By ARK Invest

本レポートは、2025414ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #459」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. 関税騒動:3年間続いた不況の終焉となるか?

By Cathie Wood | @CathieDWood
Founder, CEO and CIO

 

多くのオブザーバーが、トランプ大統領の関税政策は経済的にも地政学的にも大惨事を招くと懸念していますが、私たちは、一見すると米国史上最大かつ最も逆進的な増税に見えたこの政策が、まったく逆の結果をもたらすことになる可能性があると考えています。トランプ大統領がベッセント財務長官に、ピーター・ナヴァロ氏とハワード・ルトニック氏に代わって同盟国との交渉の指揮を執るよう要請した今、かつては理解しがたい「相互主義」の計算に基づく混沌とした状況に思われたものが、意図的か否かに関わらず、トランプ大統領が行なったショック療法なしにはどちらも不可能であった、関税および非関税障壁の引き下げにつながる真剣な交渉のための周到なお膳立てとなる可能性があります。トランプ政権に依然として影響力を持つイーロン・マスク氏は、過去50年にわたって発展してきた関税および非関税貿易障壁に対するこの解決策を強く支持してきました。

株式市場と債券市場が極端に乱高下したこの1週間、トランプ大統領は中間選挙を控え、今年後半から2026年にかけて力強い経済成長と好調な株式市場を目指している、というのが私たちの基本的な想定でした。今週に入り、トランプ大統領は何度、経済と株式市場が活況を呈すると述べたことでしょうか。 

関税論争以前から、私たちは下半期に力強い成長が始まると予想していました。というのも、3年にわたる景気後退の最終段階として、第1四半期と第2四半期の国内総生産(GDP)成長率はマイナスになると確信していたからです。過去3年間、2022年に始まった金利ショックによって経済の様々な層が次々と崩壊する中、富裕層消費者と政府がGDPを支えてきました。今、その両方が崩れつつあり、政府は30年ぶりの景気後退に突入しています。その結果、政権と連邦準備制度理事会(FRB)は多くの投資家が予想していたよりも大きな景気刺激策を自由に講じることができるようになるでしょう。関税への懸念から経済の大部分が停滞している今、経済活動の落ち込みはそうでなかった場合よりも深刻になる可能性が高く、減税、規制緩和、そして金利低下を求める強い声が上がることになります。

 

2. 動物からAIへ:FDAの新方針は医薬品開発プロセスを変革する

By Brett Winton & Nemo Marjanovic, PhD | @ARKInvest
Multiomics Research Team

 

先週、米国食品医薬品局(FDA)は、モノクローナル抗体やその他の医薬品の開発において、長年要求されてきた動物実験を段階的に廃止するという画期的な計画を発表しました[1]。その代わりにFDAは、医薬品の安全性と有効性を評価するために、AIモデルや実験室で培養したヒト細胞システムなど、「より効果的で、人間に関連性のある」試験方法の使用を奨励しています。 

1938年以来、連邦法は医薬品開発における動物実験を義務づけてきました[2]。現在、AI、マルチオミクス、微小生理学的システムの急速な進歩により、下図に示す第2世代および第3世代の手法のように、より予測性の高い経路の追求が可能となり、またそれが望ましいものとなっています。FDAの取り組みにより、ヒト臨床試験用の有効な医薬品の開発に必要な時間と費用が削減され、AIを積極的に活用するバイオテクノロジー企業や、彼らがサービスを提供しようとする患者にとってプラスに働くことが期待されます。

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出所:ARK Investment Management LLC2025年。このARKの分析は、20241231日時点のBunne、他2024年およびRood、他2024[3]を含む様々な外部データソースを用いています。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示すものではありません。予測には本質的に限界があり、依拠することはできません。

 

このFDAの取り組みは、すでに創薬や開発にAIを活用しているバイオテクノロジー企業にとって、変革をもたらすチャンスとなります。こうした企業ははすでに前臨床プロセスの初期段階でこの種の技術を使用しており、新しい要件を満たすためにそれらのデータの一部を活用できる可能性があります。さらに、これらの企業は前臨床プロセスを合理化しているため、動物実験の義務付けが撤廃されれば、従来の医薬品開発企業と比較して臨床試験への移行が加速されるはずです(下図参照)。

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注:この計算では、AIを活用した医薬品開発の取り組みにより、ターゲットからリード、ヒットからリード、そしてリードの最適化という各開発段階を合計で18ヵ月未満に短縮できると見込んでおり、これは企業のコメントと一致しています。出所:ARK Investment Management LLC2025年。このARKの分析は、2025411日時点の様々な外部データソースを基にしたもので、リクエストに応じて提供することができます。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。また、予測は本質的に限定的であり、依拠することはできません。

 

FDAの指令は、革新的で予測可能な医薬品開発手法へのコミットメントを示すものです。AIを活用したヒトに関連性のあるアプローチは、長期にわたる費用のかかる動物実験への依存を減らすことで、医薬品開発コストを削減し、市場投入までの時間を短縮し、治療効果を高める可能性があります。次の図で示すARKの分析によると、AI開発による治療薬は投資収益率を20%以上向上させる可能性があり、これは製薬業界の現在の平均的な研究開発(R&D)収益率である約4%と比較して5倍の向上に相当します。最終的には、医薬品パイプラインプロセス全体にAIを統合することで、開発コスト全体を4分の1に削減できる可能性があります[4]

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注:割引率10%。*医薬品開発においてこの戦略をとる企業。ただし、その企業が特定の段階で保有するすべての資産にその価値があることを意味するものではなく、また研究開発費に対する企業のリターンがモデル値に見合うことを意味するものでもありません。提供された情報は、いかなる投資判断の根拠としても使用されるべきではなく、また、言及された企業のいずれかが投資を行ない、利益を上げた、または上げると仮定されるべきではありません。出所:ARK Investment Management LLC2025年。このARKの分析は、20241231日現在の様々な外部データソースを利用しており、リクエストに応じて提供することが可能です。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。また、過去の実績は将来の結果を示唆するものではありません。予測には本質的に限界があり、依拠することはできません。

 

AbSciAbCelleraRecursion PharmaceuticalsといったAI中心の医薬品開発企業が最も直接的な恩恵を受けると見込まれますが、この政策の影響はマルチオミクスツールやプログラム生物学的分野にも及んでいます。シーケンシング、単一細胞分子解析、空間トランスクリプトミクス、その他の先進的なマルチオミクスツールを提供する企業は、バイオ製薬企業がAI主導の創薬を加速し、強化するためにワークフローを適応させることで恩恵を受けるはずです。

その恩恵は、バイオテクノロジーにとどまらず、医療システム全体に及ぶはずです。現在、承認された治療法で治療できる希少疾患は全体の約5%程度に過ぎません[5]。理由は明白です。高額な費用がかかるため、医薬品開発企業は対応可能な患者数の多い市場にしか目を向けません。AIが医薬品開発の効率性を高めれば、より多くの希少疾患への対応が治療可能になると予想されます。ARKは、AIによって市場投入までの時間が50%短縮され、開発プロセスの各段階にける失敗確率もさらに50%削減されると推定しています。これにより、バイオテクノロジー企業が希少疾患患者の75%に利益を上げて対応できるようになる可能性があります。その結果、高額な入院や外来医療の必要性が減少し、患者の生活の質が向上することが期待されます。

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注:対象となる希少疾患患者の割合は、研究開発費の15%の収益率を前提としています。 出所:ARK Investment Management LLC2025年。このARKの分析は、2025413日時点の様々な外部データソースに基づくものであり、リクエストに応じて提供することが可能です。本資料は情報提供のみを目的としており、投資アドバイスや特定の証券の購入、売却、保有を推奨するものではありません。

 

要約すると、今週のFDAの発表は、規制の転換だけでなく、分子医学の新時代の幕開けをも告げるものであります。そして、この時代は、イノベーター、患者、医療制度に利益をもたらす、より迅速で、より費用対効果が高く、より正確な医薬品開発を特徴とする時代です。

 

3. Ziplineがダラスで消費者向けドローン配達を開始

By Akaash TK | @akaash_ARK
Research Associate

 

先週、ダラスのWalmart(ウォルマート)スーパーセンターで、Zipline社はドローン配送サービス[6]を開始しました。このサービスでは、65,000点の商品を2分以内に各家庭に配送します。ARKのリサーチによると、今後5年から10年の間に、ドローンは従来の配送サービスと比較して、配送コストを1回あたり5.40米ドルから0.35米ドルへと94%削減できると推定されています。自動配送に関するリサーチの詳細については、ARKの『Big Ideas 2025』をご覧ください[7]

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出所: Zipline 2025。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

4. AIは自律型エージェントで市場を変革する

Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate

 

Amazonはもはや単なるマーケットプレイスではありません。新たに導入された「Buy for Me(代わりに購入)」ボタン[8]は、AIを活用した購買代行サービスへと進化を遂げ、自社の在庫だけでなくサードパーティのウェブサイトでもリードジェネレーターとして機能し、ワンクリックで決済を完了します。この機能により、Amazonは商品の検索と決済を統合し、eコマースのファネルを1つのインタラクションに集約します。

この画期的な進歩は、次の図で示すように、ショッピングに伴う摩擦を軽減してきたマーケットプレイス・イノベーションの歴史的流れを、さらに拡大するものです。初期の経済では、物々交換が標準化された通貨に取って代わられ、価値交換が合理化されました。百貨店は固定価格と集中在庫管理を導入し、交渉を排除しました。インターネットは地理的な制約を取り払い、モバイル・プラットフォームはリアルタイムのオンデマンドコマースを導入しました。技術革新の波が次々と押し寄せ、取引の完了をより迅速かつ容易にすることで、購入までの道のりは短縮されました。

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注:過去のデータは、事例に基づく推定値です。出所: ARK Investment Management LLC, 2025年。2025411日現在のデータ範囲に基づいており、リクエストに応じて提供が可能です。本資料は情報提供のみを目的としたものであり、投資アドバイスや特定の証券の売買・保有を推奨するものではありません。

 

AIは新たな段階、すなわちマーケットプレイスが自律型エージェントとなる時代を先導しています。Amazonのようなプラットフォームは、取引を円滑に進めるのではなく、購買プロセス全体を担い始めています。消費者の関与は最小限に抑えられ、意図が推測され、嗜好が学習され、取引は自動化されます。マーケットプレイスは、リアクティブ型からプロアクティブ型へと移行しつつあります。

AIの進歩に伴い、マーケットプレイスは、供給を調整し、価格を最適化し、フルフィルメントをパーソナライズする動的なインターフェースへと進化する可能性があります。これらはすべて、ユーザーによる直接的な入力なしに実現されます。マーケットプレイスのこの新たな段階は、インテリジェンスとインフラをいかにシームレスに融合させるかによって定義されます。AIを活用して価格、在庫、そしてスピードを最適化するマーケットプレイスは、経済活動の未来を形作る可能性が高いでしょう。

 

 

 

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[1] U.S. Food and Drug Administration .2025. “FDA Announces Plan to Phase Out Animal Testing Requirement for Monoclonal Antibodies and Other Drugs.”

[2] Zushin, P.H. et al. 2023. “FDA Modernization Act 2.0: transitioning beyond animal models with human cells, organoids, and AI/ML-based approaches.” The Journal of Clinical Investigation. 

[3] Bunne, C. et al. 2024. “How to Build the Virtual Cell with Artificial Intelligence: Priorities and opportunities.” Cell. Rood, J. et al. 2024. “Toward a Foundation Model of Causal Cell and Tissue Biology with a Perturbation Cell and Tissue Atlas.” Cell.

[4] 失敗のコストや資本コストを含めると、ARKは、今日、従来のプロセスを用いて医薬品を市場に投入するコストは合計24億米ドルになると見積もっています。AIを使えば、6億米ドル以下を達成できる可能性があります。

[5] Maiale, R. 2025. “Top Clinical Research Organizations for Rare Diseases in 2025.” Precision for Medicine.

[6] Cliffton, K. R. 2025. “Today, Zipline launched in Dallas…” X. 

[7] ARK Investment Management LLC. 2025. “Big Ideas 2025.”

[8] Amazon. 2025. “Amazon’s new 'Buy for Me' feature helps customers find and buy products from other brands’ sites.” 

 

 

 

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