By ARK Invest
本レポートは、2025年7月28日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #472」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。
1. TeslaとWaymoの競争が激化
By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst
先週の第2四半期決算説明会において[1]、イーロン・マスク氏は、規制当局の承認を待って、Tesla社のロボタクシー運用エリアをオースティンで約10倍に拡大し、年末までに米国人口の約50%をカバーする計画を明らかにしました。現在、アリゾナ州、フロリダ州、ネバダ州、そしてサンフランシスコ・ベイエリアで協議が進められています。マスク氏のこの発表は、Waymo社がオースティンにおけるロボタクシーの展開でTesla社を上回る動きを見せた直後のものでした[2]。注目すべきは、Tesla社が現在セーフティモニターを同乗させている一方で、Waymo社は完全自動運転で運行しているという点です。
競争が激化する中、当社のリサーチによれば、オースティンにおいて都市部のすべての走行距離(VMT:Vehicle Miles Traveled)に対応するためには、ロボタクシー車両が約30万台必要であると見込まれます[3]。これは、ピーク時の需要に対応するために第三者の車両を活用するという前提に基づいています(下図参照)。このモデルは、直接スケール拡大が可能なTesla社に有利に働きます。一方、Waymo社はUber、Jaguar、Zeekr、Hyundaiなどのパートナーに依存しています。現在のModel 3およびModel Yの世界的な生産ペースを考えると、Tesla社はわずか2ヵ月で30万台を生産することが可能です。これに対し、Waymo社が来年までに予定している車両数の拡大は約3,500台にとどまり、これはオースティンの都市部VMTのわずか約1%にしか対応できません[4]。
出典:ARK Investment Management LLC、2025年。本資料に含まれるARKによる分析は、2025年7月24日時点の複数の外部データソースに基づいており、ご要望に応じて提供可能です。本資料は情報提供のみを目的としており、特定の証券の売買または保有を推奨する投資助言として解釈されるべきものではありません。
次回のブログでは、Tesla社が米国における最大の都市型走行距離(VMT)地域にどのように対応し、今後1年間でロボタクシー競争においてリードすると考えられる理由についてご紹介します。どうぞご期待ください。
2. FDAのSareptaとReplimuneに対する最近の措置は、イノベーションへの新たな障壁を示唆しているのか?
By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst
マーティ・マカリー博士[5]とヴィンアイ・プラサド博士[6]の指導のもと、米国食品医薬品局(FDA)は、医薬品承認プロセスの見直しを進めています。臨床開発や審査の迅速化を促進しつつも、FDAは科学的厳密さと公衆の信頼を重視する姿勢を強めています[7]。こうしたバランスの取り方が、先週、注目を集めました。
前例のない対立が起こったのは、Sarepta(サレプタ)社がデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する遺伝子治療薬「Elevidys(エレヴィディス)」[8]の出荷停止を求めたFDAの要請を拒否したことでした。ところが、その3日後[9] 、同社は方針を転換し、出荷を停止する決定を下しました[10]。
この対応の背景には、Sarepta社が開発したAAVrh74ウイルスベクターを用いた治療を受けた患者の死亡例が3例目として報告されたことがあります。最初の2件の死亡例については、同社がプレスリリースで公表していましたが、今回の3例目は第三者の報道により明らかになったものでした[11]。奇妙なことに、同社は、その死亡例が報じられる前日に投資家向けの説明会を開催し、RNA標的型治療への戦略的転換を発表したにもかかわらず、死亡例については言及しませんでした[12]。これを受けて、FDAは数週間前にSarepta社に対して付与していたAAVrh74ベクターの「プラットフォーム技術指定」を取り消しました [13]。
安全性への懸念は深刻ですが、このFDAの介入により、医師や保護者がElevidysのリスクとベネフィットを天秤にかけて、歩行不能な患者に対して使用するかどうかを判断する自由は奪われることになりました。今回の決定が正しかったかどうかは別として、FDAが求める安全性と証拠の厳密さの基準が、確実に引き上げられていることは明らかです。
Sarepta社がElevidysの出荷を停止して間もなく、FDAはReplimune(リプリミューン)に対して「完全回答書(Complete Response Letter)」を発行し、進行性メラノーマに対する同社の腫瘍溶解ウイルス療法について迅速承認を却下しました[14]。FDAはこの却下の理由として、単群で実施された第1/2相試験が「十分な管理下に置かれた、適切な臨床試験ではなかった」とし、被験者の集団に異質性があったことが試験結果の解釈を難しくしたと述べています。経営陣によれば、FDAは審査の中間段階および終盤でこれらの懸念を指摘していなかったため、従来の規制上の整合性が、新しい「科学の金字塔」基準の下では維持されない可能性があることを示唆しています。
とはいえ、今回の措置は、FDAが近年発しているメッセージと矛盾しているとは私たちは考えていません。マカリー博士とプラサド博士は、FDAが画期的な治療法の迅速な承認や希少疾患治療の早期介入に積極的であるべきだと公言してきました[15]。ただし、最近の決定により、規制緩和が科学的厳密さ―すなわち科学と信頼の土台―を犠牲にしてまで行なわれることはない、という姿勢がより明確になったといえます。
3. デジタル資産を保有する企業は暗号資産への投資指標となる
By ARK's Digital Assets Team | @ARKInvest
Frank Downing, Lorenzo Valente, & Raye Hadi
最近、新たなカテゴリーの暗号資産関連の上場企業が登場しています。それが「デジタル資産トレジャリー企業(Digital Asset Treasury:DAT)」です。これらはしばしば、従来型のビジネスモデルが低迷している企業で、事業の主軸を暗号資産(通常はビットコイン〈BTC〉またはイーサ〈ETH〉)の保有に絞り、「1株あたりのトークン数の最大化」という明確な目的のもとで再構築されています。このモデルを先導したのがMicroStrategy(マイクロストラテジー)社で、定期的に負債や株式を発行してビットコインを購入し、パブリック市場における「BTCの代替的な投資手段(プロキシ)」としての立ち位置を確立しました[16]。このような企業は、純資産価値(NAV)に対する評価額(mNAV: mark-to-net-asset-value)にプレミアムがつく傾向があります。この現象は、従来の金融市場ではビットコインやイーサに簡単にアクセスできる手段が限られていることに加え、デジタル資産の大幅な値上がりや、資本構成上のレバレッジ効果への期待が背景にあります。
この戦略は強気相場では魅力的に映りますが、利回りを求めて資本構成にレバレッジをかけすぎると、多層的なリスクを孕むことになります。DATはNAVに対するプレミアムを維持することで事業継続とデジタル資産の資金調達を両立させており、このプレミアムが失われると事業の持続可能性が脅かされる可能性があります。DAT市場が飽和し、強気の勢いが鈍化した際には、企業が保有資産をより高リスク・高利回りの運用に向ける誘惑にかられる可能性があります。たとえば、ETHやSolana(SOL)のステーキングは比較的低リスクですが、より高い利回りを狙ってオンチェーンオプションなどに手を出すと、スマートコントラクトの脆弱性、清算リスク、再担保化(リハイポセーション)といった新たなリスクが生じます。
とはいえ、2022年を通じた市場の混乱の中でテストされた結果、ブルーチップDeFi(分散型金融)プロトコルは、高い担保率、自動かつ効果的な清算メカニズム、そして厳格なセキュリティと監査体制のおかげで、優れた実績を示しました。こうしたDeFiプロトコルは、中央集権型サービスよりもストレス時に優れたパフォーマンスを見せており、すべてのリスクを排除するものではないものの、代替的な価値獲得手段として有効な選択肢であることを示しています。現時点では、ほとんどのDATがDeFiと統合されてはいませんが、もしNAVプレミアムが縮小またはディスカウントに転じた場合、特に資金力に乏しい企業にとっては、追加的なリスクを取るインセンティブが高まるでしょう。というのも、深い資本市場へのアクセスは、規模の大きいプレーヤーだけの特権となると考えられているからです。こうしたDATの投資商品は、暗号資産への手軽なエクスポージャーを求める投資家からの関心を集める可能性はありますが、長期にわたってこのモデルを効果的に実行するには、規模、柔軟な資本構成、そして株主からの信頼が不可欠であり、それを備えた新規参入企業はごくわずかにとどまると予想されます。
[1] Motley Fool Transcribing. 2025. “Tesla (TSLA) Q2 2025 Earnings Call Transcript.” The Motley Fool.
[2] Waymo. 2025. “North to South, we’re covering more ground in Austin…” X.[3] これは、ベースの車両 fleet がピーク需要の約50%をカバーし、追加の供給は車両所有者やパートナーなどの第三者 fleet から供給されることを前提としています。
[4] 1%の浸透率は、Waymoがオースティンに全車両を配備することを前提としています。Waymo. 2025. “Scaling our fleet through U.S. manufacturing.”参照
[5] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “Martin A Makary M.D., M.P.H.”
[6] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “Vinay Prasad M.D., M.P.H.”
[7] Makary, M. A. and V. Prasad. 2025. “Priorities for a New FDA.” JAMA.
[8] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “FDA Requests Sarepta Therapeutics Suspend Distribution of Elevidys and Places Clinical Trials on Hold for Multiple Gene Therapy Products Following 3 Deaths.”
[9] Sarepta. 2025. “Sarepta Therapeutics Provides Statement on ELEVIDYS.”
[10] Sarepta. 2025. “Sarepta Therapeutics Announces Voluntary Pause of ELEVIDYS Shipments in the U.S.”
[11] Usdin, S. 2025. “Third death from a Sarepta gene therapy.” Biocentury.
[12] Sarepta. 2025. “Sarepta Therapeutics Announces Strategic Restructuring and Pipeline Prioritization Plan to Maintain Long-term, Sustainable Growth and Provides Update on ELEVIDYS Label.”
[13] Sarepta. 2025. “U.S. FDA Grants Platform Technology Designation to the Viral Vector Used in SRP-9003, Sarepta’s Investigational Gene Therapy for the Treatment of Limb Girdle Muscular Dystrophy Type 2E/R4.”
[14] Replimune. 2025. “Replimune Receives Complete Response Letter from FDA for RP1 Biologics License Application for the Treatment of Advanced Melanoma.
[15] Taylor, N.P. 2025. “FDA’s Prasad Vows To Make Rare Disease Drugs Available at ‘First Sign of Promise.’” Biospace. U.S. Food and Drug Administration. 2025. “Cell and Gene Therapy Roundtable.”
[16] Jiang,C. 2025. “A New Frontier For Crypto Exposure.” Pantera.
ARK’s statements are not an endorsement of any company or a recommendation to buy, sell or hold any security. For a list of all purchases and sales made by ARK for client accounts during the past year that could be considered by the SEC as recommendations, click here. It should not be assumed that recommendations made in the future will be profitable or will equal the performance of the securities in this list. For full disclosures, click here.