By ARK Invest

本レポートは、2024812ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #426」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. RecursionとExscientiaが合併し、AIを活用した創薬の強豪企業が誕生

By Nemo Marjanovic, PhD | @ARKInvest
Research Analyst

 

先週、Recursion(リカーシオン)社とExscientia(エクセンティア)社は、合併に合意しました[1]。これは、AI主導による創薬の変革に向けた画期的な一歩であるといえます。Recursion社の先駆的な生物学的探索能力とExscientia社のAI精密化学を統合することになるため、この提携はバイオ医薬品業界を新たな医薬品の発見と新しい開発方法へと飛躍させる可能性があります。

FacebookによるInstagramの買収やGoogleによるYouTubeの買収のように、Recursion社とExscientia社の合併は変革をもたらすはずです。重要なのは、合併後の企業がAIを活用して生物学的データと精密に設計された化学を統合し、コストの削減と期間の短縮により発見から臨床開発までのプロセスを加速させることです。

この合併による財務的な影響は計り知れません。85千万米ドル相当の現金および現金等価物を含む十分な資本を有するバランスシートを備えたこの合併会社は、今後18ヵ月で10件の臨床結果が得られる可能性のある、腫瘍学、希少疾患、感染症をターゲットとした革新的なパイプラインに積極的に投資できる体制が整っています。

また、この合併には、近い将来2億米ドル以上のマイルストーン支払いや、ロイヤリティ前の長期的な収益として約200億米ドルを引き出す可能性があるパートナーシップも含まれています[2]Recursion社とExscientia社の専門知識を考慮すると、これらのパートナーシップは、AI主導の創薬がまず従来の創薬手法を補完し、次にそれを凌駕するという新しい時代の到来を告げるものになるはずです。

 

2. マクロ経済イベントが先週初めにデジタル資産市場を直撃

By Lorenzo Valente | @LorenzoARK
Research Associate

 

先週の月曜日、米国の投資家は日本の日経平均株価が12%も急落[3]、世界的な景気後退の可能性が高まっただけでなく、日米金利間のキャリートレードの大幅な巻き戻しが市場全体に大混乱を引き起こしているという気になる噂が流れました。これを受けてデジタル資産は大幅に売られ、ビットコインとイーサは日曜日から月曜日にかけて20%以上下落しました。中央集権型と分散型の取引所全体で、34千万米ドルのイーサと42千万米ドルのビットコインを含む10億米ドル以上の先物[4]が清算されました。

暗号資産価格の大幅な下落は強気相場ではよくあることですが、今回のオンチェーンデータは、通常のボラティリティ以外の何かが働いている可能性があることを示唆しています。Jump Cryptoは、総額31,500万米ドル[5]を超えるイーサのポジションを解消し、取引所に送金しました。ボラティリティが高まり、市場が恐怖に陥り、価格が急落している時期になぜ売却したのでしょうか。当社は、Jumpの行動は緊急事態を伝えるものとみています。同社が TerraLuna(テラルナ)の崩壊[6]Wormhole(ワームホール)のハッキング[7]FTXの大失敗[8]CFTC [9]の調査の噂に関与しており、また6月下旬にはCEOが退任していたため、すでに多くの投資家がJump Cryptoの健全性を疑問視していました。

暗号資産コミュニティはキャリートレードの危険性を熟知しています。過去2年半の間に3ACCelsiusBlockFiGenesisなどの数社が、Grayscale Bitcoin Trust (GBTC)Grayscale Ethereum Trustに関わるキャリートレードを利用して破産しました。これらの取引では、企業はGrayscaleから6ヵ月のロックアップ付き新株を購入することで、純資産価値(NAV)でGBTCを引き受け、株式が公開市場で売却できるようになれば、プレミアム価格で取引され続けることを予期していました。予想される利益を増幅するために、企業はビットコインを借り入れ、ポジションを再担保化することで取引にレバレッジをかけたのです。

最近のオンチェーン取引と市場の売りが日本のキャリートレードに関連しているという明確な証拠は存在しません。ヘッジファンドやアルゴリズム取引会社は通常、レバレッジの高いバランスシートで運営されており、暗号資産分野で活動している企業にとってカウンターパーティーリスクを引き起こす可能性があります。ビットコインのブロックチェーンはカウンターパーティーリスクの影響を受けませんが、日本が先週日曜日に取引を開始した時点では、ビットコインやその他の暗号通貨は、24時間365日体制で、キャリートレードの解消に伴うマージンコールを満たす最も流動性の高い手段だった可能性があります。その結果、週の残りの期間に価格が急回復したことにも驚きはありませんでした。

 

3. 米国の電気料金の値下げを原子力規制委員会が妨げたか

By Sam Korus | @skorusARK
Director of Research, Autonomous Technology & Robotics

 

ライトの法則に基づくARKのリサーチによると、下図で示されている通り、第二次世界大戦を除き、米国の電気料金は1800年代後半から1974年まで一貫して下落していました。

SNL-0809-Chart-01

出所:ARK Investment Management, 2024。米国エネルギー情報局2024a2024bSmil 2000Potter 2023のデータに基づく[10]

 

では、1974年に何が起こったのでしょうか。1974年のエネルギー再編法により、原子力委員会は原子力規制委員会とエネルギー研究開発庁に分割されました。私たちの見解ではこれは偶然の一致というよりも、次の図に示されているように、原子力エネルギーのコスト低下が逆転したものです。1974年のエネルギー再編成法の後、原子力コストは上昇に転じ、電気料金のさらなる低下を阻止しました。

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出所:ARK Investment Management, LLC, 2024Lovering et al. 2016; IAEA 2023; EIA 2022; 202310月現在、World Nuclear News 2022 のデータに基づく[11]。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

現在、小型モジュール炉によって大規模な原子力プロジェクトに伴うリスクが制限されているため、規制当局が原子力開発を妨げることから支援に転じれば、一晩で建設コストは現在の1kW時あたり約1万米ドルから、1970年代初頭に達成された約千米ドル以下にまで一気に下がる可能性があります。

もしそうなら、原子力発電に関連する資本コストは、今日の太陽光発電や風力発電に関連する資本コストと同程度になるでしょう。とはいえ、太陽光発電や風力発電のような断続的なエネルギー源に比べれば、原子力の利用率は高いため、ベースロード電源コストの大幅な削減につながる可能性があり、これは魅力的な機会であるといえます。

原子力エネルギーが規制当局や環境保護団体から再び支持を取り戻しつつある今、実行リスク、特にコスト超過は、今後数年間、資本配分担当者にとって最大の懸念事項となりそうです。

 

 

 

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[1] Recursion Pharmaceuticals, Inc. 2024. “Recursion and Exscientia Enter Definitive Agreement to Create a Global Technology-Enabled Drug Discovery Leader with End-to-End Capabilities.”

[2] Recursion Pharmaceuticals, Inc. 2024. “Recursion and Exscientia Enter Definitive Agreement to Create a Global Technology-Enabled Drug Discovery Leader with End-to-End Capabilities.”

[3] The Mainichi. 2024. “Nikkei closes with largest point drop in history, down 12%.”

[4] Sarkar, A. 2024. “Over $1B wiped out in crypto liquidations as global markets suffer.” Cointelegraph.

[5] Lindrea, B. 2024. “Jump Crypto unstakes $315M of ETH, now headed to exchanges.” Cointelegraph.

[6] Wang, T. and Kessler, S. 2023. “Jump Crypto Is Unnamed Firm That Made $1.28B From Do Kwon’s Doomed Terra Ecosystem.” Cointelegraph.

[7] Kelly, L.J. 2022. “Why Jump Crypto Bailed Out Wormhole.” Decrypt.

[8] Sandor, K. 2023. “Sam Bankman-Fried’s FTX Spurred Almost $300M Loss for Crypto Market Maker Jump Trading, Michael Lewis Says in ‘Going Infinite.’” Coindesk.

[9] Schwartz, L. 2024. “ The CFTC is probing Jump Crypto, previously one of the sector’s biggest players.” Yahoo/Finance.

[10] U.S. Energy Information Administration. 2024a. "Electricity. Form EIA-860 detailed data with previous form data (EIA-860A/860B).” U.S. Energy Information Administration. 2024b. “Electricity Data Browser. Average Retail Price of Electricity, Monthly.”  Smil, V. 2000. “ENERGY IN THE TWENTIETH CENTURY: Resources, Conversions, Costs, Uses, and Consequences.” Annual Review of Energy Environment. Potter, B. 2023. “Birth of the Grid.” Construction Physics. 

[11] Lovering, J. et al. 2016. “Historical construction costs of global nuclear power reactors.” Energy Policy. International Energy Agency. 2022. “Cost and Performance Characteristics of New Generating Technologies, Annual Energy Outlook 2022.” World Nuclear News. 2022. “AP1000 remains attractive option for US market, says MIT.”

 

 

 

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