PYMNTS Intelligence. 2024. “Klarna’s AI Assistant Now Offers Chat-Based Shopping Experience.”
[3] Klarna. 2024. “Shopping made smarter: Klarna adds more AI features to its assistant powered by OpenAI.
[4] Boyle, M. 2024. “Revolut statistics: Growth in users, valuation and market share.” Finder.
[5] RWA.xyz. 2024. “Stablecoins.”
[6] Castle Island Ventures and Brevan Howard Digital. 2024. “Stablecoins: The Emerging Market Story.”
[7] RWA.xyz. 2024. “Stablecoins.”
[8] Visa Inc. 2023. “Annual Report 2023. Year-End financial Highlights.”
[9] Sandor, K. 2024. “USDT Issuer Tether Reports $5B Profit in H1, Says Its U.S. Treasury Holdings Surpassed Germany's.” CoinDesk.
[10] M2は、M1(銀行以外の一般大衆が保有する通貨および硬貨、小切手性預金、トラベラーズチェック)に、貯蓄預金(マネー・マーケット預金口座を含む)、10万米ドル未満の小口定期預金、リテール・マネー・マーケット投資信託の株式を加えた米国のマネー・ストックの指標。
[11] Financial Times. 2024. “Investors Pile Into OpenAI’s $6bn Funding Round In Unprecedented Bet.”
[12] Metz, M. 2024. “OpenAI Targets $150B Valuation with New Major Funding Round.” Bloomberg.”
[13] 非公開企業の評価額は、案件の構成が様々であるため、必ずしも一致するものではありません。これらのデータはPitchbookのデータベースに掲載されているものです。
[14] AWSの営業利益率は現在30%台後半。Ramaswamy, A. 2024. “Why AWS’ Fat Margins Are Here to Stay.” The Information参照
[15] EV/EBITDA:企業の企業価値と利払い・税引き・減価償却前利益を比較する比率。
[16] ソフトウェア業界のEV/EBITDA倍率は平均17~28倍で、インターネット・ソフトウェア業界の倍率は19倍。Stern School of Business, NYU. 2024. “Enterprise Value Multiples by Sector (US).”参照
[17] 数字は四捨五入。1~2兆米ドルが対応可能な機会であるが、2030年までの総収益/市場規模は普及率に左右される。
[18] Palazzolo, S. and Woo, E. 2024. “OpenAI’s Annualized Revenue Doubles to $3.4 Billion Since Late 2023.” The Information.
[19] Winton, B. 2024. “Platforms Of Innovation: How Converging Technologies Should Propel A Step Change In Economic Growth.” ARK Investment Management, LLC.
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