By ARK Invest

本レポートは、2025630日にARK社のウェブサイトに公開された英語版「Newsletter #469」の日本語訳です。内容については英語原文が日本語訳に優先します。本資料は、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. 米国住宅市場に踏み出す暗号資産:ウォレットから住宅ローンへ

By Nick Grous | @GrousARK
Associate Portfolio Manager

 

先週、米連邦住宅金融庁(FHFA)はアメリカの住宅金融市場を支える政府支援機関であるFannie Mae(ファニーメイ)とFreddie Mac(フレディマック)に対し、暗号資産(クリプトカレンシー)保有額を、一戸建てを中心とした単独世帯向け住宅ローンのリスク評価における資産[1]として検討する提案を策定するよう指示しました。ただし、対象となるのは米国規制下の中央集権型取引所(CEX)に保管されている暗号資産のみであり、自己管理型ウォレット(セルフカストディ型ウォレット)に保管された資産は含まれません。この指示は、暗号資産の米ドルへの換金を求めてはおらず、同時に、暗号資産の市場変動リスクを織り込むことや、準備資産として認められる暗号資産の割合に上限を設けるといったリスク管理策の導入も求めています。

この新たな指針は、ブロックチェーン上の資本と12兆米ドル規模の米国住宅ローン市場を結びつける初めての架け橋となる可能性を示唆しています。仮にこのルールがFHFAによって正式に導入され、今後より広範な住宅ローン市場および暗号資産への適用に向けた前例となれば、ブロックチェーン・ネイティブなバランスシートが住宅ローン市場に対して大きな影響を及ぼすことが期待されます。これにより、審査プロセスの効率化、取引コストの削減、トークン連動型ローン商品の実現といった変革が可能になるかもしれません。

CryptoSlateが委託した2025年のハリス世論調査によると、米国の成人の21%がデジタル資産を保有していると報告されています。約5,500万人にのぼる暗号資産保有者のうち、約600万人が平均10万米ドル以上を保有しているとされています。個人がオンチェーンで蓄積してきた資産規模を考慮すると、暗号資産が信用市場に与える影響は今後無視できないものになる可能性があります[2] 

iEmergent(アイ・エマージェント)が公表した2024年版の住宅ローン開示法(HMDA)データ[3]よると、2023年における米国の住宅ローン発行件数は約600万件、総額は1.82兆米ドルに達しており、平均ローン額はおよそ34万米ドルと推定されます。この条件に基づけば、仮に借り手のうちわずか5%が暗号資産を資産として申告した場合でも、約305,000件が新たな審査枠組みにより住宅ローンの対象となり、1,000億米ドル規模の新規ローン創出を支える可能性があります。さらに、導入率が1ポイント増加するごとに、ローン発行額は200億米ドルずつ拡大することが見込まれます。 

この試算は、暗号資産の普及率と平均ローン額の掛け合わせのみに基づいたものであり、レバレッジ効果や取引速度の変化は考慮していません。そのため、実際の市場へのインパクトはこれを大きく上回る可能性があります。このような規制の進展は、透明性、自動化、相互運用性をもって既存の金融システムを再構築するというARKの投資仮説とも整合しています。

 

2. Tesla、オースティンでロボタクシー事業を開始

By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst

 

先週、Tesla社はオースティンにおいて、ロボタクシー・サービスの提供を開始しました。対象は招待制アプリを通じた限られた利用者に限定されており、料金は一律4.20米ドルに設定されています[4]。この歴史的なサービス開始は安全性に焦点を当てて行なわれており[5]、運行エリアはWaymo社のサービス地域の約半分の規模に制限されています[6]。また、すべての車両の助手席には安全監視員が同乗し、走行状況を確認しています。初期報告によると、ほとんどの乗車体験は非常にスムーズであったものの[7]、いくつかの特殊ケースでは改良の余地が示唆されました[8]。現在、同社は招待対象者の拡大を進めています[9] 

オースティンでの商用展開は、Tesla社が2030年に向けて世界のロボタクシー市場における810兆米ドル規模の収益機会を獲得していくという、ARKの予測に沿った動きといえます。以下の図に示す通り、Tesla社やWaymo社のようなネットワーク提供企業は、その市場の約半分を担い、SaaSSoftware-as-a-Service)型の高利益率を実現する可能性があります。

SNL-063025-Chart-01

*本資料で示す「10兆米ドル」はアドレス可能市場規模であり、2030年時点での収益予測ではありません。すべての走行距離が自動運転に置き換わるとは想定していません。出典:ARK Investment Management LLC2025年)。本分析は20241231日時点の外部データに基づいており、詳細はご要望に応じて開示可能です。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券の売買推奨や投資助言を意図するものではありません。将来予測には限界があり、その正確性を保証するものではありません。

 

Tesla社のロボタクシー展開は、エンドツーエンドのAI自動運転ソリューションと垂直統合型の製造体制という2つの独自の強みに支えられ、競合他社よりも迅速かつ低コストで規模を拡大する可能性が高いと考えられます。もしイーロン・マスク氏の発言のとおり、同社が年内に複数の都市でロボタクシー・サービスを展開すれば[10]、これら2つの競争優位性によって、他社よりも高品質かつ低価格なサービスの提供が実現し、Uber社やLyft社が築いてきた米国市場の価格帯を下回る料金設定が可能になると見られます。ARKでは、今後数ヵ月にわたり、Tesla社のロボタクシー・ネットワークの展開とスケーリングの進捗を継続的に追跡していく予定です。

 

3. AlphaGenomeがゲノム解析のあり方を一変させる可能性

By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst

 

ある料理がどんな味になるかを、使われている食材から推測できたとしたらどうでしょう。AlphaGenome(アルファゲノム)は、まさにそれをDNAに対して実現しようとしています。Google傘下のDeepMind社が開発したこのモデルは、AIを活用してゲノムデータの理解を革新しようとしています[10]

AlphaGenomeの強みは、カバー範囲の広さではなく、解析の深さにあります。本モデルは、約700種類の厳選されたゲノムデータをもとに学習しており、それぞれに約7,000件の機能的ゲノム実験データが紐づけられています。この設計により、AlphaGenomeDNAの塩基配列から15種類の分子レベルの結果を直接予測できるようになり、既存手法と比べて242%の精度向上を達成しています。

私たちが注目しているのは、AlphaGenomeが新たに250万のゲノムを配列解析することではなく、すでに存在しながらも十分に活用されていない機能的ゲノムデータを活かすことです。これまで膨大な数のRNA-seqATAC-seqChIP-seqといった実験データがデータベースに蓄積されてきましたが、それらは未活用のまま放置されてきました。これらの分子データは、適切なAIアーキテクチャ(疎なアテンション機構やマルチモーダル統合など)と組み合わせることで、大きな潜在力を秘めています。

私たちは、AlphaGenomeが今後、以下のように段階的に進化していくと予想しています:

  • 短期(1年以内)
    モデルのスケーリングとデータ精度の向上により、従来は困難だった組織別の予測が可能になると見込まれます。
  • 中期(3年程度)
    空間ゲノミクスやシングルセルシーケンシングと統合されることで、バーチャル生検(仮想的な組織診断)が実現する可能性があります。
  • 長期(5年程度)
    データセットの指数的増加と計算コストの急激な低下により、分子生物学のリアルタイム解釈が可能となる未来が見込まれます。 

DeepMind社は、AlphaGenomeを、ゲノム医療をより応答性の高いダイナミックなシステムへと変革するツールとして設計しています。これは、高度なAIツールがプログラミング(コーディング)分野を変えたのと同様の変化を、医療にもたらすものです。現実のインパクトとしては、何百万件もの臨床診断が、これまで以上に迅速・低コスト・公平に提供されるようになることが期待されます。

 

 

 

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[1] National Mortgage Professional. 2025. “FHFA Chief Orders Fannie And Freddie To Prepare For Crypto In Mortgage Underwriting.”

[2] BusinessWire. 2025. “Largest Ever Study of Crypto Holders in the U.S. Finds 21% of Adults Use Digital Assets.”

[3] Matos, G. 2025. “Survey reveals 1 in 5 Americans own crypto, with 76% reporting personal benefits.” CryptoSlate.

[4] Musk, E. 2025. “The Tesla_AI Robotaxi launch begins in Austin this afternoon…” X.

[5] Musk, E. 2025. “Tentatively, June 22…” X.

[6] Robin. 2025. “Tesla Robotaxi geofence…” X.

[7] Tesla. 2025. “First @robotaxi experiences in thread below.” X.

[8] r/SelfDrivingCars. 2025. “List of clips showing Tesla's Robotaxi incidents.” Reddit.

[9] Patane, NC. 2025. “Austin, Texas bound!” X.

[10] Investing.com. 2025. “Earnings call transcript: Tesla’s Q1 2025 results fall short, stock rises post-call.”

[11] Avsec, Z. et al. 2025. “AlphaGenome: advancing regulatory variant effect prediction with a unified DNA sequence model.” bioRxiv.

 

 

 

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