本レポートは、2024年8月19日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #427」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. 10x GenomicsがAI主導型医療で画期的な進歩を実現
By Nemo Marjanovic, PhD | @ARKInvest
Research Analyst
単一細胞（シングルセル）ゲノミクスとAIにおける最近の進歩は、創薬と個別化医療を前進させる知識を生み出し、医療に変革をもたらしつつあります。単一細胞ゲノミクスは、研究者が個々の細胞内の遺伝的活動を解析し、がんのような複雑な疾患を理解し、どの細胞が病気の進行に関与しているかを特定するのに役立ちます。
AIは単一細胞ゲノミクスによって生成される膨大なデータセットを整理し、解釈するために不可欠です[1]。scGPT[2]やscFoundation[3]のような基礎モデルは、数百万個の細胞でトレーニングされており、細胞タイプの分類だけでなく、薬剤に対する細胞反応の予測や複雑な組織データセットの統合も可能にします。これらのモデルは、コンピュータ内で結果を予測することで創薬を加速し、新しい治療法の開発にかかる時間とコストを劇的に削減するのに役立つはずです。10x Genomics（テンエックスゲノミックス）社のような企業が提供するテクノロジーは、膨大な量の高品質な単一細胞データを生成することでAIのブレークスルーを可能にする重要な役割を果たしています。
最終的には、AIと単一細胞ゲノミクスの融合によりバーチャル細胞の作成が可能になり、研究者がさまざまな疾患や治療体制における細胞の挙動をシミュレートできるようになる可能性があります。研究室を介さずに、より速く、より安全で、より効率的な新しい治療法を開発することに役立つバーチャル細胞は、創薬に革命をもたらすかもしれません。
2. BitGoがBit GlobalとのWBTCの合弁事業を 発表し、DeFiプロトコルが勢いづく
By Lorenzo Valente | @LorenzoARK
Research Associate
先週、デジタル資産の機関投資家向けカストディアンであるBitGoは、Bit Globalとの合弁事業を通じて国際的に事業を拡大し、WBTC（Wrapped Bitcoin）のセキュリティを強化する意向を発表しました。この取り組みにより、WBTCは複数の管轄区域と複数の機関による初のカストディ商品となります。
WBTCは、ビットコインをイーサリアムのチェーン上にブリッジするための最も一般的なソリューションです。BitGoはネイティブビットコインの保管を行ないながら、イーサリアムのブロックチェーンと互換性のあるフォーマットで基礎となるビットコインを表すERC-20トークンを発行します。
デジタル資産コミュニティはこの発表に慎重な反応を示しましたが、それはBit Globalが、数々の疑わしいプロジェクトに関与し[4]物議を醸してきたTron（トロン）ブロックチェーンの創設者、ジャスティン・サン氏と密接な関係にあるためです。BitGoとBit Global、ひいてはジャスティン・サン氏との提携により、WBTCを保護するマルチシグネチャーの設定における2つのキーのうちの1つを、それぞれの会社で管理できるようになります。
WBTCは多くのDeFiプロトコルにおいて重要な担保資産です。以下に示すように、約90億米ドル相当の15万以上のWBTCがイーサリアムのブロックチェーン上に存在します。BitGoとBit Globalのベンチャーは、それぞれ4億米ドルと22億米ドル相当のWBTCを保有するMakerDAOとAaveにとって特に問題となる可能性があります。
出所：Dune Analytics 2024."WBTC"、2024年8月16日現在。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや、証券や暗号通貨の購入、保有、売却を推奨するものではありません。
出所：Dune Analytics 2024."WBTC"、2024年8月16日現在。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや、証券や暗号通貨の購入、保有、売却を推奨するものではありません。
BitGoとBit Globalの提携とそのマルチシグネチャーの設定に伴うリスクを考えると、MakerDAOとAaveはどちらも、担保資産としてWBTCをオフボードにするというDAO（分散型自律組織）の提案に反発しています。一方Coinbaseは、抜け目なくBase上でcbBTCをローンチする[5]と発表しましたが、詳細はまだ明らかにされていません。Coinbaseによって管理されるcbBTCはWBTCと直接競合する可能性が高いでしょう。
3. Sakana AIが科学研究の自動化の夢を推進
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet
元Google社員によって設立された東京を拠点とするAI研究所、Sakana（サカナ）AIは最近、「AIサイエンティスト」と呼ばれる新プロジェクトの詳細を発表しました。この「エージェント型」[6]システムは、言語理解、計画、推論、コーディングスキルなど、大規模な言語モデルの強力な機能を組み合わせることによって、科学的プロセス全体を自動化するように設計されています。「AIサイエンティスト」は、次の図で示すようなプロセスに従います。
出所：Sakana AI。説明のみを目的としています。
例えば、AIシステムの学習コストを下げる方法を探るなど、研究の方向性を示す開始テンプレートが与えられると、「AIサイエンティスト」はアイデアをブレインストーミングし、その新規性をチェックし、一連の実験を設計して実行し、査読に耐えうる分析結果を書きます。Sakanaチームは、「AIサイエンティスト」によって作成された論文の品質を判定するシステムも設計し、作成された論文が機械学習カンファレンスへの参加基準を満たしているかどうかを判断しました。ただし、出力の品質はさまざまであり、論文が真の査読プロセスにどの程度耐えられるかはわかりません。驚くべきことに、各論文の作成コストはわずか15米ドルです。
とはいえ、このプロジェクトは完璧でも完全でもありません。例えば、このシステムは画像を解釈することができず、数字を比較するときに単純なミスを犯します。そして重要なのは、この製品は既存の研究を前進させることはできそうではあるものの、新しい研究アイデアを生み出す能力があるかは不明だということです。
AI研究コミュニティの長年の夢であったAIシステムは、科学的発見の自動化において転換点を迎えているようです。元Open AI社員のレオポルド・アッシェンブレナー氏は、AI研究の自動化がスーパーインテリジェンスの能力を解き放つ鍵になると考えています。彼の理論によれば、科学的プロセスを自動化すれば、科学的なブレークスルーは計算能力の予算以外にほとんど左右されなくなるはずです。
[1] Chan, P. and & Zuckerberg, M. 2023. “How AI can help us understand how cells work—and help cure diseases.” MIT Technology Review.
[2] Cui, H. et al. 2024. “scGPT: toward building a foundation model for single-cell multi-omics using generative AI.” Nature Methods.
[3] Hao, M. et al. 2024. “Large-scale foundation model on single-cell transcriptomics.” Nature Methods.
[4] U.S. Securities and Exchange Commission. 2023. “SEC Charges Crypto Entrepreneur Justin Sun and His Companies for Fraud and Other Securities Law Violations.”
[5] Coinbase. 2024. “cbBTC.” X.
[6] 人工知能 (AI) エージェントは、環境と対話し、データを収集し、そのデータを使用して自己決定のタスクを実行し、事前に決定された目標を達成できるソフトウェア プログラムです。人間が目標を設定しますが、AI エージェントは、その目標を達成するために必要な最適なアクションを独自に選択します。Amazon Web Services. 2024. “What Are AI Agents?”参照。
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