本レポートは、2025年4月7日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #458」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. CircleのIPO申請は投資家にステーブルコイン大手に関する貴重な洞察を提供
By Lorenzo Valente | @LorenzoARK
Director of Research, Digital Assets
Circle社は、2022年に90億米ドルの評価額が予定されていた特別目的買収会社（SPAC）との合併が中止された後、先週、2度目の試みとして、今度は40億～60億米ドルの評価額で待望のIPOを申請しました[1]。
同社は2024年の収益が前年比15%増の17億米ドルと報告しましたが、純利益と調整後EBITDAはそれぞれ42%と28%減少し、1億5,700万米ドルと2億8,500万米ドルとなりました。一方、USDCの流通供給量は80%増加し、440億米ドルとなりました[2]。
投資家たちは、Circle社の収益に対する流通コストの割合について議論を交わしています。昨年の収益17億米ドルのうち、同社は10億米ドルを販売パートナーに割り当て、そのうちCoinbaseは9億米ドルを受け取りました[3] （下図参照）。
出所: Valente 2025年 米国証券取引委員会（UNITED STATES SECURITES AND EXCHANGE COMMISSION）2025年のデータに基づく [4]。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券や暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。
Coinbaseは、収益分配モデルにおいて、同社のプラットフォーム上で保有されているUSDCの利息の100%、およびCoinbase外で保有されているUSDCの利息の50%を受け取っています[5]。この契約は、Circle社とCoinbase社の密接な関係を裏付けるものです。
Circle社の噂されているIPO評価額は、EBITDA倍率が13倍から20倍の間であることを示しており、これはCoinbase（16倍）、PayPal（10倍）、Block（中間値で17.5倍）のようなフィンテック大手に匹敵するものです[6]。 とはいえ、同社の最近の収益性の低下と収益源の集中を懸念している投資家もいます。
現在、Circle社は典型的な暗号通貨ビジネスのように評価されています。つまり、収益源が集中し、循環的で金利に依存しているビジネスです。同社がどのように投資案件を組み立てるかが鍵となります。そして、懸念はあるものの、Circle社はデジタル資産分野で最も成長の速い分野であるステーブルコインに特化した唯一の上場企業となるでしょう。
2. Anthropicのモデル・コンテキスト・プロトコル（MCP）はAIエージェントを接続する新たな標準
By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet
先週、サム・アルトマン氏は、OpenAI社がAnthropic社のモデル・コンテキスト・プロトコル（MCP）[8]をサポートすることを発表しました[7]。
MCPは、チャットボット、エージェント、その他のアプリケーションなどのAIシステムと、ウェブ上に存在するツール、データ、その他の外部サービスとのシームレスな統合を可能にする通信プロトコルです。MCPは実質的に、大規模言語モデル（LLM）の人間の言語とウェブAPIのコンピュータコードとの間のギャップを埋めるのに役立ちます。
これまで開発者は、ウェブ検索やデータベース検索などの機能を追加するために、AIアプリケーションと外部サービス間の統合をカスタマイズする必要がありました。MCP以前は、すべてのアプリケーション開発者が各アプリケーションを統合する必要があり、複雑さが増し、市場投入までの時間がかかっていました。
MCPは、開発者が使用し、再利用できる共有標準です。Camel-AI[9]のデータに基づく次の図は、この点を示しています。例えば、AIアプリケーション開発者は、Perplexityのウェブ検索をわずかな統合でアプリに追加することができます。
出所: ARK Investment Management LLC, 2025年。Caml-AI2025年のデータに基づく[10]。本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券や暗号通貨の購入、売却、保有を推奨するものとみなされるべきではありません。
オープンスタンダードとして、開発者はMCPを急速に採用しています。ウェブサイトMCP.so [11]で測定したところ、6,000台を超えるMCPサーバーが作成され、共有されています。
興味深いことに、オープンスタンダードとしてのMCPの採用により、モバイルアプリケーションというよりも、インターネットプロトコルやオープンウェブにより近いエコシステムが進化しています。オープンウェブの経済とは対照的に、モバイルオペレーティング システムの所有者は、自社の囲い庭にアプリケーションを展開する人々から高い使用料を徴収してきました。
MCPはツール/データソースとAIアプリケーション間の接続を可能にし、その作業に最適なツールとデータソース選択できるようになります。これにより、おそらく、データを最も効率的かつ効果的に委任および統合している最もスマートなモデルの作成者に、利益がもたらされることになるでしょう。
3. OpenAIの新たな画像生成機能がインターネットを席巻
By Brett Winton | @wintonARK
Chief Futurist
3月末、OpenAI社はChatGPTを使った新しい画像生成モデルをリリースし[12]、ソーシャルメディアは AIで修正されたコンテンツで溢れかえりました。以下のグラフでは、その急増した動きから得られた5つのポイントを紹介します：
- この傾向はChatGPTの普及力を証明するものであり、同社のリードが拡大しています。
- この立ち上げにより、OpenAI社の基盤となるコンピューティングインフラストラクチャに負担がかかり、エンドユーザーが求めているAIコンピューティングが世界的に不足していることをさらに証明するものとなりました。
- このリリースは、知的財産（IP）の所有者たちの間で新たな動揺を引き起こしましたが、同時に、利用可能なIPを操作するモデルの利点も実証しました。
- この画像生成システムの機能の向上は、マーケティングやパーソナライズされた広告にとって重要な意味を持ちます。
- 画像生成の進歩により、ロボティクスやその他の実世界でのAI応用における技術革新のペースを加速させる可能性があります。
マペット風「ARKの収穫」。出所：ARK Investment Management LLC、2025年、ChatGPT使用。本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
OpenAI社は、画像生成のリリースにより、以下に示すように流通におけるリードを強めています。同社は、エンドポイントチャットボット市場で80％のシェアを獲得しており、新しい画像生成ツールをリリースした翌週には、1日あたりのアクティブユーザー（DAU）が170万人、つまり14％も増加しました[13]。その流通の優位性により、OpenAI社は、自社の製品能力が十分ではあるものの、クラス最高とはいえない状況でも競争できる可能性があります。例えば最近、Google社のGeminiとxAIのGrokが、少なくともOpenAI社のものと同程度の性能を持つ、調整可能な画像生成モデルをリリースしました。OpenAI社は、リリースが若干「遅かった」にもかかわらず、最新のユーザー獲得の急増で勝利し、流通の優位性がいかに複合的であるかを示しています。
出所：ARK Investment Management LLC、2025年。2025年4月4日現在のSimilarWebおよびSensorTowerのデータに基づく。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
出所：ARK Investment Management LLC、2025年。2025年4月4日現在のSimilarWebおよびSensorTowerのデータに基づく。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
ChatGPTの画像生成機能のリリースにより、GPUへの需要が大幅に増加し、OpenAI社のキャパシティを圧倒しました。サム・アルトマン最高経営責任者（CEO）は、この急増により、画像生成リクエストに一時的なレート制限がかかったと指摘し、「当社のGPUは溶けだしています」と叫びました[14]。この傾向は、ユーザー数の増加と利用率の上昇に対応するために追加の AIコンピューティングが必要であることを強調しており、これが OpenAI社がSoftbank社主導で 400億米ドルの資金調達ラウンドを実施した理由であると報じられています[15]。
ARKのリサーチによると、次の図で示すように、AIコンピューティングに対する需要は2030年までに4.5倍に増加すると予想されていますが、OpenAIの需要は当社の予測を裏付けています。この使用例（ミームをスタジオジブリ風のイラストに変換する）は馬鹿げていると思われるかもしれませんが、それが生み出した需要はそうではありません。これは、基盤となるツールによって生み出された段階的な変化なのです。
出所：ARK Investment Management LLC、2025年。このARKの分析は、2025年4月4日時点の様々な情報源からのデータに基づいており、リクエストに応じて入手可能な場合もあります。本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。
スタジオジブリ風のAI生成画像の人気は、知的財産に関する興味深い考察を提起しています。スタジオジブリの共同創設者である宮崎駿氏は、AIが生成したアートを批判してますが[16]、 日本の著作権法では、明確な同意なしで、著作権で保護されたコンテンツに対してAIをトレーニングすることが許可されています。知財保護はクリエイターに報いるためのものですが、この場合、スタジオジブリはAIによる露出から徐々に恩恵を受けているようです。例えば、『となりのトトロ』への関心は、次の図で示すようにAI画像生成公開後に40％上昇しました。メディア企業が、コンテンツを検索に利用できるようにすることが、インターネット時代に生き残る鍵であることを学んだように、アイデアや芸術をAIに提供することは、AI の時代に知的財産を拡大する上で、極めて重要なものになるかもしれません。
出所：ARK Investment Management LLC、2025年。このARKの分析は、2025年4月4日時点でのGoogle Trendsのデータに基づく。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去のパフォーマンスは将来の結果を示唆するものではありません。
より現実的なところでは、こうした画像生成システムは、パーソナライズされたマーケティングを一変させる可能性があります。一般的なモデルではなく、ユーザー自身がドレスを魅力的に着こなす姿が描かれていれば、ドレスの広告はより効果的で、商品の返品率も低くなるはずです。真にパーソナライズされた広告は、今や手の届くところにあり、オンラインコマースが実店舗からより多くのシェアを奪うのに役立つはずです。もっと広い意味では、画像生成におけるこの進歩は、AIの他の受益者にも影響を与えるはずです。例えば、ロボタクシーの開発チームやヒューマノイドロボットの製造業者は、経路計画、シミュレーション、シーンの解釈に画像生成を活用しています。最先端技術の進歩は、ロボットやロボタクシーの性能向上につながるはずです。つい先日まで、専門家たちは、AIシステムは学習したデータポイント以外のデータポイントを接続することは決してできないと主張していました。その一例が、AIシステムが宇宙飛行士に乗る馬の画像を生成できないことでした。以下に示すように、明らかに新しいモデルはその限界を超えています。これは、ばかげた例かもしれませんが、AIの機能が大きく進歩したからこそ可能になったことなのです。これまで一貫してAIがそうであったように、否定的な人々が不可能だと主張するどんな課題も、最終的にはAIの加速度的な進歩の途中にある中継地点となるのです。
宇宙飛行士に乗る馬。出所： ARK Investment Management LLC 2025年、ChatGPT使用。本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
マペット風の宇宙飛行士に乗る馬。出所： ARK Investment Management LLC 2025年、ChatGPT使用。本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。
[1] UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION. 2025. “FORM S-1, CIRCLE INTERNET GROUP, INC.”
[2] 同上[3] 同上
[4] Valente, L. 2025. “0/@circle just announced its IPO filing yesterday...” X. UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION. 2025. “FORM S-1, CIRCLE INTERNET GROUP, INC.”
[5] 同上
[6] See Valueinvesting.io. 2025. “COIN EV/EBITDA.” Alphaspread. 2025 “PayPal EV/EBITDA.” Gurufocus. 2025. “Block (XYZ) EV/EBITDA.”
[7] Altman, S. “people love MCP…” X.
[8] Anthropic. 2024. “Introducing the Model Context Protocol.”
[9] Camel-AI. 2025. “How to Use MCP with the OWL Framework: A Quickstart Guide.”
[10] 同上
[11] MCP.so. 2025. “Explore MCP Servers and Clients.”
[12] OpenAI. 2025. “Introducing 4o Image Generation.”
[13] ARK Invest estimates based on data from SimilarWeb and SensorTower as of April 4, 2025.
[14] Welch, C. 2025. “OpenAI says ‘our GPUs are melting’ as it limits ChatGPT image generation requests.”
[15] The Guardian. 2025. “OpenAI raises $40bn in deal with SoftBank that values it at $300bn.”
[16] r/Fauxmoi. 2025. “A clip from 2016 of Studio Ghibli co-founder Hayao Miyazaki is trending due to his reaction of seeing AI-generated animation:…’I am utterly disgusted…’ ‘…I strongly feel that this is an insult to life itself…’” reddit.
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