By ARK Invest
本レポートは、2025年6月23日にARK社のウェブサイトに公開された英語版「Newsletter #468」の日本語訳です。内容については英語原文が日本語訳に優先します。本資料は、情報提供のみを目的としたものです。
1. Amazon AdsとRoku、CTV分野で画期的なパートナーシップを締結
By Nick Grous | @GrousARK
Associate Portfolio Manager
先週、Amazon AdsとRokuは、米国の約8,000万世帯にのぼる認証済みCTV(コネクテッドTV)視聴者層に対し、広告主が独占的にアクセスできる新たな提携[1]を発表しました。この視聴者層は、世界のCTV利用世帯の80%以上に相当するとされています。この提携は、米国のCTV広告市場を変革し、さらに長期的には世界のCTV広告市場全体に影響を与える可能性を秘めています。
本提携の試験運用では、すでに目覚ましい成果が示されています。識別精度とクロスデバイスターゲティングの向上により、広告費の投資対効果が3倍に向上し、予算を増やすことなくユニーク視聴者数を42%増加させました。また、繰り返し表示されがちな煩わしい広告の頻度も約27%削減されました[2]。
Amazon AdsとRokuの提携は、CTV広告の大きな課題である視聴データの分断(フラグメンテーション)の解消に貢献すると期待されています。広告主はこれにより、広告の頻度を管理し、重複視聴の除外や成果測定をこれまで以上に正確に行なうことが可能になります。現在、従来型のリニアTVは視聴者数が減少傾向にありますが、世界のテレビ広告費の約1,650億米ドル(うち米国は約600億米ドル)をいまだに占めています。今回の新ソリューションは、2025年第3四半期中に、米国内のAmazon DSP(Delivery Service Partner)ユーザー向けに提供が開始される予定であり、データ主導のTV広告の大きな前進となる見込みです。
2. Eli LillyによるVerve買収がゲノム編集分野の戦略的価格形成における転換点となる可能性
By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst
先週、Eli Lilly(イーライリリー)社はVerve Therapeutics(ヴァーブ・セラピューティクス)社を3億米ドルで買収し、遺伝子治療の進化における重要な転換点を築きました。大手製薬企業が初めて、in-vivo(生体内)遺伝子編集技術を希少疾患だけでなく、世界で最も多い死因である心血管疾患にも適用できると本格的に判断したことを意味します[3]。
複数の遺伝学的研究によれば、ANGPTL3やPCSK9といった重要遺伝子の機能喪失変異や、Lipoprotein(a)(LPA)の発現を抑制する変異をもつ個人は、それらを持たない人に比べて心血管リスクが著しく低いことが報告されています[4]。VerveとCRISPR Therapeuticsの両社は、これらの遺伝子(ANGPTL3およびLPA)をターゲットにしたin-vivo型の遺伝子編集治療を開発中であり、VerveはさらにPCSK9を標的とした第3の候補も保有しています。これらの治療は、遺伝子に機能喪失型の変異を導入することで、生まれつき心血管リスクが低い人々の遺伝子型を人工的に再現することが狙いです。
私たちは、このVerve社の買収は、この分野の科学的妥当性を市場が評価し始めたことを示していると考えています。これまで「ブティック的な用途」に限定されていた遺伝子治療のプラットフォームが成熟し、希少疾患にとどまらず、より一般的な疾患を抱える数百万人規模の患者にも対応可能な段階へと進化しつつあります。現在、スタチンを中心とした慢性治療薬が提供されているにもかかわらず、米国とEUでは3,000万人以上がLDL-C(いわゆる悪玉コレステロール)値を十分にコントロールできていません[5]。初期の臨床データでは、遺伝子編集による大きな治療効果の可能性が示されています。Beam Therapeutics社からライセンスされたVerve社のPCSK9を標的とする単回投与の塩基編集治療法では、LDL-Cの最大69%の低下が見られ[6]、CRISPR TherapeuticsによるANGPTL3を標的としたin-vivo遺伝子編集治療では、最大81%の低下が報告されています[7]。いずれも一度の投与で、長期間にわたる治癒効果をもたらすよう設計されています。
このような遺伝子編集技術により、これまで数十年にわたって必要だった薬の服用、治療コスト、心血管リスクといった要素をたった1回の治療に集約することが可能になるかもしれません。Eli Lillyによる今回の買収は、遺伝子治療が将来的に数兆米ドル(数百兆円)規模の市場へと拡大するという強い確信が高まりつつあることを示しています。
3. ステーブルコイン規制法「GENIUS法案」、米上院を通過し下院で最終採決へ
By David Puell & Frank Downing | @ARKInvest
Research Analyst & Director of Research, Next Generation Internet
先週、米国上院はGuiding and Establishing National Innovation for U.S. Stablecoins Act(GENIUS法案)を68対30の賛成多数で可決しました。この法案はテネシー州選出のビル・ハガティ上院議員によって起草されたもので、米ドル連動型トークン(ステーブルコイン)に関する初の連邦レベルの包括的な枠組みを提供するものです[8]。上院での可決は、ステーブルコインを巡る米国の議論が、これまでの法廷中心の解釈から、超党派による正式な立法プロセスへと大きく転換していることを示しています。現在、この法案の下院版も委員会で審議されており、今後は下院本会議での最終採決が予定されています。
GENIUS法案の中核は、次の4つの柱で構成されています[9]。まず、ステーブルコインの発行者は連邦の認可を受けるか、または基準を満たす州のチャーターを取得するかを選択できます。ただし、州のチャーターを選んだ場合には、発行可能なトークンの総額が100億米ドルに制限されます。次に、発行されるすべてのステーブルコインは銀行預金や93日以内に償還される米国債といった高品質かつ流動性の高い資産によって1対1で裏付けられ、月に1回の第三者による独立監査が義務付けられます。また、決済目的のステーブルコインは証券でも商品でもないと明確に定義され、主たる監督権限は銀行規制当局に付与されます。さらに、Bank Secrecy Act(銀行機密法)の適用によって、米国財務省はステーブルコインを凍結(freeze)したり焼却(burn) [10]したりする権限を持つことになります。ただし、これらのコインはFDIC(連邦預金保険公社)の預金保険の対象にはならず、発行体には、あたかもFDICが保証しているかのような誤解を与える広告表現を禁止する消費者保護ルールが課されます。
このような明確な規制枠組みが示されたことを受けて、米国市場におけるステーブルコイン最大手の一つであるCircle(CRCL)社の株式が急騰しました[11]。6月4日の新規株式公開(IPO)価格である31米ドルから、6月20日には240米ドルまで上昇し、初値からの上昇率は248%、IPO価格からは674%の上昇となっています[12]。これは、同社が発行するUSDCがGENIUS法案に準拠する初のステーブルコインになるとの期待を、投資家が強く抱いていることを反映しています。
私たちは、このGENIUS法案が、暗号資産ベースの米ドル(クリプトドル)に対する最大の規制上の不透明性を取り除くものになると見ています。もし下院でも可決されれば、カード決済ネットワーク、ECプラットフォーム、越境給与支払い事業者などがオンチェーン決済のパイロット運用を開始できるようになり、手数料の圧縮や金融包摂の加速が見込まれます。今後数週間から数ヵ月にかけての注目点としては、オンチェーン上でのステーブルコインの流通速度(velocity)や、米国規制下にある発行者が市場でどの程度のシェアを獲得するか、さらに、準備資産が米国内へ移行することによる3ヵ月米国債利回りの変動などが挙げられます。また、Shopify、Coinbase、Stripeの新たな提携によって、USDCを用いたマーチャント決済が可能になる新しいペイメントエコシステムの立ち上げ[13]や、Circle社による国際的なホールセール決済向けネットワーク「Circle Payments Network(CPN)」の導入なども、注目すべき動きです。CPNは、規制対象の金融機関間でのクロスボーダー決済に特化しており、VisaとMastercardによる支配的な決済体制に対する競合候補[14]ともなり得ます。この法案の成立は、デジタル資産の基盤構造全体における構造的な転換点を意味し、米ドルがインターネット上の決済手段としての地位をさらに確立することにつながる一歩になると、私たちは考えています。
[1] McNally, V. 2025. “Roku And Amazon’s New Deal Will Target 80% Of US CTV-Watching Households.” Ad Exchanger.
[2] 同上[3] American Heart Association. 2025. “2025 Heart Disease and Stroke Statistics Update Fact Sheet.” See also Rout, A. et al. 2023. “Atherosclerotic cardiovascular disease risk prediction: current state-of-the-art.” Heart.
[4] Dewey, F. et al. 2017. “Genetic and Pharmacologic Inactivation of ANGPTL3 and Cardiovascular Disease.” The New England Journal of Medicine. Lamina, C. et al. 2019. “Estimation of the Required Lipoprotein(a)-Lowering Therapeutic Effect Size for Reduction in Coronary Heart Disease Outcome.” JAMA Cardiology. Cohen, J. et al. 2006. “Sequence Variations in PCSK9, Low LDL, and Protection against Coronary Heart Disease.” The New England Journal of Medicine.
[5] Ray, K. et al. 2021. “EU-Wide Cross-Sectional Observational Study of Lipid-Modifying Therapy Use in Secondary and Primary Care: the DA VINCI study.” European Journal of Preventive Cardiology. Gu, J. et al. 2022. “Lipid treatment status and goal attainment among patients with atherosclerotic cardiovascular disease in the United States: A 2019 update.” American Journal of Preventive Cardiology.
[6] Verve Therapeutics. 2025. “Verve Therapeutics Announces Positive Initial Data from the Heart-2 Phase 1b Clinical Trial of VERVE-102, an In Vivo Base Editing Medicine Targeting PCSK9.”
[7] CRISPR Therapeutics. 2025. “CRISPR Therapeutics Provides First Quarter 2025 Financial Results and Announces Positive Top-Line Data from Phase 1 Clinical Trial of CTX310™ Targeting ANGPTL3.”
[8] Montgomery, J. 2025. “U.S. Senate Passes Stablecoin Bill The GENIUS Act.” Bitcoin Magazine.
[9] United States Senate Committee on Banking, Housing, and Urban Affairs. 2025. “FACT SHEET: The GENIUS Act Protects Consumers.”
[10] ここでいう「Freeze(凍結)」とは、特定のウォレットアドレス内のステーブルコインを一時的に使用不能またはアクセス不能にすることを指し、「Burn(焼却)」とは、ステーブルコインを永久的に流通から除外する(消滅させる)ことを意味する。
[11] Gopalan, N. 2025. “Circle Stock Soars Further After Senate Passes Stablecoin Bill.” Investopedia.
[12] Dale, B. 2025. “Circle shares surge 245% since IPO as Senate bill passage feeds stablecoin fever.” Axios.
[13] Faridi, O. 2025. “Shopify, Coinbase, and Stripe Team Up to Enable USDC Stablecoin Payments for Merchants.” Crowdfunder Magazine.
[14] Laidley, C. 2025. “The GENIUS Act Could Have Interest-Rate Implications. Here's How.” Investopedia.
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