By ARK Invest

本レポートは、2025721日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #471」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. 小売業者は「AOO(エージェント指向最適化)」に 備えるべき

By Varshika Prasanna | @varshikaARK
Research Associate

 

AIエージェントの普及は、オンライン商取引に大きな変革をもたらす可能性があります。79日、Perplexity(パープレキシティ)社はユーザーに代わって商品を閲覧・購入する「Comet(コメット)」をリリースしました[1]。また先週、Shopify社はOpenAI社のアプリ内チェックアウト機能の基盤としての提供を開始しました[2]。現在、生成AIに関連するトラフィックが小売サイト全体で急増しており、「エージェント主導のコマース時代」が到来しつつあります。

この変化を支えているのが、「Model Context ProtocolMCP)」という新たなインターネットレイヤーです[3]。インターネット黎明期にhttpsがブラウザとウェブサイト間の安全な通信を標準化したように、MCPAIエージェントがAPI、データベース、ユーザーインターフェースと連携するための枠組みを構築しており、エージェントに対してウェブ上での正確で信頼性の高い理解、操作、取引を可能にする文脈情報を与えます。

MCPがオンラインコマースに与える影響は極めて大きい可能性があります。現在、小売業者はSNS、広告ネットワーク、マーケットプレイスなどの販売チャネルごとに複雑な個別統合を行なっています。MCPサーバーは、これらの業務を簡素化し、小売業者のバックエンドシステムと接続することで、価格、在庫状況、配送可能時間などの商業データを一元的に管理できるようにします。その結果、次の図で示すように、大規模言語モデル(LLM)はリアルタイムのデータを取得・解釈し、音声アシスタント、検索エージェント、スマートTV、スマートグラスといったインターフェースを通じて、消費者に情報を提供できるようになります。

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出典:ARK Investment Management LLC2025年。当資料は情報提供を目的としたものであり、特定の証券の売買または保有を推奨する投資助言ではありません。

 

重要なのは、この変化が「AOO(エージェント指向最適化)」という新たなパラダイムを生み出している点です。インターネット時代には、オンライン上での存在感を高めるために検索エンジン最適化(SEO)が必要でしたが、エージェント時代においては、MCPへの対応が鍵となります。AIエージェントは、自らがアクセスでき、理解できる商品しか表示しません。MCPに対応していないデータしか持たない小売業者は、選ばれなくなる可能性があります。

 

2. Meta、マンハッタン規模の賭けでAIの主導権奪還を狙う

By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet

 

先週、Superintelligence Labの立ち上げに向けて世間の注目を集めた大規模な人材獲得を行なったMeta社は、世界最大級となるAIクラスター計画の詳細を公表しました。来年完成予定の「Prometheus(プロメテウス)」は、消費電力が1ギガワット(GW)に達する初のAIデータセンターとなる見込みで、これは小規模な国々の消費電力量を上回ります。マーク・ザッカーバーグ氏は、同社がギガワット級のクラスターを複数建設していると説明し、Prometheusの後継となる「Hyperion(ハイペリオン)」はそのスケールがマンハッタンの長さに匹敵し、消費電力は5GW規模に拡大する計画だと述べました[4]

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出典:Zuckerberg, M.  2025 [5]。本資料は情報提供を目的としたものであり、特定の証券や暗号資産の売買または保有を推奨するものではありません。

 

ザッカーバーグ氏は、Meta社のSuperintelligence Labについて「業界をリードする計算能力を備え、研究者1人あたりの計算資源も群を抜いて多い」と述べました。スケーリングの法則が「その他の条件が同じであれば、計算能力が高いほど優れたモデルになる」と示唆する世界において、最大のトレーニングクラスターを構築しようとする動きは今や一般的となりつつあります。イーロン・マスク氏も、xAIの資金調達の際に、当時最大規模だったクラスターを何倍も上回る「コンピュートのギガファクトリー」[6]の建設資金を調達する際に、同様の発言をしていました。xAI社は、Grok 4によってLLM性能の最前線において競合を飛び越える成果を上げており[7]Meta社がトップ人材を引き抜き、膨大な計算資源とデータで支えるという決断を下したのも不思議ではありません。

しかし今、AI開発競争がさらに激化する中で、かつてオープンソースAIの旗手として称えられた同社が、後発のxAI社に後れを取ったのはなぜなのか、という疑問が浮かびます。AIリサーチ企業SemiAnalysisのディラン・パテル氏は、Llama 4の失敗について最近詳しく分析しました[8]。スケーリング法則とは裏腹に、モデルの設計やトレーニングにおいては、企業は常に何らかのトレードオフを強いられます。その難しさは、まるでF1マシンを操るようなもので、一瞬の判断ミスが命取りとなり、右肩上がりの滑らかな成長曲線どころか、制御不能に陥る危険と隣り合わせなのです。

パテル氏の見解によれば、Meta社はLlama 4の進化において、アルゴリズム、モデル設計、データ、スケーリング戦略の各面で最適とは言えない判断をいくつも下したといいます。たとえば、学習途中でウェブデータのソースを切り替えたものの、新しいデータのクリーニングや重複排除が不十分だったとされます。また、エンジニアたちは、モデルの大規模化に対応できるかどうかを確認するためのアルゴリズム検証を十分に行なっていなかったようです。ディラン氏は、こうした問題の根本原因として「リーダーシップの欠如」を指摘しています。

こうした背景を踏まえると、同社がデータとモデル評価を専門とするScale AI社への、議決権を伴わない49%の出資(驚くほど高額)と、同社創業者アレックス・ワン氏のアクハイア(買収を通じた人材獲得)を行なったのは、ある程度理解できる動きといえます。さらに、元GitHubCEOのナット・フリードマン氏や、Safe Superintelligence社の共同創業者でApple社の機械学習部門の元責任者であるダニエル・グロス氏といった人材の採用も、Meta社がAI分野で抱えるリーダーシップの空白を埋める狙いがあると見られます。

かつてInstagramWhatsAppを買収して成功を収めた一方で、メタバース事業では苦戦を強いられたMeta社ですが、今後のAI時代において成功の可能性を高めるために、必要な人材、データ、そして計算資源の確保に注力しています。


3. Coinbase、「Base」を“すべてが揃う”オンチェーン・プラットフォームへ拡張

By Lorenzo Valente | @LorenzoARK
Director of Research, Digital Assets

 

ローンチから約2年、Baseはオンチェーン経済を「誰でも、速く、包括的に」利用可能にするという使命において、大きな一歩を踏み出しました[9]。もともとはEthereumのレイヤー2チェーンとして始まったBaseは、現在では以下3つの要素からなるオープンスタックへと進化しています:「Base Chain」、「Base Build」、そして「Base App」です。Base ChainFlashblocksによって大幅に強化され、ブロック時間は200ミリ秒に短縮。これによりトランザクション速度が従来の10倍に向上しました。Base Buildでは、ミニアプリの開発と収益化を支援するダッシュボードなどの新しいツールを提供し、開発者を支援しています。

最も革新的なのはBase Appです。これはCoinbase Walletを再構築したもので、ソーシャル機能と金融機能を融合したフル機能のプラットフォームです。オープンプロトコルに基づいて構築されたBase Appは、トレード、コンテンツ制作、ソーシャル交流、分散型ID1つのユーザー主体の体験に統合しています。さらに、分散型ソーシャルフィードであるFarcaster(ファーキャスター)を統合しており、クリエイターはフォロワー数や企業スポンサーに依存せず、コンテンツを自ら所有・収益化できます。また、「Zora(ゾーラ)」は投稿ごとに自動でトークン化を行ない、初日から収益化を可能にします。

ユーザーは友人のトレードをリアルタイムで閲覧したり、新しいトークンを発見したり、ミニアプリ(ゲーム、金融ツール、クリエイティブ体験など)とフィード上で直接インタラクションできます。注目のアプリとしては、ゲーム制作とプレイが可能な「Remix(リミックス)」、エンゲージメントに応じた投げ銭ができる「Noice(ノイス)」、共創型映画制作プラットフォームの「Decentralized Pictures(ディセントラライズド・ピクチャーズ)」などがあります。アプリ内では、タップ操作によるUSDC(米ドル連動ステーブルコイン)送金やリアルタイム取引も可能で、現在はUSDCに対して年利4.1%APY)が提供されています。

また、XMTPを活用することで、暗号化チャットを通じたコミュニケーションも可能となっており、AIによるトレード支援やチャット内でのUSDC送金にも対応しています。ユーザーはコミュニティを構築したり、グループ会話を管理したり、シームレスに取引したりすることができます。これらの体験を支えるのがBase Accountです。これはスマートウォレットであり、オンチェーン環境全体で共通かつ携帯可能なIDを実現し、「Sign in with Base」機能によりシングルサインオンも可能です。

さらに、Shopify加盟店向けに提供されるBase Payでは、迅速で国境を越えたUSDC決済を可能にしており、為替手数料なしでエクスプレス決済をサポートするほか、米国の顧客にはUSDCベースの購入に対して1%のキャッシュバックも提供されています。このリローンチにより、Baseは「オープンインターネット」の中核的存在を目指しています。分散化、クリエイターのエンパワーメント、そして世界経済への広範な参加機会を提供するプラットフォームとしての地位を強化しているのです。Base Appのベータ版は現在展開中で、ユーザーと開発者に対し「インターネットの次章」に参加するよう招待しています。

 

 

 

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[1] Perplexity Team. 2025. “Today We are Launching Comet.”

[2] Reuters. 2025. “OpenAI working on payment checkout system within ChatGPT, FT reports.”

[3] Model Context Protocol. 2025. “User Guide.”

[4] Zuckerberg, M. (Zuck). 2025. “We're actually building several multi-GW clusters.” Threads.

[5] 同上

[6] TechExplore. 2024. “Musk plans largest-ever supercomputer for xAI startup: Report.”

[7] Soja, J. 2025. “With Grok 4, xAI Retakes The Large Language Model Lead.” ARK Disrupt Newsletter. ARK Investment Management LLC.

[8] Patel, D. et al. 2025. “Meta Superintelligence – Leadership Compute, Talent, and Data.” SemiAnalysis.

[9] Okoth, L. 2025. “Coinbase Launches New All-in-One Crypto App: Here’s What You Need to Know.” Be(in)Crypto.

 

 

 

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