By ARK Invest
本レポートは、2024年9月2日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #429」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. 単一細胞・空間ゲノミクスががんの予後診断と治療に革命をもたらす
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
がんとの闘いにおいて、単一細胞ゲノミクスと空間イメージングは、研究者たちが腫瘍生物学の詳細を探求することを可能にする画期的なツールです。個々の細胞と腫瘍内の空間的な関係を調べることによって、科学者たちは、特にB細胞性急性リンパ芽球性白血病(B-ALL)と乳がんなどのがん治療に革命をもたらす可能性のある重要な洞察を明らかにしています。
聖ジュード小児研究病院と中国の合肥総合国家科学センターの研究者らは、B-ALLに対処するため、最近単一細胞ゲノミクスを活性化し、B細胞のライフサイクルをマッピングしました。その結果、B-ALLがいくつかの発達段階、特にプレプロBの段階で、化学療法薬であるアスパラギナーゼに耐性を示すことを発見しました。そして、この画期的な発見により、研究チームはアスパラギナーゼと、がん細胞の生存を助けるタンパク質を阻害する薬剤であるベネトクラックスを組み合わせることに成功したのです。この組み合わせにより、治療効果が大幅に向上し、B-ALL 患者が薬剤に対する耐性を克服できるという希望が生まれました[1]。
同様に、Fynn Biotechnologies社の研究者らは、10X Genomics社のXenium In Situ単一細胞空間イメージングを適用して、様々な乳がんの腫瘍微小環境(TME)の研究をしました。この技術により、TME内のさまざまな細胞の組織と相互作用をマッピングすることができ、がん細胞に対する免疫細胞の空間的配置が免疫療法の効果に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。例えば、治療によく反応した患者では、免疫細胞ががん細胞と密接に相互作用していたのに対し、反応しなかった患者の細胞組織は異なっており、効果ははるかに低いものでした[2]。
こうした研究で得られた知見は、がんの理解を進める上で、単一細胞ゲノミクスと空間的手法が大きな影響力を持っていることを強調しています。腫瘍生物学の細胞ごとの詳細なビューを提供することにより、新しいテクノロジーは、研究者が新しいバイオマーカーを特定し、治療に対する耐性の複雑さを解明し、より個別化された効果的ながん治療を開発することを可能にします。細胞データと空間データを統合する能力は、精密医療における飛躍的な進歩であり、最も困難ながんの症例でさえも予後を改善できるような、患者に合わせた個別化治療に近づけるものです。
2. AI統合型スマートウォレットが電子商取引の新しい潮流を生み出す可能性
By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate
大規模言語モデル(LLM)をApple Pay、WeChat Pay、Shop Payのようなデジタルウォレットと統合することで、「スマートウォレット」(電子商取引を変革する可能性のある強力な電子商取引アグリゲーター)を作り出すことができるかもしれません。
LLMとシームレスに統合することで、デジタルウォレットは消費者の購入意図を理解できるようになり、高度な検索機能で消費者に価値ある洞察を提供できるようになるはずです。その結果、デジタルウォレットは、リードジェネレーションを促進し、最終的に購入プロセスを合理化する、eコマースの中心的なアグリゲーターになる可能性があります。
PYMNTSが最近実施した調査[3]によると、消費者の80%が電子商取引での購入時に、保存されたクレジットカード/デビットカードやその他の認証情報を使用しており、シームレスなチェックアウトオプションと効率的な決済プロセスの必要性が浮き彫りになっています。リードジェネレーションと決済の両方にシームレスで統一されたソリューションを提供することで、デジタルウォレットが世界のeコマース購入量に占める割合は、現在の50%から2030年までに72%まで増加する可能性があります。(下図参照)
注:紫色の点線は、世界のeコマース購入額における決済手段としてのデジタルウォレットのARK推定値を指しています。2018-23年の数字(紫の実線)はWorldpay Global Payments Reportsに記載された過去の数字であり、2024-30年の数字(紫の点線)はARKのEコマースSカーブ採用予測です。出所:ARK Investment Management LLC、2024年、2024年8月30日時点のWorldPayのデータに基づく[4]。予測には本質的に限界があり、依拠することはできません。また、情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券や暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
デジタルウォレットがLLM対応のスマートウォレットに変換されれば、消費者は電子商取引の購入サイクルにおいて、現在よりもずっと早い段階でデジタルウォレットを利用できるようになります。現在、特に米国では、消費者はデジタルウォレットをプロセスの後半、通常はチェックアウトの際に利用しています。現在、AIエージェントを活用してマーケットプレイス間で品揃え、価格、配送料、配送時間を比較することで、消費者は2030年までに、検索からチェックアウトまで、 eコマース・ショッピング体験のほとんどをスマートウォレットに委ねるようになるかもしれません。
3. Telegram社CEOの逮捕が欧州のイノベーションに規制上の影響を及ぼす可能性
By David Puell | @dpuellARK
Research Associate
8月24日、フランスの国家不正対策局(ONAF)は、Telegram社が詐欺、マネーロンダリング、児童性的虐待に関する資料の配布を含む違法行為に加担しているとの容疑を主張して[6]、Telegram Messenger社のCEOであるパヴェル・デュロフ氏をル・ブルジェ空港で逮捕しました[5]。当局は556万ユーロ[7]の保釈金で司法監視下に彼を釈放しましたが、デュロフ氏はフランスに留まらなければなりません。
デュロフ氏の逮捕は、違法行為に対するプラットフォーム運営者の責任を追及するために必要なステップだったかもしれませんが、この事件はフランス当局の行き過ぎた行為に対する懸念も提起しています。Telegram Messenger社は、同社のプラットフォームがユーザーの行動に対して責任を負うべきでないと主張し、デュロフ氏の逮捕は言論の自由、暗号化技術、イノベーションにとって危険な前例を作りかねないと警告しています。この事件は、EUにおいて、ユーザーの行動に対するプラットフォームの責任をめぐる重要な前例となる可能性が高く、イノベーションにも影響を与えかねません。
4. 低分子創薬に重要な活用事例を特定しつつある生成AI
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
Terray Therapeutics(テレイ・セラピューティクス)社は、人工知能(AI)の活用で創薬に革命をもたらすという大きな進歩を遂げています。同社は最近、創薬プロセスにおいて重要な低分子の設計と最適化を行なうために、潜在拡散モデルを活用した新しい手法のCOATI-LDMを発表しました。従来の創薬は、効力、安全性、生物学的利用能などの特性のバランスを慎重にとる必要があるため、時間がかかり、コストもかかります。Terray社のアプローチは、AIを使って複雑な分子の「設計図」をナビゲートし、特定の治療ニーズを満たす新たな候補化合物を生み出すことで、こうした課題に対処しています[8]。
COATI-LDMモデルは膨大なデータセットでトレーニングされており、特定の疾患を標的とした適切な特性を持つ分子を生成することができます。またこのモデルは、分子の実際の構造ではなく、コード化されたバージョンを操作して化学空間を探索し、最も有望な候補を特定することができるため、高価で時間のかかる実験室での実験の必要性を最小限に抑えるだけでなく、プロセスを加速し、コストを大幅に削減することができます。
Terray社のAI主導のアプローチは、臨床試験で成功する可能性の高い薬剤候補を生成することで、より迅速な創薬を可能にします。さらに、Terray社のアプローチにより、より優れた、より精密な設計が可能になり、特定の医療ニーズに合わせて分子をカスタマイズできます。また、従来の試行錯誤的な実験手法への依存度が減ることで、医薬品開発の費用対効果を高め、新薬の価格が引き下がる可能性もあります。つまり、Terray Therapeutics社のイノベーションは、創薬アプローチに大きな進歩をもたらし、命を救う治療法がより早く、より安く、より正確に開発される未来を約束するものであるといえます。
[1] St. Jude Children’s Research Hospital. 2024. “Targeting vulnerability in B-cell development leads to novel drug combination for leukemia.” See also Huang, X. et al. 2024. “Single-cell systems pharmacology identifies development-driven drug response and combination therapy in B cell acute lymphoblastic leukemia.” Cancer Cell.
[2] Wang, N. et al. 2024. “Spatial single-cell transcriptomic analysis in breast cancer reveals potential biomarkers for PD1 blockade therapy.” Research Square (preprint).
[3] Pymnts. 2022. “56% of Consumers Say Storing Payment Info With Retailers Improves Checkout.“
[4] Worldpay. 2018. “Global Payments Report.” Worldpay. 2019. “Global Payments Report.” Worldpay. 2020. “Global Payments Report.” Worldpay. 2021. “Global Payments Report.” Worldpay. 2022. “Global Payments Report.” Worldpay. 2023. “Global Payments Report.” Worldpay. 2024. “Global Payments Report.”
[5] Abrams, Z. 2024. “Telegram founder and CEO Pavel Durov arrested in France by National Anti-Fraud Office: TF1.” The Block.
[6] Roth, E. 2024. “All the news on Telegram CEO Pavel Durov’s arrest.” The Verge.
[7] Liakos, C. and Picheta, R. 2024. “Telegram boss Pavel Durov faces formal investigation with bail of $5 million, prosecutor says.” CNN Business.
[8] Kauffman, B. et al. 2024. “Latent Diffusion for Conditional Generation of Molecules.” Biorxiv.org.
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