By ARK Invest

本レポートは、2025519 ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #463」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. OpenAI、初のコード生成エージェント「Codex」を発表

By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet

 

先週、OpenAI社は初の目的特化型コード生成エージェント「Codex(コーデックス)」を発表しました[1] このエージェントは、20218月にGitHub Copilot(ギットハブ・コパイロット)の基盤として導入された初代モデルにちなんで「Codex」と名付けられています。これはChatGPTの登場以前のことです。Codexは企業のコードリポジトリに直接統合されており、タスクの実行に必要なコンテキストを完全に把握したうえで、バグの特定や自動修正といった作業を提案できるよう設計されています。このエージェントの基盤となっている「codex-1」モデルは、ソフトウェア開発向けに最適化された、OpenAIの「o3」モデルのバージョンです。 

この製品はまず、ChatGPTProEnterpriseTeamsプランの利用者向けに提供され、今後Plusプランおよび教育機関向け(EDU)にも展開される予定です。現時点では強化されたコーディング機能に対して追加料金は発生しませんが、今後は利用制限(レートリミット)や、より高価格帯の料金プランが導入される可能性があります。まずは開発者からのフィードバックを収集することが同社の狙いです。

Codexは、近年急速に注目を集めている「バイブ・コーディング(vibe coding)」の潮流の中で大きく発展していくと見られます[2]。このトレンドの背景には、大規模言語モデルによるエンドツーエンドのコーディングタスクの処理能力が大幅に向上していること、そしてエージェントが既存のシステムと連携できるツール群が成熟してきたことがあります。

コード生成エージェントの台頭は、仮想CPUサーバーやデータベースといった、より従来型のクラウドコンピューティングのワークロードの拡大を加速させている可能性があります。クラウドサービスは、AIエージェントの開発環境や、エージェントが生成するアプリケーションの実行基盤として機能しています。

今週の関連ニュースとして、Databricks(データブリックス)がクラウドデータベース企業Neon(ネオン)を10億米ドルで買収することを発表しました[3]Neonのプラットフォームは、Replit(リプラット)のようなAI駆動型サービスでも利用されており、現在では75万件以上のSQLデータベースをホストしています。そのうち約80%は、AIエージェントが自律的に生成したものです。

 

2. AIが切り拓く新たな旅のかたち: Airbnb、体験・サービス事業へ拡大戦略を展開

By Nick Grous | @GrousARK
Director of Research, Consumer Internet and Fintech

 

Airbnbはこれまで構築してきた宿泊マーケットプレイスを活用し、現在では「エクスペリエンス」と呼ばれる一連のサービス[4]を提供しています。これにより、旅行全体をカバーするフルスタックのプラットフォームを目指しています。「Experiences 2.0」と称されるこのサービス群には、専門家が主催する現地ツアーやアクティビティのほか、シェフやケータリング、調理済みの食事の提供、写真撮影、マッサージ、スパトリートメント、パーソナルトレーニング、ヘアメイクやネイルといった「サービス」も含まれています。 

包括的なトラベルコンシェルジュを目指し、CEOのブライアン・チェスキー氏とチームはAirbnbアプリを再設計しました。宿泊施設から付帯サービス、現地でのアクティビティに至るまで、旅行の行程全体を提案できるようにしています。明らかにAirbnbは、単に「寝る場所」を提供するだけでなく、旅行者の冒険全体を取り持つ存在になろうとしていることを示しています。

サービスとエクスペリエンスを統合することで、Airbnbは旅行者一人あたりの価値を高め、エンゲージメントとリテンション(継続利用)を向上させることが期待されます。また、アプリの再設計はより深いパーソナライゼーションとAI統合の兆しを示しており、チェスキーCEOは「Airbnbがより賢くなり」、旅行者自身よりも先に好みを予測する未来が来ると語っています。

私たちの見解では、この戦略的な転換は、AI駆動型エージェントが旅行の意思決定を行なう時代において、Airbnbを有利な立場に置くものです。消費者が計画を自律的なシステムに委ねるにつれて、最も豊富で統合されたサービスを提供するプラットフォームが市場を支配する可能性があります。Airbnbは、単に宿泊先を決めるだけでなく、旅行者が「何をするか」まで決めるための目的地となることを目指し、その堀(競争優位)を強化しています。予約プラットフォームから、ワンストップのトラベルオペレーティングシステムへと変革を遂げているのです。

 

3. 赤ちゃんからビジネスモデルへ: オンデマンド遺伝子編集は医療をどう変えるか

By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst

 

2025年初頭、KJと名づけられた生後6ヵ月の赤ちゃんが、生命を脅かす希少な代謝性疾患を治療するために、個別化されたCRISPR療法を受けました。この治療は大規模な臨床試験の結果でも、何年にもわたる製薬プロジェクトの成果でもありません。まさに一例限りの、彼のために特別に設計され、驚異的なスピードで製造され、コンパッションユース(治療的使用)プロトコルのもとで投与された「オーダーメイドのN-of-1療法」でした。史上初めて、遺伝子編集治療が単一患者[5]のために設計され、テストされ、生産され、体内で投与されるまでの全工程が6ヵ月未満で完了したのです。

このプロセスは非常に緊迫しており、重大なリスクが伴いました。フィラデルフィア小児病院(CHOP)とペンシルベニア大学のチームは、KJの遺伝子変異を特定するとすぐに、それを修正するためのベースエディターの設計に全力を注ぎました。すぐにマウスの繁殖を開始し、サルを使った実験も事前に手配。製造パートナーには、Danaher(ダナハー)社のAldevron(アルデブロン)を含む企業が加わり、高品質な薬剤成分を短期間で提供しました。FDAは前例のない速さで治療を承認し、KJ2月に最初の投与を受けました。

初回投与後、結果は完璧とは言えず、その後も追加治療が必要でしたが、治療は効果を示しました。母親のニコールさんは、ある朝病院に行くと、ベビーベッドの中で息子が自力で座っているのを見てこう語りました。「彼がそんなことができるようになる日が来るなんて、思ってもみなかった。」

私たちの見解では、KJの事例は一つの転換点を示しています。オンデマンドでの遺伝子編集が可能であることを証明しただけでなく、広く展開できる可能性も示唆しており、バイオテクノロジー分野を根本的に新しいモデル、すなわち「セラピー・アズ・ア・サービス(TaaS)」へと押し進める可能性があります。

従来の医薬品開発は、多くの年数をかけてマスマーケット向けに設計・開発されるのに対し、TaaS(セラピー・アズ・ア・サービス)はモジュール化され、個別化が可能です。まずゲノム解析で変異を特定し、次にAIを用いて標的治療法を設計、さらにCDMO(受託開発・製造機関)を活用して、オンデマンドでGMP(適正製造規範)準拠のバイオ医薬品を製造します。このプロセスは、従来の平均13年に及ぶ薬剤の発見・開発期間に比べ、数ヵ月で完了する可能性があります。安全性試験はオルガノイド(人工臓器モデル)で行ない、投与はN-of-1試験の枠組みで実施されることが想定されます。現在、薬剤の発見・開発には(失敗例も含め)平均24億米ドルもの費用がかかっていますが、TaaSでは約200万米ドルにまでコストを抑えられる可能性があり、そのコストは急速に低減[6]していく見込みです。

もはや分子や生物学的製剤が主役ではなく、このモデルの価値はますます実行層に依存するようになります。すなわち、迅速かつ信頼性の高いCDMO(受託開発・製造機関)や、再利用可能なライブラリを構築するAI設計プラットフォームです。その結果、医療サービス提供者は新たな収入源から利益を得ることができ、一方、医療費支払者側は、長年にわたる慢性疾患のケアに代わる、一度きりの根治的な治療から利益を享受します。そして最も重要なことに、かつては治療が困難だった患者が新たな人生の希望を手に入れることになるのです。

さらに、医療エコシステム全体で利害関係者のインセンティブが一致するようになります。治療法の開発者は、そのスピードと精度に対して報われ、病院や医療提供者は自らの対応力を拡張し、保険者は将来の医療費負担を回避できるのです。

ブロックバスター薬とは異なり、TaaS(セラピー・アズ・ア・サービス)は、遺伝性疾患という「ロングテール」に属する患者を、一人ひとり丁寧に治療していくアプローチです。KJの事例が示すように、規制当局も確実にその変化に適応しつつあります。現在、地球上では3億人以上[7]の人々が希少疾患を抱えており、そのうち95%の人々には有効な治療法が存在していません。

 KJの物語は、「何が可能か」を私たちに示しています。次のステップは、それを産業化することです。それは、ひとつの治療法を何百万人に拡大することではなく、何千もの潜在的な治療法を、それを必要とする個々の患者に届けるためのプラットフォームを構築するという方向です。

「セラピー・アズ・ア・サービス(Therapy-as-a-Service)」は、もはや将来有望な構想ではなく、現実のものとなりました。では、それが標準的な治療の形となるのは、一体いつなのでしょうか?

 

4. Coinbaseの情報漏えいが再燃させる暗号資産インフラの中央集権化リスク

By Raye Hadi | @ARKInvest
Research Associate

 

511日、Coinbase は外部のカスタマーサポート担当者が買収されたことにより、データ漏えいの被害を受けました。結果として、Coinbase のユーザー全体の1%にあたるデータが流出しました。攻撃者は2,000万米ドルの身代金を要求しましたが、Coinbase はこれに対抗し、犯人逮捕につながる情報に対して同額の2,000万米ドルの報奨金を提示しました。同社は、被害を受けた顧客に対して4億米ドルの補償を行なう見込みです。

今回の情報漏えいは、暗号資産のセキュリティと、中央集権型インフラと分散型の代替手段とのトレードオフに対する懸念を再燃させました。このような事件は、市場シェアを「信頼不要(trustless)」かつ「許可不要(permissionless)」なアプリケーションへと移行させる要因となることがよくあります。たとえばFTXの不正事件の後には、分散型金融(DeFi)の貸付プロトコルの市場シェアが、2022年の約20%から2024年には約60%へと拡大しました[9](下図参照)。

SNL-051925-Galaxy Chart

第三者によるチャート。出所:Pokorny 2025 [10] 20241231日現在、上記のデータは、第三者による元情報に基づくもので、20241231日時点のものです。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券や暗号資産の売買または保有を推奨するものでも、投資助言に該当するものでもありません。

 

相次ぐ攻撃は、単なる成長過程における痛みなのでしょうか? それとも、ユーザー主権と信頼不要性を掲げたサトシ・ナカモトの理念に対する反動なのでしょうか?今回の Coinbase の情報漏えいは、中央集権型金融(CeFi)と分散型金融(DeFi)のいずれにとっても、セキュリティとプライバシー向上への投資が不可欠であることを改めて示しています。

 

 

 

 PDFをダウンロードする

 

 

 

[1] OpenAI. 2025. “Introducing Codex.”

[2] Downing, F. 2025. “To Capitalize On The Movement To Vibe-Coding, OpenAI Is Buying Windsurf. ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.

[3] Databricks. 2025. “Databricks Agrees to Acquire Neon to Deliver Serverless Postgres for Developers + AI Agents.”

[4] Mehta, I. 2025. “Airbnb expands into services and experiences, plans more social and AI features.” TechCrunch.

[5] Mast, J. “CRISPR is used in landmark treatment to correct genetic misspelling of a single patient.” STAT.

[6] Global Genes. “From Mila to Millions: Scaling N of 1 Therapies.” Podcast.

[7] The Lancet Global Health. 2024. “The landscape for rare diseases in 2024.”

[8] Coinbase. 2025. “Protecting Our Customers - Standing Up to Extortionists.”

[9] Pokorny, Z. 2025. “The State of Crypto Lending.” Galaxy.

[10] 同上

 

 

 

ARK’s statements are not an endorsement of any company or a recommendation to buy, sell or hold any security. For a list of all purchases and sales made by ARK for client accounts during the past year that could be considered by the SEC as recommendations, click here. It should not be assumed that recommendations made in the future will be profitable or will equal the performance of the securities in this list. For full disclosures, click here.

ARK Invest

About the author

ARK Invest Read more articles by ARK Invest