By ARK Invest

本レポートは、2025121ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #447」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. SpaceXの宇宙船が火星へ向けて前進する中、Blue Originの「New Glenn」が軌道に到達

By Daniel Maguire | @DMaguireARK
Research Analyst

 

先週、10年の歳月をかけて開発されたBlue Origin(ブルーオリジン)社の新型ロケット「New Glenn(ニューグレン)」は軌道に無事に到達しましたが[1]、分離後にブースターを着陸させることには失敗しました[2]。同日、SpaceX社の7回目の試験飛行では、Mechazilla(メカジラ)の「箸」が2度目となるスーパーヘビー・ブースターのキャッチに成功しましたが、次世代Starship(スターシップ)は分離後に爆発しました。これはおそらく燃料漏れが原因のようです[3]

こうした出来事は、米国の有人宇宙飛行の加速に向けた取り組みにおいて歴史的な一日を記録し、また、将来の飛行に向けた貴重な教訓も含まれていました。ARKのリサーチによると、SpaceX社はStarshipによって、衛星帯域幅容量に関するライトの法則のコスト曲線を下降し続けており[4] Starlink(スターリンク)の衛星群を現在の約7,000[5]から長期目標である約42,000[6]に拡大し、早ければ2028年にも火星に人類を輸送できるようになる、とイーロン・マスク氏も述べています[7]

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出所: SpaceX 2025(左)とJohnson 2025(右) [8] 本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

そして先週、宇宙への競争を繰り広げるBlue Origin社とSpaceX社の大きな違いが明らかになりました。Blue Origin社は「New Glenn」をデビューさせるまでの10年間、計画的に取り組んできた一方で、SpaceX社は「物事を高速で進めながら、破壊し続ける」ことをしてきました。実際、Starshipとスーパーヘビー・ブースターの改良型は、来月予定されている8回目の試験飛行に向けてすでに準備が整っています[9]Blue Origin社もその戦略を進化させているようで、次のフライトが春に予定されています[10]。とはいえ、どちらも現在当局が調査中であり[11]New GlennStarshipの次のフェーズは、連邦航空局(FAA)のスケジュールに左右されるようです[12]

この分野についてのさらなる考察は、近日公開予定のARKの『Big Ideas 2025』でご確認ください。

 

2. AIモデルはリアルタイムで学習するのか?

By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist

 

Google社の研究者らは最近の論文「Titans(タイタンズ): Learning to Memorize at Test Time(テスト時における記憶術の習得)」 [13]で、AI における潜在的なブレークスルー、具体的には、モデルが新しい情報を長期記憶に保存し、個々のユーザーのニーズに合わせて適応し、進化する能力を高めるアーキテクチャを紹介しました。まだ初期段階ではありますが、この新しいアーキテクチャはAIの根本的な進歩となる可能性があります。

これまでのところ、トランスフォーマー、拡散、テスト時のコンピューティングという3つの主要なアーキテクチャの革新がAIを加速させてきました。2017年にGoogle社の研究者らによって導入されたトランスフォーマーアーキテクチャは、AIモデルが異質でありながら、相互に関連する概念を結びつけて重み付けできるようにすることで、大規模言語モデル革命を引き起こしました。2019年には、拡散アーキテクチャによって、モデルが構造化ノイズを確率的予測に改良することを可能にし、ロボティクスの経路計画と予測に不可欠な画像 と動画生成の進歩に拍車をかけました。また、テスト時のコンピューティングにより、モデルは内部エラー修正と推論を使用して非常に複雑な問題を解くことができます。OpenAIo1o1 Proはこのアーキテクチャを利用しており、多くのエージェント型システムの基盤となる可能性があります。

Google社の新しいアーキテクチャ「Titans」は、このようなアーキテクチャ革新のリストに加わる可能性が高く、AIモデルが自身の長期記憶をキュレーションして改良し、問題を解決する企業向けソフトウェアエージェントだけでなく、タスクを実行する工場用ロボットにも関連する新しい情報を保存出来るようになります。Titans対応のAIシステムは、初めて導入されたかのように指示セットごとに取り組むのではなく、特定のコンテクストで展開する時間が長くなるほど、より専門的で有能になるはずです。

実際、Titansの進化は、AIビジネスモデルの定着率に劇的な影響を及ぼす可能性があります。このアーキテクチャは、AIプロバイダーを変更しようとしている企業にとっては、乗り換えコストが上昇するでしょう。例えば、AIシステムが社内のプロセスやローカル環境を理解できるように進化している場合、別のシステムに切り替えるとコストがかかり、場合によっては、再トレーニングが必要になります。また、テスト時のコンピューティングと同様に、アーキテクチャ「Titans」も、AIの計算ニーズをトレーニングから推論へとシフトさせます。AIモデルのプロバイダーは、AIシステムのトレーニングに何十億米ドルもかけて、その投資の回収を期待する代わりに、そのコストを顧客へのモデル提供に関連する運用費用に振り向けることができるのです。テスト時のコンピューティングでは、顧客はモデルが特定の問題を考えて解決するのに必要な時間の対価を支払います。Titansの場合、顧客はAIシステムにローカル・コンテキストを埋め込み、保持するための費用を支払うことになります。

Titansの躍進は、AIの研究、エンジニアリング、開発がまだ初期段階にあることを示唆しています。研究者たちは、トランスフォーマーと拡散・アーキテクチャの効率を高めるために、さまざまな技術を模索しています。Titansは、探索とコストパフォーマンス改善に向けた新たな領域を切り開くものであり、テスト時のコンピューティングの研究には、まだ長い道のりがあることを示唆しています。AIはこれまで猛烈なスピードで進歩してきましたが、Titansによってそれがさらに加速する可能性があるようです。

 

3. 生物工学を取り入れたAI基盤モデルは進化を超えるか?

By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst

 

進化とは、数十億年にわたる適応と最適化を通じて地球上の生命を形成し、生物システムの驚異的な多様性と機能性を生み出した工学的プロセスです。そして現在、基盤モデルは進化の原理を活用し、工学的な解決策でそれを凌駕できることを実証しているようにみえます。

例えば、AIを利用したモデルは、効果的なヘビの抗毒素タンパク質を設計するという100年来の課題に取り組んできました。ヘビに噛まれて命を落とす人は年間10万人を超えています。動物の血漿から抽出される従来の抗毒素は、高価で、かつ効果も限定的であり、臨床的に投与する必要があります。

研究者たちは機械学習の力を活用し、計算によるタンパク質設計を用いて、致死的なヘビ毒の毒素を中和するミニバインダータンパク質を作製しました。驚くべきことに、かつては数ヵ月から数年を要した計算によるタンパク質設計プロセスが、わずか数秒で完了したのです[14] また、非常に精密な設計が可能となったため、従来は数万個の候補タンパク質をスクリーニングしていたのに対し、わずか数十個の候補タンパク質のみをスクリーニングするだけで、非常に効果的なバインダー(結合剤)を特定することができるようになりました。動物実験や実験室での研究では、ミニバインダーは神経伝達物質を標的とし、組織損傷を引き起こす毒の成分に強く結合することが示されました。

Nature誌に掲載された[15]この研究は、機械学習がいかにタンパク質設計に革命をもたらし、革新的な治療法の迅速な開発を可能にしているかを強調するものです。また、その結果得られた抗毒素タンパク質は、より安全で、より入手しやすく、より費用対効果の高い治療法を約束しており、従来のアプローチの著しい限界を克服しています。

進化データセットでトレーニングされたAIシステムのもう一つの例として、ESM3基盤モデルは5億年の進化の過程をシミュレートしました。現在、このモデルは、わずか数秒で[16]、天然タンパク質の性能をはるかに上回るまったく新しい機能性タンパク質を設計することができ、自然のプロセスではアクセスできない設計空間を探索し最適化することで、進化を効果的に「打ち負かす」ことができます。

これらの進歩は、AIを活用したモデルがいかに生物工学を再定義し、長年の課題を比類のないスピードと効率で解決し、治療開発に新たな境地を切り開こうとしているかを示しているといえます。

 

4. バイオテクノロジーにおいて、悲観的な公開市場と楽観的な非公開市場のどちらが的を射ているか?

By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst

 

バイオテクノロジーの投資家たちは、評価額とパフォーマンスの両面で、非公開市場と公開市場の乖離が拡大していることを目の当たりにしています。個人投資家たちは長期的なイノベーションに賭けていますが、公開市場は短期的な収益性を重視しています。規制と経済の変化により、このギャップは埋まるのでしょうか?

2024年、バイオテクノロジーの非公開市場は、2021年の106件の資金調達に迫る96件のメガラウン ド(9桁の資金調達)で回復しました。例えば、JNJIntra-Cellular Therapies146億米ドルで買収しました[17]が、これは、今後9年間で業界収益の30%に相当する4,000億米ドルの収益がパテントクリフ(特許の崖)リスクに屈するため、パイプラインの補充が急務であることを示唆しています[18]。バイオテクノロジーの新規株式公開(IPO)市場が低迷している一方で、非公開市場の投資家は臨床的に検証された後期段階の資産に集中し、変革をもたらす科学を支援しています。 

一方、株式市場は、強力なキャッシュフローと一貫したアウトパフォームを持つ診断薬分野のリーダーであるNatera(ナテラ)社のような企業を評価しており、広範な診断薬分野だけでなく、遺伝子編集のようなイノベーション重視のセクターも避けています。言い換えれば、株式市場は長期的な可能性よりも計上された収益を選好しているということです。私たちの見解では、イノベーション主導の成長が予想を上回る水準でサプライズとなるにつれて、このズレは再調整されるでしょう。

トランプ政権は、インフレ抑制法(IRA)の「薬剤ペナルティ」の廃止や医薬品承認の迅速化など、イノベーションに優しい政策を推進しており、公開市場の焦点を変化させる可能性があります。効率化改革と相まって、こうした政策変更は、公開市場と、影響力の大きいイノベーションが大きなリターンをもたらすという非公開市場におけるイノベーションへの信頼を一致させるはずです。

先週、JPモルガン(JPM)のヘルスケア・カンファレンスに参加した企業は、この提携が具体化し始めていることを示唆しました。例えば、Nvidia(エヌビディア)とIQVIAおよびIllumina(イルミナ)との提携に見られるように、人工知能(AI)は創薬に変革をもたらし始めています。Bluerock(ブルーロック)社のパーキンソン病治験に代表されるように、細胞療法や遺伝子療法の進歩は、永続的な個別化医療の可能性を示しています。一方、現在、世界のライセンス契約の3分の1を占めるようになった中国のバイオテクノロジーの革新が、そのグローバル化を象徴しています。

非公開市場は、公開市場がイノベーションが長期的な価値をもたらすことを認識するようになると予測しているようです。診断薬、AI、細胞療法はすでにその可能性を証明しつつありますが、新政権における規制改革により、公開市場の再調整が加速するはずです。

 

 

 

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[1] Jonathan’s Space Pages. 2025. “Starlink Launch Statistics.”

[2] Blue Origin. 2025. “Blue Origin’s New Glenn Reaches Orbit.”

[3] Musk, E. 2025. “Preliminary indication is that we had an oxygen/fuel leak...” X.

[4] Korus, S. 2025. “Starlink Is Riding Down Wright’s Law’s Cost Curve.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.

[5] Jonathan’s Space Pages. 2025. “Starlink Launch Statistics.”

[6] Korus, S. 2023. “SpaceX Makes Progress With Second Starship Launch.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.

[7] ARK Investment Management LLC. 2025. “Elon's Historic Week: Cybercab And Starship | The Brainstorm EP 65.” YouTube. See also Musk, E. 2024. “The first Starships to Mars will launch in 2 years…” X. Nawfal, M. 2025. “ELON: FIRST MARS MISSION IN 2 YEARS...” X.

[8] SpaceX. 2025. “Watch Starship’s seventh test flight…” X.
Johnson, J. 2025. “@cnnbrk @CNN @cnnio @pardon_Me_22 appears to be a meteor shower….” X.

[9] Musk, E. 2025. “Improved version of the ship & booster…” X.

[10] Blue Origin. 2025. “Blue Origin’s New Glenn Reaches Orbit.”

[11] U.S. Federal Aviation Administration. 2025. “FAA General Statements.”

[12] Musk, E. 2025. “The booster flight was a success…” X.

[13] Behrouz, A. et al. 2024. “Titans: Learning to Memorize at Test Time.” arXiv.

[14] Callaway, E. 2025. “AI-designed proteins tackle century-old problem — making snake antivenoms.” Nature.

[15] Vázquez Torres, S et al. “De novo designed proteins neutralize lethal snake venom toxins.” Nature.

[16] Hayes, T. et al. 2025. “Simulating 500 million years of evolution with a language model.” Science.

[17] Satija, B and Singh, P. 2025. “J&J doubles down on neurological drugs with $14.6 billion Intra-Cellular deal.” Reuters.

[18] Eckhardt, J. 2025. “5 Insights From The 2025 JP Morgan Healthcare Conference.” Forbes.

 

 

 

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