By ARK Invest
本レポートは、2025年7月14日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #470」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. Grok 4で xAIが大型言語モデルでのリードを奪還
By Jozef Soja | @JozefARK
Research Analyst
先週、xAI社はGrok 4をリリースし、AI分野で新たなマイルストーンを達成しました[1]。現在、Grok 4 の標準モデルは月額30米ドル、またはプレミアムXメンバーシップ登録で利用可能です。一方、より高性能なGrok 4 Heavyは月額300米ドルで、上級ユーザー向けに提供されています。Grok 4 Heavyは、月額200米ドルのOpenAI社のChatGPT Proに真っ向から競合するモデルです。
xAI社の階層化された料金体系は、最先端AIを幅広いユーザーに開放するだけでなく、計算負荷の高い推論処理に対する価値が急速に高まっていることも強調しています。つまり、高度な先進的AIの「一般消費者向け汎用化」が加速しており、起業家や開発者にとっての参入障壁が下がっているのです。
Grok 4の性能は、Graduate-Level Google-Proof Q&A Benchmark(GPQA)など重要なベンチマークで競合を一気に上回りました。これは、大規模な演算クラスター(現在使用されている中でも最大級)を構築し、強化学習に投入する計算力を10倍に拡大した戦略の成果です。さらに、事前トレーニングの段階でツール連携を統合した点も革命的です。Grokはトレーニングの初期段階で外部ツールを活用できるよう設計されており、これが実世界のテストで大幅な効率改善をもたらしています。たとえば「Humanity’s Last Exam」では、Grok 4はツール使用時に38.6%の正答率を記録し、ツール非使用時の25.4%を13.2ポイント上回りました。対して、Gemini 2.5 Proや OpenAI社のo3など他の主要モデルはツール使用の恩恵が小さく、Gemini 2.5 Proは非使用で24.9%、使用時で26.9%、o3は21.0%→21.6%にとどまっています。この差は、Grokのアプローチのユニークさと威力を如実に示しています。
出典:ARK Investment Management LLC、2025年。このARK分析は、2025年7月11日時点の外部データソースを基に作成されており、リクエストに応じて提供が可能です。当資料は情報提供を目的としたものであり、特定の証券の売買または保有を推奨する投資助言ではありません。過去のパフォーマンスは将来の成果を保証するものではありません。
アプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)料金体系に基づくと、入力/出力を3:1の比率で計算した場合、Grok 4の料金はトークン100万単位あたり6米ドル[2]です。これは、OpenAIのo3(3.50米ドル)とo3 Pro(35米ドル)の中間に位置します[3]。とはいえ、AIチームが自社のモデルを製品化する段階で、イーロン・マスク氏のビジョンは単なる性能向上にとどまりません。xAI社は GrokをエンジニアがTeslaで使用するような高度な設計・開発ソフトウェアと連携させる基盤を整備しており、年末までにコーディングエージェント、マルチモーダルエージェント、さらにはビデオ生成モデルのローンチを計画しています。
さらに、Grok 4はマスク氏の他社との連携を活かし、近くTesla車にも搭載予定です。これによりTesla車の生産性・創造性・普及が加速される見通しであり、ARK Investが提唱する「人間の常識」と「具現化された AI」の相互作用が次の10年を定義する、という確信とも一致しています。
2. Chai Discoveryの新モデルがAIと抗体設計を 結集 - 規制の転換点に
By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst
先週、Chai Discovery社は新モデル「Chai-2」を発表し、計算生物製剤の分野における画期的な瞬間を迎えました。抗体設計の成功率はわずか16%でしたが、従来手法に比べて100倍の性能向上を達成し、数ヵ月かかっていたラボでのスクリーニング作業を、わずか2週間の計算処理に短縮しました[4]。
このモデルのアーキテクチャは、配列生成と原子レベルの構造予測を統合しており、指定された標的に結合する機能的な抗体、ナノボディ、ミニプロテインを生成します。これまでに抗体が知られていなかった52種類のタンパク質を対象とした検証試験では、その半数において有効な結合体が得られ、一部は最適化された医薬品に匹敵するピコモルレベルの親和性を示しました。
重要な点として、Chai-2は既知のタンパク質の相互作用部位を活用しており、新しいエピトープ(抗体が結合する部分)を発見したわけではありません。すなわち、このモデルは自然がすでに提示している設計図に従ったものであり、未踏の領域を切り開いたわけではありません。この点は信頼性の高い検証材料となる一方で、Chai-2の新規発見能力に関する疑問も投げかけられています。
それでも、Chai Discovery社のリリース時期は、規制環境の観点から見て絶好のタイミングでした。米食品医薬品局(FDA) は、動物実験の義務化から脱却しつつあり、AIモデルやオルガン・オン・チップといった「新たな手法(New Approach Methodologies)」を受け入れる方向にシフトしています。この変化は、計算主導の創薬プラットフォームにとって極めて追い風となっており、テクノロジーと規制の融合が生物製剤開発の根本的な再編を示唆しています[5]。
新規標的の発見という点では、Chai-2の可能性はまだ実証されていないものの、エピトープにおける成果は、AIが既知の結合部位を用いた治療薬の開発を加速させることを示唆しています。実際、Absci(アブサイ)社のような企業は、AIによって設計された抗体をすでにヒト臨床試験にまで進めており、炎症性腸疾患(IBD)向けの抗体 ABS-101 は構想からわずか1年で第1相試験に入っています[6]。こうした中で、規制枠組みがインシリコ(in-silico:コンピュータ内(仮想環境)実験)ベースのワークフローを取り込んで進化していくにつれ、Chai-2 のようなツールは、より効率的かつ倫理的な創薬の未来を切り拓くための鍵となり得るでしょう。
3. 14年ぶりに動いた「ビットコイン・クジラ」のウォレット
By David Puell | @dpuellARK
Research Trading Analyst/Associate Portfolio Manager, Digital Assets
7月4日、ビットコインのブロックチェーン上で8万BTC(約86億米ドル相当)にのぼる取引が記録されました。これは「4億1,900万コインデイズの破壊」[7]あるいは「110万コインイヤーズ分の時間加重型休眠供給の消費」[8]に相当します。次の図が示す通り、この異例の急増は、長期保有者(ロングタームインベスター)と短期的な投機家(スペキュレーター)の双方から注目を集めています。
出典:ARK Investment Management LLC、2025年、Glassnodeの2025年7月12日時点のデータに基づく。本資料は情報提供を目的としたものであり、特定の証券や暗号資産の売買または保有を推奨するものではありません。
このウォレットの正体について、現在2つの仮説が浮上しています。ひとつは、仮想通貨の黎明期からの投資家であり、Bitcoin Cash の提唱者としても知られる[9]著名人物、ロジャー・ヴァーによる送金ではないかとする説です。アメリカ司法省(DOJ)は2024年4月、ヴァー氏を脱税容疑で起訴しており、今回の送金が法的和解に向けた資金移動や資産整理の一環である可能性があると見る向きもあります[10]。ただし、彼とこのトランザクションを結びつける確たる証拠は現時点で確認されていません。
もうひとつの説は、リサーチャーのCryptoTux氏[11]によって提起されたもので、今回のビットコイントランザクションにおいて極めて珍しい手法、すなわちブロックチェーン上の「OP_RETURN」フィールドに4つのメッセージが埋め込まれていたことに着目しています。これは通常のビットコイン取引ではほとんど見られないケースです:
LEGAL NOTICE: We have taken possession of this wallet and its contents
「法的通知:このウォレットとその内容は当方が占有しています」
Not abandoned? Prove it by an on-chain transaction using private key by Sept 30
「放棄していない?それなら9月30日までに秘密鍵を使ったオンチェーントランザクションで証明してください」
[…]
CryptoTux氏によれば、この送金はウォレットソフトウェアの旧来の脆弱性を悪用したものであり、元の所有者による意図的な操作ではない可能性があります。これらのコインは2011年以来動いていなかったことから、当時のウォレットに存在した低エントロピーな乱数生成など、時代遅れの暗号技術が使われていた可能性があります。攻撃者がOP_RETURNにこうしたメッセージを埋め込んだ目的は、ファンドのコントロールを主張し、「所有権放棄」[12]と「不法占有(adverse possession)」[13]の法理を活用して、法的にコインを自らの所有物とすることにあると考えられています。
このトランザクションの規模を考慮すれば、市場関係者がその影響を注視するのも無理はありません。長期間動いていなかったコインの移動は、通常、ビットコインの価格変動性(ボラティリティ)を高める要因となることが多く、特に売却の可能性がある場合には注意が必要です。ただ今回は、実際にコインは市場で売却されず、ボラティリティもほとんど発生しませんでした。とはいえ、OP_RETURNメッセージで言及された9月30日の期限に向けて、今後数ヵ月の間にビットコイン価格が変動する可能性は残されています。
今後も私たちは、取引所ウォレットへのコイン流入など、売却の兆候となるオンチェーン上の動きを継続して監視していきます。メタデータの解析やウォレットのクラスタリング分析が、今回の送金に関わるアクターの特定に役立つ可能性もあります。ビットコインの保有構造が進化する中で、このような稀ながらも重大な動きを理解することは、市場リスクと投資機会を見極める上で極めて重要だと言えるでしょう。
4. Robinhood、トークン化株式をオンチェーン化 レイヤー2を立ち上げ、暗号資産サービスを拡充
By Lorenzo Valente & Raye Hadi | @ARKInvest
Digital Assets Team
Robinhood社の一連の新サービス[14]は、暗号資産の普及において重要な転換点となっています。株式のトークン化、自社開発のLayer 2ブロックチェーン、そして米国およびEUでの暗号資産サービスの拡充を通じて、同社は単なるトレーディングアプリから、暗号資産ネイティブのフルスタック型金融プラットフォームへと進化を遂げつつあります。
フランス・カンヌでのイベントにおいて、Robinhood社は米国株式やETFのトークン化版を EUユーザー向けに発表しました。これらの資産はEthereum(イーサリアム)をベースにした Layer 2ブロックチェーンである Arbitrum(アービトラム)上で発行され、配当金の支払いにも対応し、24時間・週5日の取引が手数料・スプレッドなしで可能となります。株式のトークン化によって、同社は米国市場へのスムーズな小口投資(フラクショナル・オーナーシップ)[15]を実現し、伝統的金融(TradFi)の機関がオンチェーンへ移行しつつあることを示唆しています。
とはいえ、株式トークンはまだ始まりに過ぎません。同社は今後、自社独自のLayer 2ブロックチェーン を構築する計画を発表しました。この新L2は Arbitrumスタック上に構築され、現実資産(RWA)のトークン化、シームレスなブリッジ、セルフカストディ(自己管理型保管)、さらには24時間365日決済の実現を見据えた設計となっています。これは、Coinbase社がOptimism(OP)スタック上に構築した「Base」と同様、Robinhood社がユーザーとの接点と価値創出の両方を自ら制御できる基盤となるでしょう。
Robinhood社はこのほか、暗号資産関連の提供内容をさらに拡大しています:
- 永久先物取引(Perpetual Futures):EU地域にて最大3倍のレバレッジで提供。シンプルな UI により、証拠金管理を直感的に。
- 米国での暗号資産ステーキング:EthereumとSolanaのステーキングサービスが米国ユーザー向けに開始。
- Cortex AI アシスタント:Robinhood Gold(米国)に搭載予定で、リアルタイムかつトークン単位の市場分析を提供。
- スマート注文ルーティング:複数の提携取引所をまたいだ最良執行と、手数料の階層化。
- タックス・ロット販売と高機能チャート:課税単位での売却対応と、モバイル向け高度チャート機能の追加。
トークン化の利点は明確です。24時間365日取引可能な流動性、グローバルな資産配布、プログラマブルなコンプライアンス、そしてデジタルネイティブな所有権の実現。Robinhood社は株式トークンと自社ブロックチェーンを軸に伝統金融と分散型金融の架け橋としての役割を強化していくと見られます。
[1] xAI. 2025. “Grok 4 Live Demo.” X.
[2] xAI. 2025. “Models and Pricing.”[3] OpenAI. 2025. “API Pricing.”
[4] Chai Discovery Team. 2025. “Zero-shot antibody design in a 24-well plate.”
[5] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “FDA Announces Plan to Phase Out Animal Testing Requirement for Monoclonal Antibodies and Other Drugs.”
[6] Absci. 2024. “Absci Initiates IND-Enabling Studies for ABS-101, a Potential Best-in-Class Anti-TL1A Antibody de novo Designed and Optimized Using Generative AI.”
[7] Puell, D. 2024. “Cointime Economics: A New Framework For Bitcoin On-Chain Analysis.” ARK Investment Management LLC.
[8] Nassir, H. 2025. “Bitcoin investor moves $8 billion worth of crypto after 14 years, originally bought for less than $210,000 — 80,000 BTC transferred from dormant Satoshi-era wallet.” Tom’s HARDWARE.
[9] Cryptopolitan. 2025. “Did Roger Ver move 80,000 BTC?” Mitrade Insights.
[10] U.S. Department of Justice. 2024. “Early Bitcoin Investor Charged with Tax Fraud.”
[11] Cyphertux. 2025. “80,000 BTC Moved: A Turning Point in Bitcoin History.”
[12] Legal Information Institute. 2025. “Abandoned Property.” Cornell Law School.
[13] Legal Information Institute. 2025. “Adverse Possession.” Cornell Law School.
[14] Robinhood. 2025. “Robinhood Launches Stock Tokens, Reveals Layer 2 Blockchain, and Expands Crypto Suite in EU and US with Perpetual Futures and Staking.”
[15] Robinhood. 2025. “Robinhood Europe, UAB Customer Agreement.”
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