By ARK Invest
本レポートは、2025年6月9日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #466」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. CircleのIPOが示唆する、ステーブルコインの中核的金融インフラとしての可能性
By Lorenzo Valente & Raye Hadi | @ARKInvest
Digital Assets Team
2025年6月5日、ステーブルコイン「USDC」の発行元であるCircle(CRCL:サークル)社が株式を上場し[1] 、その株価はおよそ31米ドルから90米ドルへと約300%上昇しました[2]。この急騰は、暗号資産業界に対する世間の見方が大きく変化していることを示唆しています。同社のIPO成功は、他の暗号資産ネイティブ企業にも上場を目指す動きを促す可能性があり、同時にこの分野が世界の金融インフラにおけるイノベーターとしての地位を強めていることを浮き彫りにしています。
興味深いのは、ステーブルコインが「米ドル(USD)」の新たな輸出手段となっている点です。世界各地で脱米ドル化を試みる国々に対し、Circle社やTether(テザー)社はブロックチェーン上で米ドルを流通させ、従来の銀行インフラを介さずに簡便な越境アクセスを提供しています。両社は担保として大量の米国債を保有しており、ステーブルコインを並行的な通貨ネットワークへと進化させています。とりわけ新興国においては、Tether社のUSDTが通貨価値の下落や購買力の減退に悩まされてきた現地通貨に代わる実用的な選択肢となっており、資産保全の手段としても機能しています。
ヘルナンド・デ・ソトの理論に照らせば[3]、ステーブルコインはビットコインが始めた「財産権の革命」を引き継いでいるとも言えます。ビットコインはスマートフォンを通じて金融的な財産権の概念を可能にしましたが、ステーブルコインはボラティリティの少ない資産として、より多くのブロックチェーンや金融プラットフォームでの活用を可能にし、この動きを一層推し進めています。世界には依然として10億〜30億人[4]の人々が伝統的な金融サービスにアクセスできていませんが、ステーブルコインは彼らにとって初めての「グローバル経済への入り口」となりつつあります。
最近では、暗号資産アナリストのニック・カーター氏がステーブルコインを「お金のためのStarlink(スターリンク)」と例えました[5]。スターリンクが従来の通信インフラを迂回してインターネットを提供しているように、ステーブルコインも従来の金融システムに依存せず、何十億人もの人々にパーミッションレスな金融アクセスを提供しています。スターリンクとステーブルコインはいずれも、従来の仕組みが機能しない領域でその代替機能を果たす並列的なシステムとして存在しているのです。
今後数年間、いくつかの要因がCircle社の収益や利益率に影響を与える可能性があります。ネットワーク効果を活かして事業規模を拡大する中で、同社のビジネスモデルも進化していくでしょう。一方で、金利の低下は、CoinbaseやBinanceなどの配信パートナーと分け合っている利回りベースの収益に下押し圧力をかける可能性があり、その分、USDCおよびCircle社の決済プラットフォームのスケールの速さ、ならびに戦略的統合や流通パートナーとの提携が重要性を増しています。
2. ARK Invest、Neuralinkの最新資金調達(シリーズE)に参画
By Sam Korus | @skorusARK
Director of Research, Autonomous Tech. & Robotics
ARK Investは、このたびNeuralink(ニューラリンク)社のシリーズE資金調達[6]ラウンドに出資したことをお知らせいたします。同社が開発するブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)は、すでに麻痺のある方々の生活を大きく変えつつあります。現在、重度の麻痺を抱える5名の患者が、自身の思考だけでデジタル機器や物理デバイスを操作することが可能となっています。
同社は、ロボティクスとAIがヘルスケア分野へ深く浸透していく中でのテクノロジーの融合(コンバージェンス)の象徴的存在と言えるでしょう。現在の主な対象は、麻痺・視覚障害・ALS(筋萎縮性側索硬化症)のような疾患に対する機能回復ですが、同社の長期的なビジョンは、AIとのインタラクションや「超人的な通信能力」の実現に向けた新たな可能性を切り開くものです。
3. 米国主導と迅速化を掲げるFDA、遺伝子治療の迅速承認を検討へ
By Shea Wihlborg | @ARKInvest
Research Analyst
先週、米国保健福祉省(HHS)のロバート・F・ケネディ・ジュニア長官は、FDAコミッショナーのマーティ・マカリー氏、ならびに生物製剤評価研究センター(CBER)所長のビナイ・プラサド氏とともに、細胞・遺伝子治療分野における米国のイノベーション主導を維持するために必要な規制緩和をテーマにしたFDAラウンドテーブル[7]に参加しました。議論の中心となったのは、現在の規制プロセスがいかに遅く、コストが高く、柔軟性に欠け、画一的なルールに縛られているかという点でした。こうした制度は、イノベーションを妨げているだけでなく、技術開発を国外へと流出させる一因にもなっています。
こうした課題に対応する形で、FDAはいくつかの改革方針を打ち出しています。具体的には、産業界との連携強化、審査効率の向上、そして代替的な試験設計の導入などが挙げられます。中でも注目されるのは、希少疾患向けの治療薬については、初期の生物学的有効性が確認された段階で早期に使用を可能とし、長期的な安全性監視を伴う「条件付き承認制度」を活用する方針です。
パネルディスカッションでは、ベビ―KJという患者の事例が取り上げられました。KJはオーダーメイドのCRISPR療法を受け、わずか6ヵ月以内にFDAの密接な監督下で治療薬が開発・投与されるという前例のないケースとなりました。この事例は、「スピードと安全性は両立しうる」ことを示す証拠となっています。また、治療の成功は、大規模な「オンデマンド型」遺伝子治療の実現可能性を示唆しており、医療現場における重要な転換点となる可能性があります。
もしこれらの改革が実行に移されれば、従来の医薬品開発にかかる期間を短縮し、高インパクト治療への参入障壁を下げ、治癒的治療へのアクセスを患者ごとに加速させることが期待されます。
[1] 同社は新規株式公開を行なった。
[2] Pitchbook. 2025. “Circle’s Supersized IPO Delivers Hotly Anticipated Windfall to Crypto Investors.”[3] ヘルナンド・デ・ソトの財産権に関する枠組みは、「死蔵資本(dead capital)」という概念を中心に展開されている。これは、人々が所有していながらも、法的に正当な証明ができず、担保として活用できない資産を指す。正式な財産権を保障する制度が整っていない地域では、個人が信用を得て融資を受けたり、経済活動に正式な形で参加したりすることが困難であり、多くの資産の生産的な潜在力が損なわれ、経済成長や繁栄の妨げとなっている。これに対し、暗号資産やステーブルコインの文脈では、ブロックチェーン技術がデジタル財産権を確保する新たなインフラとして機能し、従来は非公式にとどまっていた資産の価値を引き出し、金融包摂と経済的潜在力の解放を可能にする。
[4] Elad, B. 2025. “Unbanked Population Statistics 2025: Demographics, Challenges, and Progress.” Coin Law.
[5] Carter, N. 2025. “The right analogy for stablecoins is Starlink for money.” X.
[6] Neuralink. 2025. “Neuralink raises $650 million Series E.”
[7] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “FDA's Cell and Gene Therapy Roundtable.” YouTube.
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