By ARK Invest

本レポートは、2025527ARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #464」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. GoogleOpenAIによるテクノロジーの再定義

By Nick Grous | @GrousARK
Associate Portfolio Manager

 

先週開催された開発者向けの大規模カンファレンス「I/O 2025」において、Google社はAndroidChrome、検索機能、さらには新しいウェアラブルデバイスを含む自社エコシステム全体に生成AIを組み込む方針を発表しました。同社の長期的な目標は、ソフトウェアとハードウェアの垣根を超えてシームレスに機能する「ユニバーサルAIエージェント」の開発にあります。

同社のAIプラットフォーム「Gemini(ジェミニ)」は現在、AndroidChrome、検索機能に深く統合[1]されており、特に検索における「AIモード」では、複雑で多段階の質問にも対応可能な、包括的で高度なAI応答が実現されています。Chromeにおいては、コンテンツの要約機能や直感的なナビゲーションなど、ブラウジング体験が一層向上しています。

さらにAndroidの最新アップデートでは、「Gemini Live(ジェミニ・ライブ)」が搭載され、カメラ入力、音声認識、ウェブデータを統合してリアルタイムにタスクを実行することが可能となりました。これにより、スマートフォンはより文脈を理解し、プロアクティブに動作するようになっています。Google社はまた、AIを駆動力とするウェアラブル分野にも進出しています。拡張現実向けに設計された新たなOSAndroid XR」は、Samsung(サムスン)社やWarby Parker(ワービー・パーカー)社といったパートナー企業と共同開発されたもので、スマートグラスなどのXRデバイスにおいて、Geminiによる没入型体験を提供することを目指しています。これにより、現実空間におけるデジタルコンテンツとのインタラクションのあり方が大きく変わろうとしています。

そのわずか2日後、OpenAI社はハードウェア・スタートアップである「io」を65億米ドルで買収[2]したことを発表しました。同社は、Apple社の元チーフデザイナーであるジョニー・アイブ氏が設立した企業であり、この買収はOpenAIAIネイティブなコンシューマーデバイスの領域に本格参入する姿勢を明確に示すものです。 

製品の詳細は未公開ながら、OpenAI社とアイブ氏率いるデザインファーム「LoveFrom(ラブフロム)」の協業は、直感的かつ人間中心のデバイス設計を志向していると見られます。AIを日常生活に自然に溶け込ませるような革新的製品が生まれる可能性があり、従来の個人向けテクノロジーの枠組みに一石を投じるものとなるかもしれません。

Google社とOpenAI社の一連の発表は、AIがオペレーティングシステム、ブラウザ、検索体験、そしてハードウェア設計そのものを再構築しつつあることを示唆しています。こうした技術革新により、今後私たちの身の回りのデバイスやサービスは、よりパーソナライズされ、効率的かつ没入感のある体験をもたらすものへと進化していくことでしょう。

 

2. AnthropicClaude 4AIによるソフトウェア生成の最前線を切り拓く

By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst, Next Generation Internet

 

先週、Anthropic(アンスロピック)社は最新の大規模言語モデル「Claude(クロード) 4」を発表しました[3]。同社は、コード生成に特化したAIの競争領域において、再び注目を集めています。Claude 4は、パワーユーザー向けのハイエンドモデル「Opus(オーパス)」と、軽量でコスト効率に優れた「Sonnet(ソネット)」という2つのバリエーションで提供されています。これにより、Anthropic社はソフトウェア開発分野における競争優位性を一層強化しています。当社のリサーチによれば、このような高度な「エージェント型」モデルは、自律的なコード生成の新たな地平を切り開く可能性を持っており、エンジニアがより迅速にプロトタイピング、イテレーション、製品リリースを行なえる環境を提供しつつあります。

実際、エージェント型コード生成モデルの性能を測るベンチマーク「SWE-bench Verified」において、Claude Sonnet 4は極めて高い性能を示しました。初期状態でのスコアは72.7%で、OpenAIo3 reasoningモデルの69.1%や、Claude 3.762.3%を上回っています。さらに、複数の解答候補から最適なものを選ぶ「ベストピック」方式では、スコアが80.2%に達し、現時点での最高水準を大きく超える結果となりました。

消費者向けの普及度ではChatGPTに及ばないものの、開発者向けのソフトウェア・プラットフォーム領域において、Anthropicは優位な立場を確立しつつあります。オープンソースのAPI集約プラットフォーム「OpenRouter[4]では、Claude 3.711,500億トークンの処理量を記録し、GoogleGemini 2.0 Flash9,350億トークン)、OpenAIGPT-4o-mini6,510億トークン)を上回りました(515日時点の月間データ)。すなわち、一般消費者が選ぶAIと、開発者が信頼するAIは異なる方向に進化していると言えるでしょう。Claude Codeは、コードアシスタントとしての存在感を強め、Anthropic社の「ソフトウェア自動化」におけるリーダーとしての地位を確かなものとしています。

 

3. AIエージェントによる創薬の革新とプライベート データの重要性

By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst, Multiomics

 

最近、FutureHouse(フューチャーハウス)社は初のAI統合型クローズドループ創薬プラットフォーム「Robin(ロビン)」を実証しました[5]。このマルチエージェントシステムは、治療法が限られた加齢黄斑変性(ドライ型:dAMD)に適用されており、選択肢の少ない深刻な治療ニーズに応えています。従来のdAMD治療は補体系を標的としていますが、Robinはこの疾患の根本的な機能障害である網膜色素上皮(RPE)細胞の食作用を促進する新たな戦略を特定しました。約2.5ヵ月の期間で、PubMed(パブメド)の公開データと約11.5名のフルタイム相当のリソース(FTE)を用い、推定コスト15万~20万米ドルで、Robinは実験的にリパスジル(緑内障治療薬として既に承認されているROCK阻害剤)を提案・検証しました。特筆すべきは、リパスジルが他のROCK阻害剤(例:Y-27632)に比べて食作用促進効果や脂質排出関連遺伝子ABCA1の発現増強で優れていた点であり、AIが最小限の人手で仮説生成から反復的検証まで推進できることを示しています。

とはいえ、当社のリサーチによれば、真の差別化要因はAI単独ではなく、ラボ自動化技術や独自の生物学的データとの組み合わせにあると考えられます。工業化されたウェットラボシステムを持つRecursion(リカージョン)社や、実患者データに基づくAIを活用するTempus(テンパス)AI社のような企業は、新たな生物学的知見の発掘と大規模な創薬実現において優位に立っています。また、当社の研究では、AIツールのコモディティ化が進むにつれ、豊富なデータと自動化された創薬プラットフォームを実際に運用できる企業が、満たされていない課題の解決と長期的な株主価値の創出において他社をリードしていくことが予想されます。

 

 

 

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[1] Chiu, J. 2025. “Everything Google Announced at I/O 2025.” Wired.

[2] OpenAI. 2025. “Sam & Jony introduce io.”

[3] Anthropic. 2025. “Introducing Claude 4.”

[4] OpenRouter. 2025参照。 “LLM Rankings, All Categories, May 20, 2024 – May 15, 2025.” Accessed via: web.archive.org/web/20250515094355/https://openrouter.ai/rankings?view=month

[5] Ghareeb, A.E. et al. 2025. “Robin: A multi-agent system for automating scientific discovery.” arXiv.

 

 

 

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