By ARK Invest

本レポートは、202584日にARK社のHPに公開された、英語による「Newsletter #473」の日本語訳です。内容については英語による原本が日本語版に優先します。また、情報提供のみを目的としたものです。

 

1. 米国で原子力エネルギーが再び注目を集める

By Daniel Maguire, ACA | @DMaguireARK
Research Analyst

 

米国では、ハイパースケーラー(大規模データセンター運営企業)による需要と多国間の支援を追い風に、数十年にわたる原子力の停滞を経て、原子力エネルギーへの取り組みが一気に加速しています[1]。トランプ大統領は最近の大統領令において、米国内の原子力発電容量を2050年までに約4倍に拡大する方針を打ち出しており、まずは2030年までに大型炉を10基建設する計画を始動させました[2]。先週の第2四半期決算説明会において、Westinghouse(ウェスチングハウス)社の49%を保有するCameco(カメコ)社は、「AP1000」に対する引き合いが殺到していると報告しました[3]AP1000は、トランプ大統領の目標と合致する認証済みの第3世代+型の原子炉です[4]

このような強力な追い風を受け、AP1000は米国における大規模原子炉の主力となる見込みであり、これは戦略的にも極めて重要です。実際、中国では現在およそ30基の大型原子炉が建設中であるのに対し、米国では建設中の大型炉はゼロという状況です(下図参照)。

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出典:ARK Investment Management LLC2025年、PRIS 2024のデータに基づく[5]。情報提供を目的としたものであり、投資助言や特定の証券の売買または保有を推奨するものではありません。

 

今後の原子力競争においては、小型モジュール炉(SMR)が重要な役割を果たすと見られています。現在、120以上のSMR技術が開発中であり[6]、この分野に特化した企業はスタートアップ段階にあります。市場投入戦略と実行力の違いが、勝者と敗者を分けることになるでしょう。

米国と中国の双方が、AI競争におけるデータセンターの戦略的エネルギー源として原子力に注目を高めています。大規模炉と新たなSMR技術は、それぞれの戦略の中核を成しています。設計と展開の巧拙が、米国のエネルギー安全保障の達成、データセンターの拡張、さらには排出量の削減を実現する上で鍵となります。

 

2. CoinbaseRobinhood、金融市場のオンチェーン・トークン化に向けて始動

By ARK's Digital Assets Team | @ARKInvest
Lorenzo Valente, Frank Downing, & Raye Hadi

 

Ethereum(イーサリアム)のレイヤー2L2)ソリューションは、取引処理をオフチェーンで行なうことでスケーラビリティを向上させると同時に、オンチェーンでの最終処理によりEthereumの強固なセキュリティを活用する実行環境です。Ethereumの上に構築されたこれらのブロックチェーンは、それぞれが独自のアプリケーション、流動性、ユーザーを備えたエコシステムを形成しており、圧縮された取引データをEthereumのレイヤー1L1)に送信して検証されます。L2は、DeFi(分散型金融)からマイクロトランザクションに至るまで、世界的な需要やユースケースに対応しつつ、ネットワークのセキュリティを維持するというEthereumのスケーリング構想にとって不可欠な存在です。

昨年、代表的なL2の一つであるCoinbaseの「Base」は、およそ8,900万米ドルの収益を上げました[7]。そのうちEthereumに還元されたのはわずか14%でした[8]Baseの主な収益源は、ユーザーが取引のために支払うシーケンサー手数料(base fee)です。 

とはいえ、Baseは競争に直面しています。特に、Robinhoodが発表した独自L2Krakenの「L2 Ink」、Securitize(セキュリタイズ)およびEthena(イセナ)が支援する「Converge(コンバージ)」、さらにはWorldcoinといったプロジェクトが競合となります。CoinbaseRobinhoodはいずれも、導入のしやすさやインフラの即時利用性を備えた技術スタックを選択しており、「Ethereumを母体とするブロックチェーン技術」という共通点があります。

Baseは、先行者としての優位性と、拡大するユーザーベースや強力なネットワーク効果に支えられています。一方でRobinhoodは、株式取引の豊富な実績を活かし、トラディショナル・ファイナンス(従来型金融)とブロックチェーンをつなぐトークン化の分野で優位に立つ可能性があります。

CoinbaseRobinhoodの両社は、金融市場がオンチェーン上に再構築されると信じており、L2プラットフォームを迅速に開発することは、その主導権を握るための戦略的な動きです。それぞれがオンチェーン時代に最適化された技術スタックを用い、スケーラブルでシームレスなプラットフォームの構築を目指す一方で、複雑な規制環境にも対応しています。Coinbaseはこの分野により「ネイティブ」であるのに対し、Robinhoodは優れたユーザーインターフェースを競争力の一つと位置づけています。最終的な勝敗を分けるのは、どちらのプラットフォームが暗号資産特有の複雑さを隠し、優れたユーザー体験を提供できるかにかかっています。L2市場の進化とともに、BaseRobinhoodの競争がオンチェーン金融の革新を加速させるでしょう。

 

3. CRISPR、生成AIで酵素の設計を個別化

By Nemo Marjanovic, PhD | @NMDespotARK
Research Analyst

 

CRISPRin vivo(体内)における遺伝子編集の可能性は非常に大きいものの、特異性、免疫原性、効率性といった課題が依然として存在します。こうした中、米国とスイスの研究者らは、微生物ゲノムの探索と生成AIを組み合わせるという高度なアプローチによって、新たな改良型CRISPR酵素「OpenCRISPR-1(オープンクリスパーワン)」を開発することに成功しました[9]

まず、研究チームは26.2兆塩基におよぶ前例のない規模の微生物ゲノム・データマイニングを実施し、120万以上のCRISPRオペロンを特定しました[10]。これにより、既知のCRISPR-Cas9の変異体のバリエーションが大幅に拡張されました。この膨大なデータセットを活用し、研究者らは数億のタンパク質配列で事前学習された生成型タンパク質言語モデル「ProGen2(プロジェン・ツー)」をさらに最適化しました。

この階層的な学習プロセスを経て、モデルは35万種類を超える候補酵素を生成。その後、厳密な計算フィルタリングにより、有望な209種を選定し、それらをヒト細胞内で検証しました。その結果、OpenCRISPR-1が最有力候補として浮上しました。これは、広く用いられているSpCas9(エスピー・キャスナイン)と比較して400以上のアミノ酸変異があり、最も近縁の天然酵素とも180以上の変異があります。

その性能は極めて革新的でした。OpenCRISPR-1SpCas9と同等のオンターゲット効率を保ちながら、特異性が大幅に向上し、オフターゲット編集を95%削減することに成功しました。そのオフターゲット活性プロファイルは、既知のCas9酵素と一致し、想定外の切断部位は確認されませんでした。さらに、OpenCRISPR-1Cas9よりも免疫原性が低く、ヒトの免疫系に検出されにくい可能性があることも示されました[11] 

この酵素の臨床応用を確立するには、さまざまなゲノム標的や送達方法に対する更なる検証が必要ですが、自然界の大規模データベースを探索し、生成AIで標的設計を行なうというOpenCRISPR-1のアプローチは、明確な技術的飛躍であるといえます。これにより、高い特異性と効率を兼ね備え、免疫反応を抑えたCRISPR酵素を個別に設計できるようになり、個々人の遺伝情報に合わせた「n-of-1(唯一の個人向け)」治療の実現を通じて、治療市場そのものの再定義と新たな市場の創出が期待されます。

 

4. TeslaSamsung165億米ドル規模のAIチップ「AI6」製造契約を締結

By Frank Downing | @downingARK
Director of Research, Next Generation Internet

 

Tesla社は、自社のAutopilot(オートパイロット)およびFull Self-Driving(完全自動運転)機能に対応する独自のカスタムシリコン(専用半導体)を設計しています。現行世代のチップ「AI4」はSamsung(サムスン)社が製造しましたが、その後継となる「AI5」の製造は、TSMCが受注しました。イーロン・マスク氏は昨年、AI5AI4の約10倍の性能を持つと述べています[12]

そして今回、Tesla社は165億米ドル規模の契約をSamsung社のテキサス州新工場と締結し、「AI6」チップの製造を委託することが明らかになりました[13]。マスク氏は製造効率の最大化に深く関与するとしており、両社の密接な協業体制がうかがえます[14]

垂直統合を重視するTesla社にとって、カスタムシリコンの採用は、車両やデータセンター向けソフトウェアの要件に最適化されたハードウェアスタックの構築を可能にします。車載用チップとは異なり、同社のデータセンター用チップ「Dojo」は、まだNvidiaに代わって訓練用計算基盤の主力とはなっていません。現在、Tesla社は企業としてNvidia社製GPUの最大級の購入者の一社ですが、この状況はAI6の登場によって変わる可能性があります[15]。マスク氏は最近、推論(インファレンス)と訓練(トレーニング)の両方に対応する統合チップ設計を、車載用途とデータセンター向けに共通化できる可能性についても示唆しています。

 

5. FDAの再構築が進む中、次に起こることは?

By Shea Wihlborg | @Shea_ARK
Research Analyst

 

米国食品医薬品局(FDA)の基準見直しを主導し始めてわずか3ヵ月で、ヴィネイ・プラサード博士が生物製剤評価研究センター(CBER)の首席医療・科学官兼所長職を退任しました[16]

プラサード氏の退任は、Sarepta Therapeutics(サレプタ・セラピューティクス)社とFDAの間で注目を集めた対立の直後に起きました。この対立は、同社のデュシェンヌ型筋ジストロフィーに対する遺伝子治療薬 Elevidys(エレヴィディス)」をめぐるものでした[17]Sarepta社のAAVrh74ベースのプラットフォームに関連した3人目の死亡例が確認された(しかもこの情報は、同社自身ではなく外部メディアによって初めて公にされた) [18]ことを受け、FDAは同社に出荷の停止を要請しました[19]。最終的にSarepta社はこれに従いましたが[20]、この一件はデュシェンヌ患者の家族や支援団体、とりわけ親たちの間に強い反発を生みました。彼らは、FDAの介入によって進行性かつ致命的な病気の進行を止める、あるいは逆転させる可能性のある治療法が奪われるのではないかと懸念しています。

この問題を受け、さらなる論争が広がることとなりました。一部の右派系コメンテーター[21]、主要メディア[22]、政治関係者らは、プラサード氏が過去に政党的な立場を取っていたことを理由に、彼の在任がロバート・F・ケネディ・ジュニア厚生長官の方針に反すると批判しました。

プラサード氏の短命な在任期間は、FDAがこれまでの慣習に対して挑戦する姿勢を見せていることを示しています。これまでの長期化する新薬開発のスケジュール[23]、高騰する開発コスト[24]、そして90%に及ぶ臨床試験の失敗率[25]は、多くの疾患に対する治療法の開発を妨げてきました。もはや変革が必要です[26]。遺伝子医療やAIを活用した創薬が、臨床プロセスを大きく変革し得る今、FDAには近代化が求められています。

では、今後FDAはどう進むのでしょうか。新たに医薬品評価研究センター(CDER)の所長に任命されたジョージ・ティドマーシュ博士が、プラサード前所長のポストである生物製剤評価研究センター(CBER)も兼任する所長代行として就任しました[27]。腫瘍専門医でありバイオテック業界でも経験豊富なティドマーシュ氏は、臨床と産業の両面での専門知識を備えており、マカリー博士が透明性や科学的整合性を損なうことなく治療の開発加速を推進する中で、FDAを導く役割を果たすでしょう[28]。ティドマーシュ博士の指揮のもと、FDAは規制プロセスの合理化や、AIおよびビッグデータの活用による効率化を通じて、イノベーションの促進に向けて動き出すと見られます。マカリー博士が次に生物製剤評価研究センター(CBER)に任命する人物も、こうした優先事項を共有し、FDAを新たな時代へと押し上げる存在になると期待されます。

 

6. ARKTeslaのロボタクシーを試乗テスト

By Sam Korus | @skorusARK
Director of Research, Autonomous Technology & Robotics

 

先週、ARKのアナリストであるブレット・ウィントン、サム・コーラス、フランク・ダウニングがオースティンを訪れ、Tesla社のロボタクシーに試乗しました。その体験は、驚くほど「普通」で、むしろ現実離れするほど自然でした。自動運転が機能すると、その存在は意識の背後に退きます。運転手がいないことすら忘れて、ただ乗車を楽しむだけです。空いた時間で動画を撮影しましたので、近く公開予定です。

私たちが得た大きな気づきは、以下の2点です:

  1. 運転手なしの方が快適:ドライバーがいないタクシーの方が、むしろ優れています。
  2. 一般化は早い:ロボタクシーをSFのように感じる人もいますが、すでに運行している都市では、誰も驚きません。

Tesla社のサービスが本格的に稼働し始めたことで、その展開スピードを追跡できるようになりました。安全ドライバーの撤廃が、スケール拡大の鍵となるでしょう。2020年にターシャ・キーニーが、人間によるアプリ配車(ライドヘイル)サービスがTeslaの自動運転開発を加速させると指摘していましたが、まさにその時が訪れています[29]

私たちの見解では、ロボタクシーをUberLyftに対する脅威としてのみ捉えるのは視野が狭すぎます。現在、人間が運転するアプリ配車サービスは、米国における総走行距離(VMT)のわずか13%にすぎません[30] 。ロボタクシーは、その圧倒的に低いコストゆえに、UberLyftだけでなく、個人・商用を問わずあらゆるドライバーと競合する存在になるでしょう。この観点から見ると、UberLyftといった人間によるアプリ配車サービスの淘汰は、交通のあり方が根本的に変わっていく過程の中で、一時的な現象にすぎないと考えられます。

 

 

 

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[1] World Nuclear News. 2025. “World Bank and IAEA backing new nuclear for development.”

[2] S. Department of Nuclear Energy. 2025. “9 Key Takeaways from President Trump’s Executive Orders on Nuclear Energy.”
[3] Cameco.  2025. “Cameco Reports 2025 Second Quarter Results.”
[4] U.S. Nuclear Regulatory Commission. 2025. “Design Certification Applications for New Reactors.”
[5] IAEA PRIS Power Reactor Information System. 2025. “The Database on Nuclear Power Reactors.”
[6] Nuclear Energy Agency. 2025. “The NEA Small Modular Reactor Dashboard: Third Edition.”
[7] 202581日時点のBlockworks Researchのデータに基づく。
[8] 同上
[9] Ruffolo, J.A. et al. 2025. “Design of highly functional genome editors by modelling CRISPR–Cas sequences.” Nature.
[10] CRISPRオペロンとは、CRISPR-Casシステムに関与する遺伝子群のことで、これは細菌や古細菌がウイルスなどの外来遺伝物質に対抗するための防御機構。Stanley, S.Y. et al. 2019. “Anti-CRISPR-Associated Proteins Are Crucial Repressors of Anti-CRISPR Transcription.” Cell参照。
[11] OpenCRISPR-1には、これまで同定されていた免疫優位および劣位の「エピトープ」(免疫系が認識し、抗体産生や免疫応答を引き起こすタンパク質上の領域)が存在しません。
[12] Musk, E. 2024. “Then HW5, which has been renamed to A15…” X. See also Klender, J. 2024. “Elon Musk reveals Tesla’s HW5 release date, and that it won’t be called HW5.” Teslarati.
[13] High, M. 2025. “Tesla Partners with Samsung for Next-Gen AI Chip Production.” Manufacturing Digital.
[14] Musk, E. 2025. “Samsung agreed to allow Tesla to assist…” X.
[15] Norton, K. 2024. “Nvidia CEO Jensen Huang Touts Auto Industry's AI Data Center Demand, Says Tesla ‘Far Ahead.’” Investor’s Business Daily.
[16] Smith, G. et al. 2025. “FDA’s Prasad Exits Following Political Backlash Over Sarepta.” Bloomberg.
[17] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “FDA Requests Sarepta Therapeutics Suspend Distribution of Elevidys and Places Clinical Trials on Hold for Multiple Gene Therapy Products Following 3 Deaths.”
[18] Usdin, S. 2025. “Third death from a Sarepta gene therapy.” Biocentury.
[19] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “FDA Requests Sarepta Therapeutics Suspend Distribution of Elevidys and Places Clinical Trials on Hold for Multiple Gene Therapy Products Following 3 Deaths.”
[20] Sarepta. 2025. “Sarepta Therapeutics Announces Voluntary Pause of ELEVIDYS Shipments in the U.S.”
[21] Loomer, L. 2025. “Meet Vinay Prasad: The Progressive Leftist Saboteur Undermining President Trump’s FDA.” Loomered.
[22] Finley, A. 2025. “Vinay Prasad Is a Bernie Sanders Acolyte in MAHA Drag.” Wall Street Journal.
[23]  Makary, M. A. and V. Prasad. 2025. “Priorities for a New FDA.” JAMA.
[24]  DiMasi, J. et al. “Innovation in the pharmaceutical industry: New estimates of R&D costs.” Journal of Health Economics.
[25] Sun, D. et al. 2022. “Why 90% of clinical drug development fails and how to improve it?” Acta Pham Sin. B.
[26] Makary, M.A. and V. Prasad. 2025. “Priorities for a New FDA.” JAMA.
[27] U.S. Food and Drug Administration. 2025. “George Tidmarsh M.D., Ph.D., Director - Center for Drug Evaluation and Research, Acting Director - Center for Biologics Evaluation and Research (CBER).”
[28]  Makary, M.A. and V. Prasad. 2025. “Priorities for a New FDA.” JAMA.
[29] Keeney, T. 2020. “Tesla Should Launch a Human Driven Ride-Hail Service to Accelerate Its Autonomous Strategy.” ARK Investment Management LLC.
[30] Fehr + Peers2019年)のデータに基づく。 “Memorandum to Brian McGuigan, Lyft and Chris Pangilinan, Uber.” See also Korus, S. 2025. “Uber/Lyft is ~1-3% of vehicle miles traveled…” X.

 

 

 

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